【blog小説】星降る夜に エピソード 11

茜空

実刑、東条 誠 9年、
茂木 由起夫 6年、

執行猶予 田島 ひろし 5年、

挙ってマスゴミは東条フーズを叩き、
実質企業活動は停止した。

ただ、従事していた、
約3,000人の従業員には罪は無い、
言ってみれば彼達も被害者なのである。

子育て、毎月支払う住宅ローン……
「彼達を救済しなくては!」と、
徹は心に誓っていた。

名川に案内され徹は、
兵庫県丹波篠山に降り立った。

「ここが関西第二工場ですか!」

大阪伊丹工場が老朽化したため、
新工場建設中だったのだが、

東条が逮捕され工場建設が、
中断していた。

丹波茶栽培で霜除けのため、
立ち並ぶ防霜ファン……

丹波篠山黒豆畑が広がる一角に、
新工場はつくられていた。

徹の見立てでは、
80%以上完成しいる、

敷地面積25万㎡ 建物面積
10万5千㎡、その広さは圧巻だ!

建地は大阪から高速で1時間、
神戸港までは、1時間である。

名川さん、お願があります。

西島食品と四越さんで、今後継続して、
活動できるよう資金提供させて、
もらえないでしょうか?

「西島食品さん と 四越さんに、
買収と言う事でしょうか……?」

東条に買収された経験を持つ、
名川の心境は複雑だ……

徹は急いで言葉を変えた。
「名川さん、買収じゃありません!

西島、四越、そして御社、
三社で合弁事業が始められたら?
と思っています。

名川社長の元、
大阪伊丹工場、従業員は、
そのまま仕事を継続して頂き、

西島と四越は25%づつ、
株を保有する。

新会社の名前は、
近藤、鴇田、西島の頭文字をとり、

"K・T・N フーズ"

社長は名川社長……
如何でしょうか?」

名川は、碁盤を見つめる棋士のように
考え込み重い口を開いた。

「徹社長、お話は、
涙が出るほど嬉しいです。

しかし合弁会社の出資金50%なんか、
補填できる能力などありません…….」

名川は、こうべを垂れた。
徹は、すかさず首を左右に振った。

「名川さん、四越さんはともかく、
西島食品だって補填する能力は、
ありませんよ……」

「えっ!それでは、
どのような方法で?」

名川が弱弱しくいった。

「四井住友銀行さんに、
資金を調達してもらいます。」

「社長が逮捕され世間はみな敵、
東条フーズなど消え去れば
良いと思っているハズです。

従業員の中には、学校で子供の親が、
東条フーズに勤めていると言うだけで
虐められている者もいるんです……」

名川は工場長として、
「全責任は、自分にあるのだ!」と、
悲壮感いっぱいの表情でいった。

徹は、名川の言葉に対し、
全否定するように
大きく首を左右に振った。

「それは大きな勘違いです。

名川さんが勇気を振り
絞り東条いちみの
悪だくみを公表することにより、

東条フーズの従業員 及び 西島食品は、
救われたのです。」

感極まって、今にも泣き崩れそうな、
名川の腕を力強く握りしめ徹がいった。

「今度は私が、
名川さんに恩返しするばんです!」

徹は、四越の藤木が間に立ち、
新会社"K・T・N フーズ"設立の為、
四井住友銀行から、

新工場・土地・建物 20憶、

伊丹工場から丹波工場への
設備移動費 10憶、

東条フーズ従業員対応費 60憶、

新規設備導入費 30億、

合計120億、融資してもらうことが、
決まっている旨を名川に伝えた。

耳にした事もない天文的な数値を聞き、
名川は、信じることができない……

東条フーズ従業員対応費 60憶、
従業員一人当たり救済金額は、

200万円にもなる、
名川は感謝しかなかった。

建設中の新工場を見つめ、
立ちすくんでいる名川に徹がいった。

「"K・T・N フーズ" 名川社長、
実は、練り上げている、
新規構想があるのですよ!」

「新規構想ですか……」

それは、来年、2017年6月、
新会社 "K・T・N フーズ"の、
操業開始であった。

徹は、苦しいとき、
クラウドファンディングで救ってくれた
米国民には、何があっても、

恩返ししようと誓っていた。

東日本大震災が発生した3月11日、
当日中にアメリカ政府は、

日本に支援を申し入れ、トモダチ作戦と
銘打ち迅速な支援が行われた。

そのことが記憶に新しいが、
戦後食糧難のとき、
多大な援助をしてくれたのは、

敵国だったアメリカである。

徹は3度も助けられたことを、
決して忘れてはいなかった。

私たちにできる事は何か?それは、
米国国民をうならせる第二の、

肉じゃがオムレツを開発することだ、

地合いは整っている、
後は実行に移すだけである。

徹は名川に構想を説明した。

「AI食品加工、米国人の口に合う、
"肉じゃがオムレツ"の開発、

日本ブランドを前面に押し出した商品!

伊丹工場から10名、西島食品から2人
合わせて12名……

開発プロジェクトを新設する。

称して、二十四の瞳 作戦!
どうでしょうか?

二十四の瞳とは、
第二次世界大戦の終結から7年後、
執筆された小説で、

作者は、壺井栄、
戦争にて受けた一般庶民の数々の苦難と
悲劇を描いたものである。

創業者である西島 忠則(タダ爺)は、
高等小学校卒業後、
14歳で海軍特別年少兵に入隊、

小さな駆逐艦雪風に乗り込み、
名だたる激戦に参加し生き残った。

西島食品、"肉じゃがオムレツ"の、
原点は、その駆逐艦雪風にある。

二十四の瞳では、「女学校の師範科」
を、卒業したばかりの正教員、

大石久子(おなご先生)は、
島の岬にある分教場へ赴任する。

そこに入学した1年生12人、
二十四の瞳は、輝いていた。

徹は、映画の中でのセリフ、

「名誉の戦死など、しなさんな。
生きて戻ってくるのよ。」

を、鮮明に覚えていた。

ゆうこ を "おなご先生" という
リーダとし、補佐役を
輝明とする構想を描いていた。

徹は練り上げた
構想案を名川に話した。

「海外に通用する、
新肉じゃがオムレツ

二十四の瞳 作戦で、世界をアッと、
言わせてやろうじゃないですか!」

名川はこれまで抱えていた重しが、
全て吹き飛んだ清々しい表情をし、
立ち尽くしている。

丹波篠山での黒豆の収穫時期は、
10月初旬~末日頃の、
限られた時期である。

畑の枝には、丸々と太った黒豆のさやが
鈴なりになっている。

建設中の建屋が夕日に照らされ、
茜色に輝いている。

それは今後の将来を予見して、
いるような光景であった。

「日本から世界、
二十四の瞳 作戦!ですか……

良いネーミングだ、徹社長、
やってやりますか!!」

徹と名川は、両手で相手を包み込むよう
白くなるまで強く握手を交わした。

作出

「お邪魔しま~す!」

西島食品のアンテナショップ、
"お好み焼き ふみちゃん"を、

訪れたのは、四井住友銀行の
青木を連れた藤木だった。

「外に止まっている
KAWASAKI ZZR1100D
いつ見てもいいですよね!

見とれますよ!」

「赤兎馬の事ですね!」

輝明は、自慢げに言った。

「僕は去年発売された4代目、
NDロードスターに憧れています。

でも家は家族4人でして、
2人乗りは妻が大反対で、

SAAB9000Gに
乗っているんですよ……」

青木は残念そうだ、
それを聞いた藤木が真剣にいった。

「輝明さんがNDロードスター
入手しようとしてる噂、

聞いていますよ!

