【blog小説】星降る夜に エピソード 7

お好み焼き風、肉じゃがオムレツ

輝明は、タダ爺が言った、

「金に糸目を付けない料理は確かに美味い、じゃが、思い出にかなう味は無い!

愛情と言うエキスが、加わった料理には絶対に勝てん!」

この言葉が頭から離れなかった。

確かに輝明も作った料理を、

「美味し!」と食べてもらう事で、嬉しくて嬉しくて、幸福感に満ち溢れた。

タダ爺が言った、

「その日の食べる物に困っている、多くの仲間に海軍料理を作り、

食べさせるのが生きがいじゃ!

美味い美味い!と食べてくれる姿を見るだけで、幸せいっぱいになる。

自分以外の物を、

生かすために生きる、」

今ではその言葉の意味が身にしみて分かる。輝明は料理を探求するのが好きで、これまで色々な料理を作った。

確実に分かったことがある。

それは、"素材の味を生かす。"という事である。

「そうだ!雪風の肉じゃがだ!」

輝明の頭に、"お好み焼き風、肉じゃがをオムレツ" イメージが、満ちるように、潮の波が次から次へと打ち寄せる。

じゃがいも = あきつ美人

たまねぎ = 干したまねぎ

牛肉 = 広島牛

「こんにゃくは、広島の奥座敷 湯来(ゆき)温泉、国の天然記念物を模った、"オオサンショウウオこんにゃく" を使おう!」

オオサンショウウオこんにゃく

魚卵を混ぜ込み、生々しく再現したこんにゃくで、「キモかわいい」と評判になっている。

「肉じゃがの具を堅焼き卵で包み、お好み焼きのようにオタフクソースを塗り、

青海苔でトッピングをする、切ったら"オオサンショウウオこんにゃく"が飛び出す!」

まるで見てきたみたいな想像力......

「絶対にこれは受けるぞ!」

お好み焼き風、肉じゃがオムレツ 構想

【開発のポイント】

思い出の味の追及

(徹夫妻の思い出の味は、肉じゃがである。)

愛情と言うエキス注入

【材料】

あきつ美人
干したまねぎ
広島牛
オサンショウウオこんにゃく

オタフクソース
青海苔

【調味料】

川中醬油
だし道楽
酒(雨後の月)
本味醂
砂糖

【調理方法】
タダ爺指導、雪風の肉じゃがを、

忠実に再現、

輝明は、ゆうこ に ふみちゃんの第2メニューとして "お好み焼き風、肉じゃがオムレツ" となるもを開発している事のメールを入れた。

思考錯誤

上部が赤、中心が白、下部が赤の旗印、これは徹が人生の師匠と仰ぐ、

坂本龍馬" 海援隊の旗印で、

西島食品のロゴは、白い中心部に赤で "西" と言う文字が書いてある。

店の前に西島食品のロゴが入ったワゴン車が止まった。

降りてきたのはカマエツだった。

「輝明さん!会長に仰せつかり、

"あきつ美人"お持ちしました!」

「ゆうこ がタダ爺にメールの事を話したんだ!」と輝明は思った。

種類は男爵芋だが、美人と言うように、

表面にごつごつは無く、薄い粉の土で覆われた、"美人"そのものだ、粉状の土を洗い落とし、皮ごとカットしてソーセージと炒め "ジャーマンポテト" として食しても最高に美味い!

「徹社長が、思い出 "雪風の肉じゃが" の味すごく期待しておられます。

僕は県大の講師を止め、西島食品の食品開発部長とし、

業務に邁進する事となりました。

ゆうこ ちゃんと食品加工の数値化に取り組んでいます。」

あきつ美人は、箱に5kg入っていた。

保存は、光が大敵だ!

大事にカマエツから箱を受け取ると輝明が言った。

「カマエツさん、絶対ものにして見せます!」

「僕も ゆうこ ちゃんも、輝明さんが作り上げる、

"お好み焼き風、肉じゃがをオムレツ"

数値化できる日を首を長くして待っています!」

カマエツは、輝明の手を固く握りしめ、

言った。

雪風の肉じゃがは、じゃがいもを大きくカットするが、オムレツにするため、7mm角に小さくカットした。

たまねぎは、半分に切り4等分づつにスライスし、1枚1枚バラシ、コンベクションオーブンを使い乾燥させ串切りにした。

広島牛は、片面のみ焼き目をつけ取り出した。

野菜は、タダ爺に教わったようにフライパンを使い蒸し煮にするのだが、煮込む頃合いがつかめない、

失敗に失敗を重ね、5kgあった あきつ美人 は、もう3個しか残っていない、

「完璧だ!」と思っても、どうしても、

余熱で火が入りすぎ、形が崩れるのだ。

さも困ったという思いが、ありありとし、顔と態度に表れ、輝明は追い詰められていた。

「こんな時は何をやっても、

上手くいかない......」

経験上、分かっていた。

店の外を、

ぼんやり眺めているときだった、

「五百旗頭!」

大きな声に我に返った。

投げるように視線を移したら、

丹波だった。

「丹波さん!?」

「おう!五百旗頭 久しぶり!

ワシは3月11日に発生した東日本大震災の支援に、広島県警での募集に手を上げ、釜石港内で検視活動にあたっちょった。」

3月11日に発生した東日本大震災は、広島でも震度2の揺れがあった。

しばらくして、映画のように津波が走っている車を飲み込んでいく、

テレビが映し出す映像に言葉を失った。

ニュースは、被害の状況を繰り返し伝えていった。

福島では、原子力発電所が水蒸気爆発を起こし吹き飛んだ。

神妙に頭を垂れてかしこまる五百旗頭に丹波が言った。

「あの日は、机で調書を整理しちょった、大きな揺れがあったが、大したことはなかった。

少したって、東北地方に大きな地震があったと言う事を知った。」

丹波が続けて言った。

「テレビ画面は、映画のように建物や車を、津波が次々、飲み込んでいく様子を繰り返し映した。」

丹波が真剣な目をし、凝視する輝明に言った。

「それから2日後、幼い妹を背負い、

ポリタンクを持ち、寡黙に行列に並ぶ、

少年の写真を目にし、

不覚にも涙が出た。」

"鬼の目にも涙" とは、正にこの事だ、

「正直、参った......」

気を取り戻し、丹波が言った。

「五百旗頭、比治山公園で約束した美味いお好み焼き、食べさせてくれぇや!のぅ、」

「お疲れさまでした!丹波さん!

