【blog小説】星降る夜に エピソード 8

降誕

いきなり高圧蒸気滅菌処理で挫折した。

覚悟はしていたが
甘いものではなかった。

何をやっても上手くいかない、
担当の ゆうこ を含め地獄の毎日、

3か月は長かった......

竈、以下全員あまりにも
数値に拘り過ぎたのだ、

木を見て森を見ず

小さいことに心を奪われて
全体を見通せなかった。

それを打破してくれたのは、
俯瞰的な発想を持った鉄板焼職人、

輝明だった。

ゆうこ は改め人間の持つ
能力の高さを思い知った。

今となっては、
それも懐かしい思い出だ、

2013年5月31日(金)

N1008プロジェクトが、
終わろうとしている。

ゆうこ は、N1008試作品を手に
部長以上を招集し説明を始めた。

今回の功労者、特別ゲストとして
輝明が招待されている、

「ご参集ありがとうございます。

今からN1008の製品説明
及び 試食評価を頂戴したく
招集させていただきました。

評価ですが試食して頂き
手元にお配りした用紙に、

味・具材のバランス・簡易性
顧客満足度、

5段階評価して頂ければと思います。

これが最も重要なのですが、
最後の市販化 可・否 いずれかに
丸印をおつけください。

又、特別ゲストとしてお招きした、
五百旗頭 様には絶大な
お力添えを頂きましたと言うより、

N1008プロジェクトが滞りなく
終了しましたのも、
ただただ五百旗頭 様のおかげです。」

ゆうこ が言い終えると
すぐさま徹から拍手が送られた、

それを皮切りに評価会場が
拍手喝采につつまれた。

拍手が鳴り終わるのを待って
ゆうこ が説明を始めた。

「今から製品説明を
始めさせていただきます。

些細な事でもかまいませんので、
ご質問があればつど
言って頂ければと思います。

お配りした製品の中に
レトルトパウチがあると思います。

これには調味された、
じゃがいも、たまねぎ、
糸こんにゃくが入っています。

重さは180g、3分お湯で温めます。

又、電子レンジの場合、
別皿に移し替えラップをして
加熱する必要がありますが、

この度、電子レンジ加熱に
対応できるパウチを開発しました。」

購買部長の上田が、
すぐさま質問をした。

「2つ質問があります。

確か電子レンジ加熱では、
従来のアルミ製パウチは
使えないはずですが、

  1. 新たな素材パウチを使用するのですか?
  2. コスト的にはどうなりますか?」

ゆうこ は、このような質問を想定し、

返答を用意していた。

「従来の包材はアルミフィルムなので、
そのままでは
電子レンジには使えません。

電子レンジで温めるときには、
お皿に入れ
ラップをかければ問題ないのですが、

それでは商品力がありません。

我々N1008プロジェクトでは、
時代の流れから
電子レンジに対応するのは、

必然だと考えました。

レトルト食品容器は食品衛生法上で
決められたシール強度が必要です。

包材開発担当を決め
メーカーと一緒に開発しました。

包材を改良し、
何度も何度も電子レンジによる
テストを続けました。

最大の課題は、製造過程で外圧をかけ
レトルト殺菌でき、

又、電子レンジ加熱による内側からの
圧力を安全にも通蒸ということでした。

内部の圧力を、
通蒸するのですが高温で危険です。

解決方法は凄く簡単なことでした。」

「凄く簡単なこと?ですか......」

静かに聞いていた、
上田の口が思わず開いた。

「コロンブスの卵です。

箱に入れたまま、
電子レンジ加熱することで、
全ての問題が解消しました。

結論を申し上げます。

① に関しては、
アルミフィルムが使えないため、
新たな素材を使います。

② のコストですが、
材料が変わることによる
コストUPはありません。

ただ内部蒸気を逃がす弁が必要になり、
1円50銭/パウチ必要になります。」

開発部の御苦労は、
よく分かりました。

電子レンジ加熱対応すると、

コスト的に1円50銭/パウチ
UPすると言う事ですね?」

上田は、納得した。

ゆうこ は、
作り方の説明に移ろうとした。

「捕捉!」竈が遮った。

「N1008最大の難関は、
薄切り肉の高圧蒸気滅菌でした。

一向に目途が立たず最初の3か月
我々は悩み続けました。

僕には神に見えます。

見事解決してくれたのは、
輝明君です!

彼には感謝しかありません......」

目に薄ら涙をうかべ、
感無量な面持ちで竈がいった。

客席にポツンと座っている
輝明はと言うと、

ゆうこ の顔を見て「この俺?」と
ジェスチャーをしている、

その滑稽(こっけい)が無性におかしく
吹き出しそうなところをグッとこらえ、

ゆうこ は話を続けた。

「N1008は箱の中に、

調理野菜パウチ、薄切り味付け牛肉、

薄焼き卵、オタフクソース&青海苔、

4つのパートに分かれています。

  1. 箱の中から
    調理野菜パウチ以外を取り出します。
  2. 電子レンジ加熱の場合、
    600Wで箱ごと電子レンジで
    2分間加熱します。
  3. 加熱が終わったら、
    パウチから皿に取出し、
    薄切り味付け牛肉を混ぜあわせます。
  4. 薄焼き卵をパッケージから取出し
    ③の上に被せます。
  5. 後は、附属のオタフクソースと
    青海苔をかけたら完成です。

2の加熱ですが、
電子レンジを使わない場合、
3分 湯煎します。

以上5工程になります。」

ゆうこ が端的に作り方の説明をした。

加奈子が調味評価する為、

箱ごと電子レンジで加熱した
調理野菜パウチを、
ワゴンに乗せ副材と一緒に配った。

試食会場がオタフクソースの
甘酸っぱい良い香りに包まれている、

「こりゃ美味そうじゃわ!」

総務部長の沖田が早速、
口に放り込んだ。

「この薄切り牛肉、
香ばしく凄く柔らかい、

それと今までのレトルト食品と
完璧に違うんは、
肉の缶詰ぽさが全くない事じゃ!

料理屋で食べるのと、
全く変わらん!」

沖田の言葉が、N1008が
目指したところを全て語っている、

ゆうこ と 竈にとって
達成感というエーテルの海を
漂っているような心地よい言葉だった。

次に営業部長の香川が口を開いた。

「ほんま(本当)にぶち美味い!
これをつまみながら
ビールを飲んだら最高じゃろうね?

もしこれが売れなかったら
営業部私たちの責任です!」

香川は、そこまで言ってくれた。

ゆうこ と 竈は、
その言葉が嬉しくてたまらなかった。

「本当に開発費資金集めに、
走り回ったかいがあります!」

めったに褒めない、

経理の畑山部長も絶賛した。

「100点満点美味いです!
我々製造部は、
褌を締め直し品質を死守します!」

製造部長の加藤が持ち上げた後、
社長の徹が口を開いた。

全員の視線が徹の口元に集中した。

「確かに美味いです。
思いで雪風の肉じゃがの味が
再現されています。

プロジェクトチームのみなさん、
本当にご苦労様でした。

竈部長、やりましたね!

さて、ここからが
私たちが試されるばん、

これをいかにして売るかです。

ボールは私たちに移りました。

企画 森嶋部長、早速ですが
正確なピースコスト(商品単価)と
損益分岐点を算出して下さい。」

じっと寡黙していた
タダ爺が目を開けた。

「輝明や、大したもんじゃ、

じゃがいもなど味の入り具合、

正に雪風の味じゃ!

