【blog小説】星降る夜に エピソード 9

着手

四越伊勢丹

四越デパートは広島にもある、
半信半疑で香川は電話を入れてみた。

「初めまして私、段原にある西島食品、
営業の香川と申します。

この度、弊社が新開発した、
商品につきまして、

クラウドファンディングを募りました。

ありがたいことに、
四越伊勢丹ホールディングスさんより、

100口もの募金を頂きまして、

お礼の電話をさせて頂きました。」

「段原の西島食品様ですね、

失礼ですが弊社の部署 及び、
担当者名は分からないでしょうか?」

香川は ゆうこ から聞いた、
藤木と言う名前を伝えた。

従業員は1万人もいる、
名字だけでは難しいようである。

「失礼ですが藤木は、部署名など、
申し上げなかったでしょうか?」

部署とか詳しいことは聞いていない、

「申し訳ありません。

ネットでコメントを頂いただけで、
詳しいことは分かりません、」

「確認してみます。

私、オペレーターの川上と申します。
少々お待ちください。」

保留になった電話から繰り返し、
カノンのメロディーが流れてくる、

やはり難しそうである。

5分ほど待っただろうか.....

「長い間、お待ちさせ、
申し訳ありませんでした。

藤木は、東京本社、
MD戦略統括部に所属しておりまして、

現在ヨーロッパ出張となっています。

帰国次第、
西島食品の香川様に連絡するよう、
担当の者に伝えておきます。

お電話番号は、
この番号でよろしいでしょうか?」

「ハイ!この番号で御願い致します。」

すごく丁寧な対応だった。

「帰り至大、
連絡いただければと思います。」

いままで外回りで、
さんざん痛めつけられた香川は、
こんな些細な対応にも感動した。

「ヨーロッパに出張?」

香川にとって別次元の話だった。

切れた受話器を戻すことなく、
しばらく握り締めていた。

受話器が上がっている警告音に気づき、
香川は慌てて受話器を戻した。

藤木から電話があったのは、
5日後のことであった。

「香川部長、
四越伊勢丹ホールディングスさんの、

藤木さんと言う人から、
電話が入っています。」

入社して25年以上たつ、
総務部のお局様、
城崎Lが電話を回してきた。

「お世話様になっております。
西島食品の香川です!」

少し緊張し香川が電話をとった。

「初めまして、
私、四越伊勢丹ホールディング、
MD戦略統括部の藤木と申します。

実は御社が開発された、
"肉じゃがオムレツ"に興味を持ち、

失礼ですが弊社と取引のある、
東条フーズさんの商品と、
比較させて頂きました。」

藤木はストレートにいった。

「グルタミン酸、アスパラギン酸、
イノシン酸、グアニル酸、コハク酸、

数値的にこれらの旨味成分において、
全て、東条食品さんの方が
勝っていました。

弊社の場合、試食させていただき、
最終的に人の味覚にて最終評価します。

「これは誰が作ったんだ!」

と、弊社の取締役がと言われ、
御社の名前を、
出してしまいました......」

と、藤木は評価の概略について話した。

「急な話で申し訳ありません。
来週金曜日、取締役に同行し、
広島四越に伺うことになっています。

詳しい話は、

そのとき、話させて頂ければと
思っています。」

同じ段原にあるメックスとは大違いだ、

「矢崎のザコが!」

"実るほど頭を垂れる稲穂かな、"

メックスの矢崎に、
聞かせてやりたかった。

「それと......」

藤木が遠慮がちにいった。

「何でしょうか?藤木さん、
遠慮なくおっしゃって下さい。」

香川がそう言うと藤木が話しだした。

「一方的なお願いで、
申し訳ありません......

実は取締役が、是非、西島忠則会長に
お会いしたいと申しています。

来週、3月28日(金)、15:00
ご都合の方は如何でしょうか?」

「かしこまりました。

スケジュールを確認し、
明日までに返答させて頂きます。」

受話器を握ったまま、
香川は頭を下げた。

「加奈子さん、会長、社長、

来週の3月28日(金)、15:00~
の、予約確保お願いします!」

香川は確認するのではなく、
支持するように言い、

四越伊勢丹ホールディング、
MD戦略統括部の藤木に、

予約が確定した旨の連絡を入れた。

CM

PX作戦大成功により、
資金繰りの目途はついた。

後はいかにして売るかだ。

森嶋のもとへ加奈子と ゆうこ は、
毎日のように足を運んでいる。

まさに小回りが利く、
中小企業の良いところだ、

加奈子が、
パソコン画面を見ながらいった。

「森嶋部長、幅広い年齢の人に、

"肉じゃがオムレツ"を、
アピールするには、SNSだけでは、
限界があると思うんですよ?」

「確かになぁ~」

森嶋も同じことを考えていた。

いくら、You Tubeが、
発展してきたとはいえ、
若者層だけでは限られている。

加奈子には思いがあったが、
膨大な費用がかかるため諦めていた。

「テレビで、"肉じゃがオムレツ"の、
CM打てたらなぁ~」

無意識のうち、
加奈子の口から言葉が漏れた。

CMというものは、
ケチれば安くできるが、
金をドブに捨てるのと同じ、

それでは全く意味がない、
知名度のあるタレントを起用し、
全国ネットでバンバン流す必要がある。

CMを制作するには、
企画費+撮影費、編集、

ナレーション+タレント、
キャスティング、

最低でも1000万以上かかる。

関西で流すとなると、
15秒 =10万円/回、

それを、3回/日 ✕ 10日流すと、
単純に300万円……

"肉じゃがオムレツ"がフル生産で、
売れたとし純利益を試算しても、

加奈子の思いをかなえるのに、
単純に計算して、

製作費を0円に抑える必要がある。

極端にそれはないとしても、
制作費に費用はかけられないのだ、

ファンディングにて、
当面の運転資金が何とかなったとはいえ

銀行口座を持たない西島食品の購入は、
全て現金払いで手形は使えない、

ちょっとしたミスが命取りになる。

輝明の携帯が鳴った。
着信表示を見たら村品からだった。

「村品さん!なつかしいなぁ......

ご無沙汰しています!
音楽活動の方、如何ですか?

ゆうこ は県大を卒業し、加奈子さんと
同じ西島食品で元気にやっています!」

「そうなんだ!
ゆうこ ちゃん、センスあるもんな!」

村品の元気な声が聞こえた。

「それで村品さん、
電話どうされました?」

「僕は現在、
音楽を提供する活動をしています。

CMの構想やキャスティングとか、
楽しくやらしてもらってますよ!

来週末、広島で、
プロデュース(製作)の仕事があり、
久々にみんなと会えたらなぁと、

電話してしまいました。」

輝明は店のカレンダーを確認した。
週末の予定は入っていない、

「村品さん!来週末、大丈夫ですよ!

加奈子さんと ゆうこ には、
週末は開けておくよう、
今のうちに連絡入れておきます。

そうそう、俺たちの新しい仲間が、
一人増えました。紹介します!」

輝明は、浩美のことをいっている。

「そうですか?
久々に"ふみちゃんのお好み焼"きが、

食べられるのと、みんなに会えるの、
楽しみだなぁ~」

そう言うと村品からの電話は切れた。

夕凪

瀬戸内の夏はとにかく暑い、
夕方に風が止むことで、
その暑さはさらに増す。

久々にメンバーが集まり、
村品を囲んで宴会が始まった。

「コンクリートの蓄熱で、
東京も相当な暑さですが、
瀬戸の夕凪は相変わらず暑いですね、」

広島の地を長らく離れている、
村品が懐かしそうにいった。

「村品さん!夏の定番、
枝豆、串カツ、煮穴子、たこ刺し、
地海老の唐揚げ、

そして、
西島食品新開発の肉じゃがオムレツ!

ふんだんに用意してますから、
堪能して下さい、

そうそう、

新メンバーを紹介しなくちゃ!