もしND入手したら僕に赤兎馬を
是非ゆずって下さい、

約束ですよ!」

輝明は、まんざらでも無さそうだ、
「参ったなぁ~」と頭をかきながら
笑顔で茶を濁した。

「それで藤木さん 青木支店長をつれ、
わざわざ今日は何しにこられました?」

「もちろん!輝明さんが焼く、
"広甘藍"を使った
肉玉そばを食べにですよ!」

元気よく言った藤木と青木は、
カウンター席に腰かけた。

お好みを焼く、輝明の手さばきには、
無駄がない、藤木が話を切り出した。

「実は、東条フーズ従業員の救済、
青木が奮闘し肩がつきました。

来年、兵庫県丹波市に建設中だった
関西新工場、操業開始です!」

「それで青木支店長、いくらぐらいの、
救済額になったんですか?」

青木は、輝明の質問に簡単に答えた。

「120億です。」

「えっ!」

輝明は耳を疑った。
クラウドファンディングで、
どれだけ苦労した事か……

テーブルに座っている藤木が
下から見つめるようにいった。

「米国向け新規"肉じゃがオムレツ"を
開発し軌道に乗せる事こそが、

120億救済された、
関西工場の責務なんです。」

「藤木も知っていると思うが、
米国人は日本人とは全く違うよな?」

藤木と目線の高さを合わせた
青木がいった。

「確かにそうなんだよなぁ……
日本の単一民族とは違い、
米国は価値観が違う人が集まっている、

他民族国家、
人種のるつぼだからなぁ……」

「そうそう、俺は初めて、
ロサンジェルスに行ったとき
乞食の多さには驚いた!」

共感した藤木がいった。
海外に行ったことのない輝明には、
全く別次元の話だ、

「そうなんですか?
俺には全く分からないことです。」

「輝明さん 米国は全然日本とは、
違うって言うことですよ。

日本では字が書けなかったり、
読めなかったりする人、

見かける事ないですよね、

米国では母国語(英語)の読み書きが、
できない人は、
21%以上いるんですよ、」

藤木は5人に1人は、読み書きが、
できないと言っているのである。

信じられないという顔をしている
輝明に青木がつけ加えた。

「先ほど藤木がロサンジェルスは、
乞食だらけだといったでしょ、

でも方やスペースシャトルですからね!
理解しがたい国なんですよ、」

藤木は、具体的な数値をいった。

「国の豊かさを表す指数に、
GDPがありますが、
その米国のGDPは、

日本の4倍以上!

人口は3億人以上で
日本の2.5倍以上です。」

GDP(国内総生産)とは、
国内で生産されたすべての物や
サービスの合計である。

「人口比では2.5倍だけど、
豊かさは4倍以上.....

これって藤木さん、購買力が
全然違うって、いうことですよね!」

学校でも習っているハズなのに、
輝明が初めて聞いたかのように答えた。

「その通り!俺たちはその国に新しく
"肉じゃがオムレツ"を開発し、
売り込もうとしてる分けなんです!

それには個性が必要!」

藤井が右人差し指を立てた。

その横で頷きながら聞いていた
青木が捕捉した。

「その米国では、
いま日本食を食べるのが
ステータスなんです。

米国では、倍以上もする和牛が
飛ぶように売れているし、

ニューヨークでラーメンを
食べようとすると1杯、

2,000円もするんですよ!」

「えぇ~ ラーメンが、
2,000円ですか!」

驚いた輝明が目を丸くした。

「輝明さん、
それでもラーメンを食べようと
長蛇の列なんです!

それが、私たちが、
新"肉じゃがオムレツ"を
売り込もうとしている国なんです。」

藤木はそう言うと、提案をした。

「米国ターゲットの
新"肉じゃがオムレツ"は、

絶対に高級路線で勝負すべきだと、
僕は思います。

使う具材の選定からですねぇ……」

そうこうしているうちに、
広甘藍を使った
肉玉そばが焼きあがった。

「よし!できた!

藤木さん、青木さん広甘藍を使った
"お好み焼きふみちゃん"の肉玉そば、
焼きあがりました。

是非食べて見て下さい!」

輝明は焼き上がった"肉玉そば"を
二人の前に滑らせた。

日頃から、広島のお好み焼きを
食べなれている藤木が、
小手でカットし口に運んだ。

「甘くて瑞々しい!
本当に美味いキャベツですね!」

骨とう品や絵画など何が良いのか
価値観が違う人には理解できない、

だが、人間が普遍的に持つ本性、
食べると言う事において、

美味い不味いは、

万人が分かることである。
横に座っている青木も絶賛した。

「美味い!僕は3年以上広島にいますが
こんな美味い"お好み焼き"食べたの、
初めてです!」

履行開始

役付き会議に、
ゆうこ と 輝明が呼ばれた。

総務部長 沖田 を筆頭に、

製造部長 加藤、購買部長 上田
経理 畑山部、企画部長 森嶋、
営業部長 香川、

そして 開発部長の 竈、
蒼々たるメンバーだ、

社長の 徹が口を開いた。

「これまで確定した、
内容を報告します。

大阪伊丹工場が老朽化したため、
一部機能を兵庫県丹波篠山の
新工場に移します。

旧東条フーズに変わり,
来年2017年6月、

新会社、"K・T・N フーズ"が、
操業開始します。」

「出資比率は、名川社長、50%、
四越伊勢丹 25%、
そして我が西島食品は25% です。

東条フーズの従来製品は、
"K・T・N フーズ"と名前を変え
生産を継続します。

出席者全員、盛大な拍手をした。

又、丹波工場では、
"肉じゃがオムレツ"N1008の
追加生産 及び 米国向けに、

新"肉じゃがオムレツ"を開発し、
生産します。

建設中の丹波新工場ですが、
面積はマツダスタジアムと同等、
従業員数は2,120名となります。」

そのスケールを聞き会議室が、
ざわついていた……

鎮まるのを待ち、
徹が話しを続けた。

「新工場ですが、
日本初のAI食品加工を行います。

輝明君!今年度中に米国向けの
新"肉じゃがオムレツ"を
開発して下さい。

開発部の竈部長、
生産する数値化作業
御願いします。」

徹が ゆうこ に視線を向けた。

「従来生産していた製品は、
工数を使えば新工場への展開には、
問題ないと考えます。

しかし初めて試みるAI食品加工、

そして 米国向けの
新"肉じゃがオムレツ"を順調に
立ち上げるには、

組織化が必要になります。

極力、現地のスタッフで、
やってもらいますが、

西島食品から2名、
今年の10月から、来年の6月まで
現地対応してもらいます。」

これまでの話を聞き輝明は、
自分と ゆうこ が呼ばれた理由が、
すぐに分かった。

「現地スタッフは、12名の、
プロジェクトを編成します。

チーム名は名付けて"二十四の瞳"、
(Twenty-Four Eyes)

輝明君は、週1~2回出張対応、
西島Lには、10月から
現地出向を命じます!」

「思う所です!西島社長!」

威勢のいい輝明と比べ ゆうこ は、
不安そうな顔をしている、

どんよりして、
今にも雨が降りそうな表情だ、

徹がそんな ゆうこ に、
止めを刺すようにいった。

「"二十四の瞳"には、リーダー
(おなご先生)が必要です。

西島L御願いします!

フランス的に言ったら、
ジャンヌダルクと
言ったところでしょうか、」

「えっ……」

ジャンヌダルクとは、
フランスの危機を救った少女であり、

英仏百年戦争劣勢の中、
彼女の登場によりフランス軍は、
逆転大勝利をおさめた。

ゆうこ が困り果てた顔をしている。

それもそうである、ゆうこ は、
生まれてから一度も隣県の岡山より
東には行ったことがなかった。

それも単身赴任……

見知らぬ土地で見知らぬ人、
(関西文化人)とちゃんと、
コミュニケーションがとれるのか、

不安いっぱいだったのである。

会議が終わった後、
徹は ゆうこ を呼んだ、

「周りを塀に囲まれた細い道を
歩いていて、
突き当りを右に進めと言われた。

右に行ったら何があるんだろう?
人間みんな不安です。

しかし僕は思います。
その積み重ねが
視野を広げ成長して行く、

ゆうこ ちゃんには、
もっと成長してもらいたいんです!