薄切り牛肉の焼き目、
柔らかさ見事としか言いようがない、

竈、ゆうこ ちゃんはじめ、
プロジェクトの皆さん、

今日は努力というエキスを
堪能させてもらいました!」

タダ爺の純粋な総評だった。

少し顔を曇らせ竈がいった。

「徹社長、N1008には、
一つだけ宿題があります。」

その言葉に全員の目が竈に集まった。

「宿題って
すぐのことではありません。」

慌てて竈は、そう言いおきし、

話しだした。

「薄切り牛肉を滅菌するのですが、

高圧蒸気滅菌した後、
焼き目をつけます。

そこが輝明君の職人技であり、
その日の気象状況に合わせ
焼き時間など微妙に変化します。

私たちは膨大なデーターを集め
設定値を数値化しましたが、

あと一つ数値化作業が残っています。」

「一つ残っている数値化作業とは、

具体的に、どのような数値ですか?」

心配そうな目をして徹がいった。

「徹社長、
緊急的に心配をする事ではありません。

もしN1008が爆発的に売れ、
異なる地域、異なる作業員で
調理加工するようになった場合、

解決する必要性があるのです。」

緊急的な宿題でないと言うことに、
ホッとした表情を浮かべ
徹が竈に質問した。

「竈部長、一つ残っている
数値化作業とは、
難しい事なのでしょうか?」

竈が徹の目を直視していった。

「一つ残っている数値化作業とは、
ズバリ!AI食品加工技術です。」

「AI食品加工技術?」

試食会場の、
あちらこちらがざわついた。

竈が説明を始めた。

「湿度、温度によって必要な火力量、
時間、輝明君の、

頭の中を数値化しました。

問題は、どこの工場、どこの地域で
加工しても同じ品質調理が
できるようにすることです。

遠回しな言い方をし申し訳ありません。

どこの地域で、加工しても
同じ品質調理をするためには、

湿度、温度以外に、

焼き上げる
肉の面積を知る必要があります。

現在、輝明君は、
熟練の勘で無意識のうち火力量、
時間を調節しています。

この工場であれば、使う設備等、
データーが充実しているため
誤差の範囲内で対応できます。

具体的に言うと広島以外、
全く違う工場でN1008を量産する場合、

調理対象(肉)の面積を
知ることが重要になってきます。」

総務部長の沖田が口を開いた。

「わしゃ~難しい事は分からんが、
牛肉は統一性が無く
バラバラに並べられちょるが、

焼く面がどれだけあるか
知らんといけんと言う事よの?

それが全く違う工場、
地域で加工する場合重要じゃと......」

竈が言いたいことは、
ズバリその通りだった。

徹が再確認した。

「その面積を数秒で知る必要があり、

それがAIだと言う事ですね?」

「僕の学生時代の卒業研究は、

"日本社会におけるAI"
と、言うテーマでした。

あれから日進月歩で技術は進み、
身近な所で
使われるようになっています。」

「質問!」加藤 総務部長が手を上げた。

「身近な所で使われてる
AIとはどこですか?」

色々な場所で使われている......

竈は一番身近なAIのことを例に上げた。

「そうですね、一番身近では、
ハガキに書いてある郵便番号を読み取り
仕分けする装置です。

人により筆跡はバラバラ、
しかも枠内のどこに
書いてあるかもバラバラ、

それを瞬時のうちに
数字として認識し仕分ける。

それがAI技術です。」

「確かに......」

徹は、具体的な方法は分からないが、
竈が言いたいことは
分かったような気がした。

「竈部長の
言いたいことは分かりました。

当面の大目標はいかにして
N1008を販売するかと言う事です。

みなさん頑張りましょう!」

用意したN1008の評価用紙は、
集めるまでもなく
全員が5点満点の 可 だった。

背水の陣

「今日はアポもなく
お邪魔して申し訳ありません。」

「これはこれは、
同じ段原に本社がある、

西島食品営業部長の香川さんが、
直々にお見えになるなんて、

どういうことですか?」

矢崎 真一は、
上から見下ろすようにお世辞をいった。

同じ段原でも、資本金が1/2以下の
西島食品を小ばかにしているのだ。

5月、第3週のことである。

ここは、エオンの傘下にある
メックスの西日本株式会社だ。

青いパーテーションで仕切られた
来客用ブースは、4人がけの
テーブルがあるだけで質素だった。

矢崎はメックス、
購入部第一調達課の課長だ、

「この度、西島食品が一丸となり、
開発した商品を説明したく、

お邪魔致しました。」

香川は手提げカバンの中から
"肉じゃがオムレツ"の試供品を
とりだしテーブルの上においた。

「西島食品さんが一丸と言うから、

何かと思えば、

レトルトオムレツですか?」

「全員が一丸となり
開発した物を舐め腐って!」

グッとこらえ
香川はこぶしを握り締めた。

矢崎はまるで関心がないように
パッケージを眺めている。

「それで香川さん、これを弊社に
いくらのピースコストで
卸したいと思っているの?」

損益分岐点は138円だ、

「これを開発するのに設備も
一新しましたし、

完成するまで1年要しました。

220円と言ったところですか......」

眺めていたパッケージを、
机の上に放り投げ矢崎が大笑いした。

「香川さん、
それ本気で言っておられます?

悪い言い方をしたら、
設備を一新しようが、
開発するのに長くかろうが、

弊社には全然関係のない事ですよね?」

心なしかふんずり返り矢崎は、
完全に侮蔑(ぶんべつ)した態度だ、

「そもそも具材は惣菜調理し、
170円で売っている肉じゃがですよ?

しかもレトルトの量産品、

最大頑張って120円、
100円以下じゃないと
話になりませんねぇ、」

なにしろ、業者苛めといえる
厳しいコストダウンで
知られたメックスだ。

大量に買ってやるから心配するな。

微々たる利益さえ平気で毟っていく。

その やり方は悪評が高く、
油断も隙もあったものではない、

「ほら、御社の主力商品、"瀬戸の味"
商品を陳列棚に並べ終えたら、

梱包段ボール引き取って下さいと
言ってますよね?」

メックスは、商品を納入させ
陳列棚に並べるところまで、

納入業者にやらせる、

よく言えば経費削減だが
こちらとしては、手間がかかり
たまったものではない、

「この前、
梱包段ボール忘れていましたよ、

弊社はゴミ捨て場じゃないんだから、

空箱は引き取ってもらわにゃきゃぁ......」

「それは、ご迷惑おかけしました。
担当の物によく言っておきます、」

月1000パックは、買ってもらっている。
香川は頭を下げるしかなかった。

「それと先ほど紹介して頂いた
"肉じゃがなんとか......"

検討して頂き、卸で
120円以下になったらお越しください。

話はそれからです!

今日のところは、そういう事なので、」

5月も後半になると気温が上がり暑い、
駐車場に止めておいた
車のドアーを開いた瞬間、

ムワ~と熱気が襲ってきた。

「クソ~矢崎の野郎、舐め腐って!」

香川は煮えくり返った
気持ちを隠すことなく、

次の商談相手のところに車を走らせた。

取引のある店舗はすべてまわった。
話さえ聞いて
もらえないところもあった。

惣菜でも売っている肉じゃが、
賞味期限は1年以上あるが、

量産品のレトルトなのに高いのである。

どこにも相手にしてもらえない香川は、
ぬいだ背広を右手にかけ肩を落とし
昔からある商店街を歩いていた。

実家はここの商店街に近い、

子供の頃は、クリスマスケーキを
いつもここで買ったものだ。

「街にあった大学が移転してから
すっかり人通りが
少なくなってしまった。

時代の流れ、ここもシャッター通りに
なってしまったなぁ......」

そんなことを思いながら香川は、
飲み物を買うため
店舗先のテントに書かれている、

"スーパーシタノ橋" という文字が
薄く、何とか読み取れる、

小さな店に入った。

お客は香川一人だ、レジには
椅子に腰かけ年の頃なら70歳は、

すぎているんじゃないかと思われる
お爺ちゃんがポツンと座っていた。

「お爺ちゃん、この商店街も
めっきり人通りが少なくなったね?」

香川は缶ジュースを、
レジにおきながらいった。

「大学のあった頃は、学生など
人通りが多くにぎやかじゃった。

今は日に20人も
お客さんが来てくれたら
多いほうじゃよ、

まぁ、婆さんと2人
年金をもらいながら、

何とか商売させてもらってます。」

電気代とか固定費を考えたら、
やっていくの
ギリギリじゃないんだろうか?