浩美ちゃん、村品孝蔵さんに、
自己紹介して。」

そう言うと輝明は、
浩美を前に引っ張り出した。

緊張した面持ちで、
浩美がしゃべり始めた。

「えぇっと......
名前は、栗山 浩美、
ゆうこ ちゃんと同い歳です。

仕事は広島県警に奉職していて、
白バイに乗っています。」

何も悪いことはしていないのだが、
広島県警、白バイと言うワードを聞き、
村品はどことなく硬くなった。

輝明が捕捉紹介をした。

「村品さん!硬くならないで下さいよ、

浩美ちゃんは、
俺の高校時代の友人の部下で、
現在の役職は"巡査長"です。

厳しく勤務は遂行していますが、
真っ赤な初代ロードスターに乗っていて

今はやりの女の子とはちょっと違い、
ナツメロを聴くのが趣味なんです!」

「初恋......」

浩美が思い出したように口にした。

「もしかして、"初恋"を作曲された、
村品孝蔵さんですよね!」

あまりにもの驚きに、
動きが完全に止まっている。

輝明が、
起動スイッチを押すようにいった。

「村品さん!
浩美ちゃんは、ゆうこ の親友です。」

そんな言葉は耳に入らないのか、
浩美は完全に自分の世界に入っている。

「良い曲ですよね......

私、村品さんの大ファンです!
握手して下さい!」

浩美は白い右手を、
少し震えながらだした。

「まいったなぁ、こんな叔父さんと、」

村品は頭をかきながら、
浩美と握手を交わした。

「もぅ、みんな硬いなぁ......
今日は暑さを忘れ、
パっといきましょうよ!」

ゆうこ だった。
その一言に一気に場が和んだ。

「へぇ~"肉じゃがオムレツ"って、
西島食品の新製品なんだ!」

「美味い!」
一口食べ村品が叫んだ。

「美味いでしょう!
これ西島食品の新製品、

俺も浩美ちゃんも含め、
開発スタッフ一同、1年以上試行錯誤し
作り上げました。」

「でもね、これ高いと言われ、
全然売れないの......」

ゆうこ が悲しそうにいった。

「そうかなぁ......
東京では"広島のお好み焼き"
大人気で食べるのに、

1時間待ちがあたりまえなんです。

"肉じゃがオムレツ"って言っても、
"お好み焼き"を食べてる新感覚で、
絶対に売れると思うんだけどなぁ......

しかも、これでレトルト、」
村品が付け加えた。

「列に並ぶ必要ないし......

"肉じゃがオムレツ"の、
アピールポイントの一つですよ。」

違う視野で見たら価値観が全然違う。
輝明はタダ爺が以前言った、

「世の中、失ったものを数える人あり、
与えられたものに感謝する人あり、」

その言葉を思い出した。

「吉本の芸人さんって本当にすごいよ!
髪の毛が薄いとか、

人よりアゴが長いとか、
隠したいところを、
武器にしてるんだからなぁ~」

輝明が吉本興業の芸人さんを、
尊敬する理由は、そこにあった。

この商品のポイントの一つが、
肉じゃがに被せた薄焼き卵にかける、

"オタフクソース"と、
振りかける"青海苔"である。

これは"お好み焼きふみちゃん"を営む
輝明の発想だった。

新しい視野で評価できる村品がいった。

「何と言っても香ばしく薄いのに、
凄く柔らかい牛肉ですね。

それとレトルトなのに、
缶詰ぽさがどこにもない、

日本中探しても、レトルト加工された
こんな"肉じゃがオムレツ"
僕は見た事ないです。」

「開発するのに苦労しましたから!」

ゆうこ と 輝明の声が重なった。

「しかし村品さん……
ゆうこ ちゃんが言ったように、
全く売れなく苦労してるんですよ、」

加奈子だった。

「高いって、これいくらするの?」
八の字眉毛を下げ村品が質問した。

「原価で138円、管理費等、含め、
220円以上で卸す必要があります。

お店の販売価格は、320円以上にも、
なってしまうんです......」

ゆうこ が自信なさそうに、
小声で答えた。

「えっ!これ 320円ですか?」
村品がビックリしたように声を上げた。

「高いですよね......」
共感するつもりで加奈子がいった。

「加奈子さん!違いますよ、
安すぎてビックリしました!」

「320円が安い?」

ゆうこ は初めて聞く言葉だった。

「失礼だけど僕、
売り方の問題だと思うんです。」

村品が構想を語り始めた。

「商品が爆発的に売る起爆剤は、
首都東京です。そこで火がつけば、
瞬く間に全国へ広まります。」

「東京ですか......」

話には聞くが、
東京都はどんな都会なのか、
ゆうこ には全く想像できない。

村品は大都会東京について話し始めた。

「僕が広島にいたとき、
暮していたアパートの家賃は、
3,5000円/月でした。

初めて東京に住むとき、
不動産屋さんまわりをしました。

間取りとか同じ条件で探すと最低、
6,8000/月~です。

首都高速を走ると、
広島ではお目にかからない、

3,000万円以上もする、
フェラーリやポルシェなど、
高級外車がバンバン走っています。

それが東京です......」

輝明が興味深く聞き入っている。

「ここの"肉玉そば"、
480円ですよね?

東京で同じものを食べようとすると、
850円以上はします。

何故だと思います、輝明さん?」

「えぇ~850円もですか!」

輝明には全く理由が分からなかった。

「家賃ですよ!」
村品はそう言い詳しく話し始めた。

「広島では3,5000円/月、
東京では6,8000/月
と、言いましたよね?

つまり、衣食住ふくめ、
東京で暮らすため、
人々は大金を使っているのです。」

新鮮な話だった。

ゆうこ は東京の物価が、
高い理由が分かった。

「ゆうこ ちゃん、
先程、僕は、
320円は安いと言いましたよね?

これなら自信をもって、
450円以上で売れると思います。

ハッキリ言います。

320円が高いと思うのは、
広島目線で評価した価格であり、

世間を知らなすぎます!

"肉じゃがオムレツ"は、
レトルト食品です。

安価な地方で作り、
都会で高く売ればいいんです!」

圧巻だった。
村品はそこまで言い切った。

頭の中でバラバラだった、
パズルのピースが、次々とはまっていく

全貌が見えたように輝明がいった。

「そうか!首都東京で火がつけば、
流れに乗り、地方でも、
日が付くってことですよね?」

村品は日頃、感じていることをいった。

「将来、You Tubeは、
インターネットが普及したように、
目覚ましく発展すると思っています。」

「You Tube?」

輝明には聞きなれない言葉だった。

You Tubeとは、
無料で動画配信できるサービスで、
画像を配信し、視聴者がつけば、

広告収入を得ることができる、

収入は再生回数で決まるが、
数百万円をかせぐことができる。

動画を作成して配信する人のことを、
ユーチューバーとよんでいる。

村品は将来予想の話をした。

「今は、地上波テレビが主体です。
しかしネット環境がもっと普及すれば、

地上波テレビは、
消え去ると思っています。」

「村品さん、いつも見てるテレビが、
なくなるということですか?」
輝明が慌てて質問をした。

村品は首を横に振りながら答えた。

「輝明君、テレビと言うものは、
なくなりません。

放送する方が変わってくるのです。

簡単にいうとネットテレビになれば、
受信環境に影響されず、

無数のチャンネルを、
見ることができるようになります。

分かりやすくいったら、
西島食品の動画を作って全国、

いや!世界配信できるということです。
無限の可能性を秘めているのです!」

「西島食品の動画を作って、

世界配信?」

ゆうこ が新しい獲物を、
見つけたかのようにいった。

「今すぐのことではありません。
将来的にです。」

村品は、ゆうこ の風船が、
膨らまないよう釘を刺した。

「しかしCMをプロデュースしている、
僕たちの仕事内容は激変します。」

CMというワードを聞き、
加奈子が飛びついた。

「村品さん!実は私、
CMにすごく興味があるんです。

"肉じゃがオムレツ"のCMが、
つくれたらな?と夢見ています。」

「"肉じゃがオムレツ"の、
CMですか......」

村品が、
現状のCM作成について説明した。

「商品を短い時間で、
人に印象付けるためには、

インフルエンサー、

つまり、世の中に
大きな影響を与える人が必要です。

有名タレントと契約し、
バックグランドで流す音楽も、
流行の物を使おうとすれば、

高額な著作権料が必要です。

まぁ、それらに比べれば、
微々たるものですが、

企画費、撮影費、造語を作成する、
コピーライターも必要になり、

1本作るのに、
数千万円は必要となります。」

CM作成に関し、加奈子も調べていた。
村品の答えは、予想通りの返答だった。

「あのぅ......」

浩美のお助けマン、必殺あのぅ......
が、出た!!

