【blog小説】星降る夜に エピソード 10

係争

伝票を片手に ゆうこ が、
トラックに詰め込んだ、

"肉じゃがオムレツ"の数を、
かぞ終えた。

「香川部長、これで最後、
1000食です!」

最終チェックをした香川が、
配送伝票を運転手に渡した。

「運転手さん!
よろしくお願いします!」

西島食品、従業員全員が整然と、
二列応対に並んでいる。

「帽振れ!」タダ爺の声が響いた。
2015年3月11日(木)

あれから4年、全社員が帽子を振る中、
被災地釜石に向けクラクションを響かせ
トラックが出発した。

積み込みに立ち会った輝明も
感無量であった。

夢ではない!
丹波がポツリと言った、

「東日本大震災の被災者たちも、
簡単に、こがな美味いものが
食べられたらのう......」

が、現実のものになったのである。

社屋に消えた香川が慌てふためき、
社長室に現れたのは、
その直後のことだった。

「社長!大変です!
こんなものが......」

差し出された封筒を見て、
徹は目を疑った。

それは広島法務局から送付されてきた、
登記完了証であった。

「何ですか!これは!!」

代表取締役である、西島 徹が、
辞任したことになっていて、

田島と言う人間が新たな
代表取締役として登記されている。

株主総会が開催され、
その場で解任されたというのであれば
分かるが、

そもそもこの会社の株主は、
自分しかいない......

誰かが書類を偽造し、
登記の申請をした事は明らかで、

そもそもそんなことって
可能なのだろうか?

「まったく、
どうなっているんだろうか?
わけが分からない......」

徹は頭を抱え込んだ。

中小企業の西島食品に法律に詳しい
弁護士などいるはずもないし、

創業以来初めてのことである。

香川が加奈子にいって
インターネットを使い調べた。

「関係ある情報でてきませんね......」

『偽造登記』というワードで
検索したら、それらしい情報が、
次々と表示された。

加奈子が内容を読み要約した。

「もちろん、犯罪となる行為ですね、」

「当り前じゃぁないですか!」
加奈子から情報をもらい駆けつけた
輝明だった。

大企業だったら一社員が社長室に
駆けつける事などあり得ない、

西島食品がいかに家族的な
会社であるのか物語っている。

「有印私文書偽造罪・同行使罪、
及び電磁的公正証書原本不実記録罪。

3ヶ月以上5年以下の懲役、
それを考えなければ、登記自体は、

意外と簡単にできて
しまいますね......」

加奈子が次々と情報を集めていく、
香川が感情に任せいいはなった。

「こんなことがまかり通って
良いわけないだろうが!

それじゃぁ、
やったもん勝ちじゃぁないか!」

輝明と同じように駆けつけていた、
ゆうこ がいった。

「うちの会社に、
法律に詳しい人がいないのは、
究極の弱点ですね、」

「料理のことは分かっても法律のことは
全然分からないからなぁ......」
と、輝明、

「くそ~ どうしたらいいんだ!」
輝明は頭を抱え込んだ。

ゆうこ が思い出したようにいった。
「広島保護観察所の浅田さん......」

「そうか!浅田さん
法務局の職員だよな!」
輝明も思い出したようにいった。

今 ゆうこ が、ここにいるのも
浅田のお陰だと言っても過言でない、

輝明を ゆうこ の担当保護司として
出会わせたのが、

広島保護観察所の浅田だった。

輝明は早速、
携帯で浅田に電話をかけた。

「五百旗頭と申します。
処遇第一部門 事件管理班の浅田さん、
いらっしゃいますでしょうか?」

「五百旗頭様ですね?
しばらくお待ちください、」

長い……

保留の渚のアデリーヌが
繰り返し流れている。

しばらくして音楽に変わり
先程の女性の声が聞こえた。

「申し訳ありません。
浅田は広島法務局の方へ
移動になりました。」

そう言って
移動先の電話番号を教えてくれた。

輝明は折り返し、
その番号に電話をかけた。

懐かしい浅田の声が聞こえた。

「ご無沙汰しております。
五百旗頭です。その節は、
大変お世話になりました、」

「これはこれは、五百旗頭 先生、
お元気でしたか!

早いもので、
あれから9年もたちますか?」

輝明は保護司を経験し、
人間的に成長した事、

下山 ゆうこ 及び、
自分の近況について話をした。

「下山 ゆうこ は、
頭のいい子で県大に進み、
西島食品で食品の開発を行っています。

人生とは分からないもので自分も同じ
西島食品に勤務しています。」

「五百旗頭 先生、知っていますよ、
"輝明と ゆうこ の
肉じゃがオムレツ"ですよね!」

浅田の返答に、輝明は
照れくさくて仕方がなかった。

「僕はねぇ、有名人のあなたたちと
知り合いであること、

自慢で仕方がないんですよ!

局内でいつも
言いふらしているんですよ。

それと"肉じゃがオムレツ"
最高に美味いですよね!」

「それが実は、法律関係の問題に
巻き込まれ困っているんです......」
輝明は浅田に本題を切り出した。

「五百旗頭 先生、
法律関係の事と申しますと?」

浅田の、質問に対し、
これまでの経緯を輝明はすべて話した。

話を聞いた浅田は詳細に答えてくれた。

「登記を受け付ける法務局では、
登記申請に必要な書類が形式的に
整っているかを審査するだけです。

本当に、
取締役の辞任・解任があったのか、

提出された書類が本物なのか、
偽造されたものなのかについては、
審査をしません。

法務局に行き、

『偽造だから登記手続を
ストップしてください。』

と言っても残念ながら法務局としては、
形式的に書類が整っている以上、
手続を止めることはできません。」

浅田は、ストレートに答えた。
又、ダメ押しのように詳しく話した。

「法務局として、
取締役の辞任登記が申請され会社に、

『貴社の役員の
辞任登記申請がなされました』という
通知が届いていると思いますが、

先ほどもいいましたが、
それを見て慌てて法務局に行っても、
手続を止めることは不可能なんです。」

「えっ!それでは、
偽造登記申請が行われた場合、
どうしようもないのでしょうか?」

輝明は言葉を失った。

無言になった輝明に対し
浅田が助言してくれた。

「方法は一つです。
偽造登記申請だと結審させ裁判所から
登記申請無効決定書を法務局に
提出することで、

登記申請は却下されます。

五百旗頭 先生、西島食品さんの
顧問弁護士に
相談されては如何ですか?」

「顧問弁護士......?
西島食品にそのような人はいません、」

追い詰められている輝明に対し
浅田が助け舟をだした。

「難しいかなぁ、
ヤツは変人だから......

実は、学生時代の友人なのですが
剛腕弁護士が一人いるんですよ。

ただ変わり者で、今まで弁護したこと、
数回しかありません、

ただ、そいつが弁護し
裁判に負けたことはありません、」

「弁護したことは数回しかない、
しかし負けたことはない......」

譫言(うわごと)のように
輝明がつぶやいた。

「五百旗頭 先生、先ほど変人で
変わり者と言いましたよね、

自分が納得した物件しか
受けないからなんです。

安芸高田市の高宮という
田舎で野菜を作っています。

名前は、飯塚 正、
携帯は持っていませんと言うか、
番号は分かりません。

住所を教えますから尋ねてみますか?」

薄明りだが輝明にとっては光明だった、
輝明は教えてもらった高宮に向け
赤兎馬を走らせた。

教えられた高宮は三次の手前の町で、
段原から60km離れていた。
県道37号線で1時間かかった。

一面、田んぼと畑が広がる田舎町で
農道には、水仙の白い花が咲き誇り、
いい香りが漂っていた。

一般にトマトは、
ビニールハウスで栽培する。

浅田に教えてもらった住所に近い
畑に植えられているトマトを見つけた。

ガキの頃、かいだ
懐かしいトマト臭さを思い出した。

品種改良なのか不明だが、
スーパーに売っているトマトは、
臭いが薄い、ニンジンにしてもそうだ!

