【blog小説】星降る夜に エピソード 6 OLD

受験勉強開始

「ゆうこ ちゃん、学習と言う物は、目的・目標がありやるもので、

大学に入るため漠然とやるものではありません、

別の言い方をしたら、興味があり好きだからやるものです。

そうでなければやる意味はありません!」

白版を背にカマエツは釘を刺した。

「中学では習いませんが、

高校で習う"微分積分"が、大学の入学試験には出題されます。」

微分積分? ゆうこに は初めて聞く言葉だった。

「カマエツ先生、"微分積分"ってなんですか?」

「"微分積分" 一言でいえば、私たちが普段生活している現象を計算する手法です。

大学、いや、

西島食品においても起こっている現象を、数値化することが重要となってきます。

それを算出する手法です。」

重要だという事は分かったが、

カマエツの言っていることは、漠然として分からない、

ゆうこ が言った。

「カマエツ先生、なぜ重要なのか具体的に教えて下さい、」

カマエツが白版の隅に書いた。

「ゆうこ ちゃん、ここに変換装置があって、

2を入れると10が出てきて、5を入れると22、

-5を入れると-18 になる変換装置があります。

そこで質問です。

ゆうこ ちゃん、箱の中には何が入っているでしょうか!?」

ゆうこ が余裕で答えた。

その通り!中学生の問題は完璧ですね、

出力の事を数学では、y 入力の事を x と言います。

微分

ゆうこ ちゃん、変換装置の事を数学で"関数" と言います。

英語では何と言いますか?

「function!」これまた速攻で ゆうこ が答えた。

「箱に入った未知数(x)を変換する装置の事を、

このように書き表します。」

瓶底眼鏡を持ち上げ、ゆうこ を背に白版にグラフを書き出した。

「事前に ゆうこ ちゃんの生まれてからの幸福度を、

10段階で聞きましたよね?」

「......ハイ」

カマエツは、Y軸(幸福度)、X軸(年齢)と書き、

表を見ながら点を打ち曲線で結んだ。

「ゆうこ ちゃん、年齢に対する幸福度の数字だけを見て、

その数値が何を表しているか、分かりますか?

僕は分かりません、だからグラフにしました。」

確かによくわかる、ゆうこ はそう思った。

カマエツは続けて説明をした。

「このグラフから分かることは、18歳までは幸福度が低く、

19歳を境に、幸福度が急激に増して行ってるって事です。

将来もっともっと突き上がるよう、

今、この一瞬一瞬、勉強しているのです。」

目を輝かせ ゆうこ が聞き入っている。

「説明をするまえに、数学では日常見ない記号が多く出てきます。

便宜上つかうのですが、数学嫌いの元になっています。

決して難しいことは言いません。」

カマエツが、19歳と20歳のところに波線を引き、

難しそうな数式を書き加えた。

「初めて目にする記号だと思いますが、△の事をデルタとよびます。

これは、△ とx の乗算ではなく、"xが変化した" と言う意味です。」

「xが変化した......」ゆうこ がつぶやいた。

「年齢軸 x軸は、ゆうこ ちゃんが19歳のときから、20歳までの変化が △x です。

意味は有りません△xと表現しただけです。」

なるほど、とつぶやきながら ゆうこ がノートに書き写している。

「蛇のように曲がりくねった曲線にも、関数式 x があります。

19歳を起点が f(x)、20歳のときは、

x から △x まで変化したわけなので、f(x + △x)になりますよね?」

カマエツが、解読不能の数式を白版に書いた。

目を丸くして ゆうこ が言った。

「カマエツ先生、この式は何ですか!?」

「先ほど言ったように、どんな曲線も関数式で表すことができます。

この式は、ゆうこ ちゃんの幸福度曲線を関数式で表した6次関数です。」

ゆうこ の目が、全く理解できないと言っている......

カマエツが微笑みながら言った。

「心配しなくてもいいです、僕もこんな複雑な関数すぐに出せません、

Excelと言うアプリが、いとも簡単に作成したものです。

僕は、単純にそれを書き写したでけです。」

安心するように聞いている ゆうこ に、

カマエツが二つ付け加え言った。

  1. 関数式(f)とは、入力に対し答え(出力)が出るわけですから、変換装置 箱の中には、この式が入っている分けです。つまり、年齢 x を代入し計算すれば、幸福度 y が算出できます。
  2. 数式を簡単に作成できる Excelの活用、つまり、パソコンの操作方法を、会得する必要があります。すでにパソコンは加奈子さんが準備しています。

「そうとう勉強しなくてはいけない、パソコンなど触ったこともない、」

ゆうこ は、腹を括った。カマエツが続けた。

「ゆうこ ちゃん、難しそうな数学の記号に騙されてはいけません、

y軸は、19歳~20の幸福度変化だから、

20歳の幸福度f(x+△x)から19歳までの幸福度f(x)を引いたものですよね?」

「カマエツ先生、ここまではよくわかりました。」

ゆうこ がノートに書き写しながら言った。

「ゆうこ ちゃん、ここで微分の正体を明かしましょう。

このグラフを微分的に言うと、年齢(△x)変化したとき、

高さ幸福度がいくら変化しましたか?という事です。」

「どれくらい変化したか......」

ゆうこ が復唱した。

「そうです、点19歳~点20歳までに、

どのくらい変化しましたか?という事です。

この間の変化の事を"平均変化率"と言います。」

白版にカマエツが式を書いた。

ノートに書き写しながら ゆうこ が言った。

「xが変化した間にyがどれだけ変化したか、つまり分数......

カマエツ先生!中学で習った、傾きって言うヤツですよね?」

「難しくごちゃごちゃ話しましたが、その通りです。」

ゆうこ はノートに、 微分 = 変化率 = 傾き と大きく書いた。

カマエツが ゆうこ に問題を出した。

「それでは、ゆうこ ちゃん、

19歳+1秒 のときの幸福度はいくらでしょうか?」

「えっ!19歳+1秒 のときの幸福度......」

いくら考えても分からなかった。

時間をおき、カマエツが言った。

「私たちが暮らしている世の中は、紙の上で都合よく計算できないのが現状です。

19歳+1秒 時点での幸福度を知るために、微分が必要になるのです。」

ゆうこ の顔に「はじめて聞いた、」と書いてある。

こんなこと、中学では習いませんでしたよね?

これは高校の数学で習う事です。

しかし、私たち日常の現象を数値化するのに絶対必要になります。

だから、大学の入試問題に出題されるのです。」

「日常の現象を、数値化するのに絶対必要になる?」

ゆうこ は漠然とした目をし、ノートを見つめた。

その様子を見てカマエツが言った。

「なぜなら、この世の中は、

微分で、できているからです!」

この世の中は、微分でできている?