「浩美ちゃん!なになに!?」
期待を膨らませ ゆうこが質問した。

「CMのこと、
全然わからないんだけど......」

と、前置きし浩美が話しだした。

「インフルエンサーって、
AKB48とか、綾瀬はるか とか、

発言に影響力のある、
タレントさんの事ですよね?

ギャラとか凄く高額で、
西島食品には無理だと思うの、
前から思っていたんだけど......」

浩美が急に口をつぐんだ、

「なになに!
浩美ちゃん、いってよ!」

ゆうこ が煽った。

「西島食品のインフルエンサー、

輝明さんと、
ゆうこ ちゃんじゃダメかなぁ……?」

「えぇっ!
この俺がインフルエンサー?」

予想もしない発言に、
輝明は言葉を失った。

ゆうこ も大きく目を見開き、
固まっている。

パチン!と加奈子の指が鳴った。

「浩美ちゃんもそう思う!
私もそう思っていたの!!」

加奈子は ゆうこ が県大生のとき、
冗談で応募した、

"日本一可愛い、

新入生候補のキャンパス美女
FRESH CAMPUS CONTEST
2010"のことを思い出した。

「それと、浩美ちゃん!
輝明君って新選組の副隊長、
土方歳三に似てると思わない!?」

「そうですねぇ、そう言われれば、
よく似ていますよね......」

浩美が大きく目を見開き手を打った!

「キャッチフレーズも必要ですね!

『輝明 と ゆうこの
肉じゃがオムレツ』

とかどうですかね!?」

話が勝手にどんどん膨らんでいく、

二人とも両手を広げ、
「ムリムリ!」と手を振っている。

「19年前の曲だけど、森高千里の

『二人は恋人』、

この曲を聴いて"肉じゃがオムレツ"は、
想像できないけど、

バックミュージックに使えば、
渋いと思うんだけどなぁ......」

「森高千里の『二人は恋人』?」
ゆうこ なんか8歳のときの曲だった。

浩美の親父さんは森高千里の大ファンで
ハイポジ(ハイポジション)のテープに
この曲を録音していた。

とにかく世の中、便利になったもんだ、
加奈子がスマホで検索したら、
すぐに出てきた。

iPhoneで再生されたは、
乗りのいい凄く爽やかな曲だった。

妄想はどんどん膨らんでいく、
加奈子は村品に構想を語った。

この曲が流れ、輝明と ゆうこ が、
プールサイドでくつろいでいる。

ボーイが西島食品の、
"肉じゃがオムレツ"を運んでくる、

サングラスを外し二人は運ばれてきた、
"肉じゃがオムレツ"を見つめる。

ここで大きく、

「輝明 と ゆうこ の
肉じゃがオムレツ」

と、文字が表示され、
最後に西島食品のロゴが現れる。

「どうですかね!村品プロ!」

「森高千里の『二人は恋人』ですか?

斬新な発想ですね!
僕なんか思いつきません。

19年前の曲だから......」

と、言いながら村品は、
ライセンス料を調べてくれた。

「ライセンス料は、
タダみたいのものですね。

一回再生して800円 、
仮に1000回再生したとしても、
80万円ですよ!」

村品がサムアップした。

「輝明君と ゆうこ ちゃんを、
タレントとして使い、曲は、
森高千里の『二人は恋人』ですか?

面白そうじゃないじゃないですか!

僕も"肉じゃがオムレツ"のCM作り、
手伝わせて下さいよ!
東京に帰ったらもんで見ます!」

そう言い残し、

村品は"ふみちゃん"を後にした。

邂逅(かいこう)

3月28日(金)、14:45 、

西島食品社屋玄関に待機していた、
香川の前に、
黒塗りのセンチュリが現れた。

助手席のドアーが開き藤木が降車した。
脂ののった、
40代で聡明そうな人だった。

藤木は香川に対し深く御辞儀をした。

「この度は、無理なお願いをして、
申し訳ありませんでした。

御社製品の試食をした取締役の近道が、
どうしても話がしたいと申しまして、
同行させていただきました。

実は、御社の西島忠則会長の名前を、
取締役のお父様であらされる、
名誉顧問がお知りになりまして、

勝手ですが、
同行させていただきました。」

センチュリーのリアドアーを、
藤木が開けた。

取締役と名誉顧問と聞いていた香川は、
ガチガチに緊張している。

メックスの矢崎なんかとは、
比較にならない、
その違いは大きい、月と鼈である。

「戦時中、私は、
呉に4年ほど住んでいました。
広島は見事に復興しましたね!」

杖を片手に名誉顧問がいわれた。

香川の予想は外れ、
二人とも実に頭の低いのには驚いた。

「こちらにどうぞ!
社長と会長がお待ちしています。」

そう言って香川は、
3人を4階の社長室に案内した。

社長室には、忠則、徹、香川、
藤木、取締役、名誉顧問、
6人が応接セットに腰かけている。

コーヒーのいい香りがした。
加奈子が6人分のコーヒを出した。

名刺交換に移ったとき、
名誉顧問が忠則にいった。

「元気そうでなによりじゃ!
台湾で分かれ67年経つか......

西島上等主計兵曹!ワシを忘れたか?

近道じゃよ!」

ハッと気づいた忠則は、
直立不動で最敬礼をした。

「近道 主計中尉であらされますか!」

1947年7月、中華民国に、
賠償艦として、雪風を引き渡し、
分かれて以来の再開だった。

「よこにいるのが息子の嘉男です。

私が27歳のとき、
こいつが生まれました。」

64歳になる近道取締役の事であった。

「こいつが商品試食のとき、
雪風の肉じゃがの味だったと、
私に食べさせてくれたのが、

西島食品さんの、
"肉じゃがオムレツ "でした。

人間何歳になっても、
味の記憶は忘れません。

確かに雪風の肉じゃがの味でした。

西島上等主計兵曹、これは息子さんの
西島社長が開発されたのですか?」

タダ爺は、徹のことを話した。

「近道 主計中尉、
こいつとは、血はつながっていません。

原爆で肉親全てを亡くした
戦災孤児です。
養子として育てました。」

「知らぬ事とは存ぜず、
無礼な事を言ってしまいました。

西島社長も、
御苦労されたのですね......」

社長室が静まり返った。

タダ爺が場の空気を、
換えるように発言した。

「主計中尉!呉で作られていた、
広甘藍を憶えておられますか?」

広甘藍の事は、
近道も鮮明に覚えていた。
今ではほとんど流通されていない。

「瑞々しくて甘味が強いキャベツ
広甘藍、
東京では見かける事はないなぁ~」

近道が懐かしむようにいった。

「その広甘藍を使って焼く
"お好み焼き"が、
同じ町内に存在します。

歳は若干32歳の男ですが、
腕は確かです。

そいつに鴇田烹炊長から教わった、
雪風の肉じゃがの作り方を
教え込みました。」

突然、徹が提案した。

「みなさん!広島のお好み焼き、
めしあがったことございますか?

その男が広甘藍を使って焼く、
"お好み焼き"、

今から出前してもらおうと思いますが、
食していただけますでしょうか?」

「それは楽しみです!」
藤木が即答で返事をした。

ハッと気づいた藤木は我に返った。

「すいません!