西島食品は小さな中小企業です。
大企業だった彼たちには、
プライドがあります。

「どうやら広島から若い女の子が
来るみたいねんな。
なにができるのかお手並み拝見やで!

と、言った感じでしょう……

そこで私から ゆうこ ちゃんに
助言と言うか、約束してもらいたい、
ことが2つあります。」

ゆうこ が真剣な顔をして
徹を見つめた。

「今年も後、数カ月で終わります。
現地に行ったら10月から年内は、
ぼ~っと、していて下さい。

動き出すのは来年からです。

それと彼らのする事を見て
"西島食品では、"
と言う言葉は厳禁です。

この2つを約束して下さい。

"万事塞翁が馬"必ず良いように
事が進むはずです。

輝明君もアシストしてくれます。

そしてあなたの後ろには、
我々西島食品一同がついていることを
決して忘れないで下さい。

期待しています!」

そう言うと徹は優しく微笑んだ。
ゆうこ は、これまで歩んできた
人生を振り返った。

考えてみると貴船原少女苑を退院し、
環境が変わることに
不安でいっぱいだった。

そんなときに出会ったのが
輝明だった。

どう自分を表現していいのか分からず、
ギクシャクした態度だったと思う。

それが、
こんな人生を歩むようになるとは……
夢にも思わなかった。

徹が言ったように、
"万事塞翁が馬"である。

ゆうこ は、全く違う環境に
進む事を決断した。

盆を過ぎたように
確実に涼しくなっていく、

地球は間違いなく動いている。

「あっ、、赤とんぼ、」

ベランダにある物干し竿の端に止まり、
首をかしげ、
ゆうこ を見下ろしていた。

住めば都

2016年10月1日

「ゆうこ ちゃん、頑張って!」

徹、輝明、加奈子、竈、香川、森嶋、
6名が ゆうこ を見送った。

「08:06広島発 のぞみ120号、
東京行が発射いたします。

危ないですからお見送りの方は、
白線より後ろにお下がりください。

次の駅は、岡山です、」

銀河鉄道999発車メロディーが
鳴り響きドアが閉まった。

大きなスーツケースと一緒に
ゆうこ は、大阪に向け出発した。

09:31大阪着、

広島から1時間25分、
あっという間だった。

「のぞみ120号 東京行、
まもなく27番線、
新大阪に到着いたします。

降り口は右側、お忘れ物のないよう
お気負付け下さい。」

「えぇっと……

東海道山陽本線で尼崎、JR福知山線
(新三田行)で 伊丹駅……」

ゆうこ には、全てが
初めての体験だ、
伊丹駅では、名川が待っている。

改札を出た ゆうこ は、
大きなスーツケースを、
ひこずり辺りを見回した。

「お疲れ様!ゆうこ ちゃん!
こっちこっち!」名川だった。

パンパンに張りつめていた
ゆうこ は、安ど感から風船の空気が
抜けたように萎んだ。

名川が車の中で
色々教えてくれるのだが
全く耳に入らない、

JR福知山線伊丹駅から車で15分、
グラシエ池尻 3階 1LDKの
マンションを用意してくれていた。

今日は土曜日、
明日は広島から送った荷物が届く、

「ゆうこ ちゃん、
近くにコーナンがあるので、
そこに行けば必要な物、

なんでも揃います。
散歩がてらに行ってみてください。

おっと!言い忘れるところでした。
寝具は一式用意しましたから、
それを使って下さい。

月曜日は8:00時に
迎えに上がります!」

そう言い残し名川は、
帰っていった。

広島の皆実にもコーナンはある。
何でもそろうホームセンターである。

会社からは、支度金として
30万円もらっている。

フライパン、包丁、鍋……
必要な調理器具を揃えた。

よく知っている
コーナンと何かが違う、

お客さんの話している言葉が
違うのである。

富山ブラック!好んで食べている、
カップラーメンを見つけた。

まだどこに行けば、
欲しいものが買える店が、
あるのか全く分からない、

今夜はこれにしよう……

10月ともなれば、
めっきり寒くなってきた。

その夜は、エアコンの暖房を、
ガンガンに上げ、持参したラジオを
聴きながら富山ブラックを啜った。

目をさました風景が全然違う。
「ここは広島ではないんだ!」と、
現実味が増した。

インターホンのチャイムが鳴った。

「ゆうこ ちゃん、
お早うございます。」

迎えに来た名川だった。
グラシエ池尻から、K・T・N フーズ
伊丹工場までは近く、

車で5分もかからない場所にあった。
ゆうこ は、送った自転車で通勤する。
これなら、15分もあればつく、

名川が管理棟にある、
"二十四の瞳"
プロジェクト室に集まった、

選ばれし伊丹工場のメンバーを
紹介していく、

ゆうこ を見て第一声は、

「こりゃ~えらい、
べっぴんさんやなぁ!」だった。

名川が命令口調でいった。

「まずは、赤井!からや、
自己紹介しろ!」

身長が190cm近くある大男で、
"二十四の瞳"プロジェクトメンバーの
リーダー的存在だ、

「始めまして赤井です、
ワテ丹波の出身で、ご先祖さん
荻野直正(赤井悪右衛門)は、

"丹波の赤鬼"と、
言われとったみたいですねん、

えらいべっぴんさんで、
ビックリしましたわ!

わからへんことがあったら、
なんでも言うたってください。

初めて大阪に来られると聞いたんで、
大阪アルアルと一緒に
自己紹介紹介をします。

ほな、ワテから……」

「大阪アルアルですか……?」

ゆうこ がキョトンとしていった。

「大阪人にとって、
"おもろい"は最高の褒め言葉です。

"おもんない" といわれることが、
最大の屈辱ですわ、

エスカレーターは絶対に右側、
左側に立っているヤツがいたら、

心の中で、
"あいつよそもんやな"と思います。
調理加工担当 赤井でした。

ほな、よろしゅうたのんます!
次、石崎!」

「大阪人というだけで、
おもろいこと言うと思われるけど、
その期待がすごいプレッシャーですわ、

それと最初に「ちゃうねん」から
会話が始まります。
同じく、調理加工担当 石崎でした。

よろしゅうたのんます!次、山田!」

何て楽しい人たちなんだろう?
ゆうこ は興味津々だ、

「大阪人同士がしゃべると、
安かった自慢が始まりますねん、

ほいで、
実は通天閣には登ったことがないんが、
ほとんどです!

