【blog小説】星降る夜に エピソード 12

新規加入

2017年1月9日

ジャケットをまといリュックを
背負った輝明が、
JR福知山線伊丹駅の改札を抜けた。

駅からは、タクシーに乗るよう
教わっている、
タクシーが見当たらない……

清掃している叔父さんに聞いてみた。

「すいません、池尻に行きたいのですが
タクシー乗り場はどこですか?」

「タクシーでっか?
2階の歩道橋を降りたところですわ、」

後部ドアーを開けタクシーが1台、
止まっていた。
輝明は、そそくさと乗り込み

運転手に池尻まで伝えた。

「池尻でっか?」

おばちゃん運転手だった。

「それにしてもエエ男やね!
お客さんどこからきはったん?

飴ちゃんやろうか!」

「仕事で広島からです……」

話には聞いていたが豪快である。

おばちゃんは、
料金メータをリセットし走り始めた。

「ところで兄ちゃん、
大阪にはいつまでいなはるん?」

「仕事で週2~3日、半年です。」

「半年もでっか?ほな、
エエこと教えますわ、」

おばちゃん運転手は、
大阪のおばちゃんあるあるを
話してくれた。

  • 飴ちゃんは、
    コミュニュケーションをとる
    大事なアイテム、
  • 街で配られているティッシュは
    何個も貰う、
  • 自転車にはさすべえ、
    頭にはサンバイザー、
    さすべえ、
    とは、自転車のハンドルに
    傘を固定する道具である。
  • 「ソレ、こないだのほれ、
    アレちゃうか?」
    「アレ」「ソレ」で
    話が成立する、
  • 激安!ただ!
    と、言う言葉が大好物、
  • おばちゃんは、男前が大好き、
  • 安い買い物が一番の自慢話、
  • とりあえず買い物は値切りから、
  • 人のものを見て
    「なんぼしたん?」
  • 「あんたやから言うねんで?」
    と、どの人にもおなじ話をする、
  • テレビカメラがあったら
    無条件で寄っていく、
  • 「おばちゃん!」と言っても
    振り返らない、「お姉さん!」
    と、言えばふりかえる、
  • 見知らぬ人の
    おせっかいをやくのが大好き、
  • 目立ってなんぼ、
    トラ柄は標準装備
  • 1人でも騒がしいが、
    集団になると何倍もうるさい、

「大阪のおばちゃんにとって、
上沼恵美子は師匠ですねん!」

おばちゃん運転手が総括した。

「"上沼恵美子"って、
改修が終わった姫路城のように、

白く塗りたくってる
おばちゃんですよね?

自分は吉本興業の芸人さん
大尊敬してるんですよ!」

「そうでっか!顔に似合わず
兄ちゃんも、おもろい事いうやん!」

そうこうしてるうちにタクシーは、
KTNフーズに到着した。

料金メーターは、
3,260円と表示している。

「兄ちゃんエエ男やから、
3,000円でエエわ、

ほな、きばってや!」

仲間入り

守衛所で管理棟は、
モータープール、右正面だと聞いた。

プールらしきものは見当たらない、

築20年以上、経っていると思われる
3階建ての建物が見えた。

「あれかなぁ……」

少々不安であったが輝明は、
ガラス張りの玄関扉を開けた。

玄関を入ったら
右側に内線電話があるので、

302に電話するように言われていた。

「あっ!名川工場長、
ご無沙汰しております。

五百旗頭です!

今、1階のロビーにいます。

管理棟、プールの右側正面だと
聞いたのですが、
プールなど見当たらなく

違うのかな?
と、思ったのですが、

この建物で、
よろしいのですよね?」

「プール?
守衛、なんと言いました?」

「モータープールの右正面だと……」

受話器の向こうで
名川の笑い声が聞こえる、

「大阪では、駐車場のことを、
モータープールというんです。

ここで間違いありません、

3階の32会議室が
プロジェクト部屋になっています。

みんなお待ちしています!
上がって来て下さい。」

32会議室と書かれた
プレートを見つけた。

ドアには、"二十四の瞳プロジェクト"
と、張り紙がしてある。

ここで間違いない、輝明はノックをし
そ~っと扉を開けた。

「よくぞ!御無事で……」

久々に見る ゆうこ だった。

みんなテーブルから立ち上がり拍手、
してくれている。名川もいる。

「これ、みなさんで、
お召し上がりください。」

そう言うと輝明は、
名川に土産に持ってきた
"がんす"を手渡した。

"がんす"とは、
昭和初期の呉の界隈小さな蒲鉾店で
生まれた"揚げかまぼこ"で、

「~でございます。」と言う
広島弁の敬語である。

「これわこれわ、おおきに!
みな喜びますわ!」

名川は手渡された紙袋を
高く持ち上げた。

「おい!大丸、白石!