益々、困惑する ゆうこ にカマエツが言った。

「ゆうこ ちゃん、冷静に考えてみて下さい。

私たちが存在できるのは、過去から未来へ連続的時系列に続く、

今この時、一瞬だけです。」

ゆうこ は、そんなこと考えてみたこともなかった。

カマエツがグラフに追記し知る方法を言った。

「ゆうこ ちゃん、

△x(年齢の変化)を19歳に向かい、小さくしていったらどうなるでしょうか?」

「カマエツ先生、確かに △xを小さくしたら、

19歳+1秒のときの幸福度が分かりますね!」

△x(年齢の変化)を19歳に近づけ、19歳 + の点に線を引き赤文字で"接線"と書いた。

続き白版に書いた、不要文字を消し大きく書いた。

"微分とは、微小な変化を見ること!"

「ゆうこ ちゃん、いいでしょうか?」

「分かりやすいです!」

実際、高校の授業では、理解しずらい説明と新しい数式に圧倒され、

脱落する生徒も少なくなかった。

カマエツが言った。

「お疲れさんでした!

ここまでの話を数式にしたら、微分の概略説明は終わりです。」

白版に大きく "微分係数" と書き数式を付け加えた。

「ゆうこ ちゃん、これが微分の式です。」

式を見て固まっている ゆうこ に、カマエツが式の説明を始めた。

「ゆうこ ちゃん、英語でリミットの意味は何ですか?」

「リミット...... たぶん、極限とか言った意味ですよね?」

自信なさそうに ゆうこ が言った。

「その通り!△xを極限まで "0" に近づけるという意味です。

又、 Δ のことを d と書きます。

微分とは、f の変化を d の変化で割ったものです。」

「正式に式を書いたら、長ったらしくなるので、

本に微分の式は、簡略されて書いてあります。

最後に書いた式は究極に簡略して書かれた物で、' の事をプライムとよんでいます。」

「カマエツ先生、質問!プライムって、最も重要とかいう意味ですよね?」

白版を消しながらカマエツが答えた。

「数学の世界で ' は、微分を意味します。

3つの式は、すべて同じ意味です。 」

ゆうこ が理屈は理解できたが、スッキリしない表情をしている。

カマエツが言った。

「ゆうこ ちゃん、実際に何かを微分してみましょう!」

カマエツが白版に練習式を書いた。

水性ペンを ゆうこ に渡しながらカマエツが言った。

「ゆうこ ちゃん、微分の式はどう書くんだったっけ?」

ゆうこ が白版に式を書いた。

「えぇっと、f(x)は、xの二乗だといってるのだから、

カマエツ先生、こうかなぁ.....」

「ゆうこ ちゃん、ここまではいいよ!

ここで、思い出して欲しいのは中学でやった二乗の展開だね、」

「えぇっと......]

白板の隅に ゆうこ が、二乗の展開の公式を書いた。

二乗の展開、「確か......」と口ずさみながら式を展開した。

「えぇっと、xの二乗が プラスマイナスで消える。

分母の△xで割る......



「カマエツ先生、ここから先はどうやれば良いのですか?」

椅子に腰かけ、流れを見ていたカマエツが言った。

「さすがだ!ゆうこ ちゃん、出来たようなものだよ!

△xを"0"にすると言ってるのだから、△xが "0" になって答えは、

になります!」

カマエツは、ゆうこ に変わり白板に大きく書いた。

カマエツが椅子に腰かけた ゆうこ に言った。

「xの二乗を微分すると 2xになるわけですが、

高校生たちは、こんなめんどくさいことはしていません。

公式に当てはめやっています。」

「微分にも公式があるんですか?」

「公式を使えば簡単です。

2を前に出し乗算します。つぎに ^ から 1を減算すれば終わりです。」

「公式を使ってxの3乗を微分するのは、

3を前に出し乗算します。つぎに ^ から 1を減算すれば終わりです。」

カマエツが白板に球の体積の公式を書いた。

「ゆうこ ちゃん、球の体積公式は、こうでしたよね?」

「球の体積......

身の上に心配ア~ル3乗、思い出しました!」

カマエツは両手を使い球を表現し言った。

「球の体積を微分したらどうなりますか?」

「えっ!球の微分ですか?」

ゆうこ がまったく見当もつかないという顔をしている。

「ゆうこ ちゃん、玉ねぎを想像してみて下さい、

薄皮が重なって玉になっていますよね?

r は半径、これを微分すればいいのではないでしょうか?」

「ですね......」

ゆうこ が自信なさそうに答えた。

「今から公式を使い、微分して見ます。

見れば一発で分かると思います。」

「体積を 半径rで微分すると球の表面積になります。

球の体積を微分したら、球の表面積になるわけです。

たまねぎは、薄皮が積み重なり球になってますよね?

表裏一体!

微分の積み重ねが積分なんです。」

カマエツは、ゆうこ と目線を合わせ言った。

「どうですか!?」

公式を使えば簡単に微分できますが、それは決して良い勉強方法ではありません。

Xの二乗微分では、ヒチめんどくさい事をしましたが、

なぜ 2xになるのか分からないからです。」

「カマエツ先生、質問!」ゆうこ が挙手した。

「瞬間の値を知るためには、微分する必要は理解しました。

その他、微分する参考例はないですか?」

「参考例ですか......」

カマエツが白版にグラフを書き始めた。

「測定して得られた膨大なデーターから、最良の調整値を知りたいことが多々あります。

縦軸に"目標とのズレ"、横軸に"調整値"としてグラフを書きました。

ゆうこ ちゃん、最良の調整値はいくらですか?」

「目標とのズレが一番小さくなる”2”です!」

「そうですね、」

カマエツが ゆうこ に質問した。

「データー数が、10個とかだったら、

グラフにすれば一発で分かりますね、

じゃぁ、ゆうこ ちゃん、

データー数が何万、しかも何百分類 あったらどうしましすか?

最良値は知りたい、しかしデーターの数がハンパない......

ゆうこ ちゃん、どうしましょう?」

ゆうこ の口から言葉が出ない、

「これは困った!」と顔に書いてある。

カマエツが煽るように言った。

「膨大な時間をかけグラフ化しますか?

ゆうこ ちゃん、困りましたね......」

ゆうこ が究極に困っている、カマエツが言った。

「微分は傾きと言いましたよね?

目標とのズレを微分したらどうでしょうか?」

「目標とのズレを微分......」

ゆうこ が自信なさそうに言葉を発した。

カマエツが具体的に説明を始めた。

「調整値 1 のとき目標とのズレは3、微分したらマイナスの傾きになりますよね?」

「マイナスの傾きだから最良値は、もっと調整値を大きくする必要がありますね、」

ゆうこ が理解し始めた。

「ゆうこ ちゃん、調整値 3 のとき目標とのズレは3、

プラスの傾きになりますよね?

逆に調整値を小さくする必要がある。」

「そうだ!微分して傾きが ”0” になるところを見つければいいんだ!!」

カマエツが締めくくるように言った。

「傾きが0になるところを 極小 と言います。

グラフ化するのは大変だけど、数値自体を微分する事は簡単ですよね?