と、香川は思った。

「この年になっても体が動き、
商いさせてもらっちょる事に
感謝しとります。」

先ほどまで、冷たく
門前払いされ続けられていた香川は、

その純粋さに心が打たれた。

「ほいであんたぁ、見かけん顔じゃが、

この時間、歩き回っちょると言う事は、
どかの営業マンさんかね?」

確かに、シタノ橋商店街に
来るのは何十年ぶりだろうか?

香川は学校を卒業して以来、
きたことがないことに気づいた。

「お爺ちゃん、私、段原にある
西島食品と言う会社で
営業マンをしています。」

「西島食品といったら、
忠則さんの会社か?

あの人は、できた人じゃ!

ほうですか、あんたはエエ会社で
働らいちょるんじゃねぇ......」

そう言い、お爺さんは手放しで褒めた。

「ほいで、何を売って回りょうるん?」

香川は、苦笑いをし頭をかきながら、

新開発した "肉じゃがオムレツ" を
カバンから取りだした。

「実はこれ、新開発した
"肉じゃがオムレツ" なんですが、

高すぎて、ことごとく断られました。」

「ちょっと待ってよ?どれどれ......」

と、言いながら
首につるした老眼鏡をかけ、

箱のパッケージを眺めている、

しばらくしてお爺ちゃんがいった。

「ほいでこれ、
なんぼ(いくら)なん?」

「完成させるまで試行錯誤して
1年かかりました。220円です。」

しばらく眺めていた
お爺さんが口を開いた。

「作り上げるのに苦労したんじゃね?
忠則さんのところなら間違いない、

えっと(たくさん)買ってあげられんが
5つもらおうかね?」

「買ってもらえるんですか!?」

初めて買ってもらえたことに
香川は感動した。

「すごく嬉しいです!220円ですが、
200円でけっこうです!」

「ほうね、頑張りんさいよ!
あんたの気持ちを買わせてもろうた、」

そう言ってお爺さんは、
1000円札を香川に渡した。

営業をして30年以上になる。

今日は悔しい思いを、ずいぶんしたが、
香川にとって一番うれしい日となった。

月日が経つのは早いもので、
6月が来ようとしていた。

「社長、申し訳ありません。

営業部全員、一生懸命に
市内の店を回っているのですが、

制約は一軒も取れていません
情けないです。

売れたのは、たったの5個です......」

「香川部長、毎日ご苦労様です。
"短気は損気" 必ず
潮目が変わるときが来ます。

それを信じ頑張りましょう!」

徹は、そう言ったが、
他のレトルト食品と比べ明らかに
販売単価が高いのだ、

とは言え損益分岐点以下の価格で
売るわけには行かない、

それは作るだけ
赤字が増えることを意味する。

何とか乗り越えた3月の決算から、
3か月経とうとしている。

徹は経理部の畑山に電話をいれた。

畑山 巧は元銀行員で、
西島食品には途中入社である、

「畑山部長、
今年の見通しは如何でしょうか?

申し訳ありませんが、
社長室まで来てください。」

しばらくすると扉をたたく音がした。

「畑山です。」

徹は、畑山を
部屋の応接セットに案内した。

徹の正面に腰かけた
畑山が資料をチェックしている。

「N1008に投資した1億2千万円ですが、

未だに売上、1000円が響いていますね......」

なんとか、
"肉じゃがオムレツ" の良さを、

アピールする方法は、
ないものだろうか?

瞼を閉じ、眉間を指でつまんだ徹に、

「 あの……」 と、
畑山が遠慮がちに声をかけた。

「こんなときに言いにくいのですが、
積立金を取り崩しましたし、

今のうちに、
資金繰りの確保しておきませんと。」

徹にさらなる足枷(あしかせ)を
する話が出た。

「広和信用金庫に行ってこようと
思いますが、どうでしょう?」

「頼みます。それで、
いくらぐらい必要になりますか?」

生真面目な顔をして
電卓を叩いた畑山は、

「そうですね?ここは 4億円ほど」
と、簡単にいった。

「そんなにですか!で、
借りられますか?」

「すでに6,000万借りてますから、
揉めるというか難しいでしょうね。」

畑山は新規食品開発をする事により、
必ず返済をすると確約し

6,000万借りた。

それが未だに利益さえ出ず
さらに4億円だ、

預金も3憶6千万しかない、

今は金融庁の指導が厳しいが一昔前まで
預金といったら入れたら最後、

運転資金を借り入れる担保としての
扱いが常識だった。

それを6,000万解約したうえ、

預金以上の借り入れを、
しようとしているのだ。

「畑山部長、今回の件は
全責任が私にあります。

資金繰り交渉には私も動向します。」

広和信用金庫

もう梅雨に入ったんじゃないかと
思うように、

朝から長雨がつづく日であった。

「西島社長、お話は畑山さんから
伺っていますが、4億円というのは
正直なところ厳しいですよ、」

松井孝明は厳しい表情を徹に向けた。

広和信用金庫 段原支店の融資担当で、
肩書きは課長だ。

松井は、融資課ナンバー1であり
発言は重い。

「金額を減らしたほうが
いいのでしょうか?」

徹は小声で畑山に尋ねた。

畑山はキッパリいった。

「開発商品の売り上げ予想は
分かりませんが、

安全を見越したらどう見積もっても
4憶は必要です。」

松井は、硬い視線を徹向け、

「問題は、御社の
フォーキャストだと思うんです。」

と、気取っていった。

なんですかそれは?と、
隣にいる畑山に視線を送る。

ふだん感情を表に出さない
畑山が口を開いた。

「要するに、弊社の見込みが甘い!
とおっしゃり たいのですね。」

「まず、動かせる
キャッシュに対し借入金が多過ぎる。

しかも、開発した商品の売り上げ実績が
いまだにないと言っていい、

それではウチも困るんですよ!」

皮肉を込め遠回しに、松井は
預金を取り崩したことをいっている。

畑山がめずらしく興奮している。

「預金で企業活動を縛る事は、

金融庁でも
厳しく指導されてますよね!?」

「畑山さん、めっそうもない!
そんなこと一言もいっていませんよ、」

松井は茶を濁すように、
手のひらを開き大きく振った。

「松井さん、ちょっといいですか?」
徹は、鋭い視線を松井に送った。

「弊社の見込みが甘い!
とおっしゃりますが、

先の事は分からないじゃないですか?

おたくのスタンスは、
よ~くわかりました。

融資の御願いは、
こちらから取り下げます。

畑山部長 帰りましょう!」

銀行を出た車の車窓から、
西島食品の社屋がみえた。

そのとき、
助手席の畑山がポツリといった。

「本当に新商品うれるんですかね......」

徹は車を止め、畑山を見つめた。
目線を落とし
思い詰めた表情がそこにある。

「社長、社内で誰もいわないから、
私がいうしかないと思い言います。

せっかく上げた利益が、売れるか不明の
新商品開発費に消えていく、

噂ですが未知のAI食品加工にも
手を出そうと
してるみたいじゃないですか?