こいつら、商品開発しています。
気軽に使ってやって下さい!」

巨漢の白石は
合うベルトが少ないのか、

サスペンダーでクリーム色の
作業ズボンを吊り下げていた。

それに比べ大丸は細身で背が高く
銀縁の丸眼鏡をしたインテリ風だ、

調べた事がある、輝明の御先祖は
播磨(兵庫県)出身だった。

「大丸、白石さん、
そして皆さん、宜しく御願いします。

西島食品の五百旗頭です。

五百旗頭という漢字ですが、
今まで誰にも、いおきべと
正しく呼ばれたことがありません。

去年、親父を亡くし、
自分は何者だろう?

ルーツを調べました。

祖先は、播磨の国の
出身だったようです。

先祖が500の兵を、
まとめる旗頭をしていた
ことに由来し、

五百旗頭との苗字みたいです。

姫路城築城にも
かかわったそうです。

そう言った事もあり、
みなさんと仕事をさせてもらうのも
何かの御縁だと思っています。

何卒、宜しく御願い致します!」

そう言うと大丸、白石も含め、
全員に対し深々と頭を下げた。

伊丹から姫路城までは、
山陽自動車道を使えば
1時間ちょいで行ける距離である。

「五百旗頭さん、
ほんまに何かの御縁ですわ、

来はったら、たこ焼きパーティー
しような!
と、みんなでいってましてん、」

0.1トンの白石がいった。

輝明は、みんなに御馳走しようと
広甘藍を持参していた。

「そうですか!自分は、
"お好み焼き"を焼くのが得意です。

皆さんに広島の“お好み焼き"
食べてもらおうと、

呉で栽培されている"広甘藍"という
キャベツを持ってきました。」

「それは楽しみです。せやけど、
お好みは大阪の"豚玉"ですわ!

負けはしまへんで……」

大丸が自信ありげにいう、

これは面白い事になってきた、
名川は、食材と共に
食品開発調理場をキープしていた。

白石は器用に"てるてる坊主"を
作る要領で割り箸につけた、
たこぼうずを作った。

たこ焼き器を熱し、たこぼうずを使い
穴とまわりに油をひき、
溶いた生地を少し落とし、

ジュッ!と音がするのを確認し、
一気に生地を流し込んだ。

ひとつひとつの穴に
たこを素早く入れ、
天かすとねぎを全体に散らす、

生地の端が白くなってきたら、
返しを使って、
穴にそって生地を区切っていく、

端の穴から順番に生地をすばやく
返し一気に返さず、
90度ずつ回転させる。

全体を返し終わったら、
飛び出た部分を中に入れ
手を休めることなく返し続け、

きれいな球体に
なるようにしていく、

たこぼうずを使い表面に油を塗り、
カリっと焼きあげ、

こげ色がついたら皿に盛り、
ソース、かつお節、青のりをかけ
仕上げた。

「外はカリッ、中はとろ~と、
アツアツのうちに食べてや!

レディーファーストや、
ゆうこ マドンナ どうぞ!」

まるで縁日の出店で焼きながら
売られているたこ焼きだ、

白石は巨漢をゆすりながら、
機用にたこ焼きを焼いて行く、

「見事なものですね!」

と、輝明

「いや~月3は、
たこ焼きを焼いてますねん、

冷え切ったビールに合うんですわ!」

ゆうこ は、ハフハフと言いながら
食べている。

「やっぱ、使うタコで決まりますなぁ~
明石のタコでんねん、」

「久しぶりに輝明が焼いた
"肉玉そば"が食べたい~」

ゆうこ の甘えた発言を聞き、
餅田は面白くなさそうだ、

「じゃぁ、
今から焼かさせてもらいます、
食べてもらえますか?