このように、微分を使い 膨大なデーター群の中から極小になる値を見つけています。

このように、最小となる値を見つけることを、

勾配降下法 と言います。

ゆうこ ちゃん、教科書では小難しく書いてありますが、こう言うことです。

よろしいでしょうか?」

「なるほど!」

ゆうこ が唸った。

積分

「ゆうこ ちゃん、次は積分の話をします。」

「......積分?」

これまた、ゆうこ は初めて聞く名前だった。

カマエツが用意していた紙の四隅を、カラーマグネットボタンで止め貼った。

「車が一定速(等速)40km/hで8時間走りました。

走った距離を答えて下さい。」

これは、小学生の問題だ。ゆうこ が即答した。

「距離は、時間 ✕ 速さ なので 320km です!」

カマエツがグラフを書いた。

「その通り、時間 ✕ 速さ だから 320kmです。

このグラフを見て何か気付きませんか?」

「距離は、時間 ✕ 速さ ですよね......」

思いあぐねている ゆうこ に言った。

「ゆうこ ちゃん、よ~く見て下さい......」

「あっ!分かった。

速度は縦、時間は横、

距離は縦 かけ 横 面積なんだ!!」

「その通り!距離とは面積を求めることなんです。」と言いながら、

カマエツは次のグラフを書いた。

「現実、車は計算の都合よく等速なんかでは走っていません。

速度が速くなったり遅くなったりです。」

「そうですよね?」

ゆうこ がうなずいた。

「それでは、ゆうこ ちゃんに質問です!

距離は面積を求めることでしたよね?

じゃぁ、a ~ b までの面積はいくらになりますか?」

「えっ!」ゆうこ が固まった。

「面積ですか......」

しばらくして、カマエツがグラフに複数の長方形を書き加えて行った。

「ゆうこ ちゃん、長方形の面積だったら簡単に求められますよね?

それを a ~ b まで、足し合わせたらいいんじゃないのかな?」

ゆうこ が言った。

「でも、カマエツ先生、

曲線なんだから長方形だと、隙間ができて正確な面積になりませんよね?」

その答えを待ち構えていたように、カマエツは白板に大きく書いた。

「ゆうこ ちゃん、そこで積分を使うのです!

積分とはめちゃくちゃ小さな変化を、足し合わせて行くことです。」

カマエツが、先ほど書いたグラフの中から一つ長方形を取り出した。

「ゆうこ ちゃん、これなら面積は簡単に求められますよね?」

カマエツが先端をズームアップした図を付け加え追記した。

「ゆうこ ちゃん、微分のときと同じです。

△t を限りなく小さくして行ったら、隙間がなくなると思いませんか?」

これまた、目から鱗だ!

納得している ゆうこ の表情を確認し、カマエツが白板に書いた。

「見慣れない記号が出てきましたが 、インテグラル と言います。

下側に a 、上側に b と書き、

意味は "a ~ b まで足し合わす"という意味です。

ちなみに、変化する時間Δtのことをdt と書きます。

面積は縦 × 横 ですから。f(t)dt と書きます。

ここまで、よろしいでしょうか?」

ゆうこ が真剣な目をしてノートに書き写している。

カマエツが ゆうこ に優しく言った。

「ゆうこ ちゃん、これが 微分積分 の概念です。

微積とよびますが、色々な公式があります。

これから1年をかけ、学習していきましょう!」

ゆうこ は、書いた内容を凝視している。

白板を消しながらカマエツが言った。

「僕たちが生きているこの世界は、瞬時の変化の積重ねで出来ています。

我々が存在しているのは、この時、この一瞬だけです。

現時点を起点として過去を見たら、歴史と言う記憶しか有りません。」

興味深そうに聞いている ゆうこ にカマエツが質問をした。

「それでは、未来はどのように見えますか?」

「未来......ですか?」

答えが出ない、カマエツが例えて言った。

「未来は、予測の世界 です!桜の開花予報、天気予報、伝伝......」

「その通りですね!」

スッキリした顔をした ゆうこ が言った。

「微積を発見したのは、ニュートンです。」

「ニュートンってりんごが木から落ちるのを見て、万有引力の法則を発見したという、

有名な逸話(いつわ)がある人ですよね?」

「そうです、ニュートンです。」

カマエツが続け話した。

「微積?当時、誰もこんな簡単な式で複雑な面積(距離)など求められるはずが無い!

と信用しませんでした。

しかし、弟子の一人が "不吉な帚星" と人々が恐れていた流星の軌道に基づき、

次に地球に近づいてくる日を計算しました。」

ゆうこ が言った。

「カマエツ先生、"不吉な帚星"って彗星のことですよね?」

「いい質問ですね!」

カマエツは、待ち構えていたように答えた。

「その彗星に弟子の名前を付け、我々は"ハレー彗星"ってよんでいます。

唯一、彼だけがニュートンのいう事を信じ、

次に地球に近づく日を、微積を使い予測計算しました。」

「ハレー彗星のハレーって、ニュートンの弟子の名前だったのですか?」

カマエツが、また瓶底眼鏡を持ち上げ言った。

「すでに、ニュートンもハレーも亡くなっていません。

しかし彗星は、ハレーが計算した通り地球にやってきたのです。

ニュートンの微積が世の中に認められたのは、そのときからです。」

カマエツが諭すように言った。

「こんなヒチめんどくさい勉強をするのは、

将来、ゆうこ ちゃんが数多くのデーターを予測し、

分析するのに必要となってくるからです!」

カマエツは、大きくうなずいている ゆうこ に続けて言った。

「ここまでは、これから本格的に微積を勉強していくため、

つまづかないように話した、ほんの一部分です。

しかし、これらの話を知り微積に取り組むのと、

取り込まないとでは、大きな差がでます。」

カマエツが白版に大きく文字を追記した。

「中学では習わないことがまだあります。

ベクトル とか 行列の話、線形代数です。」

「線形代数?」

また聞いたこともない言葉だ、ゆうこ は完全に困惑した。

そんな ゆうこ を見ながら、カマエツは話をつづけた。

「今まで微積の話をしてきましたが、それとは別に概念を知る必要があるので話します。

微積とは独立している話になります。」

カマエツが白版に書きながら言った。

「線形代数で出てくる言葉の一つに、ベクトルがあります。

ベクトルとは何か?数を縦とか横に並べたものです。

ベクトルには、列ベクトル と 行ベクトルがあります。」

カマエツは、「こう書きます。」と言いながら追記した。

「だからどうした......」

ゆうこ は漠然とした顔をしている。

「式で書き表すと難しく見えますが、具体的な数字で書いたら何のこともないと思います。

線形代数とは、

数字一つの算出ではなくデーターグループとして計算しようよ!という事です。」

「どうですか、ゆうこ ちゃん?」

「カマエツ先生、言われていることが分かりました!」

スッキリした顔で ゆうこ が言った。

「ベクトルの足し算と引き算、注意しないといけないのは、

同じ大きさのベクトルじゃないと計算できない事です。

足し算:4+1=5、2+0=2、3+4=7

引き算:4-1=3、2-0=2、3-4=-1

各成分ごと計算する、ただそれだけです。」

「スカラー倍、」

「スカラー?」ゆうこ が首をひねった。

それを見たカマエツが慌てて答えた。

「ゆうこ ちゃん、線形代数に登場する言葉スカラーとは実数、

早い話、単純に数字の事です。

図を見てもらえば分かりますが、各々の成分をスカラー倍するだけです。

このように、ベクトルの加減算、スカラー倍、なにも複雑なことはありません。」

「行列?」また、新しい言葉だ ゆうこ が構えた。

「ゆうこ ちゃん、ベクトルとは言い換えれば1列や1行だけの行列のことです。

これらが複数なものを 行列 と言います。」

カマエツが白版に参考例を書いた。

「ベクトルと同じように、各成分を計算してやるだけです。

注意するのは、同じ行数どうしでなければいけない!ことです。」

「はぁ...... カマエツ先生、小学校の算数みたいで簡単なのですね?