気が付けば輝明は、
トマトを手に取り臭いを嗅いでいた。

「あんた、だれ!」

麦わら帽子を深く被り、
日焼けした男が近づいてきた。

「これ、theトマト!
匂いが強いですねぇ!」

「それはそうだ!
ビニールハウスではなく自然の中で
育てたトマトだからな!

食べてみるか?」

そう言うと、ぶっきらぼうに
男がトマトを輝明に差し出した。

太陽の光を浴びトマトは生ぬるかった。

「美味いです!
なんて濃い味なんだろう!」
ガキの頃の風景が鮮明に蘇った。

違う畝に植えてある旬のキャベツに、
輝明の目がとまった。

「広甘藍......
もしかして広甘藍ですよね?」

「あんた、
広甘藍を知っているのかね?」

毎日、広甘藍をきざんでいる
輝明には間違えようがなかった。

「実は私、広甘藍を使って
毎日、"お好み焼き"を焼いています。

甘くて瑞々しく、
これに勝ものはありません!」

「甘く瑞々しく虫がつくんで、
高宮で栽培してるの自分だけだよ。

飲むか?」

男は作業用ポットから、冷やした麦茶を
プラスチックのコップに注いでくれた。

「ところであんた、
こんな田舎に何しに来た?」

「実は、勤めている会社が
法律関係の問題に巻き込まれ、

高宮の 飯塚 正 さんと言う
弁護士を訪ねてきたんですよ、」

男は不思議そうな顔をし輝明を眺めた。

「飯塚 正 と言う名前、
だれに聞いた?」

「広島法務局に勤めている
浅田さんと言う人からです。」

男が遠くの山並みを見つめいった。

「浅田、あいつ元気にしていましたか?
お宅が探してる 飯塚 正 とは、

自分の事だよ!」

輝明は慌てて自己紹介をした。

「えぇ......私は、
広島市内にある西島食品に勤めている、
五百旗頭 輝明 と申します!」

輝明は、"肉じゃがオムレツ"の、
開発から、これまでの一部始終を、
飯塚に話した。

「そういう分けか、ヨシ分かった!
あんたの会社、弁護させてもらうよ、

この物件は急ぐな……着替えてくるので
直ぐ会社に連れてってくれ!」

「飯塚さん!今からですか?」

予想もしない展開に輝明はたじろいだ、

「何か問題でも?」

そう言うと飯塚は、
赤兎馬の後ろに飛び乗った。

赤兎馬は元気よく西島食品に向け
突っ走っていく、

心地よい風が飯塚を歓迎した。

「ヤッホ~ 自然と一体になれる、
バイクっていいよなぁ!」

こどものように飯塚がはしゃいだ、

撃退

「徹社長!弁護士の飯塚さん、
飯塚弁護士を連れてきました!」

ほんの数時間前に輝明は出たはずだ、
その声を聞きみんな集まってきた。

駆けつけてきた ゆうこ を見て、
飯塚がいった。

「"輝明と ゆうこ の
肉じゃがオムレツ!"

あなたが ゆうこ ちゃんか!?」

香川が徹に変わり、
一部始終を飯塚に説明した。

「不法な登記申請が行われた場合は、
どうしようもないのでしょうか!
飯塚先生!」

飯塚は冷静に答えた。

「もちろん、もとの登記を復活させる
訴訟を起こし、勝訴判決が確定すれば、

判決書を法務局に持って行き
登記を戻すことはできます。

しかし、これでは手続に数ヶ月かかり、

その間に、
新しく代表取締役になった者が
会社の資産を廉価で売ってしまったり、

会社が借金をしたような書類を
作り上げたりするなど、

会社の財産を流出させてしまう
可能性があります。

大半はそれが目的ですが、

今回の場合、
目的はそこじゃないでしょう......」

みんな飯塚の一挙手一堂に、
注目している。

「まず行うのは、訴訟ではなく
"仮処分"という手続で、
登記手続を一時的に止めます。」

みんなが話を聞きうなづいている。

「"仮処分"とは、訴訟に先立ち
短期間で仮の決定を行う手続です。

数ヶ月かけ、訴訟をやっていたのでは
手遅れとなってしまう、という、
緊急の場合に用います。

ただし、この手続はスピードが命なので
一刻も早く申し立てる必要があります。

仮処分手続の流れですが、
申立てから数日~1週間後くらいに、

第1回目の審理の日が指定され、
審理が行われます。

特に問題が無ければ、
審理手続は1回か2回で終わり、
仮処分の決定がなされます。」

飯塚が念を押した。

「仮処分とは、
あくまで訴訟に先立つ仮の手続です。

その後、訴訟をし
勝訴する必要があります。

一刻も早い対応が必要です。
そんな分けで今から、
"仮処分"という手続を行います。」

とにかく仕事が早い!
みんな飯塚の仕事の速さに驚いている。

輝明は浅田が言った、
「飯塚は負けたことがない、」と言う
理由が分かったような気がした。

談合

大阪では、

早速、浪速割烹 清川 に集まり、
これから先の悪だくみの打ち合わせが
行われていた。

東条が余裕をかまし言いはなった。

「酒が美味いなぁ~ 西島の田舎もの、
今頃はさぞかし驚いとるやろな?」

「法務局から届いた、
『貴社の役員の辞任登記申請が、
なされました』ちゅう通知見て、

腰を抜かしてるんとちがいまっか!」
茂木が東条に酌をしながらいった。

「ほんで茂木さん、
今後、どないに進めますかね?」

東条が継がれた杯を一気に煽った。

「今回は、
田島の腕にかかっとります!」

「茂木さん、さいでっか?
それじゃぁ田島君に、
頑張ってもらわへんといけまへんね!

しかしこの魯山人の器、見事やね。
田島君、この魯山人の器のように
バシッと決めてや、

期待しとります。」

そう言いながら東条は、
田島のチョコに"守破離"を
注ぎ入れた。

「東条社長、ここらで作戦内容を
発表してもええでっしゃろうか?

田島、ワレもよぉ聞いけよ、」

話に呼ばれていた名川は、
一人手酌で目立たないよう
隅っこで飲んでいる、

茂木が自慢げに語りだした。

「先ずは田島が広島の西島食品に
乗り込む、ええか、

これはあくまで田島の
単独行動と言うわけやで、

田島と言う人間が新たな、
代表取締役として登記されとる。

法律上、解任された西島は、
どないすることもできひん、

赤子の手をひねるようなもの、

ほんでや!」

その言葉を聞き、東条が茂木の言葉を
遮るよう上目づかいでいった。

「茂木さん!西島の資産を廉価で、
我が東条フーズに売ってしまいまっか?