同じく、調理加工担当 山田でした。

よろしゅうたのんます!
次、石川!」

「大阪人の"行けたら行くわ!は、
ほぼ120%行きません。

それと、『六甲おろし』は、
練習したことないのに歌えますねん!
同じく、調理加工担当 石川でした。

よろしゅうたのんます!
次、山本!」

「ほんまほんま わかったわかった
2回繰り返すと
嘘に近いから気ぃつけ下さい、

語尾の最後に、知らんけど……
情報が本当かどうか曖昧やけど
伝えたいときに使います。

調理加工担当 山本でした。

そやそや、広島には山本という苗字が
多いと聞いとります。

よろしゅうたのんます!
次、持田!」

「大阪人は、お好み焼で、
ごはんを食べます。焼きそばも、

それと、そばが入っとるんが
“広島焼き”と思われがちやけど、

大阪では、そばが入ったお好み焼きは
“モダン焼き”といいます!
調味料調合担当の餅田でした。

ほな、よろしゅうたのんます!
次、日村!」

名川が、笑いをこらえて頷いている。
ゆうこ は、しきりにメモしている、

「餅田さん!質問してもいいですか?」

「何でっしゃろ?ゆうこ マドンナ!
モッチン!とよんでください。」

餅田がフレンドリーぽくいった。

次に話そうとしていた
日村は面白くなさそうだ、

「コイツ点数かせぎよって、」

「本当に大阪の人は、
お好み焼でごはんを食べるのですか?」
と、ゆうこ……

「当り前ですわ!
ほな、広島では食べへんのでっか?」

餅田が不思議そうに答えた。
日村が答えを遮るように被せた。

「ゆうこ マドンナ!
会社まで何で通いはります?」

「えぇっと……
住むところが伊丹市池尻で
自転車で15分くらいですかね?」

「池尻でっか!近いですやん!
せやけど気負付けてください。

大阪では、青は "進め"、
黄色も "進め"、
赤は "気を付けて進め"やから、

同じく調味料調合担当の日村でした。
よろしゅうたのんます!」

赤は "気を付けて進め"か……

今の言葉、白バイ隊員の浩美に
聞かせてやりたかった。

品質担当だと言う横永が
大阪人の気質について語った。

「大阪人は"アホ"と言われても
傷つかへんけど、
"バカ" と言われると傷つきます。

"シュッとしてる" と言われる
誉め言葉は超嬉しいです。
カッコイイという意味ですわ!」

「横永さん シュッとしますね!
こんな感じでしょうか?」

ゆうこ に言われ、
横永は本当に嬉しそうだ、

ゆうこ はメモ帳の
その部分を〇で囲んだ、残り2人だ、
焦るように自己紹介を始めた。

「大阪では、"まあそれはアレやな"で
大体通じます。

みんなが言ったから、
これくらいしか思いつかへんわ……

商品開発の大丸でした。
よろしゅうたのんます!」

「せやな……テレビで見るけど、
たこ焼き器が一家に一台あるというのは
本気で本当、

みんなたこ焼きを作るのが、
めちゃくちゃうまい、

来年になったら12人、"二十四の瞳"
プロジェクトメンバー
全員揃うんでしやろ?

みんなでたこ焼きパティーやろうな!

0. 1トン(100kg)の白石でした

せやせや、大丸と同じ
商品開発しとりまんねん、

せやさかい、気づいたら、
こないなことになりましてん、」

白石は試食が多くこんなデブに
なったと言いたいのである。

100kgの事を0.1トンとは、
ユーモアの塊だ、

ゆうこ は、
広島には無い文化を肌で感じた。

「お前ら、なかなかおもろい
自己紹介やった!

こんなんですわ、ゆうこ さん、
よろしゅうたのんます!」

名川の関西弁を初めて聞いた。
大阪って面白いところジャン!

それと上場企業の工場長と
従業員の距離が
こんなに近いとは、

なぜか安心した ゆうこ が
そこにいた。

"二十四の瞳"プロジェクトか……

ゆうこ は、
上手くいくような気配を強く感じた。

広島を離れ、たったの3日だが、
すっかり ゆうこ の不安は、
どこかに消え去っていた。

彼らが抱いている
広島のイメージを聞きたくなった。

「私からの質問です。
皆さんは広島というイメージ、
どのようにお持ちですか?」

「せやなぁ……」

商品開発担当の0.1トン!
白石だった。

「ワシは、修学旅行で
広島に行きましてん、

映画の菅原文太だらけ、
"この人、なに怒ってはるんやろ?」
と、思いましたわ、

ほんで "せやなぁ……" の事を
"ほいじゃけん!"とか
言うんでっしゃろ?

それと "どないした?" は、
"どうしたんなら~" キツイですわ! 」

この人たちが言っているのは、
The丹波警部補のことである。

今頃、嚔(くしゃみ)を
しているに違いない、

調理加工担当の赤井が続いて話した。

「自分は、広島に親戚がおって
毎年、行きまんねん、

大阪と京都が違うように、
広島と岡山、全く正反対の
イメージですわ、

広島は、牡蠣に、酒、
もっと持って来いや!積極的、

岡山は、白桃、マスカット
控え目てな感じですわ、」

確かにそうだ、
いちいち、当たってる、

ゆうこ がそう思っている所に、
調味料調合担当の餅田が質問した。

「ゆうこ マドンナの自己紹介、
まだ聞いてませんわ!

聞かせて下さいよ……」

全員の顔を見回し ゆうこ が
自己紹介を始めた。

「2012年、25歳で
県立広島大学を卒業し西島食品に
入社しました。29歳です。」

公立の大学の卒業で、
しかも べっぴんさん!

普通に行けば大学の卒業は22歳だ、
言葉では言わないが「何故だろう?」
と、みんなの顔に書いてある。

徹社長からは、(おなご先生)として
プロジェクトリーダーとしての
任務を仰せつかっている。

どこまで話そうか、ゆうこ は迷った。

自分は、"二十四の瞳"
プロジェクトのリーダーなんだ、

今から同じプロジェクトの仲間として
彼たちと戦うんだ!

ゆうこ は、全てを話す決断をした。

「みなさんに全てお話しします。

25歳で大学を卒業したと
言いましたが、
私は高校には行っていません!」

「えっ!高校に行かなくて
大学に行きはった?」

あちらこちら、騒めいている、
名川も初耳だった。

「私は 中卒です。

"高認の資格を取り
県立広島大学(県大)に入学しました。

包み隠さず話します。

私は親に捨てられ、
養護施設で育ちました。

世間の風当たりは強く
気がつけば、傷害事件を起し
少年院に送られました。

来年、広島から
メンバーが加わりますが
彼が保護司として、

私を更生し、
大学まで行かせてくれたのです。」

あれだけ騒がしかった全員が、
ゆうこ の話に
固唾を飲んで聞いている。

名川も身動き一つせず
立ちすくんでいる……

「広島は、暴走族の多い街です。

先ほど私をを更生し
大学まで行かせてくれた
保護司ですが、

彼も "流れ星の五百旗頭"と言って
広島では名を鳴らせた、
族のリーダーでした。」

「ワシの偏見かも知れへん、
"広島=暴走族" というイメージが
頭の中に出来とった……」

広島に親戚がいると言う
赤井が口を開いた。

「確かにそうです。
祭りなど暴走族の引退式などあり、
続々と集結していました。

広島市議会の英断で
大々的一掃取締りが行われて以来、
解散に追い込まれ、

暴走族に限って昔とは、
かなり変わりつつあると思います。

チームレッドゾーンの頭、
"流れ星の五百旗頭"も
解散した一人です。」

ゆうこ の話には迫力があった。
名川は、"二十四の瞳"プロジェクの
結束感が高まったように感じた。

爽快な顔をした
白石が音頭を取った。

「よっしゃ!みんな!
来年、五百旗頭さんが来はったら、
たこ焼きパーティー絶対にしような!」

「それもやけど、ゆうこ マドンナの
歓迎会せんでもええのかいな?

赤井どないや!?」

名川が赤井の肩を叩いた。

「そうでんな、工場長、

ほな、ゆうこ マドンナ、
大阪名物串カツは如何でっしゃろ?

早速、串カツからす屋、
段取りしますわ!