誠心誠意を込め、お好みを焼かせて頂きます!」

輝明は、背筋を伸ばし足下1メートルのところに視線を落とし、上体を45度程度に傾け切れのいいお辞儀をした。

「そう言や~ お前が保護司をしちょった、生きのええカワイ子ちゃんは、どうなったんなら?」

雑誌をめくりながら丹波が言った。

「あぁ、ゆうこ ですか?

県大の創生学部を卒業し、

西島食品で開発に頑張っています。」

「大したもんじゃないか!県大の創生学部ゆうたら、頭がエエんじゃのう?保護司、流れ星の五百旗頭が立派に構成させた分けじゃ!」

丹波が雑誌を閉じ続けた。

「ワレを保護司に押したワシの目は正しかったわけじゃ、それと西島食品ゆうたら秋葉先生が社長秘書をされちょる。

秋葉先生も県大の前身、広島女子大卒じゃけんのぅ、」

「丹波さん、力がつくように餅を入れておきました。」

輝明は改めて、加奈子が合気道の達人だったことを思い出した。

オタフクソースが焼けた香ばしいかおり、その上には、

これまでか、と盛られた観音ネギ!

「美味そうじゃのう~」

一口食べ、丹波が唸った!

「こりゃ~ブチ美味いわ!」

日頃、笑わない丹波が、

おもいっきり笑顔を見せた。

水を一口飲み、

真顔に戻った丹波が言った。

「五百旗頭、ワレは今後どうすんなら?

この、お好み焼き屋をずっと続けるんか?」

輝明には、思いがあった。

丹波に意見を聞いてみた。

「お好み焼き屋は、

続けようと思っています。

丹波さん高級ではなく、愛情と言うエキスを加わえた料理を、お好み焼きメニューに、加えられたら思っています。」

「愛情と言うエキスを、

加わえた料理じゃと?」

漠然とした答えに丹波は首を傾げた。

そんな丹波に、輝明が丹波に質問した。

「丹波さんが一番美味いと思う料理は、

何ですか?」

「一番美味い料理とのぅ?......」

しばらく、丹波が考え込み、

弾んだ声で言った。

「ピーマンと椎茸炒め、

茄子の漬物、それも胡麻をたっぷりまぶしたやつじゃ!」

ピーマンと椎茸炒めは、高校時代お袋がいつも、弁当に入れてくれた。

茄子の漬物、胡麻和えは、お婆ちゃんがいつも作ってくれ、茶漬けで何杯も飯が食えた。

「丹波さん、それレストランのメニューにありますか?

それとシンプルな料理ですよね?

なぜ美味いと思われますか?」

確かにシンプルだけど、

毎日食べても飽きない、

丹波は純粋にそう思った。

輝明が言った。

「丹波さん、人が純粋に美味いと思う料理は、

思い出の味 と 愛情と言うエキスを加わえた料理なんです。

高級な料理ではないけど、

俺は、そんなメニューを加えようと思っています!」

「確かにお前が言う通りじゃ!

ほっこりする居酒屋的な、お好み焼き屋を目指すと言う事か?」

「ところで、丹波さん、

"肉じゃが" は好きですか?

"お好み焼き風、肉じゃがをオムレツ"を、完成させようと試行錯誤しているんですが、

どうしても、じゃがいもに火が入りすぎるんですよ?」

お好み焼き屋が作る、肉じゃがオムレツか、面白い!と丹波は思った。

「じゃがいもに火が入りすぎる?

五百旗頭、ワシは調理のことはわからんが、昔、婆ちゃんが "野菜は水から茹でる"んじゃ! と、よう言っていた。

それなんじゃないんか?」

「水から茹でる......?」

何かを思い立ったように、

輝明が立ち上がった。

「丹波さん!今から"お好み焼き風、肉じゃがをオムレツ"を作りますから、試食して頂けますか!?」

輝明が道中かぶりを被り直し、最後の "あきつ美人"3個を7mm角にカットし水にさらした。

スライス玉葱の乾燥には時間がかかるため、あらかじめ準備していたものを使うことにし、油を引いたフライパンが熱くなるのを待ち、広島牛の片面のみ焼き目をつけた。

片面には焼き目がついているが、反対側はまだ赤い状態だ。

タダ爺に教わった通り取出し、

最後に肉じゃがの具材と合わせ余熱で火を入れる。

肉の旨味がフライパンに付いた油で具材を炒めるのだが、今回はフライパンが完全に冷めるまで待った。

輝明は、思った。

雪風の肉じゃがは、あきつ美人のカットが大きい、

"お好み焼き風、肉じゃがをオムレツ"では7mm角......

温かい状態から炒めるため表面から先に火が通り、中心部はまだ生の状態じゃないのか?

表面と中心部では温度上昇に差がある、全体にに火が入るまで加熱すると表面には火が入りすぎる。

これが、煮崩れる原因じゃないかと思ったのだ、

満を期し、フライパンが冷めたところに具材を投入し、醤油以外の調味料を加え、全体を混ぜ合わせ蓋をし点火した。

「なんとか上手くいってくれ!」

蓋の隙間から蒸気が上がり出した。

恐る恐る蓋を開けた、

「よっしゃー!煮崩れていない!」

今までは、この段階で、ことごとく煮崩れた。アルコールが飛んだのを見計らい、醤油を加え全体を軽く混ぜ合わせ、

再び蓋をした。

フライパンの中は、煮ると言うより蒸す状態になっている。

味の平均化!醤油の塩分を "あきつ美人" が吸い込んでいく、

輝明が祈りを込め蓋を開けた。

7mm角の "あきつ美人" が顔を出した。すぐさま火を消し、取り出しておいた広島牛を加え、

蓋をした、待つこと10分......

追い求めた "肉じゃがをオムレツ" の種が完成した。

「肉じゃがをオムレツ" の種が完成しました!丹波さんのお陰です!」

輝明が街じゅうに、響き渡るような大声で歓声を上げた。

分けが分からない?

丹波は、なぜ輝明が興奮しているのか理解できなかった。

「五百旗頭、どうしたんなら?

ワレ大丈夫か!?」

「丹波さん!今からこれを使い

"お好み焼き風、肉じゃがをオムレツ"にします!」

輝明の興奮は収まらない、ヘラを使い鉄板に溶き卵を引き伸ばし、雪風のオムライスのように堅焼きにした。

お好み焼きの生地を伸ばすような、鮮やかな手つきに丹波が見とれている。

堅焼き卵の上に、"オサンショウウオこんにゃく" を仰向けに乗せた。

思わず丹波が叫んだ、

「五百旗頭!何なら、

そのいなげな、(変な)もんは?」

「丹波さん、安心して下さい、

オサンショウウオの形をした、

"こんにゃく"ですよ!」

"オサンショウウオこんにゃく" は、

魚卵が入っていて味が付いている。

輝明はそのまま加えた。

その上に、先ほどの肉じゃがの種を加え、ヘラを使い器用に包みひっくり返した。

オタフクソースをかけ、青海苔を振りかけ、丹波の前にヘラを滑らせた。

「丹波さん、"お好み焼き風、肉じゃがをオムレツ"です。試食、御願いします!」

一口食べ、丹波が叫んだ!