取締役は田島君やから好き放題やね!」

「まぁ、それもええんやけど、
田島にはもっと効果的な
仕事をしてもらいます。」

余裕をかまし小馬鹿にした茂木に、
東条も金歯をちらつかせ、
軽く鼻で笑った。

勧められるままに飲んだ"守破離"が、
だいぶ回ってきたようである。

「茂木さん、それで効果的な仕事とは、
なんでっしゃろ?」

赤ら顔した東条が嫌みたらしくいった。

茂木が田島に"守破離"を
注ぎながらいった。

「まぁ、今回の『偽造登記』は、
時間勝負ですわ、

調理方法とか調味料の配合、
世の中で一般化された物は、
特許でしばれまへん、

せやから、秘伝として隠すんですわ。

ええでっか、
西島の代表取締は田島です。

田島が"西島肉じゃがオムレツ"の、
秘伝をゲロさせる。

それを名川工場長に教える。

名川工場長はそれをフル生産し、
西島より数パーセント安く市場で売る。

これで東条の、
"肉じゃがオムレツ"は市場に出回る。
西島は生産量がグッと落ちる、

結構な設備投資しとるでっしゃろ?

とたんに西島は資金繰りに困ると
言う分けですわ。」

調子に乗った東条が、
手酌酒をしながらった。

「面倒ですわ茂木さん、
こうなりゃ、西島には、
とっとと潰れてもらいましょうや!」

それを聞き赤ら顔をした、
田島が言い放った。

「西島がなくなれば、
"肉じゃがオムレツ"はウチの
独擅場ですね!」

茂木は 気取った格好で
盃を口に運びながらいった。
「田島!甘いわ!」

「どういうことでっか?茂木さん、」

鯛の塩焼をつつきながら
東条が質問した。

茂木は気障(きざ)ったらしく
人差し指を立て左右に振った。

「目の前にお宝を満載した船がおる。

果たしてそのまま沈めてしまうのが、
ベストだろうか?

どないや?田島、」

「そりゃ~お宝をごちになってから、
たたき沈める!です!」

「だろ~ぅ?しかし田島、
お前は、まだぬるいわ!」

茂木の目は、
サバンナで獲物を見る目だ、

「西島は田舎の中小企業やけど、
強力なライバルであるところ以外は、
従業員の質の高さにある。

潰すには惜しい宝や。

せやさかい、痛めつけ、
死にそうになったところで助ける。」

「助ける......」

予想外の答えに
田島が上の空のように口を開いた。

「ここは、よぉ聞いてや、」
そう言って茂木は話し始めた。

「いきっとる西島の主力商品はズバリ、
"肉じゃがオムレツ"や、

調子に乗り、
めっちゃ設備投資、し腐っておる。

その"肉じゃがオムレツ"が、
売れんようになったら
一気に資金繰に詰まる。

田舎者の西島は、
真坂、田島と東条フーズが、
結託しとるとは夢にも思ってへん。

ほんで、神様、
東条フーズの出番やがな!

ウチが資金の援助を申し入れる。
その代わりに、
西島は株式の過半数を差し出す。

西島は東条フーズの傘下に入るって
わけや。どや、このストラテジー、」

「茂木さん、
ストラテジーってなんでっしゃろ?」

田島は初めて聞く言葉だろう、

「田島、ストラテジーとは、
簡単に言うたら"戦略"のことや、」

「せやけど、そんな条件、
西島が飲み ますかね?」

田島は、疑問を抱いた。

「金が底をつき、従業員に払う給料も
心細くなってくる。

仕入れ代金の支払い期日が迫り、
金融機関からは借金の督促が来る。

このままいけば、
従業員が路頭に迷うってときに、
ウチの救済案は、神に見えるやろうな。

この餌に食いつかない魚は、
すでに死んどるって事や!」

「さすが、 茂木さん。
考えることがちゃいますね!」

そう言いながら東条が拍手をした。

「東条社長、
今までは法ギリギリのところを、
やってきましてん。

今回の『偽造登記』は、
違法性のある手段ですわ。

3ヶ月以上5年以下の懲役、
50万円以下の罰金、

そないな事で、保釈金を速やかに払い
田島を自由にしてやって下さい。

よろしゅうたのみます。」

「茂木さん、みなうまくいけば、
報酬はたんまりと、
はずませてもらいまっせ!」

存在感がないように隅っこで、
会話に加わらず一部始終を
聞いていた名川が立ち上がった。

「東条社長、ワシ用事がありますから、
これで失礼します。」

「何ですのあれ......?」

田島が不審そうな視線を送った。

名川は黒い手提げかばんを大事に抱え、
そそくさと部屋を出ていった。

「まぁ、名川の気持ちも分らんこと、
ありまへんなぁ、”総会屋”を使い
会社を乗っ取ったんやから。」

総会屋とは、株主の権利を悪用し、
対象企業から不当に利益を
得ようとする集団のことで、

名川食品を倒産間近にまで追い込み、
企業価値を大幅に下げさせたところで
東条フーズが乗っ取った経緯があった。

東条は、忠実にコツコツ働く
名川を信用していた。

「茂木さん!今日は前祝や!
パット行こか!」

そう言うと東条は手を叩き、
女将を呼んだ、

AI

「竈部長、将来のことを考え、
今からAI食品加工の研究、

進めておいた方が、
良いと思うんですよ、」

ステンレスプレートに広げた
薄切り牛肉を眺めながら、
ゆうこ がいった。

「確かにそうだね、ゆうこ ちゃん、

早速、徹社長と予算取りの最大の壁、
畑山経理部長を
説得しなきゃいけないなぁ......」

西島食品ではカメラを使い、
ステンレスプレートに広げられている
薄切り牛肉の総面積を知ることにより、

重量を基に平均的な厚さまで
瞬時に求めようとしていた。

最終的に、使う肉の品種を選択すれば、
外気温、湿度を計測し、

ランダムに焼く温度、時間が自動的に
決まるところまで目標としていた。

成功すれば、日本初と言うか
世界初の食品加工技術である。

近いものでは、スーパーに売っている
鮭の切り身がある。

これは、流れてくる三枚におろし、
重さが違う片身に対し、

全体の形状を認識し、
等分数を設定すれば同じ重さになるよう
レーザーを使いカットする機械である。

三枚におろした鮭は全て形が違う、

これをAI技術を使い、同じ重さで
等分にカットする機械である。

傍から見たら大したように見えないが、
日本が世界に誇る、
超ハイテクな装置なのである。

ただ皮面しかカメラ測定しないので、
どうしても誤差が出るが
実際に使えるレベルである。

AI(人工知能)と言うと
映画ターミネーターを想像し、

「機械に人間が征服される?」という、
イメージを抱くが、
まったく心配する事は無い、

AIについて補足説明をすると、

処理方法が人間の脳に似た、
ニューロネットワークをいう
構造をしていて、

間で何段もの偏微分計算を繰り返し、
与えられた入力条件に対し
目的の答えを出す仕組みである。

平たく言えば、千差万別で
統一のない入力情報を、整理認識し
正確な答えを出す技術である。

さて、カバチ(能書き)は、
これぐらいにして
小説のストーリーに移ります。

「ゆうこ ちゃん、
技術的な内容をグダグダ書いても
理解してもらえないので、

僕が今から言う順番で稟議説明書を
作成してもらえないかなぁ......」

1. 目的
2. 実験方法
3. 必要機器
4. 実験日程
5. 効果
6. 必要予算

一般教養レベルではあるが ゆうこ は、
AIについて県大で習っていた。

情報として足りない所は、
県大の図書館に通い調べ上げ1週間で、
稟議説明書を完成させた。

目的は、日本初、
AIによる薄切り牛肉調理加工の実現、

効果は、50名の輝明による自動調理
と、銘打った。

予算は機材、人件費含め 500万円、
直接的に利益を生みださないものに
西島食品は投資する余裕などない、

その事は竈もよく分かっていた、

中小企業庁の補助金制度、
補助率1/2以内 上限額500万円、

使えるよう必死になって、
申請書を書き上げた。

結果、AI補助金として
250万円勝ち取ることに成功した。

これは、国民の血税である、
1円も無駄にはできない!