みんな、今日は、からす屋に
18:00集合でええな!?」

2016年10月3日(月)、
"二十四の瞳"プロジェク成功を目指し
大阪での ゆうこ の生活が始まった。

創成

米国向け"肉じゃがオムレツ"は、
国内版、"肉じゃがオムレツ"
(N1008)とは別物であり、

改造ではなく新規開発である、
残念ながら輝明には、
米国の文化は皆無に等しい……

米国情報に詳しい
藤木の知恵が借りたかった。

有難いことに藤木は、
広島へ出張に来たときには必ず、

"お好み焼き ふみちゃん"を
訪れていた。それと輝明は、
心に決めていたことがあった。

それは、二輪車を卒業し
四輪に乗る事であった。

具体的には、長年の友、
"赤兎馬"を手放し、

真っ白な4代目 ロードスターNDに
乗る事であった。

ロードスターをフルオープンにし、
助手席に ゆうこ を
乗せ走るのを夢見た。

初めてバイクに女の子を乗せ
走ったのも"赤兎馬"だった。

貴船原少女苑を退院したばかりの
ゆうこ のしぐさが
昨日の事のように蘇る、

高宮を訪れ急遽、飯塚弁護士を
乗せたことなど走馬灯のように
輝明の頭の中を駆け巡った。

手放すと思ったら凄く切ない、

"赤兎馬"を可愛がってくれる
知っている人に譲りたい……

決心をした輝明は、
亡き母がくれた金で
赤兎馬を買った事、

貴船原少女苑を退院した
ゆうこ を乗せた思い、

これまでの経緯を書き、
引き取ってもらいたい旨を
書いたメールを藤木に送った。

藤木の返答は早かった。

週末の土曜日出張でもないのに、
わざわざ東京から来ると言う。

"赤兎馬"を譲る事もそうだが、
米国向け"肉じゃがオムレツ"に関し、

相談に乗ってもらいたい
旨を書き返信をしていた。

パッチワークされたジャケットを
身につけ、ジーンズ姿の藤木が
約束通りやってきた。

ラフな格好をした
藤木を見るのは初めてだ、

「輝明さん!
"赤兎馬"本当にいいの?」

「白いロードスター
ND契約しました。

納車は来月末です。

納車されたら
"赤兎馬"送りますので、

どうぞ可愛がって
やって下さい!」

出会いは別れの始まり、
別れは出会いの始まりである。

日本には良い言葉がある、

「白のロードスターND、
青木さぞかし、
羨しがるだろうなぁ……

それはそうと、僕に米国向け、
肉じゃがオムレツの相談ってなに?」

「実は、米国のこと
まったく分からなくて、

どんな"肉じゃがオムレツ"にすれば、
よいのか
全く構想が浮かびません、

米国の事に詳しい藤木さん、
アドバイスして、
頂けないでしょうか?」

輝明は、思いっきり低く頭を下げた。

「まいったなぁ……

米国は5年前に3か月ほど
仕事で滞在しただけですから、

それで、米国向け"肉じゃがオムレツ"
の、構想つくり、

いつまでに仕上げないと
いけないんですか?」

「藤木さん、それが年内、
引っ張っても
来年早々がリミットなんです……」

藤木がテーブルに頬杖をつき、
思案にふけている。

「この最、青木も巻き込みましょう!

あいつ3年ほど、
四井住友ニューヨーク支店に
赴任していましたから!

それと、白いロードスターND、
乗せてやると言ったら尻尾を振って
加わってきますよ!」

「青木さん3年もニューヨークで
暮していたんですか?」

輝明にとって、この上ない朗報だった。

「輝明さん、以前いったけど僕は、
"高級肉じゃがオムレツ"にするべき、
だと思うんですよ、

米国と日本じゃ、ぜんぜん
購買力が違いますからねぇ、

彼たちは良いと認めた物は、
出し惜しみせず買います!

それと富豪と言う桁は、
日本とは全然違います。

まぁ、幸福とは使いきれない金を
持ってる事じゃないですがね……」

「大量に金を持っていても
幸福ではない?」

輝明には、藤木の言っていることが、
タダ爺の言葉と同じように聞こえた。

輝明がつぶやくようにいった。

「何故、人は生きるのか?
それは自分以外を生かすためだ……」

「凄いですね!その理論、
煩悩を捨て、
悟りを開いた人の言葉ですよ!」

驚いた顔をしている
藤木に輝明がいった。

「自分の言葉じゃないですよ!
西島 忠則、
タダ爺に教えてもらった言葉です。」

「西島会長の言葉ですか!
近藤名誉顧問も言っておられました。

"あいつは凄いヤツだと……"」

改めて聞いてみると、
確かに凄い言葉名言だ、

輝明は、その言葉に、
新"肉じゃがオムレツ"を開発する
ヒントが隠されているように感じた。

「輝明さん 年収800万円の
分岐線って知っていますか?」

「年収800万円ですか?
自分には全く関係ないや!」

真顔になった藤木が話しだした。

「年収800万円を超えると
金の価値感がなくなり、
不幸に感じるっていう理論です。

富豪の中には、
高級車ベンツに乗っていて
灰皿がいっぱいになったから、

買い変える人もいます。
これって、
決して幸福じゃないですよね?

だから富豪になれば、
挙って寄付をするんです。」

「灰皿がですか……」

輝明には信じられない話だった。

「輝明さん、
米国向け"肉じゃがオムレツ"構想、
考えさせてください。

青木と一緒に、もんでみます!」

そう言い残し、藤木は、
"お好み焼き ふみちゃん"を後にした。

翌日、携帯にメール着信が入った。
差出人は青木からだった。

藤木から聞きました。
真っ白なロードスターND、
来月納車ですか!

是非とも乗せて下さい。
御願いします!

さて、米国向け
"肉じゃがオムレツ"構想の件ですが、

米国人に日本食は?と尋ねたら、
寿司、天ぷら、すき焼き です。

ニューヨークに赴任していたとき
彼たちお勧めのステーキハウスに
よく連れて行ってもらいました。

16オンス(450g位)ステーキで
20$くらいです。

美味そうにぺろりと平らげますが、
私の口にはあいませんでした……

呼びやすいようにAO(アオ)と
よばれていましたが、

AOはどうして食べないんだ?
と、いつも聞かれました。

ある日、
ホームパーティーを開く事になり、

日本から送ってきた和牛、
(丹波牛)を振舞いました。

彼たちは小さく高価な和牛を見て、
米国の牛肉は大きくて安い!

一番だ!と口々に言っていましたが
和牛を食べた彼たちは驚愕します。

「俺たちが食べていたのは、
サンダルの底だった……」と、

私は、米国向け、
"肉じゃがオムレツ"に使うのは、
和牛だと断言します!

青木

メールは藤木にもCCがされていた。
早速、藤木案が送られてきた。

青木には僕も同感です!

僕の案は、米国向け、
"肉じゃがオムレツ"にインパクトを
与える構想です。

答えから言うと、トリュフバターが、
トッピングできないか?と、
言うものです。

しかし、トリュフは高価です。

似たような味が安価に
再現できないか、

妻と試作を重ねました。

これわ!といった組み合わせまで、
たどり着きました。

その組み合わせを送ります。

  1. バター(有塩)
  2. ガーリックパウダー
  3. ジン(酒)数滴

黄金の配分まで至っていませんが、
トリュフバターに近い味です!

試して見てください。

藤木

トリュフは、地下に生息する
塊状のキノコで、独特の芳香がある。

白・黒あり、
栽培ができない白トリュフは、
120g10万以上する。

藤木は、米国向け、
"肉じゃがオムレツ"にトリュフ的、

インパクト(強い影響)を
付加させようと考えた。

それを安価に再現できないか?
試作を重ねたのである。

輝明は、早速、藤木に返信を送った。

自分は生まれてこの方、
トリュフなど口にした事はありません、

ガーリックパウダーと
書いてありますが、

ニンニクの香りが
するのでしょうか?

輝明

藤木より早くCCを加えていた
青木からの着信であった。

確かにトリュフは藤木の構想にあるよう
ニンニクのような香りも含んでいます。

ジンを数滴、加えると言うのは、
ナイスアイデア!です。

僕も白トリュフは、
1度しか食べた事はありませんが、

香りはあるものの味自体、
感じませんでした。

米国向け"肉じゃがオムレツ"に、
トリュフ、インパクトを加えるのは、
画期的な案だと思います!

海外生活をして、
強く思っていることがあります。

それは、僕たち日本人は、
あまりにも芸が無い事です。

米国では、毎週のように
ホームパーティーが開かれます。

パーティーに招待された客人は、
当たり前のように自国の伝統芸を
披露し場を盛り上げます。

ショックでした……

日本は古い歴史のある国です。
いざ、日本に関する芸を
披露しようと思うのですが、

僕にとり屈辱的なことです……

自分には何一つ、芸が無い事を
気づかされました。

恐らくほとんどの人は、
そう感じると思います。

三味線、尺八、歌舞伎……

色々ありますが、伝統芸能であり
奥が深く一般の日本人が
容易くできる物ではありません、

そんな中、
僕を救ってくれたものがありました。

それは、53年前、
ビルボードホット120、

週間1位を獲得し米国人誰しもが、
知っている日本人の曲があります。

それは、SUKIYAKI
(スキヤキ)
坂本九が歌った、

"上を向いて歩こう"です。

僕の取り得は、
ギターが少し弾ける事です。

苦し紛れに、
パーティーに集まったみんなの前で、

"上を向いて歩こう"を、
弾きながら歌いましたうた。

パーティーは大盛り上がり、
大盛況を受けました。

真に地獄から天国……

僕の人生の中で決して忘れられない
1日となったのです!