「なんじゃ!こりゃ~」

心配そうな目をし、輝明が丹波を見つめている......

「玉葱と言い、じゃがいもと言い、

深い味じゃー

香ばしいのに肉が凄く柔らかい、

それとの、オタフクソースの酸味が、

ブチ合う!

冷えきったビールを飲みながら、こいつをつまんだら、最高に美味いと思うで!」

「美味いものを食べてもらいたい、

愛情と言うエキスが、

加わってますから!」

満面の笑みを浮かべ、輝明が言った。

「東日本大震災の被災者たちも、簡単に、こがな美味いものが食べられたらのう......」

丹波がポツリと言った。

西島 ゆうこ 殿

ご無沙汰しています。元気に食品開発に励んでいますか?

タダ爺の数々の話に感銘を受け "ふみちゃん" では、お好み焼きを基本とした、

愛情のエキスを詰め込んだ思い出の味を目指し、試行錯誤し第二のお好み焼きメニューを開発しました。

それは、"お好み焼き風、肉じゃがオムレツ" です。

ゆうこ も知ってると思いますが、広島県警の丹波警部補に試食してもらいました。

丹波警部補ですが、東日本大震災にて県警を代表され、援助に入られ釜石港内で検視活動にあたっておられました。

又、ゆうこ が県大の創生学部を卒業し、立派に西島食品で食品開発にあたっていること喜んでおられました。

材料・調味料のレシピは以前メールした内容と変わっていません。

これを完成させるまでには、色々なハードルがありました。

一言で言ったら、試行錯誤の繰り返しでした。

何度やっても小さくカットした "あきつ美人" が煮崩れし挫折しそうになりました。

それを解決できたのは丹波さんが言った、

「五百旗頭、ワシは調理のことはわからんが、昔、婆ちゃんが

"野菜は水から茹でる"んじゃ! と、よう言っていた。

それなんじゃないんか?」

でした。

新たに調理内容を時系列にまとめたファイルを添付しておきます。

丹波さんが最後に、

「東日本大震災の被災者たちも、

簡単に、こがな美味いものが食べられたらのう......」と言っておられました。

俺も心底そう思います。これは夢ですが、

もし、西島食品の新たな商品として全国に普及すれば、

"I should be very happy."

幸甚に存じます)です!

輝明

何度も読み返し輝明は、メールの送信ボタンをクリックした。数日音沙汰は無かった。

3週間後、ゆうこ から、

返信メールが入った。

五百旗頭 輝明 様

"お好み焼き風、肉じゃがオムレツ"のメールありがとうございました。

竈(カマエツ)部長 初め食品開発部内で拝見させて頂きました。

結論から書かせて頂きます。

「素晴らしい企画です!

"お好み焼き風、肉じゃがオムレツ"を、食品開発部の商品開発目標にしたいと一同おもっています。開発コードネーム NOO1と勝手ながら命名しました。

さてNOO1ですが市販化するため、6つのの問題を解決する必要があります。

  1. 利益の確保(使用する材料の見直し)
  2. 生産タクト(1つの製品の製造にかける時間)の尊守
  3. 現行設備の改修
  4. 新規開発技術の確立
  5. 設備改修資金の捻出
  6. 新規開発技術資金の捻出

西島食品は中小企業です。潤沢な資金源はありません。最大のハードルは、部長以上に稟議を通し開発の承認を得ることです。返信が遅くなったのも部を上げ解決策を熟考していたからです。

しかし、例え稟議が通ったとしても間違いなく言えるのは、弱小企業である西島食品は、成功するかしないか会社の存亡をかけたプロジェクトになる事は間違いありません。そこまでの覚悟を竈はじめ、部全員腹を括りました。

又、NOO1を量産市販化するためには、日本の食品加工企業に於いて新規開発技術の確立する必要があるのですが、

残念ながら目途はたっていません......

とにかく目前のハードルである稟議を通すことに全力を注ぎます!

6月21日(金)午前10時から稟議を通すため、部長以上へのプレゼンを行います。

結果は終わり次第、電話連絡させて頂きます。

西島食品 食品開発部 開発課

西島 ゆうこ

ゆうこ からの返信を読んで輝明は正直、ビビった。に自分と同じA型の竈は、そうとうなプレッシャーに違いない、

稟議

忠則を筆頭に徹はじめ居並ぶ部長たちの視線を一身に受け、 ゆうこ は プロジェクト室正面に準備された電子黒板の前に立った。

「本日は、 【仮称】お好み焼き風、肉じゃがオムレツ量産化計画 に関し、会長・社長はじめ各部長のご承認を頂戴いしたく説明させて頂きます。」

ゆうこ の合図で照明が消され、電子黒板にまとめられた構想案の一覧表が表示された。

「これが販売コストを考慮し、

量産加工する為に作成した、"お好み焼き風、肉じゃがをオムレツ" の構想一覧です。」

【仮称】お好み焼き風、肉じゃがをオムレツ

【コスト的見直し】

あきつ美人 ⇒ あきつのじゃが芋
広島牛 ⇒ 輸入牛肉
オサンショウウオこんにゃく ⇒ 神石の糸こんにゃく
川中かけ醬油 ⇒ 薄口醤油
酒(雨後の月)⇒ 醸造酒
本味醂 ⇒ みりん風調味料

【材料】

あきつのじゃが芋
干したまねぎ
輸入牛肉
神石の糸こんにゃく

オタフクソース
青海苔

【調味料】

薄口醤油
だし道楽
醸造酒
みりん風調味料
砂糖

【調理方法】

量産化対応 及び 低温滅菌加工

(ブロック調理方式によるレトルト化)

【新規調理加工方法の確立】

「量産化し利益を生むために5つのコスト削減案を提示させて頂きました。

内容は、コスト的見直し項目をご参照ください。」

薄暗がりの中で疑問と思惑が、錯綜する。営業部長の香川が挙手した。

「まず、この商品の損益分岐点を上回り利益を上げるには、

何パーセントCR(Cost reduction)低コスト化が必要ですか?」

躊躇なく ゆうこ が目標値を言った。

「材料の価格変動率を20%と予測し、CR40としました。」

「なるほど、20%のクッションがある分けか......」

購買部長の上田が 【コスト的見直し】 項目を見ながら質問した。

「この5項目でいくらのコストダウンが見込めますか?」

「予測的精度ですが、CR50、つまり半分のコストで製造できます。」

つまり、「30%材料変動のクッションがあると言う事ですね......」

長年の経験から上田は30%のクッションがあれば、材料費の変動、仕入れの方法、仕入れ先の変更等でしのげると思った。

「了解しました。是非ともCR50を実現して下さい。」

製造部長の加藤が挙手した。

「稼働率を考慮し最大売れた場合、生産タクトはどれくらい見込んでいますか?