名誉顧問・取締役を差し置きまして、
ついつい返答してしまいました。」

藤木が深く頭を下げた。

実は週1回、行列に並んでまで、
広島焼の店に通うつであった。

「藤木君、僕も凄く楽しみですよ、
ねぇ父上!」

近道 取締役がすかさずフォローした。

「広甘藍、もう70年は、
食べてないですなぁ......

西島上等主計兵曹、
食べさせてもらえますか?」

名誉顧問が笑顔でいった。
それを聞き、徹がすかさず動いた。

「そう言うことなので香川部長、
加奈子さんに言って速攻で、
"ふみちゃんのお好み焼き、

"輝明君に届けてもらうよう、
段取りお願いします!」

15:00過ぎ、

いつものようにこの時間帯は、
店にはお客もなく、
輝明は新聞のテレビ欄を見ていた。

着信音と共に携帯が震えた。
表示を見たら加奈子だった。

「ハイ!輝明です。加奈子さん、
こんな時間にどうしました?」

「急にすいません!
無理を聞いてください!

四越伊勢丹の名誉顧問、取締役ふくめ、
3名来客されていて、

広甘藍を使った、
"ふみちゃん"のお好み焼きを
食べてもらいたく、

超速攻で"肉玉そば"6枚焼いて、
社長室まで
届けてもらいたいんだけど......」

「それは超困ったなぁ~
と、言うのは嘘で全然大丈夫ですよ!

焼き上がるのに14分、
赤兎馬をぶっ飛ばして3分、

余裕を見て、
20分あれば届けられるかなぁ......」

その話を聞いて加奈子はホッとした。

「輝明君、話をして
邪魔にならないかなぁ?」

「大丈夫ですよ!
ハンズフリーモードにしてますから!」

安心した加奈子は経緯を話し出した。

「実はね、香川部長、四越さんとね、
新開発した"肉じゃがオムレツ"の、
商談しようとしてるの、

四越さん社内で、
仕入れ先のコンペをして、
どうもウチが選ばれたみたいなの?

詳しく話したら
長くなるので簡単にいうね、

四越の名誉顧問、
近道さんと言うんだけど、

どうも、
海軍時代タダ爺の元上官らしいの?

広甘藍の話題になって、
是非とも食べたいとおっしゃって、

輝明君にお願いしたわけ、
長くなるので切るね、」

そう言って加奈子は、
一方的に電話を切った。

香川は耳をすませ、
加奈子のやり取りを聞いている、

「香川部長、20分後に、
持ってきてくれるそうです!

それまで何とか、
取り繕っておいて下さい。」

「分かりました!恩に着ます!」

そう言い残し香川は社長室に向かった。

心配する事は無かった。

近道 名誉顧問とタダ爺は、
昔話に花が咲き、
20分はあっという間に過ぎた。

バイク音がした。
そうこうしている所に赤兎馬に乗った、
輝明が玄関前に止めようとしていた。

すっかり打ち解けた、
藤木が音に気づき下を覗いた。

「あれ......

KAWASAKAの、
ZZR1100Dじゃないですか!

今となっては古いバイクですが、
僕はあれに乗るのが夢なんですよ!」

藤木が目を輝かせていった。

横で聞いていた香川には、
全く異次元の話で、
何を言っているのか理解不能だった。

「そうですか?」

と、愛想笑いをするしかなかった。

社長室の扉をノックする音がした。
加奈子だった。

革ジャンにジーンズ姿で、
レジ袋を下げた輝明が控えていた。

室内では、近道 名誉顧問とタダ爺、
近道 取締役と徹が、
超盛り上がっていた。

「お待たせしました!」

輝明が聞こえるよう大きな声でいった。
みんなの視線が、レジ袋を下げた、
輝明に集まった。

「出前御苦労さま!」タダ爺だった。

「近道 主計中尉!こいつが、
雪風の肉じゃがの味を受け継いだ、
32歳、五百旗頭 輝明であります!」

二人ともすっかり、67年前に、
タイムスリップしていた。

「好青年じゃありませんか!
32歳とはお若い!

我が雪風の肉じゃがを継承して下さり、
ありがとう!」

取締役が、
堰(せき)を切ったように話し始めた。

「私は父が作る、
"肉じゃが"を食べて育ちました。

"肉じゃがオムレツ"コンペ試食会で、
口にして衝撃を受けました。

ずっと食べ続けた、
"肉じゃが"の味だったからです。

全てのうま味数値において、
比較した企業の方が勝っていました。
しかし評価は数値だけではありません。

コスト的には倍、
良い素材を使えば美味いのは同然です。

コストパフォーマンスを考慮すれば、
西島社長、御社の方が遥に上です!」

近道 取締役が胸を叩いた。

「最高の旨味成分は心、愛情です。

それは食品に関わる、
事だけではありません、

まだまだですが、弊社も、
そのことを軸に企業活動するよう、
いつも従業員に教育しております。

開発するのに苦労されたのですね?

藤木から御社がクラウドファンディング
されていることを聞きました。」

横でかしこまって聞いていた、
藤木が話をつないだ、

「御社が作成されたファンディングの、
ページを見させてもらい、

感銘を受けました。

英文のページも併記されていましたが、
英文の翻訳見事です!

お恥ずかしながら弊社には、
ここまで純粋に英訳できる
スキルを持ち合わせた者はいません、

恐らく御社には表現の構想 及び
英語に関し優れた人材が、
いらっしゃるのでは?と、

推測しております。」

「その通りです!」

徹は渾身の力を込めいった。

「私は、優秀な従業員に恵まれ、
助けられました、
感謝の気持ちでいっぱいです。

こうして四越さんとお話ができたのも、
奇跡だと思っております。」

徹の純粋な気持ちだった。

近道 取締役が商談の話を切り出した。

「そこでですが西島社長、
様子見と言うことで、
毎月、"肉じゃがオムレツ"を

納入していただけませんでしょうか?」

「加工設備は整っているのですが、
お恥ずかしながらまだ、
本格稼働させたことがありません。」

徹は正直に現状を伝えた。
自信なさそうに香川が付け加えた。

「近道 取締役、とりあえず、
様子見と言うことで、
よろしいのですよね?」

近道 取締役は香川に向かい、
指を一本たてた。

「えぇっと.....
10食の12か月で120もですか?」

まだ5食しか売れていない、
香川にとって、
120は大きな数字だった。

これには、
近道が困った顔をしていった。

「香川部長、10食じゃなく、
1000食/月 でと思っていますが、
如何でしょうか?」

「1000 X 12 もしかして、
1万2千食もですか!!!」

散々痛めつけられた香川にとっては、
信じがたい数字だった。

「まずは、様子見と言うことで、

1000、

2000、4000ケースバイケースで
増やさせて頂ければと考えていますが、
問題ございますでしょうか?」

開いた口がふさがらないとは、
真にこの事だ、香川は、

「全力で努力します!」

と、言うのがやっとだった。

「西島社長、失礼ですが、
御社の取引先銀行は、
どこでございますでしょうか?」

企業どうし取引するためには、
銀行口座が必須だ、

キャッシュ(運転資金)があるとは言え
西島食品は、広和信用金庫の口座を、
しめ取引銀行はない徹が正直に答えた。

「取引先銀行はございましたが、
融資の問題等、ありまして
閉じました......」

これにはすぐさま、藤木が質問した。

「材料の仕入れとかどうされています?
もしかして口座がないと言う事は、
現金取引ですか?」

「お恥ずかしながらおっしゃる通りで、
全て現金で購入しています。」

徹が元気なく答えた。

ビックリして藤木が質問した。

「失礼ですがキャッシュで
企業活動されてる?

運転資金はあるのですよね?