広い米国で、"肉じゃがオムレツ"を
彼らに認知させるためには、

大々的にCMを打つ必要があります。

僕からですが、
米国"肉じゃがオムレツ"の
CMソングとして、

"上を向いて歩こう"を、
採用すること提案します。

青木

藤木といい、青木といい、
輝明には絶対に思いつかない
構想であった。

米国向け"肉じゃがオムレツ"の、
構想は固まった。

後は形にするだけだ、

早速、輝明は、
ゆうこ に電話を入れた。

「おぉ、ゆうこ か!輝明です。
そっちはどうだ?ホームシックに、
かかってるんじゃないのか?」

「 毎日ぼ~っとしてるけど、
楽しくやってま~す!

本当に大阪の人って面白いよ、
毎日が "吉本新喜劇"状態!

来年こっちに来るよね?
私からの提案、

来たら誰でもいいから
指鉄砲で撃ってみてよ、

「うぅ~やられた……」って
倒れてくれるから、それで何?」

輝明の予想は完全に外れた、
子供の歓喜のような
軽く明るい声である。

「さすが、恐怖のB型だよなぁ……
それじゃぁ、俺からのミッション!」

「難しい事は駄目、まだこの辺りの、
地理は詳しくないんだから……」

"K・T・N フーズ"は、
来年、兵庫県丹波の新工場が
生産を開始する。

兵庫といえば日本を代表する
"神戸牛" である。

輝明は、その元牛である "丹波牛" を
米国向け"肉じゃがオムレツ"に
使うつもりであった。

ゆうこ に練り上げた構想を話した。

「米国向け"肉じゃがオムレツ"は、
高級路線で行くことにした。

使う肉は、"和牛" だ、

ミッションと言うのは、
安価な"丹波牛"を探し出し、

見つけたら、
サンプルを送って欲しい、」

「"二十四の瞳"プロジェクメンバーに
赤井さんていう丹波出身の人がいるの、

聞いてみる……
それとね、ごめんなさい……」

ゆうこ が急に、口を噤んだ。

輝明に断りもなく
過去を話したことを
気にしているのである。

決意したかのように話し始めた。

「断りもなくプロジェクメンバーに
"流れ星の五百旗頭"のことを
話しました……」

「そんなことか、
俺は全然気にしていないよ、

クラウドファンディングのとき
公表したジャン!」

「そうだよね!話を聞いてくれ、
みんな分かってくれた。

0. 1トンの白石さんなんか
輝明がきたら、

たこ焼きパーティー、
開いてくれるって!」

0.1トンって100kgのこと?

指鉄砲の話といい、
広島とは文化の違いを感じた。

管理棟に設けられた
"二十四の瞳"プロジェク室で、
赤井は新工場へ移設する、

伊丹工場の、
設備レイアウトを考えていた。

「赤井さん!」

「なんでっしゃろ?
ゆうこ マドンナ!」

アナログ人間である。

赤井は、定規を使い
レイアウト決めしていた。

「ちょっとまってや!」
手を止め ゆうこ を見上げた。

「赤井さんって確か丹波の出身と
おっしゃっていましたよね?

丹波牛ってご存じでしょうか?」

「あっ!丹波牛ね、

A5ランクで最高級の牛ですわ!
自分なんか、
高こうて食べた事おまへん、」

A5とは、脂肪の色沢と質、
牛肉の色沢や締まり、きめが良く、
脂肪が多く細かい、

選ばれし最高級な肉である。

「ゆうこ マドンナ!
安い丹波牛などありまへ……

輝明さん安い神戸牛
探しとるんでっか?
それなら、但馬牛やね!」

「但馬牛ですか……」

但馬牛とは、兵庫県産の黒毛和種の、
和牛のことで神戸牛の一種である。

「但馬牛なら、
ワテの友人が飼育しとります。

そうでんな~

切り落とし120gが、
300円くらいですわ、

段取りしまひょか?」

ゆうこ は、"丹波牛は、超高級!
安い神戸牛は、但馬牛!

調理の腕を見せて下さい、との
コメントと一緒に、但馬牛の切り落とし
1kgを発送した。

調理法開発

送られてきた但馬牛は、脂肪分が多く
赤身との間にさしが入っている。

これが和牛である。

N1008肉じゃがオムレツと
同じように焼き目を入れてみた。

輝明は腕を組み考え込んだ、

プレートに同じように薄く伸ばし
焼くとどうしても火が入りすぎる。

脂肪分が多く
火が入りすぎるのだ……

広げずに重ねて焼けば良いのだが、
これでは焼き目のつく面積が少なく、
メイラード反応を引き出せない、

メイラード反応とは、
焼き目をつける事により、香ばしい
うま味を引き出す料理の手法である。

すでに3日も
前に進むことができていない、

最大の問題が、
輝明の前に立ちはだかった、

こんなときは、今までの経験からして
いつまで考えても、
妙案が浮かぶはずがない、

来週は11月、思いの詰まった
"赤兎馬" ともお別れだ、

藤木さんがビックリするほど、
ピカピカにしてやろう、

解決は、以外に簡単な事だった。

輝明が洗車道具を
準備しているときであった。

ポケットの奥の携帯が震えた。

「もしもし、輝明さん?青木です。
来週、真っ白なロドスターND、
いよいよ納車ですね!

自分の車が納車するみたいで、
ワクワクして
たまらないんですよ!

納車されたら、
忘れずに連絡して下さいよ
飛んでいきますから!!」

「納車したら真っ先に青木さんに、
連絡します。約束します!」

顔は見えないが、携帯を握りしめ
青木が、大きくうなずいている様子が、
手を取るように伝わってくる。

「そうそう、
米国向け"肉じゃがオムレツ"
順調に開発進んでますか?」

「"肉じゃがオムレツ"に使う肉、
但馬牛にしようと思ってるんですが、

焼き目をつけるのに、

薄く広げると火が入りすぎ、
重ねて厚くすると
焼き目不足になって、

賽の河原状態、1週間も
ストップしてるんですよ……」

話を聞いた青木は、
調理の事など素人のはずなのに、
いとも簡単に解決方法を語った。

「そうか!メイラード反応の旨味を
付加しようとしてるんだ、

簡単なこと!

フランス料理では、
"デグラッセ" するんですよ。」

「デグラッセ?」

長年、お好みを焼いたり
調理に詳しい輝明だが、

初めて聞く言葉だった。

「すいません青木さん……
デグラッセってなんですか?」

「肉を焼いたりして、
フライパンの底に旨み成分が
こびり付いてるでしょ?

フランス料理の基本は、
ソースなんです。

ローストビーフなんか、
焼いたフライパンに
旨みがこびり付いていて、

水でもかまわないんですが、

赤ワインでフライパンの底についた
旨み成分を、こそげとるんですよ、

このことを "デグラッセ" と言って、
それを使ってソースを作るんです。

厚く焼いたら香ばしさが足りないって
言いましたよね?

メイラード反応で足りない旨みは、
デグラッセすれば、
良いんじゃないかなぁ……」

目から鱗とは、正にこの事である。
輝明に衝撃が走った!