又、生産タクトを保証する具体的生産方法を教えて下さい。」

ゆうこ が即答した。

「量産化対応は、ブロック調理方式によるレトルト化です!」

「ブロック調理方式?」

レトルトに関しては熟知していたが、ブロックと言った言葉は加藤含め全員初めて聞く言葉だった。電子黒板が船を製造する画面を表示し、ゆうこ がブロック調理方式について説明を始めた。

「ちょっと待ってください。西島L、我社は食品加工会社ですよ?」

「加藤部長、最後まで説明を聞いていただければ、

お分かりになります。」

そう言って、ゆうこ は説明を続けた。電子黒板は信号機のように下部赤、中部黄、上部青、と船を横にスライスした画像に切り替わった。

「従来、船は下の部分からの積み上げ方式で作られていました。しかし、それでは下部が完成しないと上部は造れません、76年前 わずか3年の工期で作られた巨大艦があります。」

「76年前......」

プロジェクト室に声がこだました。ゆうこ が明瞭な声で言った。

「その船の名は、"戦艦大和" です!」

瞑目して聞いていた忠則が目を見開いたと同時に、薄明りのプロジェクト室がざわめいた。

ゆうこ が工期を死守する為、世界で初めて造船に採用したブロック工法について説明を始めた。電子黒板は先ほどと変わり、船首部、中間部、後方部、縦にスライスした画面に切り替わった。

「ブロック工法を取り入れたのは、弊社と同じ名前、西島技術大佐です。戦艦大和は、船首部分、中間部、後方部、細かくブロックに分け単独に造り、最後に巨大クレーンを使って艦を組み上げていきました。これなら下部ができなければ上部は造れない、この問題の解消ができます。」

ビジュアル的に色分けされた船体は、プロジェクト室にひそかな興奮をもたらした。食品製造とどういった関係があるのか不明だが、そこに示されているものは紛れもなくブロック工法の優位性だ。

話の種まきは終わった。

ゆうこ はブロック調理方式について話し始めた。

「ここまでは、造船におけるブロック工法について話しましたが、これからブロック調理方式について説明させて頂きます。」

電子黒板の表示が変わった。プロジェクト室の全員の目が画面を凝視した。

「"【仮称】お好み焼き風、肉じゃがオムレツ” の事を、

開発コードネーム NOO1と呼ばさせて頂きます。」

ゆうこ は、そう前置きをし説明を始めた。

「NOO1は、大きく分け3つの調理加工に分類されます。具体的に言うと各素材要素、野菜・多孔質加工野菜(こんにゃく)・牛肉 この3分類です。つまり素材により調理方法が異なります。ここまでは宜しいでしょうか?」

総務部長の沖田が質問した。

沖田は先代、忠則の頃からずっと西島食品に使えている古参部長である。

「わしゃ~専門的な言葉がよう分からんのじゃが、(よくわからないのですが、)ゆうこ ちゃん、多孔質加工野菜ってどういう意味?」

その言葉で、プロジェクト室が和んだ、ゆうこ が笑顔で答えた。

「専門用語を使い、すいませんでした。こんにゃくは芋を加工して出来ていて単純な野菜とは異なります。軽石の断面は穴がいっぱいありますよね?これは造られる過程でできたもので、多孔質とは穴がいっぱいある構造をしたものです。」

「そうか、ワシの脳みそと一緒で穴だらけじゃと言うことか!」

沖田が頭をカキながら言った。

「この前なんか、眼鏡がのうなって(無くなって)探し回ったんじゃが、1週間後、冷蔵庫からキンキンに冷えた眼鏡が出てきたんじゃ。」

「沖田部長、冷蔵庫から眼鏡ですか?」

真顔で ゆうこ が言った。

「老眼でのう、遠くは眼鏡をかけんと見えん、ほいじゃが(だけど)近くは眼鏡をかけたら焦点が合わん、冷蔵庫に入っちょる物を探すときは邪魔なんじゃ。ほいで(だから)の、眼鏡をはずし冷蔵庫の中に置いたことをすっかり忘れちょったわけなんよ、年中、探し物をしちょる情けないわ......」

プロジェクト室が爆笑の渦に包まれた。

「どこまで話しましたっけ?」

すっかり緊張のとれた ゆうこ が話をつづけた。

「加工する素材に合わせ、加工 A、B、C それぞれ異なる製造ラインで加工します。加工時間が異なっても作り置きもでき生産調整も可能になります。これら前加工された A・B・C 最終加工ラインで固焼き卵に包みソースをかけ、トッピングしレトルトパウチに詰め低温殺菌すれば完成となります。この方法でしたら段替えに拘束される時間が大幅に削減され、食品加工として画期的な歩留まり率は97%が見込める計算となります。」

「そうか!加工 A・B・C 前工程に影響されず生産できる分けですね。

なるほど......」

製造部長の加藤が唸った。加工に対し ゆうこ は数値的な説明をした。

「現段階では目標値となりますが、1パッケージの加工時間、24秒、歩留まりが97%なので昼夜生産して3,394/月 パッケージ生産できる能力があると試算しております。」

西島食品としてはレトルト加工において最大で1,400/月食が最大だった。それの2.4倍と言う言葉に会議室がざわめいた。代表し ゆうこ が開発部の信念を述べた。

「2011年3月11日に発生した東日本大地震もまだ復興の真っ最中で、弊社 西島食品に於いても社会に貢献していく責務があると思います。NOO1を是非とも完成させ手軽に本格的な食品を被災者に届けたい!その一心で本プロジェクトを構想しました。

会長 及び 社長にとって "肉じゃが" は、思い出の味だと認識しております。又、西島食品の経営理念(自然の恵みを大切に活かし、おいしさと楽しさを創造して、人々の健やかなくらしに貢献します。)にも合致していると思います。」