弊社のメインバンクは、
四井住友銀行になります。

四越は、四井家と創業時の"越後屋"が
1904年に合名会社を立ち上げた
"四井呉服店"が始まりです。」

日本橋四越本店は、
日本の百貨店の始まりとされる。

「これは一方的なご提案なのですが、
メインバンクを四井住友銀行とし
口座開設されたらいかがでしょうか?」

日本では、ミズポ銀行、四菱UFJ銀行
四井住友銀行が、
「3大メガバンク」と呼ばれる。

メガバンクとは、総資産がおよそ、
1兆ドル以上の巨大な
銀行グループを指す言葉で、

企業にとって法人口座開設するには、
ハードルが高く、

口座開設するということは、
その企業を銀行が面倒を見ると、
いうことを意味している。

一般的に、取引しようとすると、
銀行の口座がない場合、そこの口座を
持っている商社等を間にかまし、

口座使用料が必要となる。

「西島社長、口座開設には、
審査など数週間かかってしまいます。

四井住友銀行でよろしければ、
私が間に入りますので、

企業の商業登記簿謄本、企業定款、
法人銀行印どちらかの印鑑証明書、
株主名簿、ホームページ、事業計画書、

パンフレット等、事業内容がわかる
書類があれば、
事前にいただけないでしょうか? 」

法人口座開設を藤木は、
さも簡単そうにいっているのである。

「藤木、西島社長にも、

お考えがあるんだ!
少し出しゃばりすぎだぞ!」

「なんだか、四井住友銀行の、
手先のようになってしまい、
もうしわけありません......」

近道 取締役の言葉を聞き、
藤木は陳謝した。

「藤木さん、弊社の為に
申し訳ありません。

こちらとしては、
願ったりかなったりですよ!
ねぇ、香川部長!?」

徹がそう言うと、
香川は心配そうにいった。

「四井住友銀行のような、メガバンクが
田舎の中小企業、西島食品なんか、
相手にしてくれますかね?」

「香川部長!その事でしたら、
悪いようにはしませんので、
私にまかせていただけませんか?

実は、大学時代の親友が、
四井住友銀行の広島支店長なんです。」

冗談ではなさそうだ、

もしかしたら中小企業、西島食品でも、
四井住友銀行に口座を持つことが、
できるかも知れない、

そう甘い夢を描いていた徹が、
急に思い出した。

「あっ!いけない!
話に夢中になって……

お好み焼き職人が焼き上げた、
"肉玉そば"
すっかり冷めてしまいましたね!

すぐに温めますので、
少しお待ちください!」

そう言って徹は加奈子をよんだ。

「お待たせしました!」

温め直した"肉玉そば"を
ワゴンに乗せ、加奈子が運んできた。

社長室がオタフクソースの、
いい香りにつつまれた。

「西島上等主計兵曹、
遠慮なく頂くよ!」

「おっ!」

一口食べ名誉顧問の表情が変わった。

「真に広甘藍の味!
70年前と全く変わっていない!」

「これが広甘藍ですか!
誰が食べても違いが分かりますね!」

と、取締役、

「僕は毎週のように広島焼を、
食べに行っていますが、
初めて食べる味です!

キャベツの甘さ、
瑞々しく絶妙な蒸しかげん、
これは芸術です!

広島出張では、必ず、
"お好み焼き"を食べますが、

これ以上のものを、
食べた事はありません、

感動しました!」

輝明が焼いた"お好み焼き"は、
藤木をそこまでいわせた。

「今日は、西島さんにお会でき、
充実した一日でした。

同じものをみんなで分かち合い食べる。
これが愛なんですね!

今後ともよろしくお願いいたします。」

近道 取締役と徹は、
固い握手を交わした。

始動開始

「社長、四井住友銀行、
広島支店の青木さんと言う方から、
電話が入っています。

お繋ぎして宜しいでしょうか?」

秘書の加奈子からだった。

「御願いします!」徹は即答した。

「初めまして、この度は、
弊行へ口座開設申請して頂きまして、
大変有り難うございます。

わたくし四井住友銀行 広島支店の、
青木と申します。

四越の藤木から開設処理に必要な、
書類一式受け取り、
審査させていただきました。

滞りなく審査が通りました。

つきましては、
御社の口座開設手続きを行いたい
と、思うのですが、

担当者さんと社長本人様、
来行できませんでしょうか?」

徹は予定表を確認した。

これは1日も早い方が良い、
明日行われる懇親会の出席を、
キャンセルすることにした。

「お待たせいたしました。
それでは、明日の午後2時ということで
宜しいでしょうか?」

「明日の午後2時ですね。
それではお待ちしております。
何卒宜しくお願い致します。」

広和の玉井とは雲泥の差だった。

徹はすぐに経理の畑山に電話をいれた。

「急な話ですが、新たに銀行口座、
開設することになりました。
畑山部長社長室まで来てください。」

目の色を変え飛んできた畑山が、
息を切らしながらいった。

「社長、口座開設するの、
どこの銀行でしょうか?」

それもそうである、半年以上、
回る銀行で叩かれ続けたからだ、

「畑山部長、落ち着いて下さい。」

そう言って徹は畑山を応接セットに、
座らせた。徹がもったいぶっていった。

「ウチが新たに口座開設するのは、
四井住友銀行です!」

「四井住友!!」

畑山は耳を疑った。それもそうである、
日本3大メガバンクに法人口座を持つ、
小企業の名前など、

聞いた事もなかったからである。

畑山は、まるで地球が、
消滅したかのように驚いている、

「夢に間違いない!」
畑山はそう思った。

「畑山部長、だいじょうぶですか?」
徹が覗き込むようにいった。

「その四井住友銀行 広島支店の、
青木さんと言う方から、
電話をもらいまして、明日午後2時、

口座開設の手続きに、
伺うことになりました。
同行よろしくお願いします。」

畑山は、なんだか上の空で
聞いているようであったが、

青木という言葉に脊髄反応をした。

「社長、四井住友銀行 広島支店の、
青木さんと言われましたよね?

その方、支店長です......」

「支店長とは思いませんでしたよ?

話した感じ、広和の
玉井支店長とは雲泥の差でした。」

朝方降っていた小雨もすっかり上がり、
雲の切れ目から太陽がのぞいている、

徹も畑山も、四井住友銀行の店内に
入るのは初めてだった。

四井住友銀行は、徹が知っている、
広和信用金庫とは全く違い、

上品に静かで漂う空気が、
全く違っていた。

畑山が徹に耳打ちをした。

「青木支店長、まだ若く、
東京大学経済学部の卒業です!」

「えぇ!藤木さん、
四井住友銀行 広島支店長と大学時代の
親友だと言っていましたよね?

それじゃぁ、藤木さん
東京大学卒だということですか!」

徹はそのことに驚いた、
藤木は東京大学卒だという素振りが、
微塵もなかったからである。

畑山が徹に聞いた。

「社長、藤木さんって誰ですか?」

「まだ確定の話ではないので、
公表はしていませんが、

新開発した"肉じゃがオムレツ"の、
商談が進んでいるのですよ!

藤木さんって、
相手側の担当者さんです。」

部屋をノックする音がした。

書類の入ったクリアファイルを、
右手に持ち銀縁眼鏡をかけ、やせ形で、
頭の切れそうな男性が入ってきた。

「お忙しいところ、
およびだて致しまして恐縮です。

わたし四井住友銀行 広島支店の、
青木と申します。」

徹と畑山は立ち上がり、
名刺交換を行った。

名刺には、四井住友銀行 広島支店長
青木 博之 と書いてあった。

どうぞおかけ下さい。

「これから御社、
西島食品様とは、お付き合いさせて、
頂くことになりました。

早速ですが、口座開設の手続きに
入らせて頂こうと思います。」

そう言うと青木は、

真新しい通帳とキャッシュカードを、
徹に渡した。通帳を確認した、

西島食品 代表取締役 西島 徹 と、
かかれ透明なテープで保護された、

西島食品の社印がまぶしかった。

「畑山さん、少しの金額でよろしいので
口座振り込み御願い致します。」

青木は一通りの説明を終え徹に話した。

「この度は何かのご縁があり、
藤木から御社のこと聞きました。

夢のある会社ですね!