まとめ上げた稟議説明書を持参し、
竈と ゆうこ は社長室のドアを叩いた。

「座ってゆっくり話しましょう。」

徹は、竈と ゆうこ を
応接セットに座らせた。

手渡した稟議説明書を一瞥し
徹がいった。

「とうとうここまで来ましたか?
日本初、AIによる
薄切り牛肉調理加工の実現、

夢のある目的ですね!
効果は、50名の輝明君ですか!」

この項目を読み徹が微笑んだ。

「さてと、必要予算は、
500万円ですか?」

「最大で500万円です。
ここまではかからないかと......」

すぐさま竈が反応した。

「ウチの財務大臣を呼びましょう!」

そう言って徹は、
経理部の畑山に電話をかけた。

畑山がニコリともせず厳しい目で
稟議説明書に目を通している。

ゆうこ は自分自身が
観察されているようで、
落ち着かなかった。

眼鏡を下げ畑山がいった。

「正直、500万円はきついですね、
何とかなりませんか?ズバリ言います。

私の腹積もりは、200万円です。」

それを聞き竈が、すかさず
中小企業庁の補助金が、
250万円交付される書類をだした。

「実質、250万必要と
言うことですか?
社長、どうしたもんですかね?」

畑山は、もうけなしの予算(真水)で、
あることに慎重になっているのだ、

そんな畑山の肩を徹が叩いた。

「畑山部長、四井住友銀行の
青木支店長も言われたじゃないですか!

『夢のある会社ですね、
ぜひ、この広島の地から大きく
成長してください。』と、

畑山部長、日本中をアッと言わせて、
やろうじゃないですか!」

「やってやりますか!徹社長!」

畑山は、稟議説明書を握りしめ、
強く頷いた、

「そう言うことですので、
竈部長も西島Lも頑張って下さい。
期待しています!」

徹が爽やかスマイルを見せた。

西島食品の初AI食品加工は、
コードネームを、1008AIとした。

こうして始まった1008AI
実験だが、半月経っても、
まったく手探りの状態であった、

カメラで認識するプレート上に並べた
薄切り牛肉の、
面積出力誤差が大きいのだ、

ここをクリアーしない限り、次の
肉の厚さ算出はできない……

何度、偏微分計算しても、
ネットワーク各々のニューロポイント、
ウエイト値が定まらない。

速い話、ウエイトと言う係数値を
決めることができないのである。

偏微分とは、高校で習う微分とは違い
大学で習う立体的な微分だ、

週に1回、製造現場に顔を出し
装置の設定値指導している、

輝明がやってきた。

「どうした ゆうこ?
精も根も尽き果てた顔をして?」

「何度やっても誤差が大きすぎて、
そこから先に進めないの......」

疲れ果てた表情で生気がなく
ゆうこ が、かぼそい声でいった。

「そうか、こんなときは、
いつまでやっても時間の無駄だ!

早く帰って熱い風呂につかり、
ぐっすり寝ろ!

明日になれば妙案が浮かぶ、
何度も俺はそういう経験をしてきた!」

「そうだね......」やけに素直である、
肩を落とし ゆうこ が引き上げた。

熱めの設定にし、水圧をガンガンにして
ゆうこ はシャワーを浴びている。

水圧が強すぎ
片目しか開けることができない、

その状態でシャンプーのボトルに
手を伸ばした。

ボトルが簡単につかめない、

クソ~と、シャワーを止め
ボトルをつかむ、

「あれ?」さっきつかめなかった、
ボトルがいとも簡単に取れた。

ドライヤーで髪を乾かしている
自分の姿をぼんやりと眺めていた、

鏡に映った自分を見て ゆうこ は、
なにげなく思った。

「なぜ動物には、
目が二つあるんだろう......?」

部屋に戻った ゆうこ は、ネットで
『動物に目が二つある理由、』という、
ワードで検索した。

「物体を立体的に見るため……」

どのページを見ても
共通した答えが書いてあった。

今まで当たり前だと
思っていた事を深堀していく、

目は、ものを見るところだけど、
目に物体が映ったとき、

"目"そのものが感じるわけではなく、
映った像が、
別の信号に変換され脳に送られ、

「ものが見えた」と感じる。

ものを見たとき、右の目と左の目では、
異なる像が映つるが、

右の目の外側半分は、右の脳に、
右の目の内側半分は左の脳へ、

左の目の外側半分は左の脳へ、
左の目の内側半分は右の脳へ送られる。

「んん......?」日本語が複雑だ......

「要約すると、
両方の目で見た右半分が右脳に、

左半分が左脳に、
とどけられるということ?」

ゆうこ が次々とページを、
スクロールしていく、

「ふたつの象を脳の中で
一つにする処理され、

全体の像が見えたと認識するわけか……

音も同じで、動物には耳が二つある、
右左音源のステレオは、
だから音の広がりがある分けなんだ!」

ゆうこ は、「ハッと!」気付いた。

薄切り牛肉の面積測定、理由はないが、
1つのカメラ測定に拘っていた。

測定するカメラを2台にして、
ニューロ解析してみよう!

翌朝、ゆうこ は、
生気に満ちあふれ出社した。

朝だと言うのに竈は、疲れ切った表情で
"サイエンス"という雑誌を
一瞥していた。

「おはようございます!竈部長!」
と、いう元気な ゆうこ の声に
雑誌を閉じ竈は ゆうこ を見上げた。

「なになに、ゆうこ ちゃん、
やけに元気がいいじゃない?」

ゆうこ は動物が、
物を見る原理を説明し、

カメラを2台にして、
測定することを竈に提案した。

「そうか!カメラ2台で測定か!」

エンジンがかかったように
竈に生気が蘇った。

「よし!わかった!
僕は線形代数を使い2つの映像を1つに
変換するプログラムを構築するよ!

ゆうこ ちゃんは引き続き、
偏微分してニューロネットワーク
解析するの御願いします!」

そう言いかけて竈は修正した。

「ちょっと待って!ゆうこ ちゃん、
カメラ二眼にすることで
Z軸値が鮮明になるよね?

計算が複雑になるけど
全微分してくれるかなぁ……」

竈が言っているのは、
「航空写真を一眼で撮影しただけだと
X-Yの平面だが、二眼にすることで、

Z(奥行)が鮮明になり、山の凸凹を
考慮した面積が計算できる、」
と、言っているのである

絶対に上手くいく!
長年の経験から竈は確信した。

2週間後、竈が作成した、
変換プログラムと、

ゆうこ が作成した、
ニューロネットワークプログラムの、

統合を行い1008AIは完成した。

実権再スタート

1度に加工する薄切り肉の最大面積を、
100万平方mmとした。

実験用に10万平方mmから
5万飛びに、100万平方mmまで
正確に面積測定した、

20枚のプレートを用意した。

これまで何度やっても、
チャンピオン値、11.78%、
10%台の誤差が最高だった。

これでは話にならない、
目指すは誤差、2%だ、

チャンピオン値とは、
これまでに叩き出した最高値を指す。

竈かこれから行う測定実験内容と、
AIによる目標面積測定誤差が、
2%以下であることを伝えた。

測定開始の話を聞きつけた、
徹、畑山、加奈子、輝明、

そして営業の香川まで
固唾をのんで見守っている。

「それでは、1008AIの、
測定実験を開始します!」

ゆうこ が
最初の10万平方mmプレートを
置台にセットした。

祈りを込め竈が、
スキャン開始の緑釦を押した。

改良された二眼カメラが、
プレートをスキャンして行く、

ほんの5秒でスキャンは完了し
画面に測定値が表示された。

9.903万平方mm
誤差 0.0097、

緑の数値が表示された。

目標は0.02以下、
それを超えたら赤で表示される、
ことになっている。

1回目、成功である。

安堵のため息と拍手がおこった。
0.012、0.0136......