つづいて、レトルト市場での競争力につき簡単に触れ、

いよいよ ゆうこ はこの日の核心について切り出した。

「このプロジェクトを成功させるためには、2つのハードルがあります。」

電子黒板に二つの題目が表示された。

1.現行生産設備の再構築(restructuring)

2.輸入肉の高圧蒸気滅菌技術の確立

「残念ながら西島食品の生産ラインは旧態依然の生産方式であり、ブロック調理方式に現行生産設備の再構築する必要があります。

又、西島食品がNOO1にて、世間を"あっ!"と言わせるためには 輸入肉の ”高圧蒸気滅菌技術の確立" です。」

「ひとついいですか?」

重々しい声がした。社長の徹だった。

徹は家庭と会社を完全に切り分け、ビジネスに関しては容赦なかった。

「高圧蒸気滅菌技術に関し、日本の食品加工会社で品質も含め、目標とする大量生産を実現した企業はないと記憶していますが違いますか?」

「仰る通りです。」

想定していた質問に、

ゆうこ はこたえた。

「肉はタンパク質の繊維が絡み合い形成されています。加熱するとタンパク質が収縮し硬くなってしまいます。ただ、中心部を75度で1分間以上加熱しないと滅菌できません。

又、NOO1では薄切り肉を使うためブロック肉に比べ菌が繁殖する表面積が多く加熱滅菌は必須です。」

徹は、ゆうこ が言いたいことを、

ズバリ言った。

「加工する調理対象をワークとよびましょう。ワークは厚さが薄い、しかし滅菌するには加熱するしかない、しかし加熱すると硬くなる。雪風の肉じゃがのように。時間をかけ熱を入れられたら滅菌はできる、しかし量産食品加工では調理時間はかけられない、そこでいきついたのが高圧蒸気滅菌なのですね?」

プロジェクト室のあちらこちらがざわついている。

企画部長の森嶋が質問した。

「それで高圧蒸気滅菌技術を確立するのに、どれくらい時間がかかりますか?」

「1年です......」

全く根拠はなかった。

ゆうこ は思いついた日数を言った。

その返答に対し薄闇の中で、

じっと ゆうこ を見つめていた徹の目が閉じられたのがわかる。

徹が目を見開き ゆうこ に言った。

「それで、生産設備の再構築・高圧蒸気滅菌技術の確立、

いくら資金が必要になりますか?」

慌てて竈(カマエツ)がフォローした。

「あくまでも見積段階ですが、1億2千万円必要かと試算しています。」

「1億2千万!?西島食品の売り上げは20億弱、純利益は6千万ですよ!」

経理の畑山部長が目を丸くして言った。

プロジェクト室に集まった各部長は言葉を失っている......

明かりが戻りったプロジェクト室、

竈 と ゆうこ は稟議決裁、勝負のときを迎えようとしていた。

「NOO1の開発、ご承認いただけませんでしょうか!」

竈 と ゆうこ が深深く頭を下げた。

「もし、NOO1の開発を行わなかったらどうなりますか?」

徹は口調は優しいが、鋭い目で、

竈 と ゆうこ に向け、

単刀直入に質問した。

毅然とし ゆうこ が返した。

「NOO1は、思い出の味・愛情のエキス を注入完成させ被災者に寄り添う食品、

いや!自信を失いつつあるこの日本のカンフル剤になると確信しています!」

少しおいて 徹の声が響いた。

「畑山君、資金は積立金と銀行からの、

借り入れで何とかなりませんか?」

しばらく、誰も口を開かなかった。

中小企業としては当然のことながら、

ハイリスクだ。

最終的にNOO1の稟議に対し、

最終決断をするのは徹である。

「忠則会長は言われました。なぜ人は生きるのか?それは自分以外の物を生かすためだと!」

静まりかえったプロジェクト室に、

ゆうこ の声が響き渡った。

全員が固唾をのみ、

視線が徹に集中した。

「分かりました......」

スッキリした微笑みを浮かべ 、

徹が言った。

「NOO1プロジェクトを、

進めましょう。

忠則会長、皆さん、

よろしいですよね?」

代表取締役の徹がいいと言ってるのに、

反対意見などでるはずもなかった。

「ありがとうございます!」

竈 と ゆうこ は、

机に頭をこすりつけた。

所望

輝明が焼くお好みが気に入ったのか、

丹波が店を訪れていた。

実は丹波も気になっていたのだ。

「まだ、稟議を通すためのプレゼン終わらないんだろうか?」

腕時計を何度も覗きながら、輝明は落ち着きなくひとり言をいった。

「ワレちいと(少し)落ち着いたらどうなんなら?五百旗頭!」

丹波に言われ、

「落ち着いていられますか!」と

輝明は、強い口調でイラついている。

「ほうか?果報は寝て待てと、昔から言うじゃろうが、」

丹波は新聞を見開き、肉玉そばをつまんでいる。

「ゆうこ と 開発課全員で一生懸命に考えぬいた、プロジェクトが認められるかどうかの瀬戸際なんですから!」

「そがに神経質になったらもたんで?」

職業柄、丹波は緊張には慣れっこだ、
(実は慣れっこじゃない、)

情報によると、

NOO1プロジェクト稟議会議が、

始まるのは午前10時から

「ゆうこ は説明に、

困っているのかなぁ......」

「五百旗頭、そがに心配するな!

昼飯までには、終わると思うで、

それはそうと広島競輪 登録番号

01008本村 63歳

競走番号11、

3784戦411敗 最近の勝率は、

0.0%か......

こいつも今日が引退レースじゃが、

1勝できりゃぁエエんじゃがのぅ、

わしゃ~弱いもんを見たら、

無性に応援しとうなるんよ、」

丹波は稟議の事など「眼中にない」といった態度で新聞を広げた。

輝明はテーブルに置いた携帯の周りを落ち着きなくうろついている。

「ワシは人生の潮目は、行動していないと変わらんと思う、

いま夢を追いかけちょる真っ最中じゃないか信じて待とうや、

のう、五百旗頭!」

「そうですね!」

輝明が話そうとしたとき、

テーブルに置いてあった携帯が、

小刻みに震え着信音が響き渡った。

「丹波さん来ましたー!」

輝明が興奮気味に携帯にでた。

ちょうど本村の引退レースが始まった。

「おぅ!」と片手を軽くあげイヤホンをし、丹波はレースの中継を聞き入った。

丹波は見かけとは全然違い小心者で、

熱烈なカープファンであるが、

結果を知るのが恐ろしく、実況中継をまともに聞けない、

聞くと必ず負けるジンクスがある。

「お待たせしました ゆうこ です。

いま稟議説明のプレゼンが終わりました。」

ゆうこ の声が心なしか弾んでいるように感じた。

「NOO1プロジェクト 徹社長の稟議決裁が下りました!