何故、こんな事を取り上げるのだろう?」

ゆうこ は純粋にそう思った。

「ゆうこ ちゃん、足し算、引き算、スカラー倍の計算は大したことはありません。

複雑になるのは行列同士の掛け算で、この辺から挫折する人が増えてきます。」

「行列同士の掛け算......」

ゆうこ が興味深そうにつぶやいた。

「スカラー倍のように、同じ成分同士の掛け算なら簡単ですが、

行列同士の掛け算はそうはいきません。

例に書いた 8、 左上の場所を(1.1)成分とよびます。」

ゆうこ が書かれた例をノートに書き写した。

「左上の場所(1.1)成分の計算は、

左側、1行目の成分と右側、1列目の成分を各々掛け合わせた和です。」

「????......」ゆうこ がこんがらがっている、

カマエツが色分けした矢印を引き、

各々の算出内容を追記し、カマエツが言った。

「ゆうこ ちゃん、複雑ですよね?僕も複雑だと思います。」

カマエツが問題をだした。

「ゆうこ ちゃん、(3.1)成分の値はいくらになりますかね?」

「えぇっと...... 5X2+2X4+6X3 だから 36 です!」

「Good!です。」カマエツが親指と人差し指で丸を作り言った。

「行列は、連立方程式を簡単に書くために、

生み出された経緯を持つています。」

「連立方程式を簡単に書く......」

ゆうこ が言った。

「簡単に書けたら、どういう良いことがあるのですか?」

「ゆうこ ちゃん、具体的な勉強は、

今後1年かけゆっくりやっていきましょう。

現段階では、行列を使ったら、

簡単に x,y が求めらえるんだと認識してください。

何故、行列に拘るか?それは、

将来、大学の実験分析や、西島食品で調理を数値化するのに、

必ず必要になってくる、ある学問に役立つからです。

その学問を説明し、終わりにします。」

「数値化するのに、必ず必要になってくる学問......」

ゆうこ が身を乗り出した。

カマエツが例として、大きな文字と12個の数値を書いた。

「ゆうこ ちゃんが12個の加熱時間を測定しました。

さて、この数値を見て何が分かりますか?」

「えっ!」ゆうこ が、また言葉に詰まった。

その様子を見てカマエツが言った。

「だだ、数字だけを見て僕も分かりません、」

「そうですよね......」

消えそうな声で ゆうこ が言った。

「それでは、ゆうこ ちゃん12個の平均値はいくらになりますか?」

「えぇっと、38+71+29+・・・・60 データの個数が12個だから割ったら.......

54 です!」

「そうです、平均値は54、 漠然としたデーターの素性が少し見えてきましたね!」

カマエツが白板に難しそうな数式を書いた。

「平均のことを数学では μ ミュー と書きます。」カマエツが追記した。

「分子に何か分かりづらいことが、書いてありますよね?」

カマエツがすぐ横に書き加えた。

「Σ シグマ、この意味は繰り返し足していくという意味です。

今回の例では、1~12まで 38+ 71+ 29 ・・・

60まで足し合わせるという意味です。」

カマエツが白板に実際の数値を入れ書いた。

「数学の公式を見たら難しそうですが、実際に数値を入れ書いてみると簡単ですよね?

ここで数学の教科書を見てみましょう。」

「書いてある日本語の意味も分からないし、

何のこっちゃ!?となりますよね?

これこそが、数学を嫌いになる原因だと僕は思っています。

こんな表現するのは、数学者の自己満です!」

相加平均は、加方とスカラー倍が定義された数(実数、複素数、ベクトル等)に対して定義できる。

「サンプル値を単純に足し合わせ、サンプル個数で割るだけなのに......」

まったく ゆうこ も同感だった。カマエツが仕切り直し話した。

「これら数値の平均は、54 です。ここから高校で習うことに入っていきます。

ゆうこ ちゃん、ビビらないで聞いてくださいね。」

そう前置きをしてカマエツが絵を白板に書いた。

「分散 という意味を要約して言うと、

"データーのバラツキ度合い" のことです。」

聞き逃すまいと、ゆうこ がノートに書き写している。

書き写すのを待ってカマエツが話し始めた。

「上の図も下の図も平均μ 54 は、同じとします。

しかし、データーの性質は違いますよね?

上の図は、平均値の周りにたくさんデーターがあります。

下の図は、少ないです。上は "バラツキが小さい"、

下は "バラツキが大きい" と言います。」

「カマエツ先生、質問!」

ゆうこ が挙手をした。

「バラツキを求める理由は何ですか?」

「申し訳ない!

なぜ、バラツキを求める必要があるのか言ってなかったね、」

カマエツが慌てて補足した。

「上の図をAクラスとします。

下の図をBクラスとします。

同じテストをしました。

テストの点数が ゆうこ ちゃんは、85点だったとします。

Aクラスではバラツキが小さく、85点をとった人が少ないわけですから、

ゆうこ ちゃんは賢い!という事になります。

Bクラスではバラツキが大きいわけですから、

85点をとった人は多くいますね?

と言うことは同じ85点でも、AクラスとBクラスでは賢さが違ってきます。

それを数値化(見える化)したのが 分散 です。」

視覚的に書かれた図を見て、データーの素性が違うという事がよく分かるようで、

ゆうこ の顔は明らかにスッキリしている。

「ゆうこ ちゃん、平均μだけを見ても、

データーのバラツキは分かりませんよね?」

「ハイ、分かりません......」

ゆうこ が大きくうなづいた。

「そこで使うのが、分散 です。

σ の 二乗って書きます。」

カマエツが記号を白板に書きながら話した。

「なぜ、σ の 二乗って書くのかは、

聞いてもらえば後から分かります。」

興味がある新しい事は、スポンジが水を吸い取るように、

ゆうこ の頭に吸収されていった。

「ゆうこ ちゃん、バラツキと言うのは平均からのズレの事です。

さぁ、それをどうやって数値化しましょうか?」

「カマエツ先生、全く分かりません......」

ゆうこ が白旗を上げた。

「ゆうこ ちゃん、ズレを見るには、

各々のデーターと平均との差を見るんだから、

i= 1 から n まで 平均μを引いて行けば、

良いんじゃないでしょうか?」

「カマエツ先生、最初のデーター 38は、

平均値54を引いたら、-16 になってしまいますよね......?」

カマエツは、ゆうこ がそれを言うのを待っていた。

「μ との差を足し合わせて、いこうとしてるんだから、

最初の38では、-16、

次の71では、17...... 33になって欲しいのに、

足すと17になってしまう、

駄目ですよね......」

「ゆうこ ちゃん、どうしましょうか?」

カマエツが質問をした。

しばらく考え ゆうこ が解決案をだした。

「マイナスになるのがいけないんだから、二乗すれば良いんじゃないかと思います。」

「そうだね!しかし ゆうこ ちゃん、

データーの個数が増えるたら、数値が大きく膨らんでいきますね?