ぜひ、この広島の地から、
大きく成長してください。

期待しています!

弊行が力になれる事があれば、
どんな些細な事でもかまいません、
気軽にお申しつけください。

西島社長!

末永くお付き合いのほど、
よろしくお願いいたします。」

その言葉に徹はジーンときた。

「こちらこそよろしくお願いします!」

徹と青木は、
ガッチリ固い握手を交わした。

その様子を隣にいる畑山は、
今にも泣きそうな顔で見ていた。

CM作成

「加奈子さんあてに、
レターパックが届いています。」

村品が構想したCMの絵コンテが、
入っていっていた。


僕も森高千里さんの大ファンです!

彼女は絶対音感の持ち主で、
ドラム、ギター、ピアノ......

あらゆる楽器を操ります。

それも美人だし、
熊本が生んだ才女です。

あれから僕なりに、
CM構想して見ました。

それと輝明君と ゆうこ ちゃんを、
タレントとし起用する案、

大正解だと思います。

業界的な勘ですが、もしかしたら、
大化けするかもしれません......

使用する森高千里さんの曲ですが、
僕なりに考え、

『二人は恋人』から

『私がオバさんになっても』に
変更しました。

CMの長さは20秒です。

私がオバさんになっても♪

私がオバさんになっても
ドライブしてくれる?

オープンカーの屋根はずして
かっこ良く走ってよ。

この部分で20秒です。
バックミュージックに使います。

【流れ

シーン

朝の食卓、起きたばかりの輝明君が、
新聞に目を通している。

シーン

エプロン姿の ゆうこ ちゃんが
"肉じゃがオムレツ"を運んでくる

シーン

テーブルにおいた
"肉じゃがオムレツ"がアップになる。

シーン

アップしたカメラがズームアウトし、
二人が見つめ合う絵になる。

キャッチフレー

「輝明と ゆうこ の肉じゃがオムレツ!

の文字が浮きでてくる。

最後、画面下から下記文字が現れ

CMの終了となる。

がんばろう東北

いまこそ日本が一つになるとき!

西島食品は、
いつもあなたを応援しています。

如何でしょうか?

動画を簡易的に編集できるアプリ、
検索したらすぐに見つかります。

簡易的に作成した動画を、
僕に送って下さい。

15秒に収まるよう検討修正した、
内容を送ります。


「村品さんからCM構想案が、
届きました!」

加奈子が"ふみちゃん"に、
メンバーを招集した。

「バックミュージック、
替えるんですね?」

浩美だった。

「15秒のフレーズでしっくりくる、

"私がオバさんになっても
ドライブしてくれる?

オープンカーの屋根はずして
かっこ良く走ってよ。"

浩美ちゃん!

"オープンカーの屋根はずして
かっこ良く走ってよ。"ってところが
良いよね!」

ゆうこ が目を輝かせいった。

「ゆうこ 絵コンテ見たか?
"輝明と ゆうこ の肉じゃがオムレツ"
参ったよな......」

輝明が浮かない顔をしていった。

「有名タレント起用する制作費なんか、
ないんだから仕方ないジャンン!」

と、ゆうこ、

納得がいかない表情をして、
輝明がぐずった。

「そうだけど、
このCM全国に流れるんだぞ!

ゆうこ 分かってるのか?
お前は恐怖のB型だよ!」

ゆうこ が目に角を立て怒っている、

「男のくせに、
ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ......
なにが、恐怖のB型よ!

やるのならヤル!
やらないのならやらない!

ハッキリしてもらわないと、
困るんだけど!」

こんな ゆうこ は見たことがない、

輝明は大人しく、
「ハイ!」と言うしかなかった。

「さぁさぁ!そうと決まれば、
絵コンテ構想に合わせ、
スマホで動画撮影するよ!」

加奈子が尻を叩いた。

「一ついいですか?」

遠慮がちに浩美がいった。

「高額ギャラの有名タレント、
使わないんだから、

バックミュージックを替え、
数種類バージョンCM、
作るの駄目かなぁ......」

「数種類バージョンのCM?

関東バージョン、
関西バージョンってことか!」

加奈子が指を立てた。

ゆうこ がひらめいたようにいう。

「逆転の発想......

うちは、高額ギャラの
有名タレントなど使えなく、

自力でCMを作ろうとしてるんだから、
数種類バージョンのCM、

作れるって事だね、浩美ちゃん!」

「早速、村品さんにバックミュージック
『二人は恋人』バージョンも
考えてもらうよう伝えなきゃ!」

ノリノリで加奈子がいった。

村品とはクラウドサービスを利用して
動画ファイルの授受を行った。

クラウドサービスとは、
早い話、大容量のファイルのやり取りを
インターネットを使い

おこなうことである。
これにより東京にいる村品と、
簡単に共同作業できた。

加奈子に村品から、
CMの叩き編集が完了した旨の
メールが入った。

加奈子さん、肉じゃがオムレツ
"私がオバさんになっても、

CM動画の叩きファイルが
完成したのでネット共有フォルダーに
入れておきました。

広島チームみんなで
検討してみて下さい。

それと朗報なのですが、仕事仲間に
"肉じゃがオムレツ"の
ファンディングページを見せ、

みんなの熱意を話したところ、

撮影 及び 動画の編集処理、
ボランティアで手伝って
くれることになりました。

こうなれば、世間をアッ!と
言わせるCMを
つくってやりましょう!

それと"二人は恋人"バージョンの
CMを追加制作するの妙案です。

関西に流すバージョンとして
作りましょう。

関西のCM放映料は、
東京都比べ安いです。

そういう事で30秒枠で構想しました。

又、CMに使うバックミュージックも
同じ事務所の物なので、

2本セットでライセンス契約を結べば
価格を押さえることができます。

極力費用を浮かせ、
テレビ放映費に回しましょう。

目安は首都圏内、3600万円、
関西(大阪)1200万円、
地方ローカル、270万円、

腹積もりが必要です。

首都圏内は、3600万円と
群を抜いて高価ですが、
効果抜群です。

勝負はズバリここです!
頭に入れておいて下さい。

稼働

「畑山 経理部長、キャッシュ1億残し
後の5億 四井住友銀行の口座に
入金しておいて下さい。」

「かしこまりました!」
畑山が力ずよく復唱した。

徹は今までの経緯を公表し、
新たなお願いをするため,
緊急部長会を開いた。

「今日は皆さんへの新たなお願いと、
報告があり集まってもらいました。
発表の前に言いたいことがあります。」

徹は立ち上がり深く頭を下げた。

「みなさん、これまで心配をかけ、
大変申し訳ありませんでした。

西島食品は動き始めます!

まず、報告することが2つあります。

一つ目は、新たに銀行と、
口座開設することになりました。

もう一つは"肉じゃがオムレツ"の
大口受注です。」

徹は力ずよくいった。

「新たな口座開設先ですが、
四井住友銀行が、
我社のメインバンクとなります。

"肉じゃがオムレツ"の
大口受注先ですが、

四越さんと取引を、
開始する事になりました。」

「えっ!四井住友銀行?四越!?」

これまでの経緯を知っている、
香川と畑山以外ざわめいた。

製造部長の加藤が思わずいった。

「徹社長、四越さんへの納入数は、
いくらですか!」

営業の香川が詳しくいった。

「注文量は、1000箱/月です。

フル生産になるよう
営業活動頑張ります!

よろしくお願いします!!」

香川は、加藤を見つめ
こぶしを強く握り締めた。

「広和信用金庫との口座を閉め、
従業員への給料現金渡し、

経理部の皆さんには、
ご苦労かけてしまいました。

そこで御願いですが全従業員、

四井住友銀行口座開設お願いします。

住宅ローン等、広和信用金庫に比べ、
四井住友銀行の方が、

金利が安くなります。」

従業員みんな、
広和信用金庫のローンを一括返済し、
四井住友銀行に切り替えた。

と、言うより
中小企業の従業委は金利が高くても、

地方銀行か信用金庫しか、
相手にしてもらえなかった。

撃退

畑山の作戦は効果てきめんだった。
腰ぎんちゃくの松井が、
血相を変え支店長室に飛び込んだ。

「玉井支店長、大変です!