カマエツ部長と変わります!」

「竈です!これからが勝負です、

輝明さん、今後ともご支援のほどよろしくお願いします。」

「もちろんです!」輝明は丹波にガッツポーズをしてみせる。

丹波の歓声が上がったのは同時だった。

「五百旗頭、本村こいつ最後の引退レースで勝ちゃぁあがったで!」

丹波は親指を立てグッドポーズを、

返した。

「竈部長、提案が一つあります。

NOO1プロジェクトコード、

N1008に変えませんか!

広島競輪、引退レースで本村選手、

勝ちました!」

広島競輪?本村選手?

竈は輝明が何を言っているのか、

理解できない、

「竈部長 ゆうこ に変わってもらえないでしょうか!」

ゆうこ の明るい声が聞こえた。

今のいま、引退レースで勝った選手の登録番号が、

01008であることを説明した。

「ゆうこ プロジェクトコード、

験を担いでN1008にしよう!

このプロジェクト必ず、

成功させようよな!」

惨苦

四半期報告

「勝手ながらプロジェクトNOO1は、N1008というプロジェクトコードに変更させて頂きます。」

明かりが落とされたプロジェクト室の電子黒板に、ロードマップが表示され ゆうこ が説明を始めた。

「ここに表示している表は、手元にお配りしたN1008のロードマップです。

加工A ⇒ 加熱調理加工

加工B ⇒ 多孔質調理加工

加工C ⇒ 高圧調理加工

3つのブロック調理加工に分け、段取り替えをすることにより、

各種西島食品生産に対応します。

加工A・B に関しては、西島食品が得意とする生産加工ノウハウを取り入れ、

予定より早く設備改修が完了しました。」

眼鏡のレンズを跳ね上げ、

総務部長の沖田が発言した。

「ゆうこ ちゃん、青い線と赤い線は、

何を意味しちょるん?」

「ごめんなさい、説明不足でした。青い線が予定を表し赤い線は実績を表しています。波線がありますが現在進行中を意味します。」

沖田は、九分九厘そうだと思っていたが、"聞くのは一時の恥、聞かぬは一生の恥"若いころからのモットーを貫いた、

「この表によると加工A・Bは設備改修まで完了していて、これから品質検査に入り予定より半月はよう(早く)終わる事よね?」

眼鏡をはずし、手元の用紙を遠くに眺め沖田が確認した。

「西島L ちょっと確認してもよろしいですか?」

製造部長の加藤だった。

「最大のハードル、

"加工C調理加工の確立" が進んでいないように見受けられますが、進捗の具合はいかがでしょうか?」

全くその通りだった。

真っ先に解決しなけいけない

"高圧蒸気滅菌技術の確立が、全く進んでいないのだ、

「7か月のスパンを設けているのですが、おっしゃるとおり進んでいません......」

プロジェクトの責任者、

竈がフォローした。

「予定通り今年いっぱいには完了させようと、開発部一丸になってがんばっています。」

「お願いしますよ竈部長!銀行から苦労して6千万借り入れたんですから、

それよりも我社の預金、取り崩したので、もし利益がでなかったら間違いなく赤字になります。」

さらりと経理の畑山が、

プレッシャーをかけた。

「赤字......」

竈は、体から血の気が引くのがハッキリ分かった。

「いいかなぁ、」

社長の徹だった。

「畑山部長、もし赤字転落したらどうなりますか?」

畠山が真剣な顔をして言った。

「指示通り預金は取り崩し、

蓄えは万全ではありません、

赤字というより不渡りを2回だすと会社は倒産します。一度でも出すとほとんどの取引先が手を引きます。信用を失った企業の先行きは厳しいです......」

竈は化石のように固まっている。

しばらく間をおき、徹が言った。

「全責任は私にあります!

竈君、国内の食品加工会社でどこも成功したことのない "高圧蒸気滅菌技術"

そう簡単にいくわけないじゃないですか、それくらい君も分かっているはずです。

だからやる価値があるのですよ。見事に成功すること、

私は信じています!」

徹は力強く竈の肩を叩いた。

光明

開発課員は、数えられないくらいの徹夜を続けている、プロジェクトリーダーを任された ゆうこ を先頭に、何度挑戦しても目標の結果が得られないのだ。

薄切り肉の事をワークとよぶがワークが薄すぎ、目標の滅菌数になるまで蒸気をかけすぎると、熱が入りすぎてしまうのだ、要するに既定の蒸気を一定時間かけなければ滅菌できず、一定時間を超えると熱が入りすぎタンパク質がチジミ硬くなってしまう。

完全に追い込まれた。

ゆうこ は疲労困憊している課員に申し訳なく涙が込み上げた。

「みんな、今日はうちに帰ってゆっくり休んでください。

私、もう少し頑張ってみます......」

解決案など1mmも浮かんでこない、

カラ元気だった。

歴史上精神力で勝った戦はない、さすがのカマエツも学問理論だけではどうしようもなかったし、文系の加奈子には手も足もでなかった。課員全員、肩を落とし静しずまり返っている。

そんなときである、

管理棟2階にあるN1008プロジェクト室のドアーが開き明るい声が響いた。

「ゆうこ ちゃん、頑張ってる?

これ差し入れ!」

「徹社長に入出許可を頂きました。」

IDカードを首からつるした、白バイ隊員の栗山 浩美 巡査長と、

パンパンに張ったレジ袋を両手に抱えた輝明だった。

「ゆうこ 竈部長、肉玉そばを持ってきました。冷めないうちに食べましょう!

僕たちは、こんなことくらいしかできませんから......」

場を和ますように、

満面の笑顔で輝明が言った。

「目の下にクマを作って何を落ち込んでる、美人が台無しじゃないか?