さて、どうしましょう?」

この質問に関して、ゆうこ が即答で答えた。

「データーの個数に比例して増えて行くんだから、

データの個数で割ればいいと思います。」

「その通りですね!」

カマエツがOKサインをし白板に式を書いた。

「ゆうこ ちゃん、実際にデーターを入れ計算して見ましょう!」

カマエツが電卓を使い計算をした。

「バラツキぐわいは、約417 になります。」

「バラツキが417?」ゆうこ が首をかしげた。

カマエツが言った。

「471は、合っているのですが、なんか釈然としませんね、」

ゆうこ がひらめいた!

「そうだ!二乗してるからなんだ、平方根をとれば良いんだ!!」

ゆうこ が席を立ち白板に書いた。

bravo!カマエツが拍手をし喝采の声を上げた。

「ゆうこ ちゃん、最初に分散はσ 二乗 と言いました。

σから二乗を取ったものを "標準偏差 σ" とよびます。」

カマエツが締めくくった。

「上記、数値群の 平均値は 54、標準偏差は、20.4 、

数値分析しやすくなりましたよね!?」

納得の説明だった。カマエツが言った。

「ゆうこ ちゃん、実際に数値化分析をしていると、

別のデーター群との比較をして見たくなることが多々あります。」

「別のデーター群との比較ですか?すごくあります!」

ゆうこ が興味津々で言った。

カマエツが白板に書いた。

「例として 身長-体重 の関係はどうか?見てみましょう。

身長が増えれば体重も増える。

このように一方が高いと他方も高い、このような関係の事を "正の相関" があると言います。

その逆は、"負の相関" があると言います。」

「そうだ!」ゆうこ は、

野菜の水分量と電子レンジの加熱時間の関係を思い出した。

カマエツは満足そうに、うなずいている ゆうこ に話し出した。

「これを数式で表したいのですが、ゆうこ ちゃん、想像できますでしょうか?」

まったく想像できない、ゆうこ は元気よく「わかりません!」と答えた。

「共分散は、x と y 2つの関係を見るのだから、σxy と書きます。

xy各々平均からの差どうしを掛けたものを、同じようにデーター個数Nで割ります。

ゆうこ ちゃん、意味が分かったでしょうか?」

「カマエツ先生、よくわかりました!」

ゆうこ は満足に満ち溢れ、顔をほころばせた。

「ゆうこ ちゃん、これらの事を、いちいち手計算で行ったら、

間違えるし時間がいくらあっても足りません、

それと分析しなくてはいけないデーターなんか、何百も何千もあります。

Excelと言うアプリを使えば、瞬時に計算します。

数値分析するのにパソコンの操作を覚えるのは必須です。

まだこのほかにも、相関係数を求めたり三角関数など、

いくらでも覚える事があります。

国語・社会は 加奈子さんが担当します。

私は、数学と理科全般を担当させてもらいます。」

重苦しい表情を浮かべている ゆうこ にカマエツが言った。

「人が3年かけ学習するものを、1年でやろうとするのだから正直、大変です。

しかし、ゆうこ ちゃんは英語に関し、すでに高校以上のレベルがあります。

勉強するのは4教科だけです。これから1年間、私たちと頑張れますか!?」

ゆうこ は、徹 たちの話を思い出した。

「徹 社長、千代子夫人などの苦労と比べたら桁が違います!

私、絶対にへこたれません!よろしくお願いします!!」

決意は、ゆるぎないものであった。

ゆうこ は好奇心が強く、驚くほどの速度で知識を吸収する、

多岐にわたる知識を片端から効率よく吸収していった。

教える側の、カマエツも加奈子も、

理解力のある ゆうこ に教えるのは楽だった。

大学受験

2009年1月25日(日)『大安』

やってはいけないことが何もない日、何をするにも吉!

県立広島大学地域創生学部 地域創生学科 健康科学コース 募集人員 35名 、

加奈子は、ゆうこ の願書をインターネットで出願した。

受験番号 1274 勝負の2月25(水)15度、曇り ゆうこ は、試験を受けた。

「やることはすべてやった、」

合格発表、3月8日(日)加奈子の携帯が震えた、

着信はカマエツからだった。

「加奈子さん、情報です。

地域創生学科 健康科学コース、

配点 1000 最高 762 最低 625.4 平均 691.2 です!

漏らさないで下さい、

極秘情報ですが、最高点 762を取った人の名前が分かりました。

西島 ゆうこ、ゆうこ ちゃんです!」

「ええっ!?」

加奈子は、驚きのあまりその場に立ちつくした。

視界に入るものはすべて、窓から見える歩いている人も、走る車も......

目の前の世界が、作られた世界であるかのように静止した。

教えていて ゆうこ は理解力があり吸収も早く、又、応用力も有った。

分かりやすく表現すれば、1を話したら、10を理解した。

又、勉学とは違う発想力には驚かされた、

徹 社長が、ゆうこ に拘っていた事が納得できる。

「加奈子さん!加奈子さん!」

カマエツの声で周りが動き出した。

加奈子は、あわててパソコンを操作し、

県立広島大学、合格発表ページを開いた。

合格発表

このホームページでの合格発表は,情報提供サービスの一環として行うものです。
必ず,合格通知書で確認してください。

(合格通知書等は,合格発表日に簡易書留速達郵便等で発送します。)

※合格発表は,PDFで行います。
※合格発表日の正午を過ぎても,合格発表PDFのリンクが表示されない場合は,ページの更新を行ってください。

インターネット回線の混雑等により最大15分程度,更新が遅れる可能性があります。

加奈子は、リンク先の合格発表PDFを開いた。

1257、1268、1274 ゆうこ の受験番号があった!

ゆうこ も奮励(ふんれい)したが、カマエツも加奈子も頑張って教えた。

きっと 努力と言うエキスが凝縮いるのだろう、1274 の数字が輝き大きく見えた。

加奈子が言った。

「カマエツさん、ゆうこ ちゃんの 1274 ありました!

すぐに ゆうこ ちゃんに知らせてあげます!」

iPhone 3GSの通話画面上に表示される、赤い受話器フックボタンをタップし、

電話を切り、折返し ゆうこ に電話した。

ゆうこ も待ち構えていたのだろう、ワンコールで繋がった。

「ゆうこ ちゃん、お伝えします。

県立広島大学、合格発表PDFに 1274

ゆうこ ちゃんの受験番号、ありました!

1年間、頑張りましたね!おめでとうございます!!」

その言葉を聞き、貴船原少女苑を退院し、

輝明が比治山の紅葉を見に、比治山公園へ連れて行ってくれたとき、

駐車場で出会った丹波の言葉を思い出した。

「ゆうこ ちゃん、コイツがあんたの保護司とは、運がエエのぅ......