「これは心臓にわるいな!」
汗を拭きながら香川が漏らした。

竈がいった。

「みなさん、これが最後の測定で、
面積は100万平方mmです。

2%ですから、98万平方mm以上の
測定値が必要です。」

ここまでは、全てクリアーしている。

ゆうこ が祈りを込め
最後のプレートを置台にセットした。

「測定開始!」
竈が緑色の起動釦を押した。

測定完了した画面には、
98.13万平方mm
誤差 0.0187、

緑の数字が表示されている。

誰も声を発しない、
ゆうこ が大きな声でいった。

Experiment
successful!

実験成功です!」

「よっしゃ ー っ!」
香川が喜びを爆発させ、

畑山は、久々に感情を表し、
ガッツポーズをしてみせ た。

歓喜と共に、誰彼なく抱き合う。
こらえていた涙にむせぶ竈がいた。

不意

田島が血相を変え
茂木のもとえ走り込んだ。

「西島、
田舎者のくせに行動が速いですわ!

広島地方裁判所に登記申請の
異議を申し立て、

"仮処分"が受理されました。」

「なんやて!
ほんで法務局に上申書を提出たんか?」

あまりにものスピードの速さに茂木は、
動揺している、

「一時的に登記手続が止まっとります。
弁護士とか参謀がいるんでっかね?」

「田舎、中小企業の分際で、
そないなもんいるはずあれへん!」

十年以上、
この家業をやってきた茂木には、
初めての経験だった。

「田島!
こっちは大山弁護士がついとんねん、

安心せぇ!」

「さいですね、西島の野郎、
痛い目にあわさへんと、
いけまへんねぇ、」

茂木は急いで東条に連絡を入れた。

「東条さん、登記のことやけど
少しややこしい話になっとりまんねん、

大山顧問弁護士を、
お借りしたく電話いれました。」

茂木は詳細を東条に説明した。

「そんなことかいな?たやすいことや!
それはそうと、真坂とは思うが、

こちらのたくらみ
漏れてへんやろうな?」

東条のたやすいという言葉を聞き、
茂木は安心した。

大山は関西でも5本の指に入る
切れ者弁護士だからである。

「大丈夫でっせ、漏れてはおまへん!
予定より少し時間がかかりまっけど、

ほな、まかせてもらいます。」

余裕をかませ、
嘲笑まじりに茂木は電話を切った。

訪客

今日は、1週間に一度、
輝明が出社する日であった、

赤兎馬を飛ばし西島食品の門を、
くぐろうとしたとき、

一人の男が黒い手提げかばんを抱え、
じっと社屋を見つめ立ちすくんでいた。

「なにか用ですか?」

呼びかけられたことに気づき、
男は立ち去ろうとしたが、
不審に思った輝明が引き留めた。

「僕はこの会社に勤めている、
五百旗頭 輝明 と申します。

怪しいものじゃありません!

何か御用があるように、
お見受けしましたので
声をかけました。」

腕をつかまれている男が
渋々話しだした。

「実は、ここの西島 忠則さんに、
お話ししたいことがあり、
大阪から来ました。」

「これは失礼しました。

忠則会長と、
お知り合いの方でしたか?」

輝明はつかんでいた腕を
急いで離し陳謝した。

「私、こういう者です。」と、
差し出された名刺には、

東条フーズ 関西工場長
名川 敏一 と書いてあった。

「ご無礼のほどお許しください、

あの、東条フーズさんの
工場長であらされましたか!」

名川が、ここを訪れたのは二度目で、
去年、工場見学をし、
徹、香川、加藤 とも面識があった。

「自分は週に1回しか出社しません、
知らぬこととは言え失礼しました。

少しお待ちください......」

そう言うと輝明は、
加奈子に電話を入れた。

「忠則会長も徹社長も、
いらっしゃいます。

ご案内いたしますので、
ついてきてください。」

「これは、名川工場長、
わざわざ広島までどうされましたか?」

徹が応接セットに案内をした。

「大変申し訳ありませんでした!
知らぬこととは言え鴇田住職の大事な
戦友を裏切る所でした!」

名川は、忠則に対しフロアーに
土下座をし頭を床にめり込ませた。

「待ちなさい!輝明!」

只ならぬ空気に、輝明は部屋を
後にしようとしたが、
忠則に呼び止められた。

「名川工場長、
鴇田住職と言われましたよね?

頭を上げソファーにお掛け下さい、」

忠則は、名川をソファーに座らせた。

「急にどうされましたか?
名川工場長、」

緊張している名川に対し
徹が優しく声をかけた。

名川はこれまでの
経緯一切を話し始めた。

「私は神戸大空襲で、
肉親を全て失いなった戦災孤児です。

浄徳寺という寺がありまして、
復員された鴇田さんが後を継ぎ
孤児院を始められました。

有難いことに私は、そこに引き取られ
生きることができました。」

神妙な面持ちで、
徹が食い入るように話を聞いている。

それもそうである、徹も原爆孤児で
忠則に拾われたからである。

神戸大空襲......火垂るの墓......

輝明は以前、ゆうこ に勧められ観た
アニメを思い出した。

兵庫県神戸市と西宮市近郊を舞台に、
戦火の下、親を亡くし、

引き取り先の叔母と険悪な仲にあった
14歳の兄と幼い4歳の妹が、

終戦前後の混乱の中を兄妹で独立し
生き抜こうとするが、

結果誰にも相手にされなくなり
栄養失調で無残な死に至る物語だった。

映像を観て、不覚にも号泣したことを
鮮明に思い出した。

少し間を置き、徹が口を開いた。

「あなたもそうでしたか、
実は私も西島 忠則に育ってもらった
原爆孤児なのです、」

「えっ......」

予想だにしない言葉に名川は絶句した。
しばらく沈黙が続いたが
名川が話し始めた。

「西島食品さんが開発された
"肉じゃがオムレツ"を一口食べ
鳥肌がたちました。

4年前に他界された鴇田住職に、
孤児院で食べさせてもらった
"肉じゃが"の味だったからです。

住職はよく話されていました。
戦友である西島 忠則がつくる
"肉じゃが"こそ本物の味だと、」

「名川さん、鴇田 寛郎は、
戦友ではありません。

この私に駆逐艦雪風の"肉じゃが"を、
いや!料理を教えて頂いた上官です!

ここにいる 五百旗頭 輝明 が、
その味を引き継ぎました。

だから、西島食品が開発した
"肉じゃがオムレツ"は、

鴇田烹炊長の味だったのですよ、」

この人は、広島まで来て、
タダ爺に土下座までして、
いったいどうしたのだろう?