ゆうこ "広甘藍"を
きざんでくれるかな?」

輝明の手さばきは見事だ、
みんな固唾をのんで見入っている。

1/4にカットし皿に乗せられ、
"お好み焼き ふみちゃん"の肉玉そばが
全員に配られた。

トッピングはシンプルに
オタフクソースと青海苔だけだ、

「ワテ、広島に親戚がおって、
ちょくちょく、
広島風お好み焼きは食べます。

せやけど、このキャベツは別物ですわ!
こんなに美味いお好み焼き、
食べた事、おまへん!」

「そうでんなぁ……
赤井さんの言うとおりや!」

調理加工担当の 石崎、山田、石川、
山本、までもが口をそろえた、

片付けながら輝明はいった、

「確かに長年修行した人が焼く
お好みは美味いです。

ゆうこ が何気なく刻んだように見える
キャベツ、ちゃんと刻めるように
なるまでに、

どれだけ、時間がかかった事か……

広島の"お好み焼き"は、
職人技が必要で
家庭で同じ味は出せません、

誰もが楽しく手軽に自分で焼ける
大阪の"お好み焼き"こそが、
本当の姿だと思っています。」

「そやな!美味ければよし!って、
いうことですわ!」

額に汗を浮かべた白石だった。

名川が訓示するようにいった。

「エエか!
ワシらが生産しようとしてる
USA1008は、職人技が必要なんや、

基は72年前、呉が母港だった
駆逐艦雪風の"肉じゃが"が始まりや、」

「雪風って激戦の中、最後まで
沈まへんかった駆逐艦ですわ!」

調味料調合担当でミリタリーオタクの
日村だった。呉の大和ミュージアムに
行くのが長年の夢である。

「日村の言うとおりや、
詳しい事、みんなに言わんかったけど
ワシは神戸空襲の戦災孤児や、

浄徳寺があるやろ?

そこの鴇田住職に拾われ、
生かしてもろうた……

住職は、雪風で乗員の料理を拵えて
おられた。その部下に、西島食品の
会長さんがおりはって、

五百旗頭さんが、
雪風の"肉じゃが"の味を引き継いだ、

ほんで、進化させたUSA1008、
ワシらが生産しようとしてる分けや、

それには、五百旗頭さんの脳みそに
入っとる技を
機械に教え込まんといけへん、

それが、
ワシら"二十四の瞳"プロジェクと、
いうわけなんや、

やってやろうやないかい!」

「ここは、難波の底力、
見せへんとあきまへんね!」

赤井が力強く拳を握った。

「大丸、白石!そんな分けでお前らは
今日からおなご先生(ゆうこ)の
アシスタントや、」

「おなご先生……?」

急に言われ、大丸も、
白石もキョトンとしている。

「この度の生産は、AIを使います!

基本的なニューロネットワーク
プログラムは完成しています。

大丸 白石さん、
“全微分"憶えていますよね?」

「"全微分"でっか?
確かに大学で習いましてんけど……

会社に入って使こうたこと、
ありまへんのや、

あきまへん、
忘れてしまいましたわ、
大丸、お前どや?」

「ワシもさっぱりですわ、」

ゆうこ は、
どこまで出来るのか知りたかった。

「高校で習う、
微積は分かりますよね?」

「高校レベルでは、定積分でっしゃろ?
そのくらいは分かりますわ、

大学で習う
偏微分、全微分、重積分は、
あきまへん!」

白石の話を聞きながら、
大丸も大きく頷いている。

AIで使う各ウエイト値算出には、
全微分が必要である。

こんなときに、
竈部長がいてくれたらなぁ……

「二人とも、明日からAI理論、
全微分の講義を行います。
いいですね!」

ゆうこ が"おなご先生"に
覚醒した瞬間であった。

「何が起こったのだろう?」

餅田は、大きく目を見開いた。

稼働まで猶予は半年だ、
こうして、"二十四の瞳"プロジェクが
動き始めた。

広島からプレートに並べた薄切り肉の
面積測定の為、開発された、
二眼のスキャナーが送られてきた。

添え書きには読込んだ画像を一体化
するところまでと、概略のニューロ
ウエイト値算出するプログラムが、

完成している旨が書いてあった。

どうやら残っているのは微調整をし
輝明のノウハウを数値化し
機械に教え込ませる作業だけだ、

大丸、白石も頭の回転が速い、
AIに必要な全微分は理解した。

概略は理解したが、
いざ、実践となると

まだまだだ......