流れ星の五百旗頭、期待しちょるで!」

その通りだった。

人生が大きく変わり始めたのは、輝明との出会いからだった。

カマエツが書いた "幸福度 曲線" グラフを思い出した。

全く予想すらできない、

今、自分がいるのは現実の世界なのだろうか?

「夢なら冷めないで欲しい、」

ゆうこ は奇跡を祈るような思いだった。

「ゆうこ ちゃん、おめでとうございます!」

簡易書留速達郵便で合格者に発送された "合格通知書" と一緒に、

徹から、ノートパソコン一式が手渡された。

千代子も和子も満面の笑みで拍手をしている。

ゆうこ は、初めて今起きている現実は、

「夢ではないんだ!」と確信した。

研鑽

「ゆうこ ちゃん、こっちこっち!」

黄金山通りバス停の前、正門を入った右側にある受付の前で、

カマエツがまっていてくれた。

街の中にあり、宇品郵便局が食い込んでいるように隣接し、

県立広島大学(県大)の敷地は広くない。

ゆうこ は、週に一度カマエツが講師をするとき、

丸く斬新なデザインをしている、県大附属図書館で勉強し勝手は知っていた。

図書館の裏手にある、教育研究棟1、

隣の教育研究棟2には、入学し初めて入る。

ゆうこ が学ぶ健康科学コースは、

  1. 総合体系的に知識と視点の習得
  2. 充実した実験・実習
  3. 食・運動・生体

育成する人材像は、豊かで健康的な人間生活の実現を目指し、

生涯にわたる健康維持と心身の調和的発達、長寿社会の生活の質の向上に、

他者と協力し取り組む人材の育成である。

カマエツは最初に、ゆうこ を4階にある座学の授業を受講する教室に案内した。

冷暖房完備、二人掛けの机、一列13脚 * 3列、横長の黒板の上に丸い時計、

中央両サイドにはテレビモニター窓からは宇品のビルや街並みが見える。

「カマエツ先生、私、本当にここで勉強できるんですよね!?」

「もちろんだよ、ゆうこ ちゃん!」と言ってカマエツは3階を案内した。

「1367 情報処理演習室 空きコマ(時間割の中で授業と授業の間の空白)

など自由に使えます。

分析解析計算など手計算では不可能です。」

デスクトップパソコンが20台、にコピー機が設置されていた。

「ゆうこ ちゃん、ここからが地域創生学部 地域創生学科 健康科学コースのメイン、

学生が使用する調理実習室です。」

1342 調理学実験・実習準備室、

まず、目に飛び込んできたのは、壁面に設置された大きな食器棚だ、

窓際には横長で、蛇口が3つづつある。

センサー式の水道が完備された流しが、一列に並んで設置されている。

カマエツが言った。

「調理前にここで石鹸や爪ブラシを使い、しかりと手を洗います。」

隣の部屋には、小さなステンレス製のシンクと調理台、

デスクが繋がっている島が、縦4*横3列配置されている。

「調理に必要な機器食器類が揃っていて、実験に必要な環境が整備されています。

主に2年次の食品加工実験や調理科学実験で使用します。」

その隣が給食室となっていて、大量調理のための器機や設備が揃っている。

大きなガス回転釜、大型グリラー、大きな自動炊飯器、圧巻だ!

「ゆうこ ちゃん、この部屋は3年生の春にある給食経営管理実習で使い、

大量の調理を経験します。」

「タダ爺は、駆逐艦雪風の烹炊所で、

乗組員の食事を毎日作っていたんだ......」

最後の部屋が試食室になっており、白い長テーブルと椅子が3列配置されていた。

何もかも目新しい、新鮮な目をし ゆうこ が部屋を見渡している。

白衣をまといカマエツが言った。

「実験では、食品加工学、調理学と言った授業で学んできた理論を基に、

美味しく調理する技術を学びます。

食品加工実験では、米の炊飯、出汁のとり方、

パンや餅の加工など実際の調理に基づき学びます。」

素晴らしい環境だ、"お好み焼きふみちゃん”の炊事場とは全然違う。

癖なのかカマエツが瓶底眼鏡を持ち上げ自慢そうに言った。

「ゆうこ ちゃん、実験調理台の数は少ないけど 、

西島食品の食品開発部、食品分析装置はこれ以上あるよ!」

「カマエツ先生、これ以上あるのですか!?」

ゆうこ は、"井の中の蛙"だということを痛感した。

「ゆうこ ちゃん、人々の口に入る食品を量産し世に送り出すことは、

簡単なことではありません、

原料の特性評価、風味・食感の測定、安全性の評価、品質の評価 、

この4つの分析・測定が必須です。」

まるで別世界の話だ、呆然とする ゆうこ にカマエツは、

食品開発部にある機器をまとめた一覧を見せた。

機器リスト

  1. におい識別装置
  2. 強度試験機(AGS-X/EZTest)
  3. 粘性試験機(CFT)
  4. 水分率測定装置
  5. 細孔分布測定装置
  6. 全有機体炭素計(TOC)
  7. 濁度・粒子径測定装置
  8. 粒度分布測定装置
  9. 熱分析装置(TA)
  10. 走査型プローブ顕微鏡(SPM-9700)
  11. 発光分析・質量分析装(ICP/ICP-MS)
  12. 蛍光X線分析装(XRF)
  13. DNA/RNA分析用マイクロチップ電気泳動装(Mu-tiNA)
  14. レーザーイオン化飛行時間型質量分析計(TOF-MS)
  15. ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)
  16. フーリエ変換赤外分光光度計(FTIA)
  17. 紫外可視分光光度計(UV)

手渡されたリストを見て ゆうこ は、化石のように完全に固まっている。

カマエツが一つ例をあげた。

「ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)ですが、GCの高分離能力とMSの定性能力を脂肪酸分、合わせもった分析手法であり脂肪酸分析のように、多成分の類似化合物が含まれる分析に非常に適しています。

誘導体化や化学イオン化を用いることにより、多くの情報を得ることができます。」

「カ・・カマエツ先生、別世界の言葉だらけで、

私、何をいわれているのかまったくわかりません......」

冷静で日頃、めったに笑顔を見せないカマエツが満面の笑みを浮かべ言った。

「ゆうこ ちゃん、分からなくても当然です。

僕が10年以上かけ理解したことを、いとも簡単に分かったら失礼にあたります!