理解している者はむしろ少数です。

このままだと社内、
バラバラになってしまいますよ!」

畑山を凝視したまま、
徹は言葉を失った。

不思議だ、怒りは感じなかった。

畑山の必死さが伝わってきたからだ、
なぜか心が落ち着いていた。

徹が畑山にゆっくり話し始めた。

「畑山部長、
忠告ありがとうございます。

私の決意は甘かったようですね......」

畑山が普段目にする、
いつ何時も温和で毅然として
冷静な徹とは違っていた。

「畑山部長、広和信用金庫にある
我が社の全預金、全て解約して下さい。

たちまちそれで凌ぎましょう。

もしそれでも行き詰ったら
自宅を売却します。

私は、原爆孤児で
誰一人血縁者のいない
天涯孤独の身です。

な~んたってことはありません。

今回開発した新商品が
絶対に売れる事を確信しています。

一つぐらい夢があっても
いいと思いませんか?」

長距離運転している車に
"残量警告桶"が、
クッキリと点灯している状態である。

ガソリンスタンドをみつけ
燃料を給油しなくてはガス欠、

つまり倒産する。

しかしいくら探しても
給油所が見つからない、

徹は覚悟を決めているのだ、

徹に対する畑山の態度が
完全に変わったのは、

このときからだった。

広島は川の多い街だ、
すっかり雨も上がり夕日に光る、

猿猴川(えんこうがわ)の
川もがまぶしい、

川の流れは、最終的に
大きな海にたどり着く、

その途中では、浅瀬に乗り上げ
停滞するときもある、

最終的には広い海に流れ着くんだ、

徹は、

「今が停滞しているときなんだ!」

と、自分に言い聞かせた。

弱光

「たちまち銀行回りをしてみますが、
あまり期待しないでください。」

畑山はいった。

「銀行業界では、会社の危機は、

主力銀行が救うものという
暗黙の掟がありす。

我が社の場合、
それは広和信用金庫です。

その広和が融資を行わないとなると、
他行で融資を受けるのは
非常に難しいです。

それと我が社のような中小企業は、
信用金庫 又は、地方銀行しか
相手にしてくれないのが、

閉鎖的な日本社会の事実です。」

「銀行業界では、今の時代でも
身分制度があるのですね。」

徹が珍しくぼやいた。

「雨の降る日には傘を貸さない、

晴れたときに傘を貸すのが
日本の銀行ですから。」

畑山が毒づいた。

「何とかヤツラを
ぎゃふんと言わせたいものです。」

「うちの会社やばいらしいぞ!」

秋になるとそんな噂が飛び交った。

ゆうこ は完成させた新ラインが、
正式に動いたところを見た事がない。

ことあるごと、徹に確認するのだが、

「営業部も経理部も、
みんな頑張っている。

ゆうこ ちゃんたちは、
心配することないんだよ!」

その言葉の一点張りだった。

世捨て人の会長タダ爺はと言うと、
そんなことお構いなし、

ホームレス仲間とつど、
海軍料理を肴に宴会ざんまいだった。

新メンバー浩美を加え久々に4人が
"お好み焼きふみちゃん"に集まって
心馳せながら食事会を行った。

しかし、みんないつもの元気がない、
西島食品の将来を心配しているのだ。

ゆうこ が真顔でいった。

「加奈子さん、知っている事は
全部私たちに教えて下さい!」

「俺も新規プロジェクトに
関わった関係上、
ずっと心配していました。」

輝明も加奈子を凝視した。

「じっは......」

「・・・じつはなんですか!?」

輝明が食い下がる、

無言が続いたが諦めたように
加奈子が語りだした、

「毎年、3月に決算があるんだけど、
それまでに資金繰りが
何とかならないと、

不渡りが出てしまうと
香川部長が話していたのを耳にした。」

「不渡りって購入した代金が
払えないって事ですよね!」

と、ゆうこ......

加奈子は一点を凝視し口を開いた。

「会社更生手続を行う事になります。

従業員は即、失業とはなりませんが、
株主である社長初め
事業の経営権のある人は、

財産を差し押さえられ整理され、

法律に基づき
被害を受けた全員に分配され
会社は消滅します。」

「それで加奈子さん、3月までに
必要なお金はいくらですか?」

血の気が引き
青ざめた顔をした輝明が質問した。

「定かではありませんが、
4億円と耳にしました。

社長を筆頭に経理の香川部長はじめ、

あたる所は全てあたったそうですが、
利益にならないうちのような、

中小企業に
融資するところなどないそうです......」

輝明が悲痛な顔をしていった。

「よ、4億円!?」

天文学的な数字に
輝明は気が遠くなった。

もちろんあてなどあるはずがない、

そんなことをよそ眼に、
恐怖のB型、

ゆうこ は、真剣な面持ちで
携帯を検索している。

「ゆうこ こんなときに何してんだ?

本当にお前は、
自己中といわれる恐怖のB型だよ!」

やれやれ......と言う顔をし
繊細なA型人間の輝明がいった。

そんな事はおかまいなし、

ゆうこ は瞬きもせず
必死になって何かを検索している、

「あった!一か八かの方法が
一つだけあります!」

「えっ!」

みんなの視線が ゆうこ に、あつまった。

「何で気づかなかったんだろう、
クラウドファンディングですよ!」

「ゆうこ クラウド、
ファンディングってなんだ!?」

聞いた事のない言葉に、
すぐさま輝明が反応した。

ついさっきまで、
奈落の底に落とされたような表情をした
加奈子の顔に生気が蘇った。

「そうか!クラウドファンディングか!

クラウドファンディング =
アメリカンドリームのことだね!

ゆうこ ちゃん!!」

ゆうこ が、
クラウドファンディングについて
説明を始めた。

「クラウドファンディングという
言葉自体、比較的新しいんだけど、

人々から資金を募り
何かを実現させるという手法、

資金を募るということは、
古くから存在していて、

例えば寺院や仏像などを造営
修復するため、

庶民から寄付を求める
勧進などがそれにあたる。」

生気を取り戻した輝明が続いた。

「そうか!比治山神社にも
寄進した名前入りの石冊が
ぐるりと立っているよな!」

ついさっきまで、
静まり返っていたのが嘘のようだ、

持ち前のエンジンがかかってきた。

ゆうこ は、詳細に
クラウドファンディングについて、

続けた……

「インターネットの普及に伴い、
2000年代に米国で先駆的なウェブサイトが
続々と開設され市場が拡大していった。

日本では、2011に初めての
クラウドファンディングサイトが
サービスを開始し、

現在まで複数のサービスが開設され、
クラウドファンディングの
認知も徐々に広まりつつある!」

「それで、ゆうこ クラウドなんとかで、
どのくらいの
金額を集めることができるんだ?」

興奮気味に輝明がいった。

ゆうこ が簡単げに答えた。

「まぁ、
期間と出資する内容にもよるけど、

一口3,000円で10万人が
出資してくれたら、

半年も有れば、
3億はいくんじゃない!?」

「---3億だと!!!」

輝明は、いとも簡単に
ゆうこ が言ったのには驚きを隠せない、

そんな輝明に ゆうこ は、
更に余裕をかませた。

「クラウドファンディング後進国の
日本で3億、

アメリカでも
クラウドファンディング募れば、

合わせて10億近くは、
行くんじゃないかな?」

「ゆうこ それ正気で言ってるのか!?」

狐につままれたような話と、
あまりにもの金額に
輝明は目をむいていった。

「もちろん正気!」

ゆうこ が自信満々に言ってのけた。

加奈子が冷静にいった。

「問題は、いかにして売ろうとしている
"肉じゃがオムレツ"が
魅力的な商品で将来性があり、

社会に貢献できるかを
アピールできるか?だね、」

「加奈子さん、いまの県大は
広島女子大の時代とは全く違って、

クラウドファンディングとか国際的な
企業の経済活動について地域創生学部の
最も得意とするところです。

日本でも屈指の
教授も数多くいらっしゃいます。

どのようにアピール構想していくか
OGである私に任せてもらえませんか?」

ゆうこ の発言に対し、
理由はわからないが
加奈子は確たる手応えを感じた。

「分かりました。未知のものも多く
大々的に動けませんが、

企画の森嶋部長を巻き込んで
水面下で動きましょう。

不死鳥フェニックスの文字をとり、
PX作戦とよんだらどうでしょうか!?」

「PX作戦ですか!
これは面白くなってきたぞ!

それじゃあ今日は、
PX作戦のキックオフ会ということで、

みんな乾杯!」

さっきまで落ち込んでいた輝明が、
息を吹き返し音頭をとった。

「あのぅ......」

一部始終を聞いていた、
浩美が口を開いた。

「わたし全く気にしたことは
なかったけど、

クラウドファンディングって
具体的に言ったら、

ネットを使って多くの人に
資金を募ることですよね?

見ず知らずの多くの人に
共感してもらおうとすれば、

私たちがどれほど努力しどんな気持ちで
"肉じゃがオムレツ"を開発したのか、

一部始終を書く必要が
あると思うんだけど......」

「確かにそうだね、浩美ちゃん。」

言いにくそうに浩美が続けた。

「生田分隊長に輝明さんの自慢話を、
いつも聞かされています。

族上がりの"流れ星の五百旗頭"、
あいつは大したものだよ!