恐怖のB型 ゆうこ らしくないぞ!」

「みなさん 輝明さんが一生懸命焼いた "肉玉そば" 食べましょう!」

浩美が割りばしと一緒に、使い捨て容器に入った "肉玉そば" を配った。

「ありがとう浩美ちゃん、今まで食べたお好み焼きの中で一番おいしい、」

涙を流しながら笑顔で ゆうこ が言った。

「なんかエエ臭いがしょうる思うたら、N1008プロジェクト室が 、

"お好み焼き屋" さんになっちょる!」

ひょこひょこと、総務部長の沖田が入ってきた。

「そりゃそうと、駐車場に止めちょる赤いNAロードスター誰の車?」

「NAロードスターって、20年以上も前に造られた車よくご存じですね。」

浩美はNAロードスターという言葉が出たことに驚いた。

「バブルの時代、もう20年以上経ったか......」

沖田は懐かしそうに過去のことを語り始めた。

2人しか乗れんで収納もないオープンカー、会社の中ではオタク集団、まともな予算も部屋も与えらんかった。開発をする場所もなく、みんなタイムカードを押し工場の隅にある車庫に集まった。

面白そうな話を聞きつけ、各部署から約50人集まった。

お金も人もかけられなかった。みんな仕事が終わった後の夜や、休日など時間外に来て開発を手伝った。その中に弟がおった。

「西島食品でいったら、竈や ゆうこ ちゃん、そして開発課のみんなと同じじゃのぅ......」

何か新しいことを始めようとすると、必ず反対勢力が出てくる。

ことある毎に開発主査は、オープンカーの魅力を語って回った。

「この前のN1008進捗発表のとき、徹社長の振舞には感動した!

金もない、人もいない、まともな場所もない、数々の困難がみんなを襲った。弟は鉄の平板からロードスター独特な流線形をプレス機に成形する金型を取り付け数えられないほど試行錯誤したそうじゃ。竈部長 ゆうこ ちゃん、"へこたれずにガンバレ!" としかワシには言えん、

ほんま情けわ......」

「沖田部長、そのお気持ちだけでも十分です!」

竈は感激のあまり、

沖田の手を強く握締めた。

意のままに

牛肉を高圧蒸気を使い滅菌処理を行う為、650万円する機械を既に2台(13,000万)購入している。

使う薄切り牛肉は重さが同じでも、一定の数量をまとめて製造するロット生産では、投入肉の表面積・厚さが違い設定値が定められないのだ、要するにロットAで調整してもロットBでは上手く滅菌しなかったたり、火の入り具合が違ってくる。

試行錯誤しながら、

既に3カ月繰り返してるのだ。

高圧蒸気滅菌は、高圧蒸気滅菌器という装置で行う。この滅菌器内で適切な温度および圧力の飽和水蒸気で加熱し微生物を殺滅する。

水は大気圧で100度が上限、

しかし100度では死なない細菌が存在する。圧力を上げることで水の沸点を上げ、高温の蒸気で加熱処理を行うことができる。

水の沸点は1気圧で100度だが2気圧では約121度になる。高圧蒸気滅菌では21度で15~〜20分間の加熱処理を行う。

「どうして加熱には、

蒸気が必要なんですか?」

単純に輝明は、竈に質問をした。

「皆さんが分かるよう生活体験を例に、説明します。

60度の熱湯風呂に入ると低温火傷しますが80~100度のサウナでは火傷しませんね?

輝明さん何故だと思います?」

「確かに高温だけど湯を張った風呂とは全然違いますね!?」

浩美も不思議そうな顔をしている......

「答えはサウナでは、体の周りは空気だからですよ!」

「空気!?」

輝明と浩美の声が重なった。

竈が順を追って説明を始めた。

「空気は水に比べて熱を伝えにくく、"熱伝導率"の低い物質だからです。

体の周囲にある空気の層は体に熱を伝えて冷えますが、あまり対流しません。

体のまわりは冷えた空気のバリアで覆われることになり、高熱が伝わる速度は遅く、かぎられた時間だったら火傷しません。逆に水は熱伝導率が高く熱いお湯に触れると、皮膚もすぐ高温になり火傷します。」

「なるほど、ガッテン!ですよ。

竈部長!」

晴れやかな表情し、輝明が言った。

「では蒸気はどうか、水を100度まで上昇させても蒸気にするには更に気化するための熱を与えないと蒸気にはなりません。

沸騰した薬缶から蒸気をだすには気化熱、つまり加熱し続ける必要があるわけです。

加熱を止めると蒸気も止まります。」

「確かにそうですね!」

輝明の横で耳を傾けている、

浩美がうなずいた。

「同じ100度でも水と蒸気では、熱エネルギーが蒸気の方が6倍大きいです。蒸気は対象物に熱を与えると、冷えて水に変わり体積が非常に小さくなります。

その個所では圧力が下がり再び蒸気で覆われ、滅菌対象物に熱エネルギーを与え続けます。比較値でいうと蒸気は空気よりも約1000倍、水よりも約100倍伝熱能力が高いです。」

「言われていることは理解できるのですが、ビジュアル的に何か具体的な例はありませんか?竈部長、」

輝明の言った通り浩美も同感だった。

「具体例ですか......」

少し考え、竈が思いついた。

「中華まん!そうです!蒸し全般料理です。専門的な話になりますが鍋に入れた常温の水はH2Oの分子通し指先を絡めてフラフラと繋がりあっている状態を想像してみてください。

そこに熱という振動を加えていくと中には耐えきれなくなり中には繋いでいた手を放し空中に飛んでいく者がでてきます。それが僕たちに見える水蒸気です。」

「水蒸気って湯気のことですよね?」

輝明が脊髄反応のように質問をした。

「そうです、水蒸気はH2Oのグループ状態で、まだ我々の肉眼でも確認できます。先程から蒸気ということばがでてきますが、蒸気とは水蒸気と違い更に加熱され完全に水分子H2O単体の状態で我々の肉眼では見えません。

一言でいったら熱エネルギーで激しく振動し空気中を飛び回っている水分子ということです。」

「我々がいう蒸し料理とは"水蒸気料理"で、高圧加熱滅菌は蒸気を利用しているってことですよね?」

竈の説明を聞き、

輝明が納得したように言った。

「その通りです!微生物の体は、タンパク質から構成されています。直接加熱するより蒸気(湿熱)の方がタンパク質を熱変性させやすく効率よく死滅できます。」

「Did you understand that easily?