将来、食品開発部で食品開発する為に 微分/積分や統計算出の勉強をしてきたのです。

又、健康科学コースで学ぶのにも必要になるからです。

以前、僕が言ったでしょう?勉強するのは大学に入るためじゃないって!」

カマエツが右手を胸元の高さまで上げ、サムアップした。

ゆうこ には、カマエツが神に見えた。

「管理栄養士国家試験」カマエツの口から又、新しい言葉が出た。

「管理栄養士国家試験?」

カマエツが管理栄養士について説明した。

「管理栄養士は、厚生労働大臣の免許を受けた国家資格です。

病気を患っている人、高齢で食事がとりづらくなっている方、健康な方一人ひとりに合わせ、専門的知識と技術を持って栄養指導や給食管理、栄養管理を行います。

管理栄養士は医療施設や、学校、行政機関、企業試験研究機関等で働いています。

ゆうこ ちゃんが、西島食品の食品開発部で活躍する為に必要な資格です。」

ゆうこ は、管理栄養士の資格をどのように、取得すればよいのか知りたかったが、カマエツが話を続け説明をした。

「管理栄養士になるには、高校卒業後、管理栄養士養成課程もしくは栄養士養成課程のある大学、短期大学、専門学校に入学し、所定の単位を取得して卒業することが必要です。

県大の健康科学コースを卒業すれば、管理栄養士国家試験を受ける資格が与えられます。

普通の栄養士であれば、栄養士養成施設で学び卒業することで、都道府県知事の免許を受けて「栄養士」になることができます。

管理栄養士は、管理栄養士養成施設で学び、管理栄養士国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受ける必要があるのです。」

「国家試験を受ける資格が与えられるだけ......」

ゆうこ が不安そうに反覆した。

「ゆうこ ちゃん、心配しなくても大丈夫です。

卒業し受験するのですが、県大の管理栄養士国家試験合格率は、100%です!

全国で管理栄養士国家試験受験資格が与えられる大学は、全国で約150大学あります。

その中で100%というのは数大学、一桁しかありません、

その中の一つが、県大の健康科学コースです。」

1433 食品学・食品衛生学実験室

カマエツがクリーム色に複数小窓がついている扉を開けた。

「ここは、食品中の成分や細菌の繁殖を調べます。」

ゆうこ は理科室を思い出した。

1576 分析機器室、

「この部屋には高性能の分析機器があり、食品中に含まれる成分の測定を行います。」

ゆうこ が目を皿のようにして見ている、テーブルの島が複数あり、

天井から吊り下げたれた、コンセントに測定機器が繋がれている。

複数置かれたガスボンベが特徴的だった。

1269 学生サロン

食卓のように配置されたテーブルが、8島ほど配置された明るい部屋だ、

カマエツが説明をした。

「学生がご飯を食べたり、雑談をしたり自由に使う事ができます。」

"どうすれば野菜に興味を持ってくれる?"

廊下には学生たちが作成した、栄養教育に関する媒体が掲示されていた。

Cafe SHION 、

カマエツは3階にあり、天井が高く明るく開放感があり、

4脚の椅子で取り囲んだ、丸テーブルの島が複数ある学食に案内した。

「ゆうこ ちゃん、ここのカツカレー美味いんだ!

日替わりランチもお勧め!」

自分はカツカレー ゆうこ には、日替わりAランチの食券を渡した。

「ゆうこ ちゃん、お腹がすいたでしょう?

さあ食べましょう!」

ゆうこ は、思う存分勉強ができ、

毎日こんな学食が食べられることに、心の底から感謝しながらランチを口にした。

県大入学式

2009年4月6日 月曜日 晴れ、

広島国際会議場 建物入り口には、"県立広島大学入学式 会場/フェニックスホール"

白い立て看板が立っていた。

原爆資料館の隣にあり、正面の噴水から長い列ができていた。

「ゆうこ ちゃん、笑って!」

立て看板の左横には、黒いスーツ姿の ゆうこ、看板を挟んで右に徹と和子、

カシャ!加奈子がスマホで写真を撮った。

ホールの舞台右端には、Hの文字を中心に県のシンボル紅葉の葉がデザインされ、

ロゴの入ったプログラム掲示がある、

県立広島大学 入学式

  • 開式
  • 国歌斉唱
  • 入学許可
  • 学長式辞
  • 知事祝辞
  • 来賓祝辞
  • 来賓紹介
  • 誓いの言葉
  • 歓迎の言葉
  • 大学歌斉唱
  • 閉式

場内の照明が消え、えんじ色の幕がゆっくりと上がっていく、

照明に明るく照らされた舞台が現れた。

演台を中央に水色背景に白い横断幕横に書かれた、

県立広島大学の文字が印象的だ。

その下左に日本国旗、右に広島県のヒを紅葉の葉を使いデザインした旗、

圧巻だったのは旗の下に広がる金屏風、金屏風前には、

演台を挟むようにして左側県大旗、右側には大きな生け花、

離れて左側に県大幹部、右には来賓たちが座っていた。

「只今より、平成22年度、県立広島大学の入学式をおこないます。

全員ご起立ください!」

舞台一番左端、司会進行の女性の声がホールに響いた。

「一同、礼!」

「国歌斉唱」

全員が日本国旗に向きを変え、厳かに"君が代"が流れた。

これまでの演出といい、ゆうこ は万感の思いで君が代を口ずさんだ。

コレまでのことが現れては消え、回想するように頭の中を駆け巡り無意識に涙が溢れた。

「ご着席ください、入学許可。」

学長が国旗に一礼し演題に向かった。

「只今より各学部、専攻科 及び 大学院の順に学部等の名称と入学者数を読み上げます。

呼ばれた学部、専攻科 及び 大学院ごとに新入学生は御起立してください。」

司会が順次よみあげ新入学生が起立していく、

「地域創生学部、青山 武人 ほか182名!」ゆうこ が起立した。

次々に読み上げられ全員が起立した。

「平成22年度の新入学生は、学部 598名、大学院 66名、専門職大学院 30名 です。」

「演台の学長が復唱した。

入学を許可する!]

ステージ上の県大幹部、来賓たちから大きな拍手が送られた。

「新入学生 礼!」司会の女性が号令をかけた。

プログラムは順調に進み、県立広島大学歌 、

”大地に 海に 街に"がホールに流れた。

「以上を持ちまして平成22年度、県立広島大学の入学式を終了いたします。

一同、礼!」

夢ではない!

晴れて ゆうこ は、県立広島大学 地域創生学部 地域創生学科 健康科学コースに入学したのだ、

基礎プログラミング入門

1年次にある 基礎プログラミング入門は、ゆうこ の能力を開花させた。

データー分析算出にはExcelというアプリを使う、

処理の自動化するには、マクロというプログラムを使って処理の自動化を行う。

例えば自動化とは、測定機器の数値を自動で読込み、

演算をしグラフ化まで、釦を押すだけで自動で行わさせる。

普通はマウス操作を何百回、何千回、手作業で行う必要がある。

時間と根気が必要で操作ミス等、多々発生する、

人間にとり、空虚で苦痛な操作である。

この途方もない操作を釦など一回押すだけで、

数十秒で処理のをマクロ処理という。

「4年間でこんな無駄な時間、累積したらどのくらいになるんだろう?」

ゆうこ は真剣に思った。

Excelの自動操作を行うためには、

VBA(Visual Basic for Applications)

マイクロソフト社のビル・ゲイツ氏の大好きな、ビジュアルベーシックという、

プログラム言語を理解する必要がある。

決して難しいことではなく、

極端に言ったら数字が読め、アルファベットを書く能力があればできるのだが、

関所の壁として、立ちはだかっている理由が下記二つである。

VBAの壁

  1. 言語が英語
  2. 専門語が多く理解しずらい

何度も言うが、決して難しいことはしていない!