メイラード反応だけで、
旨み成分を何とかしようと
拘っていただけだった。

「青木さん!凄すぎます!
感謝してもしきれません!!」

「はぁ~?」

青木は輝明が何故、興奮しているのか
全く理解できなかった。

「そんな事より輝明君、
来週、真っ白なロードスターND、
納車されたら、

絶対に連絡くださいよ!」

青木にとって、"デグラッセ" の事より
ロードスターNDの方が、
大事なのであった。

試行錯誤の上、米国向け
"肉じゃがオムレツ"開発にあたり、
全てのピースが揃った。

輝明は徹に、米国向け
"肉じゃがオムレツ"の試作品が
完成した事を報告した。

「徹社長、米国向け"肉じゃがオムレツ
"開発コード、
USA1008にしました。

来週、USA1008、
"お好み焼き ふみちゃん"
アンテナ店にて、試食評価行います。

開発に辺り、藤木・青木さんには、
多大な協力頂きました。

お呼びしてもよろしいでしょうか?」

「もちろんOKです。
急な開発ご苦労様でした!」

2016年11月1日

"お好み焼き ふみちゃん"
アンテナ店には、各部長はじめ、

加奈子、青木 が待機していた。

藤木は、
四越伊勢丹ホールディングスの代表とし
正式に評価メンバーに加わった。

「ここにたどり着くまで
幾度も挫折しました。

ここにいらっしゃる、
藤木、青木さんには、
感謝してもしきれません!」

輝明は、米国向け"肉じゃがオムレツ"
(USA1008)の開発にあたり、

藤木、青木の協力なしでは、完成させる
ことができなかった事を熱く語った。

米国がどのような国なのか、
まったく知識がなかった。

日本と言う物差しで
米国を測るのは大間違い、

"高級"と言う事に拘り開発した。

輝明は前を見据え、
ゆっくりと話し始めた。

「牛肉は、和牛を使う事にしましたが、
赤身肉と違い脂肪分が多く、

焼き目をつけようとすると、
どうしても火が入りすぎます。

ここで開発は、
完全にストップしてしまいました。

和牛を使うことを
諦めようとさえ思いました。

でも、あきらめたら俺の負けです。
USA1008の最大である特徴が
なくなります。

そんな中、青木さんからもらった助言、
"デグラッセ"という手法にて、
解決することができたのです。

ただ、和牛は高級すぎ
多くは使えません……

ありとあらゆる調合量、
食材を試みました。

少ない量でコクが出したい、

藤木さんの"トリュフバター"という
発案に助けられました。

思考錯誤の上たどり着いたのが、
発酵バターを使うことでした。」

「発酵バターですか!」

藤木の声がこだました。

日本では消費量が少ないが欧州では、
よく使用されている。
欧州出張でよく口にしていた、

発酵バターとは、原料となるクリームを
乳酸菌によって半日以上発酵させ、

一手間を加える事によって、
コクが深まり、

特有の風味が増すのが特徴で、
輝明は、コクを出す為、
発酵バターを採用したのであった。

輝明は、試作調理したUSA1008と
食材表を配った。

とくに力を入れた和牛肉処理に関し
絶対の自信を持っていた。

USA1008 食材表

【具材】

  • 牛肉 : 和牛
    (但馬牛 切り落とし)
  • 日本一こだわり卵
    (兵庫県産)

【トリュフ風 バター】

  • 発酵バター(北海道)
  • ガーリックパウダー
  • ジン

【野菜部】

  • じゃがいも あきつ美人
    (広島県産)
  • たまねぎ(淡路島産)
  • 神石糸こんにゃく
    (広島県産)

【調味料】

  • 醤油 : ヤマロク醤油 再仕込み醤油(小豆島)
  • だし道楽 (広島県呉市)
  • 日本酒 : 雨後の月 月光(広島県呉市)
  • ミツボシ本味醂
  • 砂糖
  • オタフクソース(広島県産)
  • 青海苔(瀬戸内海産)

食材・調味料は、
極力西日本産に拘った。

デグサッセのうま味と、
甘辛い出汁が良く染み込んだ、
じゃがいも・たまねぎ・糸こんにゃく、

絶妙な柔らかさで焼き色がつき、
トリュフ風バターがからみついた
和牛(但馬牛)、

それが、煮込み野菜に
混ぜ合わさっている。

それらを、発酵バターを加えた
薄焼き卵にくるんだ、

薄焼き卵には、
オタフクソースが塗られ
青海苔がトッピングしてある。

見るからに美味そうだ……

「美味しすぎる!」
加奈子が思わず口を開いた。

「牛肉のとろけるような食感……
芳醇な味の深さ、僕はこれ以上のもの、
食べた事、ありません!」

世界中で色んな食べ物を口にしている
藤木の率直な感想だった。

「米国で絶対にいけると思います!」

米国をよく知っている青木の言葉だ、

試食した全員、
その美味さに驚愕している。

徹が質問をした。

「確かに今まで味わった事のない
異次元的な美味さです!

それでこれ、コスト的に
N1008に比べ、
どれくらいの価格になりますか?」

「材料単価を比較すれば、
3.4倍です。」

輝明の答えに徹が逆算をした。

「原価で470円ですか……
米国への輸送コストを考慮したら、

ザックリ、
1500円と言うことですかね?」

「為替が変動するので
何とも言えませんが、
14$くらいですか……」

青木は絶対に売れると思った。

「問題があります!」

話を静かに聞いていた藤木だった。

「関税です!
おそらく何も対策せず売ったら、
その3倍になると思います。」

「3倍もですか!」

驚いた徹に藤木がいった。

「何の対策もしなければです。
西島社長、」

「分かりました……

KTNフーズ新工場では、
これを量産することにします。

量産開始は、来年の6月、
竈部長、量産の数値化含め設備の立上げ
宜しくおねがいします!」

こうして、米国向け肉じゃがオムレツ
(USA1008)は、
量産化が決まった。

藤木が所属する
四越伊勢丹ホールディングス
MD戦略統括部は、

四越の中で、
商事会社的な業務を行っている。

四越が25%出資するKTNフーズ
担当は、近道の一声で藤木に決まった。

関税対策は、
藤木の得意とする分野である。

藤木は、USA1008の
関税対策に取り組んだ。

食料品完成した形で輸出すると
3倍の関税がかかり。
1パックが4,500円だ、

さすがにこれでは高くて売れない、

安くする方法は、
ノックダウン輸出である。

国内販売しかしたことのない
西島食品は、輸出に関し、
未経験の素人である。

藤木が簡単に説明をした。

「ノックダウン輸出とは、
完成品を輸出するのではなく、

野菜調理部、牛肉加工部、薄焼き玉子部
調味部、各々の形で輸出を行い、

それらを現地で1パッケージとし
完成させるのです。

これにより高額関税から
逃れることができます。」

「と言う事は、
現地で完成させる所が
必要ですよね?」

未知の領域である。
徹が心配するのも無理もない、

「米国は日本の25倍あります。
国内の時差は6時間、

国土が広いので航空輸送網は、
日本の比ではなく、しかも安価です。

6時間もあれば、
ロスから各主要都市まで
荷物を輸送することが可能です。

ロスは西海岸で
日本からの輸送は最適な場所です。

人口は、390万人、
大阪より120万人多い大都市で
労働力も豊富です。」

広島市の約4倍……
徹は想像さえつかなかった。

タダ爺はそんな敵と
戦っていたのである。

一方、竈の量産化対策は、
確実に進んでいた。

N1008と比べUSA1008は、
ステンレスプレートに広げる肉が
厚くなる。

ゆうこ と試行錯誤の末、形にした
AIによる面積測定の精度は抜群で、

投入する肉の重さから瞬時に
算出することができた。

竈はプレートの四面を14mm曲げ、
デグラッセにより、こびりついた
旨味成分を余すことなく抽出にした。

又、輝明の行動 及び 外気温・湿度、
それらデーターをすべてdb化した。

これらのデーターを加工装置に
INPUTすれば50人の輝明が、
いるのと同じである。

「竈部長、ご苦労様でした!」

徹が竈の肩を
大きく叩きながら激励した。

2016年12月、広島の西島食品で
行う全ての作業は完了した。

年明けから、ゆうこ の出番である!