日本最年少で保護司になり、立派に
人を構成させたんだからなぁ......と、」

ゆうこ は絶え間なく変わる
環境の変化を理由に、

過去のことをすっかり忘れていた。

悟ったように ゆうこ がいった。

「浩美ちゃん、ありがとう!
"初心忘れべからず"だね!」

かしこまって ゆうこ が輝明にいった。

「施設で育ち
中卒の私が傷害事件を起こした、

貴船原少女苑を退院し族あがりの
"流れ星の五百旗頭"と言う保護司に
出会い更生させてもらった。

"肉じゃがオムレツ"を開発するまでの
ストーリーを正直にネット公開しても
よろしいでしょうか!?」

輝明は表情を崩し ゆうこ の質問に対し、
全く関係ないと思える返答をした。

「俺いつも思うんだけど、
吉本興業の芸人さん凄いよ、

毛が薄いとか極端にアゴが長いとか、
隠したい欠点を
逆に武器にしてるもんなぁ......」

輝明は、お世辞ではなく
吉本興業の芸人を尊敬していた。

「ゆうこ もちろんOKだ!」

「セシル!」浩美が思わず口にした。

セシルとは、80年代アイドル黄金期の中
"スケバン刑事" 3代目、

麻宮サキで大ブレイクした、
浅香唯の曲である。

浩美は、お父さんのコレクションで、

わざわざハイポジ(ハイポジション)の
カセットテープに録音されている
この曲が大好きだった。

カセットデッキがついている、

NAロードスターでは、
いつもこの曲を聴いた。

この曲を聴くとなぜか勇気づけられた、

親父さんは、
広島出身の矢沢永吉の大ファンで、

この曲は、永吉の旧友2人が組んだ
バンドNOBODYが作曲していた。

【セシル】

人は大人になるたび 弱くなるよね

ふっと自信を失くして 迷ってしまう

だから友達以上の 愛を捜すの

今夜私がそれに なれればいいのに

「私ねぇ、このサビの部分を聴くと
いつもキュンとくるんだ、

そうだよ! ゆうこ ちゃん、
映画 "悲しみよこんにちは" の

セシルだよ!」

ゆうこ のPX作戦構想は巧妙だった。

人の興味を引く書き出しは、
浩美が言った内容にしよう......

県大 地域創成学部の末永教授に
教えを扇ぐことにした。

末永は、ビジネスモデル論
ベンチャー企業論/コンテンツ作業論、
日本でも屈指の教授だ。

「2013年に健康科学コースを
卒業した西島と申します。

食品開発にたずさわっています。

しかし弊社は、企業規模も小さく
残念ながら資金がありません、

新開発した食品を普及させるため
クラウドファンディングに関し、教授に
ご指導が頂ければと参りました。」

末永に ゆうこ は深深く頭を下げた。

「講演会や学会への出席などで
月の1/3は広島を離れていて、

昨日、広島に帰って来たばかりです。」

真剣に相談する ゆうこ に対し、
末永は表情をくずし
アドバイスしてくれた。

「"肉じゃがオムレツ"開発の経緯、
開発した種子、

クラウドファンディング目標金額
及び 活動期間、

"肉じゃがオムレツ"の将来目標、

これらをどの世代、
色んな職種の人が読んでも、
分かりやすい文章にする事が大切です。

心理学的に人間は、
文字だらけの長文を読もうとしません、

そこで大事な事は、まずは、
「読んでみようかな?」と、
思わせること、曲で言うイントロ部、

極力ビジュアル的に視覚に訴える事、

肝は、"肉じゃがオムレツ"に対する
あなた達の熱意です。

読み終え無意識に、

"ファンディング"釦を押していた......

このような内容に
まとめ上げる事です。」

末永は的確なアドバイスを
ゆうこ に話した。

PX作戦

"肉じゃがオムレツ" が
開発されるまでの時系列

及び、開発した種子まで
鮮明にまとめられていた。

施設で育ち中卒だった幼少期から始まり
傷害事件を起こし
貴船原少女苑に送致されたこと、

元暴走族上がりで
"流れ星の五百旗頭"と名を鳴らした
日本最年少の保護司とであい、

気が付けば大学まで卒業していたこと、

思えば多くの人に支えられ、
人間として成長させてもらい
感謝でいっぱいであること、

そんな社会に恩返ししたいこと、

生活の三大要素 "衣食住"
食の道を究め
世界の人を幸せにしたいこと、

思い出の味、愛情と言う
最強のエキスを注ぎ込むことに拘り、

旧日本海軍の駆逐艦 雪風の肉じゃがを
基本にオムレツ風に仕上げたこと、

開発は簡単なことではなく
何度も挫折したこと、

それを全国、
いや全世界に広めたいこと、

一番の目標は、
西日本大震災の避難所でも
簡単に作ることができ、

一人でも多くの被災者に届けたいこと、

将来の夢は、AI技術を使った
食品製造に挑戦したいこと......

ゆうこ は、日本語版と英語版、
それらまとめた書類を持ち、

加奈子と一緒に1階にある
企画の森嶋のもとに向かった。

表紙には大きく 、

"PX作戦" と書いてある。

「森嶋部長、11会議室を取っています。
ご相談よろしいでしょうか?」

「美人が二人そろって
僕に内密な相談があるってなに?

少し待ってくださいよ......」

と、言いながら森嶋は急いで、
机の上に溜まっていた
伝票に印を押した。

11会議室の窓からは鮮やかに紅葉した、
もみじの葉が
秋風に吹かれ心地よく揺らいでいる、

4人が体面に座れるよう、

加奈子がテーブルの
レイアウトを変え森嶋にいった。

「森嶋企画部長、お座りください。

今日は、極秘の相談がありまして
ご足労いただきました。」

「極秘の相談......」

つぶやきながら森嶋が腰かけた。

「まだ海の物とも山の物とも
つかない話しで大掛かりに動けず、

森嶋企画部長に内密に
相談させていただきます。

森嶋部長も新開発した
"肉じゃがオムレツ"の不振で

業績が悪く、

不渡りを出すんじゃないかと
公言はしていませんが
周知されていると思います。」

その話を聞き、ついさっきまで
温和だった森嶋の表情が
明らかに険しくなった。

加奈子がズバリいった。

「来年の3月決算までには、
資金繰りのため4億円必要だと
情報を得ています。」

「"肉じゃがオムレツ"を開発した、
私たちも大いに責任を感じています。」

見た事のない ゆうこ の厳しい表情を見て
森嶋は、頑なに沈黙を続けた。

会議室はしばらく、
水を売ったように静まり返った。

観念したかのように
森嶋の重い口が開いた。

「4億円という具体的な金額は、
承知していませんが、

社長を筆頭に経理の畑山部長、
営業の香川部長、

全力で当たられている事は、
承知しています......」

ゆうこ が真剣な表情を崩さず、
テーブルの上に
作成したレポートを広げた。

「森嶋企画部長、

これは私たちが構想した
資金繰り構想をまとめた企画書です。

資金を集める方法は、
クラウドファンディング!

不死鳥フェニックスの文字を
とってPX作戦です。

ネットを使い国内と米国で
ファンディングを行なおうと
考えています。

目を通して頂けないでしょうか?

又、私たちの代表として動いては、
いただけないでしょうか!?」

真剣な顔をし、加奈子と ゆうこ は
テーブルに手を付き、

深深く御辞儀を続けている、

森嶋は一字一句のがさず
ゆうこ が作成した
"PX作戦" の企画書を眺めている、

一通り読み終え森嶋が質問した。

「二人とも頭を上げて下さい。

種子はよ~くわかりました。
素晴らしい企画だと思います。

一つだけ確認しても良いでしょうか?」

「何でも答えさせていただきます!」

肩の重しが取れたように
ゆうこ がいった。

「実質、来年の3月まで
5か月もありませんよね?