問題なく分かりましたか?」

ゆうこ が指鉄砲で輝明を撃ちぬくように言った。「安心した、恐怖のB型が戻ってきたか!?」輝明は心の中でそう思いサムアップした。

「竈部長、高圧加熱滅菌って潜水艦のような威圧感のある機器ですが、要するに俺の知る蒸し料理に毛の生えたようなものなんですね?もし良ければ俺に薄切り牛肉の高圧加熱滅菌やらせてみてもらえませんか、」

「望むところですよ輝明さん!ゆうこ ちゃん、食品工場用白衣用意して!!」

「私たちが寄ってたかって3カ月も試行錯誤してること、そう簡単にいく分けないじゃん!」そういいながら ゆうこ は輝明に食品工場用白衣を渡した。

「薄切り肉をステンレス鉄板に乗せ片面に焼き目をつけます。肉の雑菌は、肉の中ではなく表面に繁殖します。薄切り肉の場合、固まり肉と比べ表面積が多く雑菌のリスクが高くなります。」

次に ゆうこ は円筒形の釜の蓋を開けステンレスプレートごと高圧加熱滅菌機の中に投入し蓋を閉じた。

主な細菌は5種類あり死滅する温度85度以上・加熱時間 1分以上必要である。片面に焼き目をつけた1mm厚の薄切り牛肉では滅菌実験を重ね121度で5分間蒸気滅菌すれば細菌を死滅させることが分かった。

「ピッピー!」

ゆうこ は121度で5分設定し滅菌スタート釦を押し5分、

完了音がし滅菌処理が終了した。

釜の蓋を開け処理したプレートを、

ステンレス製の長机の上に置いた。

ゆうこ が確認する......

少し硬いが滅菌はされている。

加熱温度と処理時間設定が加工ロットにより121度で5分一定では仕上がりがバラバラでうまくいかない、この壁で3カ月目標予定より遅れているのだ、

竈がアゴにV字に開いた指を押し当て、

言った。

「加熱しすぎてタンパク質がチジミみ、肉が硬くなってるね......」

腕を組み一連の作業内容を見ていた輝明が質問した。

「2つ質問があります。

なぜ片面焼いた後、高圧加熱滅菌機に入れるのですか?」

「なぜ片面焼いた後......」

今までの食品加工の概念でしかなかった。言われてみれば、竈も ゆうこ も理由が見つからない、返答のない二人に続けて輝明が質問をした。

「主な細菌を死滅させるためには85度以上・加熱時間 1分以上でしたよね?なぜ121度で5分設定なのですか?

115度で2分じゃダメなのですか?」

それには、 ゆうこ が即答した。

「医療機器高圧加熱滅菌ではガイドラインが設けられており、食品加工的に解釈し121度で5分設定にしました。

115度で2分じゃ、

100%滅菌できないから......」

「食品加工にはガイドラインは設けられていないんだよね?目的は最終的に滅菌できれば良いわけだ?

俺からの提案!」

二人は次に出てくる、輝明の言葉を固唾をのみ待ち構えた。

「ロットでバラツキがあり、どうしょうもない分けだ。先に115度で2分滅菌しましょう。ゆうこ 少なくとも80%以上は滅菌できるんだよね?

次にメイラード反応、焼きを加え香ばしさを加えましょう。ここで100%滅菌でき、後はタダ爺の肉じゃがのように余熱で柔らかく火が入れば良いわけだ!

なぜ、高圧加熱で100%滅菌しようと拘るのかなぁ?」

何故と言われても答えは簡単、

滅菌する為にすでに1,300万円投資しているからである。

「俺は今まで何千枚もお好みを焼いてきた。どれくらい焼けば丁度いい焼き目がつき、最終的に余熱で火が入るか感覚的に分かる。

竈部長。試させてはもらえませんか?」

輝明は、ステンレスプレート一面に油を塗り、薄切り肉を広げ高圧加熱滅菌機に投入して115度で2分で滅菌加熱した。

ゆうこ は肉に含まれる細菌量を測るため一切れサンプルを確保した。

まだ肉のタンパク質の収縮は見受けられない、ここから先は輝明の職人焼きだ、肉が焼ける香ばしい香りが漂い出した。時間にして1分10秒くらいだろうか?

「もう良いでしょう!」

輝明は火を止めプレートの余熱で火が入らないよう別容器に移した。ゆうこ は、この時点での細菌量を測るため再度サンプルを確保した。加熱した合計時間は3分10秒くらいだろうか?

「ゆうこ 肉本体の余熱で火が入り常温になれば完成だ!」

輝明は自信たっぷりに言いながらスキン手袋を外した。肉に含まれる水分量は約60%、ほのかに湯気が上がっている。

常温になるのが待ち遠しい、

52度、50度、47度、31度、

赤く光る調理温度計のデジタル値が小さくなっていく......

「28度!常温に達しました!」

温度計をにらんでいた、

ゆうこ の声が響いた。

「世間では冷めるときに、味が入っていくという話がありますが、

僕が今まで実験してそんな現象は観測されていません、味が入るのは浸透圧による平均化です。

1気圧、つまりこの状態で平均化し味が入るのが約30分、味が入ったらみんなで試食してみましょう!

ゆうこ ちゃんはその間にサンプル1、2に於いて、どれくらい細菌量が変化してるか測定してもらえないかな?」

竈がそう言うと、肉を取り出したステンレス製のバットに調味液を注ぎ入れた。

ゆうこ が測定を終え、急いで加工場の扉を開けた。

ゆうこ が開けるタイミングと、

輝明が中から扉を開けるタイミングが一致し、体を受け止めた輝明の腕の中に、

ゆうこ が飛び込む形になった。

抱きしめている状態がしばらく続いた......

無言がつづいたが、我に返り、

ゆうこ が言った。

「・・・・サンプル1では、細菌量7、サンプル2では......」

ゆうこ が測定用紙を凝視している。

「サンプル2では、"細菌量0"

滅菌、成功です!!」

冷静に竈が言った。

「分かりました。

味の平均化が終われば、それ以上、

味は入りません30分たちました。

それでは早速試食してみましょう、」

「香ばしいのにすごく柔らかい、

味付けもバツグンです!

私これ以上の味付け肉、

食べた事ありません!!」

試食し ゆうこ が最初に発言した。

「これは......

僕たちが目指した究極の味付け肉、

最大の難関、味付け肉ブロック調理加工は、これを数値的に確立すれば完成です!

ゆうこ ちゃん、

できたようなものですね!」

と興奮気味に竈、

先程のアクシデントを、

打ち消すように輝明、

「ゆうこ 何一人で頑張っているんだよ?

3か月も空回りしてた分けだ、

もっと俺に頼ってくれよ!

Resiliensce

(レジリエンス)

困難な状況にもかかわらず、しなやかに適応できる強さだよ!」

輝明に対する ゆうこ の姿勢が明らかに変わり始めたのは、

その時からだった......

『夢をあきらめないで』
歌 : 岡村孝子
作詞・作曲:岡村孝子


リリース: 1987年

【ストーリー 7】 著: 脇屋 義直
【ストーリー 8】へ続く..


この小説はフィクションです。
実在の人物や団体などとは、
関係ありません。

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