輝明は、心の中で思っていた。

「孤児院を出た私は、
我武者羅に働きました。

気がつけば、従業員1000人を超える
名川食品の社長にまで
昇り詰めていました。

しかし、悪どい東条フーズに
会社を乗っ取られてしまいました。

多くの従業員を
路頭に迷わすわけにはいきません!

断腸の思いで東条フーズ、
関西工場として続けているのです。

しかし、ヤツラは......」

「しかし、何ですか?
おっしゃって下さい、」

異様な空気を察した輝明が、
体を乗り出していった。

腹を決めた名川が話しだした。

「東条フーズは、西島食品を
乗っ取ろうと画策しています!」

「なんですって!!」
めずらしく徹が興奮気味にいった。

最近不審な事が頻発している。

飯塚弁護士が"仮処分"申請をし、
不法な登記申請を止めているが、
輝明はおかしいと思っていた。

「東条フーズが黒幕だったのか!」

輝明は、その事を伝える為、
飯塚の携帯に電話をかけた。

ふだん携帯は持っていないと
言っていたが5コールで繋がった。

「ハイ!」名乗らずに返事が聞こえた。

「もしもし、飯塚弁護士の携帯は、
そこでよろしかったでしょうか?」

しばらく無音だったが、
「だれ?」という声が帰ってきた。

「突然申し訳ありません。
五百旗頭です!」

「なんだ!五百旗頭君か?
どうした?」

機嫌は悪そうにない。

「失礼ですが今、
どこにいらっしゃいます?」

「街......」

輝明は、高宮に一番近い街を想像した。

「街って、三次ですか?」

「違うよ!俺もたまには、
広島に法律の本を買いに出るんだ、

えぇっと、
ここは本通りにある金正堂だ!」

輝明には、奇跡に聞こえた。

「本通りの金正堂ですよね!?

詳しい話は後話しますが、
最近起こっている不審な事の黒幕は、
東条フーズみたいなんです、

今すぐ赤兎馬で迎えに行きますので、
来ていただけませんか?
御願いします!」

「別にかまわんけど......」

飯塚は二つ返事してくれた。

「10分待ってください!
大急ぎでお迎えに上がります!」

「徹社長!加奈子さんに、
コーヒーでも出してもらって
15分~20分待ってもらって下さい。

運がいい事に飯塚先生、
本通りにいらっしゃいます!」

そう言うと輝明は社長室を飛び出した。

「こちらです!飯塚先生!」

息を切らしながら
輝明がドアをノックした。

日頃、農作業で鍛えている飯塚は、
息一つ切らしていない、

社長室では。タダ爺が、
海軍時代の鴇田烹炊長の事を
熱心に語っていた。

輝明はこれまでの経緯を
詳しく飯塚に説明した。

「了解しました。五百旗頭君!」

そう言うと飯塚は、
名川と名刺交換を行った。

名川は、大阪の道頓堀にある
浪速割烹 清川での、

悪だくみの一部始終を飯塚に話した。

「名川さん、よく話して頂けましたね!
ありがとうございます。」

そう言うと飯塚は、
話の内容を書いたメモを徹に渡した。

「西島社長、このメモを誰かに言って、
タイプアップさせて下さい。

アップできましたらページ最後に、

供述者名、本籍、住所、氏名、印、
弁護士登録番号、弁護士名、印、
供述場所、日時、

これらを書く項目爛を
設けるよう伝えてください。」

徹は加奈子をよび、飯塚に言われたよう
供述書作成を依頼した。

加奈子も仕事が速い、
10分もしないうちに
言われた供述書を作成した。

作成された供述書を飯塚が読み上げた。

「名川さん、この内容で宜しければ、
本籍、住所、氏名、印 を下さい。」

躊躇せず名川は、背広の内ポケットに
しまっていた万年筆を取出し
力強くサインをした。

確認した飯塚は、
弁護士登録番号、弁護士名を記入し
印鑑を押した。

飯塚が名川にいった。

「名川さん、
この原資を往復郵便で送りますので
実印を押してもらい、

印鑑証明1通、
添付して送り返して下さい。

コピーした物を返信します。」

非の打ち所が無い処理に、輝明含め
全員が感服した。飯塚が捕捉した。

「西島社長、これさえあれば、
こちらの主張が裁判所に認めらます。

現在、仮処分にて
処理を止めていますが、

1ヶ月以内には
仮処分の決定がされるので
決定書を法務局に提出することで、

偽造登記申請は却下されます。」

名川がまだ、
何か言いたそうにしている。

「名川さん、まだ何かありますか?」

うつむいている名川に
飯塚が優しく話しかけた。

「実は......」

と、言い、
名川は、黒い手提げカバンから
何かを差し出した。

それは、
銀色に光るボイスレコーダーだった。

「これ再生しても良いですか?」

飯塚が再生ボタンを押した。

「再生された内容を聞き、
全員が驚愕している......」

道頓堀、浪速割烹 清川 に集まり、
東条初め、茂木たちの話す悪だくみの、

一部始終が、
全て録音されていたからである。

名川が口を開いた。

「私は供述書を書いた事で、
間違いなく東条の逆鱗に触れ、
解雇されるでしょう......

でもその覚悟はできています。

東条は茂木と結託し、
あくどい手口を使い、

次々と中小企業を買収し
大きくなっていきました。

私もその被害者の一人ですが、
西島食品さんを助けられれば本望です。

生かして頂いた亡き鴇田住職も
褒めてくれると確信しています!」

それを言うと名川は、
床に膝をつき泣き崩れた。

飯塚でさえ、それの話を聞き、
化石のように固まっている、

輝明が声を振り絞り、
そんな飯塚に質問をした。

「飯塚弁護士、単純な質問です。

法律とは、
何のためにあるのでしょうか......?」

飯塚は、
輝明の目をしっかり見据えいった。

「一つの島があったとします。
人が一人も住んでいない無人島なら
法律なんか必要ありません、

ある日、
その島に二人の住民が住みつきました。

住民の名前は東条、
もう一人は、西島と言いました。

東条は大きく腕力もあり、
島にある 水、食べ物、
好き放題むさぼります。

一方、西島は、
体も小さく力もありません、

東条に対し何も抵抗できないのです。

果たして西島は、やせ細って
餓死するしかないのでしょうか?」

輝明が真剣な目をして聞いている。
飯塚は、輝明の返答を待たず返答した。

「餓死する必要はありません。

神の分身である人類は、
そんな愚かではないのです。

そこで、法律の出番なのです!

法律と言う秩序の力で、
西島の人権を守るのです。

私は、その為に
弁護士の道を選びました。

又、野菜は正直です。
手をかけたぶん答えてくれます、

だから野菜を育てているのです。」

ぐうの音も出ない答えだった。
それを聞き輝明は、
いや!全員が感動した。

静まり返った部屋では、時を刻む
時計の音だけが響きわたっている、

飯塚が冷静に話を進めた。

「これは、歴とした刑事犯罪で
偽造登記申請なんて比になりません!

まずは、警察に被害届を提出します。

完全に勝訴するには、
証拠固めが必要になります。

誰か優秀な刑事さん
心当たりはございませんか?」

「飯塚先生、完璧な証拠の
ボイスレコーダーがあってもですか?」

信じられないという顔つきで
徹 がいった。

「ザコではなく、
敵の総大将の首を打ち取ろうと思えば、
外堀を埋める。

つまり逃げ道を
完全に断つ必要があるのです。」

「例えば、ボイスレコーダー以外に
必要な証拠ってなんでしょうか?」

輝明が具体的な質問をした。

「ボイスレコーダーに記録されている、

東条、茂木、田島 の音声鑑定、
浪速割烹 清川の利用伝票、

これらが、
ボイスレコーダーのセットとし
裁判所が受理すれば、

総大将 東条の首を、
取ることができます!