果たしてこの短期間の間に
目標金額が集められるか、

残念ですが数%しか
可能性がないと思います。」

「森嶋部長、
0%じゃないんですよね!」

ゆうこ の大きな声が
会議室に響き渡った。

横で聞いていた加奈子がいった。

「この内容で西島食品の
ファンディングページを
開設しようと思います。

具体的にはサーバーをレンタルし、
Wordprssという
アプリを使い作成します。」

「サーバーをレンタルしWordprssというアプリ
経費はいくらかかりますか?」

この質問には、
ゆうこ が軽やかに返答した。

「借りる容量にもよりますが、
私たちが作ろうとしている内容でしたら、

1,500円/月もあれば、
お釣りがくるかと......」

「たった1,500円/月でいいんですか?

それくらいなら僕のポケットマネーで
どうにでもなりますよ!」

森嶋は思っていた金額より、
はるかに安価な事に驚きを隠せない、

「ホームページの作成方法は
県大で習いました。ただ、

ページの中にふんだんな写真画像を、
これでもか!と
散りばめる必要があります。

社内での写真撮影には許可が必要です。

そこで森嶋部長、
ご協力していただけないでしょうか。」

夢をあきらめるのは一瞬じゃけんど
後悔するのは、一生ぜよ。

【By 坂本龍馬】

森嶋は、"竜馬がゆく" に
でてきた言葉を思い出した。

「西島L、加奈子さん、
僕も全面的に協力します。

これは平成の神風です!

みんなを、
あっと言わせてやりましょう!」

実行

「竈部長、西島食品の
ホームページを作ります。

開発部にある全ての測定器、
写真を撮らせて下さい。」

「どうしたの? ゆうこ ちゃん、
加奈子さん、
急にホームページ作成だなんて?」

"撮影許可" という腕章をつけた
ゆうこ と 加奈子は、
片っ端から写真を撮っていく。

「竈部長、
インタビューよろしいでしょうか?」

おかまいなしで、

あっけに取られている竈に
加奈子がインタビューする。

「竈部長、日頃どんなことを心掛け
開発にあたられていますか?」

「えぇっと......

僕は、頭の中に
常に消費者様の笑顔が浮かんできます。

食は人を幸せにできると、
僕は信じています。

その食を開発できること、
それこそが僕を含め、
開発部全員が胸にしまっている魂です。

こんなものでよろしいでしょうか?」

「OK!」ゆうこ が絞めた。

「えぇっと、加奈子さん次は、
経理部の畑山部長......」

ゆうこ が終わった
部署をチェックしている。

経理部はいつも静かだ、

「畑山部長、
お忙しいところすいません。

10分くらいでいいのですが、
インタビューよろしいでしょうか?

ゆうこ と 加奈子は二階フロアーの
雑談コーナーに畑山を案内した。

「今日は何事?」と言う畑山に
加奈子が早速インタビューを開始した。

「我が社のホームページを
急いで作っています。

早速ですが畑山部長、
経理部の方針を教えて下さい。」

「1円でも合わなかったら大問題で
経理部としたら計算ミスは命取りです。

ヒューマンエラー人間は
必ずミスをします。

そんなわけで金額の大小関係なく
コンピューターにて重複計算を
するとともに、

同じ処理を必ず2人で行い
算出確認を行っています。」

加奈子が切り込んだ、

「会社にとって
経営の健全性を知るために、

キャッシュフロー(お金の流れ)の
管理が重要だと思いますが、

どのようにされていますか?」

「加奈子さん、
ホームページ制作ですよね?

それとキャッシュフローの話は、
全く関係ないと思うのですが!」

急に畑山が冷たくなった。

「おっしゃる通りです。

我が社は、株式を公開している
上場企業ではないので、

キャッシュフローや営業利益、
経常利益含め全く関係のない話です。」

加奈子が釘を刺した。

「ただ、一つ言える事は、
西島食品で働き、

生活している一般社員も、
今から作成するホームページを
見ることになります。

まさか、
持ちも下げも出来ない状態になって

"実は......" と言う事は
ないですよね?

畑山部長?」

畑山は、加奈子を睨みつけ
何にも言わない、

「畑山部長、お忙しいところ
申し訳ありませんでした。

ゆうこ ちゃん、行きましょう、」

加奈子はそう言い最後、
営業課のある一階、
香川のもとに向かった。

「香川部長、毎日毎日の外回り......

私たちが開発した
売れない商品の営業、ご迷惑をかけ

本当に申し訳ありません!」

ゆうこ が涙を流しながら謝罪した。

フロアー中の視線が香川に集まった。

「まいったなぁ......

ゆうこ ちゃん、
俺が泣かせたみたいじゃない!

開発説明会のときに言ったでしょ?

もしこの商品が売れなかったら、
俺たち営業の責任だと!

俺は全然気にしていないよ、」

そう言って香川は、
ゆうこ の頭を大きく撫でた。

ゆうこ の姿を目にし、
もらい泣きしそうなのをグッと押さえ、
加奈子が口を開いた。

「香川部長、前からずっと
気になっていたのですが、

一ついいですか?」

「何ですか?加奈子さんまで改まって、
遠慮なく言ってよ、」

香川は、微笑みを浮かべいった。

「香川さんが外回りされてる営業先って
1円でも安く売ることが基本の
スーパーばかりですよね?

この度、開発した"肉じゃがオムレツ"
を購入する客層は高級デパートとか.....

つまりターゲットが違うんじゃないか?
と、以前から思っていました。」

「狙う客層(ターゲット)が違う?」

一月は いく、2月は にげる、
月日が経つのは早いもので、

2014年2月も終わろうとしている。

西島食品は問題の、
3月の決算を迎えようとしていた。

社長室に 徹 と 畑山、2人、
応接セットに深く腰掛けている。

時計のきざむ音だけが、
むなしく響き渡り静まり返っていた。

口火を切ったのは畑山だった。

「徹社長、申し訳ありません。
私の力不足です。

鋭意努力をしてきましたが今もって、
我が社への融資先は見つかりません

来月の支払いは債務不履行......

不渡りをだしてしまいます。」

今期の売上高から売上原価を差し引いた
粗利の水揚げ額は、

西島食品始まって以来少ない。
確実に新開発した、

"肉じゃがオムレツ"の
販売不振が響いている。

売上総利益÷売上高で
求められる売上総利益率は、

下限値の6.3%に対し1.4%と
レッド値である。

企業が活動していく資金の流れ
キャッシュフローが
立留っていることを示している。

わずかな粗利から、固定費、
新規導入した機器の支払い、

税金と真っ赤な血が流れだしていく、

治療方法として直ぐに
行わないといけないのが輸血、

最低でも1億8千万必要である。

次に行うのが止血、販売不振から脱却し
売り上げを伸ばすことである。

ただ、止血している間にも
真っ赤な血液が流れ出る。

それを想定すると、
1億8千万+2億2千万、

運転資金として4億は必要なのだが、

畑山は「万策尽きた!」と
言っているのである。

西島食品で共に働いている従業員は、
家族を養って
いかなければいけないし、

住宅ローンだってある。

路頭に迷わすことだけはしてはいけない
徹の腹は決まっていた。

「私の自宅を売却し、
従業員の救済に当てて下さい。」

畑山は市内にある
不動産会社に見積依頼をした。

それが命取りになった。

直接、徹の携帯に連絡が入った。

「西島社長、自宅を売却しようと
動いてるそうじゃないですか!?」

広和信用金庫の
玉井 支店長からであった。

「うちの外回りの者が、

取引先の不動産会社で
偶然耳にしたそうですが、

当行に口座がある取引企業が
こんなことを秘密裏にされては
困るんですよねぇ......」

「ちょっと待ってください!

玉井 支店長、何かの勘違いですよ、

自宅売却実行するため
動いてはいませんよ!」

そう 徹は返答したが、
人の言葉尻をとり、

偉そうに語るのを得意としている
玉井は取り合わない、

「いずれにせよ明日、

おたくの畑山さんと、
来店してもらえませんか?

そうですねぇ.....