西島食品の全従業員、
ローンを一括返済しました!」

「なんだと!!」

玉井は大きく開き、
読んでいた新聞を急いで閉じた。

慌てふためき、
玉井が腰ぎんちゃくの松井を連れ、
西島食品にやってきたのは、

ちょうど徹と経理の畑山、
営業の香川が、
今後の作戦について、

話していたときだった。

「西島社長、広和信用金庫
玉井支店長がお越しになられました。」

西島食品では、女性社員に対し
名前の後にLをつける、

営業課受付の三上Lからの
内線電話だった。

「三上L、お通しして!」

受話器を押さえ、
徹が小声で畑山にいった。

「効果てきめん速かったですねぇ、
畑山部長!広和信用金庫 玉井支店長と
融資課長の松井さん、

畑山部長の読み通り、
来社されましたよ!」

少し緊張した表情で畑山がいった。

「徹社長、御願いがあります!
私から奴らに、
引導わたさせて頂けないでしょうか!」

鋭い眼光をして畑山が懇願した。

「西島社長、
広和信用金庫の玉井支店長と松井課長が
おいでになられました。」

お山の大将のような態度で玉井が、
腰ぎんちゃくの松井を引き連れ現れた。

「これはこれは、西島社長!
御社の従業員さん弊行のローン、

一括返済されたと松井から聞きました。

どこか別の銀行さんに、
鞍替えされたのですかね?」

凛々しい目をして徹がいった。

「玉井支店長、貴行には、
まったく関係ない話ですよね?」

「そう言われましても、
急に一括返済とは、

困るんですよ?」

と、腰ぎんちゃくの松井が
話に割って入ってくる。

「失礼ですが、広島銀行さんにも
問い合わせてみました。

御社従業員さんのローンなど
引き受けたことはないと......」

「失敬ですね!

人の財布を覗くようなことは、
やめて頂きたい!

先ほども申しましたが、
貴行にはまったく関係ない話だと......」

徹は、紳士的にいった。

「地方銀行さんでも引き受けて
いなとなれば、
中小企業の従業員さんのローン、

肩代わりなどしてくれるところなど、
ないでしょう?」

松井が余裕綽々で言い放った。

高飛車な態度には、
あきれてものがいえない、

「玉井支店長、松井課長の態度、
なにか勘違いされていませんか?

貴行に報告する義務はありませんが、
弊社も新たに法人口座開設しました。

御行より安い、
金利のローンに切り替えた、
だだ、それだけですよ、」

腰ぎんちゃくの松井が、
煽るようにいった。

「へぇ~ 御社のような中小企業と、
口座開設するような、
律儀な銀行あるんですかね?」

隣で聞いている畑山は、
顔を真っ赤に硬直させ、
今にも爆発しそうだ。

徹が確認するように聞いた。

「それで貴行は、
なにをしに来られたのですか?

もしかとは思いますが、
ローン先を、
自分のところへ変えろとでも?

それなら、お引き取り下さい。」

虎の威を借る狐"とは、
腰ぎんちゃく、松井の為にある言葉だ、

「親切心からですよ!

我々のような信用金庫じゃないと、
難しいのではと思っただけです。

倒産しそうな中小企業へ
律儀に救済する銀行があれば、
教えてほしいもんだ!?」

松井が毒ずいた瞬間、畑山が爆発した!

「信用金庫の分際で偉そうに……

冥途の土産に教えてやる、
新しい口座開設先は、

四井住友銀行だ!
トットト消え失せろ!!」

「四井住友!!!!!!」

野球の応援で使う
ジェット風船のように、
一気に空気が抜け

玉井と松井は飛び去った。

効能

村品のCM動画作成は,
順調に進んでいた。

関東バージョン20秒CM、
デモ動画ファイルを
共有フォルダーに入れました。

みなさんで一瞥して見て下さい。

関西バージョン30秒CM作成に
着手しようと思います。

同じように構想を考え,
絵コンテ作成しました。

本丸は関西です。

作戦は関東で火をつけ、
関西で燃え上がらせようと
思っています。

輝明君、ゆうこ ちゃん、

今回のCMは、
演技力による状況描写が命です。

"肉じゃがオムレツ"により
一層二人の絆が深まる!

CMの裏趣旨は、
ズバリ!絆 です。

清水の舞台から飛び降りる気持ちで、

輝明君、ゆうこ ちゃん、
演技をしてみて下さい。

全体がまとまったら、

関東バージョンと同じように
デモ動画を作成します。

その後ですが、

緊縮対策としてロケ地は、
広島で行います。

照明、撮影、編集、テレビ放映交渉、
僕たちプロに任せて下さい。

あっと言わせるものを、
作つてやろうじゃありませんか!

二人は恋人♪

「ほんとにごめんね」と
真面目な顔して 頬にキスしてくれた

しゃくだけど やっぱりあなたが
好きだから今日も 許してしまうの

この部分が30秒、バックミュージックに使います。

【流れ

シーン

すねた ゆうこ ちゃんの頬に輝明君がキスをする。

シーン

なごやかに二人が見つめあう。

シーン

"肉じゃがオムレツ"が
アップになる。

キャッチフレー

「輝明と ゆうこ の肉じゃがオムレツ!

の文字が浮きでてくる。

画面下から、下記文字が現れる。

がんばろう東北

いまこそ日本が一つになるとき!

西島食品はいつもあなたを応援しています。

最後、西島食品のロゴマークが画面いっぱいに表示される。

こうして西島食品として、
初のCMが完成し、

全国に"肉じゃがオムレツ"の、
CMが流された。

村品の作戦は見事に的中し、

関東で火が付き、
関西では瞬く間に燃え広がった。

"輝明と ゆうこ の
肉じゃがオムレツ!"は、

その年の流行語大賞に
ノミネートされるまで、

メジャーになった。

輝明と ゆうこ は、
もはやスターといっても過言ではない、

テレビ出演はもちろん、
全国を飛び回った。

四越から、
肉じゃがオムレツの発注量は、

1,000、2,000、3,000と、
鰻上りで増えて行った。

全く売れない時期のことを思えば、
嬉しい悲鳴であるが、

生産能力上限の3,394/月を
むかえようとしていた。

「西島社長、昼夜総出で、
フル稼働していますが、

生産効率を高めたとして、
4,000が限界です。」

製造部の加藤だった。

この調子だと近々に、
4,000を超える事は、間違いなく

5,000、6,000と
増え続ける......

名川 敏一 から、
西島に電話が入ったのは、
そんなときであった。

「私、東条フーズ関西工場長の
名川と申します。実は、
四越伊勢丹ホールディングスさんの

MD戦略統括部、藤木さんから
御社の肉じゃがオムレツを
応援生産できないか?

と、相談を受け、
電話させていただきました。」

徹は以前、香川から、
東条フーズでも似たような商品があり、

どちらの製品を納入しようか、
コンペをおこなった話を思い出した。

「具材や加工方法は異なりますが、
弊社にも似たような商品があり、

出来れば御社の"肉じゃがオムレツ"を、
ライセンス生産し、
納入させて頂けないか?