但し、浪速割烹 清川の利用伝票は、
個人情報保護法にてガードされていて

警察権じゃないと、
我々には入手できません......」

「優秀な刑事......」

輝明は、すぐに丹波の名前が浮かんだ。

「飯塚先生!俺に心当たりがあります。
数日時間、いただけないでしょうか?」

「分かりました!

社会の為、みなさん徹頭徹尾、
東条いちみが二度と立ち上がれないよう
叩きのめしましょう!」

完全に"流れ星の五百旗頭"に戻った
輝明が吠えた、

「おんどりゃぁ~東条!
広島の西島食品を舐め腐って!

シゴウしちゃるけん、
首の皮を洗ろうてまっちょけ!!」

国家権力

早速、輝明は、
丹波が所属する広島県警本部
捜査第一課に電話を入れた。

外出はしていないようだが、
席空で繋がらなかった。

しかたなく直接、
丹波の携帯にかけることにした。

10回以上コールしている
一向に丹波は出てこない、

諦めて切ろうとしたとき、
憮然とした丹波がでた。

「しつこい奴じゃのぅ、誰なら?」

丹波は屋上に上がり煙草を吸っていた。

「丹波さん、五百旗頭です!」

「ワレか、どうしたんなら?」

いつも通りの丹波である。
丹波の弱点は、加奈子さん、
秋葉 加奈子である。

最初に西島食品の
名前を出すことにした。

「丹波さん、西島食品が
乗っ取られようとしています、

助けて下さい!」

「なに!乗っ取られるじゃと?」

計算通りの反応である。

「電話では長くなるので、お会いして
相談に乗ってもらえないでしょうか?」

「えらい物騒な話じゃないか、
待っちょるけん、すぐにこいや!」

秋葉効果は、絶大であった。

輝明は、中区基町の県警本部に向け
赤兎馬を飛ばした。

丹波は小さな面会室を
準備してくれていた。

輝明は、これまでの一部始終を
丹波に説明をした。

「それにしても、五百旗頭!

ワレなんで飯塚弁護士を
知っちょるんなら?」

「飯塚先生の事ですよね?
今回、ウチの弁護を、
してもらうことになりました。」

「ワレ、今、
ウチといったよの?
お好み焼き屋はどうしたんなら?」

「お好み焼き屋は、
西島食品になりました。
俺は店長をやっています。」

丹波が「信じられない?」と言う
顔をして輝明を凝視している。

「どうされましたか?丹波さん、」

不意を突かれたように
丹波が話しだした……

「飯塚弁護士ゆうたら
滅多に弁護は引き受けんが、

引き受けたら最後、
100戦、100勝じゃ!

剛腕弁護士で
検察にも名が通っちょる、」

「丹波さん、今日はその飯塚弁護士に
指示を受け相談に参りました。」

そう言って、輝明は、
名川が録音したボイスレコーダの
再生釦を押した。

大きく目を見開き丹波が聞いている、

「なんならこれは!
完璧な証拠じゃないか!
ちなみに聞くが、

東条って、
あの大手の東条フーズの事か?」

「そうです、
敵はあの 東条フーズです!」

丹波が助言した。

「黒幕親分の尻尾を、
つかもうと思うたら
物証固めが必要じゃの?」

「飯塚弁護士にも
同じことを言われました。

だからこうして
相談にやって来ました!」

輝明は飯塚に言われた
外堀を埋めるため、東条いちみの、

音声鑑定、浪速割烹 清川の
利用伝票の事を丹波に伝えた。

「さすが、剛腕弁護士じゃ!
この3点揃ったら完全に
東条の息の根を止める事ができる!

ワシらが動けるように西島食品の管轄、
南署に被害届を出せ、

優先受理するよう根回しをしちょく!」

「丹波さん、何から何まで恩に着ます。
何卒よろしくお願い申し上げます!」

輝明は深深く頭を下げた。

撃破

平成28年6月18日(金)、

東条フーズの株主総会は最後の議決、
役員の信認項目に入っていた。

会場は、大阪市中央区難波にある
難波御堂筋ホールである。

500名が収納できる大きなホールだ、

それでは、最後、
役員の信認議決に入りたいと思います。

「異議なし!」
次々と役員が信任されて行く、

「それでは最後、代表取締役社長
東条 誠 信認に意義はないでしょうか?」

「異議なし!」

司会が最後の承服確認を
行なおうとした、そのときである!

会場中央にある大きな扉が開き、
会場中に大きな声がとどろいた。

「objection
(オブジェクション)意義あり!」

弁護士の飯塚と丹波だった。
その声に驚き信認を受けようとしていた
東条が立ち上がった。

「なんですのん?あんたらは!
ここは株主以外、立ち入り禁止ですわ!

どがいにして、
会場に入りはったんやろ?」

そのときである。口角を上げた丹波が
警察手帳を掲げ、逮捕状を広げた。

「広島県警の丹波だ!

東条 誠、

名誉毀損罪(刑法第230条)
信用毀損罪(刑法第233条)
威力業務妨害罪(刑法第234条)
容疑で、逮捕する!

文句があるなら裁判所で
聞かせてもらおうか?」

株主総会は打ち切られ、
手錠をかけられた東条は、
広島へ護送された。

審判

裁判は、広島地方裁判所
第一法廷で行われた。

人定質問、第196条 裁判長が、
検察官の起訴状の朗読に先だち、

被告人に対し、その人違でないことを
確めるため、
東条を証言台まで呼び寄せた。

「被告人は前に!」

手錠をかけられた東条は
証言台に立たった。

「氏名と生年月日は?」

「東条 誠、昭和27年6月13日
生まれです。」

被告人が自分の氏名と
生年月日を答えおえた後、

本籍、住居(現住所)、職業を訪ねた。

「これからあなたに対する
西島食品における威力業務妨害等、
審議を始めます。」

裁判長が内容を確認し審議が始まり、
検察官が起訴状を朗読した。

西島食品の被害届内容が読み上げられ、

名誉毀損罪(刑法第230条)、
信用毀損罪(刑法第233条)、
威力業務妨害罪(刑法第234条)

に対する審議開始を宣言した。

東条は、検察官の質問に対し
頑なに黙秘している。

弁護士の大山の指事なんだろう......

「裁判長!被告人に変わり、
私が冒頭陳述を行っても、
よろしいでしょうか?」

大山が挙手した。

「発言を認めます。」

東条は、西島食品に対し威力業務妨等、
まったく身に覚えもなく、

答弁できないことを述べ、

証言者である名川の話にでてくる、
茂木、田島とはまったく接点はないこと

又、物的証拠もない事を強調し
無罪であることを述べた。

「裁判長!よろしいでしょうか?」

西島食品の代理として
弁護士の飯塚が挙手した。

「物的証拠はない?と、
おっしゃいましたが、証拠1として
これを提出したいと思います!」

飯塚が手にしたのは、
あの銀色のボイスレコーダーだった。

「提出を認めます。」

飯塚が再生釦を押した。
法廷中に東条、茂木、田島の声が
こだました......