住めば都

「ゆうこ マドンナ、
正月休みはどないしはるんでっか?」

調味料調合担当の餅田だった。

「広島には帰らず、
休みは京都に行ってみようと思うの、」

「京都でっか?ワテ大学が京都です。
室町幕府の3代目将軍・足利義満の山荘
"金閣寺" お勧めですわ!

伏見稲荷大社の千本鳥居、
平等院(10円玉)や 宇治上神社も
ええでっせ、

嵐山の竹林の小径、
風情があってなんともいえまへん、

ゆうこ マドンナが歩いたら、
みな振り返りますわ……」

思いにふけるよう餅田がいった。

「大阪だったら、
モッチンお勧めの場所はどこ?」

「そうでんな、梅田ですわ!」

梅田は、JR大阪駅、阪神梅田駅、
大阪梅田駅(阪急)
人が多く集まる場所である

この地域は、埋田とよばれていたが
それでは風情が無い為、
“梅田”になったらしい……

「新大阪でおりはったでしょ?
淀川向こうが梅田ですねん、」

梅田スカイビルの最上部、
カフェ・レストランと展望台からなる
人気スポットで、

"ルミ・スカイ・ウォーク"
地上173mにある全長122mの
屋上回廊、

360度のパノラマビューは絶景で
夕暮れの美しさは言葉にならない、

餅田は ゆうこ と、
ここに来るのが夢だった。

餅田は、勇気を振り絞りいった。
心臓が口から飛び出しそうである、

清水の舞台から飛び降りる覚悟で
ゆうこ をさそった。

「ゆうこ マドンナ、
もしよろしければ、

梅田に行きまへんか!?」

「連れてって、もらえるんですか?
是非、御願いします!」

あっけない返事だった……

この言葉を発するのに、
どれほど迷ったことか?

体に重力を感じない、
まるで中に浮いているような感じだ、

「おい!餅田、
やけに機嫌がええやないか?

何か ええことあったんか?」

赤井は、餅田の顔を
覗き込むようにじっと見た。

「いや~別に♪」

誰が見ても
餅田はルンルンである。

「今日は寒いねんな、
豚まんでも食べようか?

これなぁ、いまはやっとる映画、
“この世界の片隅に” 」

「わぁ~ この映画見たかったんだ!」

この作品は、多くの個人から
クラウドファンディングを通じ、

映画部門では国内最高金額を集め、
制作された。

同じクラウドファンディングで
救われた西島食品と重なる、
ものがあり絶対に外せなかった。

梅田ブルク7、ゆったりとしたシートを
配した大型映画館、7つのスクリーンで
映画を上映している。

【この世界の片隅に】

昭和20年、広島・呉。
わたしは ここで 生きている。

1944年 (昭和19年)、
広島市から海軍の街・呉に嫁いできた
18歳のすず、

夫・周作とその家族に囲まれ、
戸惑いながらも嫁としての仕事を
ひとつずつ覚えていく、

やがて戦況が悪化し、
配給物資が次第に減る中、

すずはさまざまな工夫を凝らし、
北條家の暮らしを
懸命に守ろうとする。

そんなある日、
道に迷っていたところを、

助けられたのがきっかけで、
すずは遊女のリンと仲良くなる。

物語は、原子爆弾が投下される
運命の昭和20年8月6日に向け、
ためらいなく進んで行く……

「周作さん、ありがとう。
この世界の片隅に
うちを見つけてくれて、」

すずが放ったこのセリフが
いつまでも心に残った。

「輝明さん、ありがとう。
この世界の片隅に
うちを見つけてくれて......」

ゆうこ は、本心からそう思った。

東日本大震災に於いても、
失ってしまったのは、

物や財産ではなく
日常という普通の日々の暮らし、

今できることを
分け合う価値である。

実際に徹が原爆孤児で有ることも影響し
口で言えないほど、泣く事も出来ない
感動が ゆうこ を襲った。

餅田は、梅田スカイビル
1Fにある日本料理の店、
和心旬彩を予約していた。

こだわった料理の数々が
描きだすのは、

目、耳、舌、五感すべてを使って
感じ取る本物の良さである。

窓越しに映る、豊かな自然と
梅田スカイビル。

柔らかな自然光に包まれる
店内からは、滝見小路内で唯一

梅田スカイビルが
望める開放的は心落ち着く、

餅田が何日も考えて、考えた、
シュチュエーションである。

和食を堪能したら、空中庭園39F
スカイラウンジにあるBAR、
スターダストで、

大阪湾に沈む夕日を眺めながら、
グラスを傾ける……

古い曲だが、流れている曲は、
シャカタク (Shakatak) の
Night Birdsだ!

餅田は、毎日幻想にふけった。
夢ではない……

それが現実の物になろうと
しているのである。

映画を観終わった ゆうこ は、
すっかり広島モードになっている。

気分を変えるよう、
元気よく餅田がいった。

「どうでっか?梅田は、
ここからが、なにわ男子、
腕のみせどろや!

梅田スカイビルにある日本料理店、
和心旬彩、予約してまんねん、
ほな、いきまひょうか!」

梅田スカイビル、和心旬彩は、
歩いて15分くらいで、

梅田駅の向こう側にある。

すれ違うほとんどの人が、
ゆうこ を見て振り返る。

「何て清々しいんやろう
こんな、べっぴんさんと一緒に
歩けるなんて……」

餅田は優越感に浸った。

道中、レトロ食堂街、
滝見小路には、

マツダブランドスペース
大阪があった。

真っ赤なロードスターが壁に張り付き、
白いロードスターNDが展示してある。

「なるほど……輝明は、
この車を購入しようとしてるんだ、
カッコいいジャン!」

ゆうこ は心の中で思った。

和心旬彩なんか餅田も初めてだ、
一面ガラス張りで、緑に囲まれた
小高い石済みからは、

流水が流れ落ちる……

ここが大阪の中心
梅田とは信じがたい、

「わぁ~素敵!」

案内された4人テーブルから見える
景色を見て ゆうこ は忘我状態だ、

木箱に盛りつけられた料理は、
美しいとしか言いようがない、

世界三大料理は、フランス料理、
中華料理、トルコ料理 である。

何故、日本料理が入っていないのか?

ゆうこ は、
先生に質問したことがあった。

帰ってきた答えは、

「刺身、卵……
外国には生で食べる文化がない、

現在、世界三大料理を決めたとしたら

間違いなく日本料理が入るでしょう」

と、言われたことを思い出した。

味だけではなく「目でも食す、」のが、
日本料理である。

ゆうこ が京都に興味を持っている
理由がそこにあった。

「ワテ、京都産業大学に
4年いましてん、

勉強なんかしてまへん、
バイトばかりですわ。

京都の道は五番の目で、
迷うことありまへん、

せやから、運転バックで
案内出来ますわ!」

牛フィレ肉のピリから炒めを
頬張りながら餅田が時計を見た。

「はよかたして、上に昇りましょう、

空中庭園にあるBAR、スターダスト、
予約してまんねん!」

餅田は、大阪・神戸方面を一望できる
窓際のカップルシートを予約していた。

36階の丸窓からは、
茜色に染まった空......

淀川に架かる橋はシルエットになり、
その先にある大阪湾が橙色に映える。

BGMは、餅田の想像とは違っていたが
贅沢な空間に浸れる超一流ジャズ、

Best Taste For Miles
が、流れている。

幻想的であり、心癒される空間だ……

マスター直々にボーイを連れ
1日3組限定の
コンステレーション(星座)コース、

乾杯用スパークリングワイン
ホールケーキ
空中庭園展望台入場券

が、テーブルに並べられた。

「えっ!私に……」

ゆうこ には、花束が渡された。

「ワシからのプレゼントですわ、
大阪の想いで、忘れんといてや!」

照れ臭そうに餅田がいった。

【ストーリー 11】 著: 脇屋 義直
【最終ストーリー 12】へ続く..


この小説はフィクションです。
実在の人物や団体などとは、
関係ありません。

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