と、ご提案の電話を
入れさせていただきました。」

納品対策に関し、
徹は藤木に相談をしていた。

藤木の予想では、「10,000/月
対応の必要性がある。」
と、いわれていた。

徹は名川に対し前向きな返答をした。

「名川工場長、
わざわざありがとうございます。

どうでしょうか?生産のキー部分は、
お見せ出来ませんが、
一度弊社の生産現場を見ませんか?」

「お伺いします!」名川は即答した。

それもそうである、

新設した東条フーズの、
"肉じゃがオムレツ"
生産ラインの稼働率は、

20%を切っていたからである。
週末に名川は、来社した。

東条フーズ 関西工場長は、
徹が予想していたよりも若く

58歳、小柄で、
人のよさそうな印象だった。

工場は、営業の香川と、
製造部の加藤が案内をした。

まずは、当面の納品対策が課題だった。

「10,000/月!」

徹が藤木の予想値を言った瞬間、
「あり得ない!」と、
すぐさま加藤が反応した。

短期間に増産対策をどうするか?
が、最大の問題となり困惑した。

緊急対策会議を開いても、
解決策が全く見いだせないのである。

開発部の竈がポツリといった。

「新たに機械を導入したとして、
スーパーマンのように、

"肉じゃがオムレツ"を、作る伎を、
機械に教え込むことができる、
社員がいたらなぁ......」

その言葉に、徹がハッと閃いた。

「加奈子さん!急で申し訳ありません、

今すぐ"ふみちゃん"に、
連れて行ってください!」

15:00過ぎ、"ふみちゃん"は、
いつものように、
お客さんはいなく、閑散状態だった。

テーブルに腰かけ、エプロンを外し、
輝明は、スマホを触っていた。

「どうされました、徹社長?」

「輝明君!御願いがあります!
"ふみちゃん"を、西島食品の
アンテナショップとして、

買い取らせて、
もらえませんでしょうか?」

「この通りです。」
徹はテーブルに頭を深くめり込ませた。

「ちょっと待った下さい、徹社長!
全く意味が分かりません?」

触っていたスマホを、
胸ポケットにしまい輝明がいった。

「輝明君、率直にいいます!
我が西島食品に、
就職してもらえないでしょうか!?」

徹の思いがけない言葉に、
輝明は完全に困惑している。

全く状況が呑み込めないからである。

徹が続けていった。

「週5日は、
西島食品のアンテナショップとして、
"ふみちゃん"の店長、

週1日、西島食品への勤務!
如何でしょうか?」

あまりにも突然な話に、
輝明は答える事ができなかった。

「少し考えさせてください......」
と、言うのがやっとだった。

新来

「なんだよ、
こんな時間に緊急招集だなんて?」

部長以上全員が会議室に集められ、
徹が堰(せき)を切った。

「みんな知っているように、

"肉じゃがオムレツ"
作っても作っても、
納品が間に合いません。」

「社長、その通りです!
我々製造部は、1秒でも
時間を無駄にしたくありません!」

落ち着きなく製造部の加藤がいった。

何故か余裕を見せ、
徹が大きな声でいった。

「増産対策とし、
高圧蒸気滅菌器5台と、
加工ラインを増設します!」

開発部長の竈が、すぐに口を開いた。

「社長、増設と簡単に言われますが、
短期間に立ち上げるには、

熟練したノウハウを機器に
教え込む必要があります。

西島食品には、
仕事に余裕のある社員など、
一人もいません!

この短期間ではムリです。」

N1008、
"肉じゃがオムレツ"開発に携わった、
加奈子、ゆうこ も全く同感だった。

徹は自信満々の表情でいった。

「竈 部長の言う通りです、
灯台下暗し、もしその技を持った人が、
入社してきたらどうしますか?

わざわざ皆を招集したのは、
その人を紹介するためです。」

「灯台下暗し?そうか!」

竈が何かに、
気づいたように立ち上がった。

バイクを玄関前に止め、
脱いだヘルメットを片手に持ち、

2階の会議室に向かう影があった。

ドアーが開き、
海援隊の旗印の中心に丸に西!

真新しい西島食品のユニホームを
身につけた輝明が現れた。

「ようこそ!わが西島食品へ!」

輝明と徹は固い握手をかわした。

つぎの瞬間、
会議室が大歓声に包まれた。

輝明が新規導入した高圧蒸気滅菌器を使い薄切り牛肉滅菌し、新設ラインとの頃合いを見ながら薄切り牛肉に焼き目をつけていく、週1日は西島食品でフル作業、それ以外の日は、"ふみちゃん"を閉めた後、データー取り作業を深夜までおこなった。

回数にして、2,000回を超えた。

竈と ゆうこ は、外気温、湿度、肉の重量を基に数値化を計り、数値解析を行い関数式を導いた。外気温、湿度、肉の重量のことを"肉じゃがオムレツ"の3要素と言う。

製造部の応援もあり、
皆一丸となり立ち向かった、

驚異的なスピードにて約1か月後、
10,000/月生産体制が整った。

西島食品は、
独自のネット販売も開始した。

"肉じゃがオムレツ"は、
輝明と ゆうこ のCM効果もあり、
月間販売数、8,000を超えた。

悪計

東条フーズの本社は大阪にあり、
生産の拠点は大阪工場である。

西島食品と比べ
東条の"肉じゃがオムレツ"の
生産稼働率は、

10%台と低迷していた。

道頓堀エリアは、斎橋駅と難波駅の
中間ほどのところにあり、

グリコの看板や、えびす橋など、

大阪のシンボルである飲み屋街である。

その一角に店を構える
ミシュラン3つ星、

浪速割烹 清川に
東条フーズの幹部が集まり、

戦略飲み会と言えば聞こえはいいが
密談を行っていた。

社長の東条 誠は、

この店の魯山人の器などを使い
客人をもてなす八寸料理が大好物で、
頻繁に利用していた。

酒は、京都伏見の酒、
"澤屋まつもと 守破離(しゅはり)"、

刺身や白身魚の焼き物など、
柚子やレモンを添える料理に合う。

金歯をちらつかせ、
東条が嫌味たらしくいった。

「それにしても西島食品の
"肉じゃがオムレツ"
驚異的な売り上げやな!」

「広島の田舎中小企業の分際で、
いきっとりますよね?」

東条 誠に手を貸す、
悪徳企業コンサルタント
茂木 由起夫が、

食べ終えた白子の茶碗蒸しの容器に
蓋を被せながらいった。

東条のチョコに "守破離" を注ぎながら
茂木の部下、田島が続けた。

「ここらで、東条フーズ様の底力を、

田舎者に分らされへんと、
いけへんのやないなんですかね?」

「出る釘はうたれるか!」

そう言うと東条は、
一気に"澤屋まつもと"を煽った。

茂木が戦略飲み会に参加していた
名川にビールを注ぎながらいった。

「名川工場長、確か西島の工場を
見に広島に行かれたんやんなぁ?

どうでしたか?」

名川 敏一は、名川食品として幅広く
業務を行っていたが買収され、

現在は東条フーズ関西工場長である。

内心は悔しい気持ちでいっぱいだが、
多くの従業員を路頭に
迷わせるわけにはいかない一心で、

業務を続けていた。

名川は、四越の藤木には、
大変世話になっていた。

その藤木の頼みであり、
広島まで行ったのである。

小さな工場であったが従業員は
礼儀正しく機敏に動き、

古い工場であったが
整理整頓されていた事が
藤木の印象に残っていた。

茂木にはフル稼働していて
生産のキー部分は、

見せてもらえなかったことを伝えた。

「そうでっか?
見せてもらえまへんでしたか?

どないにしましょうか?東条社長、」

東条が好物のうなぎの"八幡巻き"に
手をつけながらいった。

「茂木さん、ええ方法ありまっか?
得意の買収とかどうでっか?」

「流石に一気に買収は、
ややこしいですわ。
自分にええ考えがありまんねん。

田島!お前の出番や!」

と、言いながら
個室の虚空に視線を投げ、

茂木は薄ら笑いを浮かべた。

『私がオバさんになっても』
歌 : 森高千里
作詞 : 森高千里・作曲:斉藤英夫


リリース: 1992年

『二人は恋人』
歌 : 森高千里
作詞 : 森高千里・作曲:斉藤英夫


リリース: 1995年

【ストーリー 9】 著: 脇屋 義直
【ストーリー 10】へ続く..


この小説はフィクションです。
実在の人物や団体などとは、
関係ありません。

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