傍聴席を中心に全体が騒めいている、

「静粛に!」

裁判長の声が響き渡った。

「有得ない!」

東条は、眉を吊り上げ
大きく目を見開いた目は、
瞬きもしない、

「裁判長!」

東条の弁護人大山だけが
冷静な顔をして挙手をした。

「発言を認めます。」

「今の技術では、
合成捏造することが可能です。

故に、これは確たる証拠として
認める事はできません。

原告側の謀略にすぎません!」

それを聞き、東条は大きく
頷いている......

しかし、その答弁は
飯塚の想定の範囲だった。

「裁判長!次の物的証拠を提出しても、
よろしいでしょうか?」

「なに、、、、、、」

思わず大山の声が漏れた。

「原告代表弁護人の
証拠提出を認めます!」

「裁判長、これを提出します。」

それは、広島県警刑事部
科学捜査研究所が作成した声門鑑定書、

道頓堀、浪速割烹 清川から押収した、
利用伝票だった。

裁判長がガベル(木づち)を叩いた。

「これから1時間休廷します!

我々裁判官3人と裁判員6名、
提出された証拠に基づき
審議に入ります!」

「よっしゃ~!」

傍聴席で審議の一部始終を見守ってた、
徹、香川、畑山、加奈子、ゆうこ
そして輝明が拳をにぎりしめた。

審議を終えた、
裁判官と共に6名の裁判員が
所定の席についた。

「これから、
西島食品における威力業務妨害等、
に於ける主文を読み上げます。

被告人は、前に、」

両脇を刑務官に抱えられ、
東条が証言台の前に立った。

「主文、
被告人を懲役9年の刑に処す!」

執行猶予はつかなかった。
それを聞いた東条は床に崩れ落ち、
飯塚は深く裁判長に深く頭を下げた。

本意

昼のピークを過ぎた午後15時、
"お好み焼きふみちゃん"は、
閑散としている。

輝明は椅子に座りテレビに齧りつき
ワイドショーの梯子をしていた。

どのテレビ局も東条逮捕、
大企業の社長逮捕に関し、

「これでもか!」と繰り返し
放送している。

どこから連れてきたのか?
見たこともない評論家が同じことを
何度も繰り返している。

大企業の社長、東条逮捕は、
マスコミどもの格好の餌である。

流石に呆れ果て見ていたときである。
店の固定電話が鳴った。

突然かかってきたのは、
福岡にある九州大学病院からだった。

「"お好み焼きふみちゃん"
でしょうか?」

輝明には全く心当たりはなく、
間違い電話だと思った。

「私、九州大学病院
肝臓・膵臓・胆道内科 婦長の
澤田と申します。

お父様の 五百旗頭 輝夫 さんが
入院されているのですが、

昏睡状態になられ、
ご親族様に連絡を入れました。」

輝明の親父は、29年前夜逃げした。
輝明が5歳のときであった。

その糞親父が福岡県の病院で、
昏睡状態......

輝明は冷静に答えた。

「それで、病名は何でしょうか?」

「膵臓癌です。
血圧も落ちてきていますので、

言いにくいのですが、
もって3日かと......」

どうして、ここの電話番号が
分かったのだろう?

輝明は広島からの
交通アクセスを聞いた。

「新幹線で博多までいらしていただき
博多バスターミナルで、

「県庁・九大病院」行で終点下車して
いただければと思います。」

「肝臓・膵臓・胆道内科の
澤田様ですね?

すぐに伺いますので、
よろしくお願いします。」

輝明は不思議に思った。
子供のころ糞親父に復讐することが
目的だったはずなのに、

全くそんな思いを感じないのである。

16:04広島発 博多行の新幹線に
飛び乗った。博多駅までは1時間、

そこからバスに乗り
30分で九大病院に到着した。

聞いた2階第二受付で
澤田を呼んでもらった、

歳の頃は40過ぎと思われる。

看護服の上に濃紺のカーデガンを
まとい銀縁眼鏡の澤田が現れた。

「五百旗頭 輝夫の息子です。」

澤田は輝夫の病室、207号室に
急いで案内してくれた。

輝明は目を疑った、
すごく大きいと思っていた親父が
あまりにも小さかったからである。

話をすることは、叶わなかった。

輝明が来るのを待ったように
輝夫は息を引き取った。

「澤田さん、感謝します、」
輝明はそれしか言えなかった。

落ち着いたところで何故、
広島の電話番号が分かったのか
澤田に確認したら、

輝夫が大事に身につけていた物に
比治山神社の御守りと写真があり、

裏側に電話番号が書いてあった
ことを教えてくれた。

見せてもらった写真は、
親父に抱かれた自分と、

その横には、満面の笑みを浮かべた
"ふみこ"が写っていた。

輝明は渡された御守りと写真を見て
涙を止めることができなかった。

親父の持ち物は、それしかなかった。

その日は博多に一泊し翌日、
火葬をし広島の自宅に連れ帰った。

広島のふみちゃんには、
親父が亡くなったことを連絡していた
ゆうこ がいた。

「親父とうとう、
こんなになってしまったよ......」

骨壺を見せ笑顔を作ろうとしたが、
涙があふれだした。

ハグしてくれている ゆうこ が、
ゆっくりと一定のリズムで
背中を優しく叩いてくれる。

それは、不思議と
輝明の心を落ち着かせた。

叩かれるたびに、病院での記憶が蘇る、
輝明は涙にむせぶ声で、
ゆうこ にいった。

「親にとって子供とは?
子供にとって親とは?
と、いうことがよく分かった。

ガキの頃、俺の夢は糞親父を探し出し
復習してやることだった。

金を無心する親父に、
お袋が殴られて......」

輝明は、涙で言葉にならない、

「親父が毎日、
お袋に金をせびって、
お袋をなぐって......

かあちゃん口からいっぱい、
血を流して......

俺、かあちゃんが、
死んだんじゃないかと思って......」

親に捨てられ施設で育てられた
ゆうこ も輝明の気持ちはよく分かる、

「その親父が膵臓癌で昏睡状態だと、
九州の病院から、
急に電話がかかってきて、

俺、どんな顔して行けば
いいのか全然わからなくて……

どうしょうかと思った、

病院に行ったら、
あんなに強かった親父が、

頭はハゲ上がってすごく小さくなって、
チューブに繋がれ、ベッドに寝てた。

その姿を見たら復習したいと
思い続けていた気持ちがなくなった、

親父に色んな事をやられてきたけど、
その姿を見て許そうと思った。

だって俺がいま存在してるのは、
親父がいたからじゃん、

でもこれで俺も、
天涯孤独になってしまった。」

そう輝明が言うと、
ゆうこ は、急に厳しい顔をした。

「天涯孤独じゃないじゃん!
私がいるじゃん!

輝明は、私に言ったよね?
"もっと俺に頼ってくれって!”

今度は、私に頼ってよ!
ずっと、死ぬまで一緒だよ!」

涙声だった、そう言うと、
ゆうこ は輝明をきつく抱きしめた。

そのころ西島食品では、会社を失った
東条フーズの社員たちの救済を、

徹 筆頭に、四越の藤木、
四井住友銀行の青木を巻き込み
真剣に策が考えられていた。

『何も言えなくて…夏』
歌 : JAYWALK
作詞 : 知久光康・作曲:中村耕一


リリース: 1991年

【ストーリー 10】 著: 脇屋 義直
【ストーリー 11】へ続く..


この小説はフィクションです。
実在の人物や団体などとは、
関係ありません。

スポンサーリンク

Copyright© ドングリ爺のblog , 2022 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.