明日、15:00と言う事で、
西島社長よろしいでしょうか?」

不動産売却となると
直ぐに現金化できない、

畑山は、先行して売却金額の
見積依頼したわけだが、

それが仇となり跳ね返ってきた。

「社長、すいません!」

畑山は社長室のフロアーに
正座し土下座をした。

玉井は腰ぎんちゃくの松井を引き連れ、
広和信金の会議室に現れた。

椅子にふんずり返るように
腰かけている玉井がいった。

後ろにころげないよう、
つっかえ棒に杖が2~3本必要だ。

「西島社長、おたくが倒産したら
うちも被害を被る分けで、

債務整理は平等にしましょうよ、

汚い事をしてもらったら
非常に困るんですよ、」

「つまり、自宅でもなんでも売却して
最優先に広和の債務返済にあてろと!」

畑山が血走った眼をしていった。

「お~こわ、

畑山さんそんな感情的になられない方が
良いと思いますよ!」

腰ぎんちゃくの松井がそういうと、
玉井が提案してきた。

「これは提案なのですが西島社長、

今の間に当行の債務を一括返済して頂き
御社との講座を閉めたいのですが
御願いできますかね?」

そう玉井は、
徹の目を見据えるようにしていった。

「債務を一括返済?
得意の貸しはがしですか!?

それとまだ問題も発生していないのに
銀行さんの方から講座を閉ろと、

貸しはがしに関しては、
金融庁が指導されていますよね?

それと一方的に口座を閉めろって!」

めったに感情を表に出さない
畑山が震えながらいった。

「畑山さん、
勘違いされては困りますよ。

これはあくまで
当行からの提案ですよ!」

何かを決断したように徹が口を開いた。

「広和さんのスタンスは、
よ~く分かりました。

御望み通り明日にでも
口座を絞めましょう、

御行との取引は、
これで終わりにしたいと思います!」

会社に戻っても、
畑山は怒りが抑えられない、

「くそっ、
自分たちの都合のいいときばかり、
ペコペコしやぁがって!

絶対にあいつらを
見返してやりたいです!」

「畑山部長、断腸の思いです。

もはやこれまで!

裁判所に、
"会社更生法"の申請を行います。

今から部長以上を緊急招集し、

この事を話したいと思います。」

そう言うと徹は、秘書の加奈子に
部長以上への
緊急招集するよう電話をかけた。

会社更生法の申請

経営難の会社が営業を続けながら、
債務を整理し、

経営を立て直していくための手続き。

いざ!出陣

緊急会議は二階の24会議室で
15:00から行われる。

企画部長の森嶋は、
ゆうこ に連絡を入れた。

「ゆうこ ちゃん、15:00から
24会議室で緊急会議が行われます。

この席でPX作戦の公表を行います。

ご足労ですが私が呼ぶまで
待機してもらい発表して下さい、

お願いします!」

ゆうこ は森嶋が電話を握りしめ、
頭を下げる気配を感じた。

もしこれが500年まえだったら
「時は熟した。いざ、24会議室へ!」
と、いう事だ、

「パソコン ヨシ! 資料 ヨシ!」

ゆうこ は、指差呼称をし気合を入れた。

天気は、晴れていたと思ったら
雨が降りだしたり、

今はどんより雲に覆われている。

24会議室も、予想通り
重い空気が立ち込めていた。

みんなどんな発表があるか
熟知しているのだ。

「駆逐艦雪風.....

会長がよく言われた、
戦艦大和と共に
沖縄特攻する乗組員の心境は、

こんなものだったのかも知れんな、」

製造部長の加藤がポツリといった。

正に帝国海軍の足軽駆逐艦雪風と同じ、
西島食品も同じく中小企業である。

ただ歴史は面白いものである、

沖縄特攻で運命を共にするはずの
雪風は生き残ったのであった。

24会議室の扉が開き、
徹 と 畑山 が部屋に入ってきた。

話は、徹 の第一声から始まった。

「みなさん、今日は緊急に
集まってもらい申し訳ありません。

我が社における財務状態に関し
畑山部長から報告させてもらいます。

それでは、畑山部長、
よろしくお願いします。」

「経常利益は資金調達など
営業外活動も含め、
会社の収益力を示す指標です。

算出式は、売り上げ総利益-
(販売費+一般管理費用)となります。

ここで重要なのが、
資金調達と売り上げ総利益になります。

重要な資金調達です、
社長直々に思いつく銀行は片っ端
あたりましたが、

我が社のような食品中小企業に
融資してくれる
銀行は一行もありません、

又、メインバンクである
広和信用金庫からは、
遠回しに預金を解約した理由に

今後一切取引することを
断られました。

悔しいです!」

それまで大人しく聞いていた
営業部の香川が、
机に頭をめりこませた。

「資金調達の問題じゃぁありません!

偏に我々営業部の能力不足!

全ての責任は私にあります。」

そう言うと、
用意していた辞表を徹に手渡した。

「そこまで西島食品のことを
思ってくれ、ありがとう!

香川部長、

ただ、これは、
受け取ることはできません。

私たちが伝統工芸のよう頑なに
拘り続けた、
販売ルートの問題だと思っています。

身を引くのは、社長であるこの私です!

いいですね?」

徹 は、受け取った辞表を破り捨てた。

「夢をかけ苦労して開発した新商品を
世に出せなくて悔しくてたまりません、

従業員119名の保身は全力で守ります。

畑山部長には、私の自宅を処分して
もらうよう正式にお願いします。

その後、債務を整理し、
経営を立て直していくため

会社更生法の申請を
来月おこなうつもりです。」

「偏に私の力不足!」

徹は椅子から立ち上がり、

深々と頭を下げた。

一部始終を真剣に聞いていた、

森嶋が手を上げた。

「畑山部長、必要な金額は
確か4億円でしたよね?

もしもですよ、

その4億円があったら、
今までの話はどうなりますか......?」

「そんな夢のような
話はないと思いますが、

我が社は息を吹き返します。」

もう、半年以上

悔しい思いをしながら
金策に駆け回ったんだ、

畑山はそう思った。

森嶋がポケットからPHSを取出し
どこかに電話している。

「ゆうこ ちゃん!出撃だ、

今すぐ24会議室に来てくれ!」

しばらくすると、
会議室の扉をたたく音がした。

「待ってました!

お入りください ゆうこ ちゃん、」

「失礼します!」

心なしか息を切らし、
手提げ袋にパソコンと資料を持ち
ゆうこ が入ってきた。

森嶋が電子黒板を最前列一番端に移動し
横で ゆうこ が説明できるよう、

レイアウトを変えた。

「すいません!徹 社長、畑山部長、
最前列の中央席に席を設けました、

こちらに移動してもらえませんか?」

「これは何事ですか?」

森嶋を除き、今起こっていることを
みんな理解できていない、

レイアウト変更と共に会議室の空気が、

一新された。
先程までの重苦しい空気はない......

「これから ゆうこ ちゃん筆頭に
我々が去年の秋から、

水面下で行っていた"PX作戦"につき
報告させていただきます。

それと内々に行っていたのは、
"海の物とも山にものとも"
得体のしれない事でして、

みなさんに公表していませんでした。

ご理解のほど宜しく御願い致します。」

ゆうこ が電子黒板と
パソコンをつないだ画面には、

PX作戦と大きく表示されている。

「PX作戦?」

あちらこちら、ざわついている、
ゆうこ が説明を始めた。

「PX作戦を始めた経緯について
話させて下さい。

私たち従業員レベルでも会社の状況が
思わしくないんじゃないか?

口には出しませんが、
みんな心配していました。

会社の経営を弱体化させた根源は、
自分達が開発した、

"肉じゃがオムレツ"です。

そんな中、微力でも
力になれないだろうか?

考えついたのがPX作戦だったのです。」

「申し訳ない、ゆうこ ちゃん、
先程から出ているPX作戦ってなんね?」

総務部長の沖田だった。

「PX作戦とは、西島食品が蘇るようにと
不死鳥フェニックス(phoenyex)の
文字からつけました。

どうしたら4億円もの大金が
集めることができるか?