中学生レベルの能力があれば絶対に分かる。

ゆうこ は、興味を示し持ち前のセンスと野生の勘で操り、

県大一のVBA使いと言われるようになった。

さすがのカマエツも大絶賛した。

「考え方の柔軟さと言い、ゆうこ ちゃんのセンスには参りました。

徹 社長が一目置くだけのことはあります!」

ゆうこ がVBAプログラミングに、のめり込んだ理由を話した。

「実は私、長い手計算は大の苦手で、

必ず計算ミスをして、正しい答えになったことほとんどありません、

だからパソコンに頼ったことで、使うのが上達したんだと思います。」

言語が英語だと言っても、語学力が必要なわけでもなく、

野生の勘で理解できることなのに......

ゆうこ には、多くの人が煙たがる理由が分からなかった。

カマエツが言った。

「日頃、偉そうに食品に関し語ってるけど、僕、実は工学部出身の電気屋......

パソコンだって大した原理で動いていない、それなのに専門用語で塗り固め、

中学生の能力があれば分かること、簡単なことを隠しているんだといつも思ってる。

ゆうこ ちゃん、が感じてる、

”プログラミングなど大したことはない!"って言うのは大正解だよ。」

「パソコンは、大した原理で動いていない?」

新たな獲物を見つけたように ゆうこ が目を輝かせた。

「食品を大量生産するには、機械を動かす自動制御技術が必要、

近い将来、必ず AI の時代が来ます!

西島食品で、それも含めチャレンジしましょう。」

「AI?」初めて聞く言葉だ、

「カマエツ先生、AIって何ですか?」

カマエツは、色々な理由から、

「西島食品は、 AI に取り組むべきだ!」と心に秘めていた。

希望に満ちた目をし、ゆうこ に言った。

「Artificial Intelligence(アーティフィシャル インテリジェンス)日本語では、

人工知能と言う意味です。

僕の卒論は、”日本社会における AI”でした。」

現状に帰り、カマエツが ゆうこ に言った。

「当面の目標は、県大の卒業と管理栄養士の取得ですね!

2年次になると僕が講義している、

人データーサイエンス入門 及び 工知能概論があります。」

ゆうこ は、県大付属図書館で読んだ本を思い出した。

「願わくば、我に七難八苦を与えたまえ!」

山中鹿之助が三日月に祈ったといわれている、やらなければいけないことが山ほどある。

難問が次々とやって来る......

逆に ゆうこ は、充実感に浸った。

管理栄養士に関しては、2・3年次の、運動・生体、食、健康 の授業で網羅した。

管理栄養士国家試験は、選択問題で難しくはないが、

試験科目

【午前】

  1. 社会・環境と健康
  2. 人体の構造と機能及び疾病の成り立ち
  3. 食べ物と健康
  4. 基礎栄養学
  5. 応用栄養学

【午後】

  1. 栄養教育論
  2. 臨床栄養学
  3. 公衆栄養学
  4. 給食経営管理論
  5. 応用力試験

10項目で、問題数は200問におよぶ、とにかく出題範囲が広い、

ゆうこ は、知識を関連づけて整理し、理解して覚えることにした。

ひとつを覚えれば、そのほかの知識も自然と頭に浮かぶようになった。

出題傾向を分析した。

9つの科目のうち、

  • 人体の構造と機能および疾病の成り立ち
  • 食べ物と健康
  • 臨床栄養学

この科目で高い点数を得られるように集中して取り組み、過去問を繰り返し説いた。

試験期日は2012年3月18日(日) 試験地は、岡山県 倉敷

合格発表日は、同年5月7日(月)、

【管理栄養士国家試験受験願書】

受験 希望地 岡山県

氏名 西島 ゆうこ 女

栄養士養成施設 学校 2. 大学(栄養士課程)4年

学校名 県立広島大学健康科学コース コード番号 34118

2011年11月15日(火)県大の願書を提出したときと同じ、

”大安”、ゆうこ は、ランスタッド・広島支店 国家試験係に願書を提出した。

又、11月15日は、輝明の誕生日でもあった。

いざ!倉敷、

受験会場は、くらしき作陽大学、

9時30分までに指定受験室、該当する番号の席につく必要がある。

広島駅から新倉敷まで 約1時間、新倉敷駅から試験会場まで約10分、

ゆうこ は、広島発 07:26発 ひかり590号 岡山ゆきに乗り込んだ。

午前 10:00~12:25
午後 13:40~16:20

滞りなく試験は終了した......

県立広島大学 卒業

「ゆうこ ちゃん、卒業おめでとうございます!

徹と和子から卒業式に着る、着物と袴が渡された。」

花柄がちりばめられた着物とワインバイオレッドの袴に、

淡い黄色の巾着袋は、和子が選んだ。

徹は、人生の師と仰ぐ坂本龍馬に拘り、ブーツを渡した。

「わぁ~奇麗!私、これ本当に着てもいいんですか?

それと、ブーツなんか履いたことありません!」

「ゆうこ ちゃんは、絶対にに合うよ!」

目を細め、徹が言った。

「そうそう、これ 加奈子さんから......」

和子は手提げ袋を ゆうこ に渡した。

そういえば、広島キャンパスで大学祭「第6回紫苑祭」の乗りもあり、

冗談で かなこ が勝手に応募した、

日本一可愛い新入生候補のキャンパス美女 FRESH CAMPUS CONTEST 2010

どんどん独り歩きし、ゆうこ は最終ノミネートされ、

断るのに大変だった。今となれば懐かしい思い出だ、

加奈子からの、お詫びの気持ちだった。

「何だろう......」

「わぁ~かわいい!」

赤をモチーフにしたリボンの髪飾りだった。

広島キャンパス平成25年3月22日(金曜日)

10時00分~11時30分 大競技室 卒業者・修了者数 250名

式次第

開式
国歌斉唱
卒業証書・学位記授与
学長式辞
副知事祝辞
来賓祝辞
在校生代表送辞
卒業生代表答辞
大学歌斉唱
閉式

中央に "広島県の木" もみじが描かれた壁の下に掲げられている、

県立広島大学卒業式 専攻科修了式・大学院学位記授与式

ゆうこ は、万感の気持ちでいっぱいだった。

祝辞の最後に赤 岡 功 学長 が言われた、

「社会は皆様の活躍を待っています。ご卒業おめでとうございます。」

の言葉が ゆうこ の心にいつまでも響いた。

4月5日(金)晴れ ゆうこ は、西島食品へ入社し、

企業に勤める社会人としての道を歩み始めた。

何故か輝明は、ゆうこ がどんどん自分の手の届かない、

遥か遠い所へいくようで、心にポッカリ空いた大きな穴を感じた。

この時点で輝明は、ゆうこ、カマエツ と力を合わせ、

西島食品の、新主力食品開発に貢献する事など知る由もなかった。

『ハルカ』
歌 : SCANDAL.
作詞:HARUNA/Hidenori Tanaka. 作曲:Hidenori Tanaka.


リリース: 2011年

【ストーリー 6】 著: 脇屋 義直
【ストーリー 7】へ続く..


この小説はフィクションです。
実在の人物や団体などとは、
関係ありません。

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