考えました。

私は県大の地域創生学部で学んだ、
クラウドファンディングのことを
思い出しました。」

「そうか!その手があったか!」

話を聞いていた竈が叫んだ。

「そのクラウドなんちゃらって何ね?」
沖田が再度質問する、

興奮気味に竈が答えた。

「インターネットが
ここまで進歩したからできる事です。

沖田部長、クラウドファンディングとは
そのネットを利用し
多くの人から寄付をつのる事です。」

「ただ......」

竈のトーンが急に落ちた。

「全く無関係の人に
寄付を御願いするわけですから、

やれそれと寄付など集まりません……

だから自分達が出資を
募ろうとしている物が、

いかにに素晴らしいものであり、
どれだけ社会に貢献でき
夢があるのか?

人を感動させる必要があります。
甘くはないのです......」

製造部長の加藤が口を開いた。

「そうだよな?映画でも面白いとか、

価値がなければ金を払って、
観ないもんなぁ、」

「去年、私と加奈子さんが
写真をとりまくってみなさんに
インタビューしたでしょう?

実は、あれクラウドファンディングの
ホームページを作っていました。

内容をどう構成するかに関し
日本でも屈指の、

県大創成学部の
末永教授に指導を仰ぎました。」

創成学部の末永教授と言ったら、
日本において
クラウドファンディングの洗堀者だ、

これはすごく期待が持てる。
竈はそう思った。

ゆうこ がホームページの
核心部分を語りはじめた。

「いかにして共感を生む物にするか?
凄く悩みました。

時は経つばかりで、
良いアイデアが浮かんできません、

それを解決したのは、
輝明さんの一言でした。

広島県警の警部補さんに、
言われたそうです。

"東日本大震災の被災者たちも、

簡単に、こがな美味いものが
食べられたらのう......"と、

不幸にも未曾有の東日本大震災から3年
復興の最中であり、

私たちの記憶に鮮明に残っています。

共感してもらうのが一番大事です。

我が社が開発した
"肉じゃがオムレツ"を最大に、

アピールするワードは、
これだ!でした。」

続いて企画の森嶋が、話を受け継いだ。

「秋葉君、ゆうこ ちゃん達が
作成した企画書を、
私に見せてくれました。

読んで正直、体が震えました。

これは平成の神風だと......

私は彼女たちに、
全面協力することを約束しました。

クラウドファンディングは、
米国と比較し日本は周回遅れです。

だから、日本と米国で
ファンディングする事にしました。

これから皆さんに
ファンディングに使ったページを
見ていただきます。

ゆうこ ちゃんお見せして、」

「ページ数が多くては、
見てもらえません。

最大だと言われる5ページに
まとめました。」

ゆうこ がページをめくり
内容を説明するたびに、

驚きの声が上がった。

英文で書かれたページも見せ
同じ内容であることを説明した。

みんな関心しきりである、

最後のページ下に設けた
ファンディングするための
説明に入った。

「これが寄付を募るページになり、
入金方法は、
クレジット支払いになります。

クレジット番号を打ち込み
必要項目記入後、

"募金する"と言う釦を押せば
終了となります。」

興奮の冷めない畑山が質問した。

「西島L素晴らしい脱帽です!
私なんか、
今まで何をやっていたのか情けない......

それで募金する金額は、
どのように決めますか?」

「一口、3,000円単位で、
何口募金するか決めていただき、

釦を押してもらうことになります。」

なるほどこれは簡単だ!
と畑山は思った。

ゆうこ が付け加えた。

「手間がかかったら、

途中で募金することを
考え直す人も出てきます。

"スピーディーな入金"
これが肝です。」

「西島L、不躾(ぶしつけ)な
質問ですが。

今までにどのくらいの寄付が
集まりましたでしょうか?」

質問したのは経理の上田だ、

会議室が水を打ったように静まり返り、
全員の目が ゆうこ に集中した。

一挙一動を固唾をのんで見守っている、

ゆうこ はサラリといった。

「正式には2月28日(金)募金は
終了しますが、

現時点で日本が102,148口、

米国では210,748口集まっています。」

すぐさま、
経理の上田がスマホの電卓を叩いた。

「一、十、百、千、万、10万、
100万、1000万、億......」

上田は大きく目を見開き、

電卓に表示されている桁を
何度も数えている、

「上田さん、どうした!?」

製造部長の加藤が、
軽く上田の肩を叩いた。

「国内で3憶6百万円、
米国で6憶3千2百万円、

合わせて9憶3千8百万円......」

「なんだと!」

加藤が上田のスマホを覗き込んだ!

上田に ゆうこ がいった。

「9憶3千8百万円あれば
税金を引かれても、

間違いなく4億円は残りますよね?」

「もちろんだ!ゆうこ ちゃん
君たちは西島食品のヒーロー

いや神だ!

そうですよね、西島社長!!」

西島は押し黙りこれまでの
一部始終を見ていたが、

口を開きハッキリいった。

「秋葉君を含め
県大コンビには脱帽です。

君たちは西島食品にとって神です!

この世に生を受け、今日のように
感動したことはありません。

忠則会長がいつも言われておられます、

同じ空間にそれぞれ異なる価値観を
もった人が集まっているのが会社だと、

それらの人を
どうやって同じ方向を向かせるか?

それが社長というリーダの役目だ!

情けないことに私の器では力不足でした。
しかしここにいる各部長、

一般社員の皆さんに私は、
助けられたのです。

西島食品は何て良い会社なんだろう......

原爆で戦災孤児の私は、
忠則会長に助けらいました。

人生二度目です!」

製造部の加藤なんか、
溢れ出る涙がこぼれないように
上を向いて聞いている、

「ただただ、感謝しかありません......

西島食品は完全に息を吹き返しました。

みなさん、
やってやろうではありませんか!」

「ウォー!!!!!!」

つぎの瞬間、
24会議室が歓声につつまれた。

抱き合って喜びを表している
営業の香川の肩をそっと、

ゆうこ が叩いた。

「ちょっといいですか?香川部長、」

「なに!なに!ゆうこ ちゃん!」

超ご機嫌で舞い上がっている香川に
ゆうこ が耳打ちした。

「実は今回のファンディングに、

100口も募金してくれた
会社があるんです。」

「100口、えっと3,000の100倍だから......
30万円も!?」

驚いたように香川が ゆうこ を見た。

「それ、どこの会社か分かる?」

「確か、四越伊勢丹
ホールディングスだったかなぁ?」

売上高 8000億、資本金 500億、従業員 1万人
もしかと思うが、

あの四越伊勢丹ホールディングスなのか?

香川は耳を疑った。

「香川部長、その四越なんとかと言う会社、

うちの"肉じゃがオムレツ"に
興味があるみたいで、

藤木さんと言う名前だったかなぁ、
試供品が欲しいということで

10パック送りました。

東条フーズにも似たような
"肉じゃがオムレツ"があって、

コンペ(competition)優劣をつけたい
旨のコメントが記入してありました。

一度訪問されてみては、
如何ですかねぇ?」

東条フーズとは、
西島食品と規模が全く違う
一部上場企業である。

ゆうこ は徹が中卒の自分を
養女に向かい入れ、

ここまでしてくれたことに
感謝しかなかった。

「いつか恩返しがしたい!」

それが紛れもない夢であった。

その夢が叶おうとしているのだ、

今日はおかしな天気である、
雨もすっかり上がり薄日がさしている。

「わ~綺麗!見て下さい。

森嶋部長!香川部長!」

24会議室の窓からは、
生まれて数回しか
見た事のない大きな虹が見えた。

確実に潮目が変わり始めている。

ゆうこ は、この後、
輝明を巻き込んで東条フーズと
一戦交えることなど知る由もなかった。

『セシル』
歌 : 浅香唯
作詞 : 麻生圭子・作曲:NOBODY


リリース: 1988年

【ストーリー 8】 著: 脇屋 義直
【ストーリー 9】へ続く..


この小説はフィクションです。
実在の人物や団体などとは、
関係ありません。

スポンサーリンク

Copyright© ドングリ爺のblog , 2022 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.