無理もない、日本で初めてAI調理を
試みようとしているのである。

その様な状況の中、大丸も白石も、
よくやっている。

「おなご先生、五百旗頭さんの
パラメーターまとめました!」

パラメーターとは、輝明の頭の中を
数値化した表であり、

ニューロネットワーク各々の要素点に
与えるウエイト係数値を
データベース(表)にしたものである。

この係数値を求めるのに
全微分が必要だった。

「おなご先生!五百旗頭さん
新選組の"土方歳三"に
似てはりますやん、

どうでっしゃろ?

副隊長と呼んでも、
ええでっしゃろうか?」

ゆうこ は、昔加奈子が、
としぞ~う!と読んでいたのを
思い出した。

段取りは全て終わった。
後は、実行あるのみだ!

速いもので、カレンダーは
3月に変わった。

丹波工場の特徴は、
建屋中心に12m間隔で大きな柱があり、
屋根を突き抜けている。

そこから吊橋のように何十本もの
ワイヤーが伸び屋根を支えている。

つまり、建屋内中心にしか柱が無い、
設備をレイアウトするのに自由度が
全然違う。

丹波工場には、ぞくぞく設備が
搬入されている……

「凄いですね!」

建屋内を覗いた副隊長、
輝明の第一声であった。

屋内の中心にしか柱がなく、
広大な空間では、隅っこの人が
豆粒のように見える。

明石海峡大橋を見た名川が、
思いついた構造だった。

伊丹工場から移転した設備は
いつでも稼働OKである。

ただ、東条時代の風評被害が尾を引き、
生産量は、全盛期の1/3であった、

西島食品で生産している国内販売、
“肉じゃがオムレツ”N1008と同じ

設備がその横で稼動を待っている、
そのはす向かい、

ななめ前にあるのが米国向け、
“肉じゃがオムレツ”USA1008
設備である。

全稼働開始は6月だ!

二十四の瞳プロジェクメンバー全員、
設備に張り付いた。

一列に並んだ10台の高圧蒸気滅菌器は
圧巻である。その横には面積を測る、

2台のAI二眼スキャナーが
鎮座している。

USA1008試作開始

高圧蒸気滅菌

ステンレスプレートに但馬牛を広げ
輝明は高圧蒸気滅菌器にセットした。

調理加工担当の、赤井、石崎、山田、
石川、山本 が張り付いた。

「豪勢な装置やね……
これが高圧蒸気滅菌器でっか?」

初めて高圧蒸気滅菌器を目にする
赤井が高圧タンクを
覗き込むようにいった。

「これから外気温、湿度に対し
細菌量7になる、

加熱温度・時間データの
収集を行います。

まずは、115℃で2分、
滅菌から始めます。

完了したら、
細菌量を測定します。」

おなご先生の目的は
外気温、湿度の変化に対する、

高圧蒸気滅菌器の設定温度、
時間に対する、

関数式が作りたいと、
いっているのである。

「よぉ分かりまへんが……

どのくらい、
データー取りしまっか?」

そんな作業などしたことのない
石川が単純に質問をした。

「そうですねぇ~

1時間に3回、約1か月、
700サンプルは欲しいですね……」

「700もでっか!」

石川の想定外であった。

おなご先生は、
さも当たり前のように
軽く言い放った。

「データーは、多いほどいいです!

これから先、春夏秋冬、
年4回、データー取りを続けます!」

最大の壁は、高圧蒸気滅菌した但馬牛を
AIスキヤナーで面積測定し、

厚みを算出、、

副隊長の調理内容を動画で記録し
時系列データー表にする。

「みんな容赦しないよ!」

「そんな、せっしょうな......」

去年までの ゆうこ とは全くの別人だ、
有言実行!言うことはいうが、
やることはやる。

サシの入っている和牛は脂肪分が多く
焼き時間が全然違う。

プレートに良質な脂肪が溶け出し、
メイラード反応により最良の
旨味成分となる。

デグラッセ効果は抜群だ!

余さずこさげ取り、出汁として
それを野菜の煮込に使う。
不味いはずはない!

輝明副隊長は、
なんちゃってトリュフバターを、
但馬牛にもみ込んだ。

なんちゃってトリュフバターとは、
発酵バター、にんにくパウダー、ジン
を、混ぜ合わせ開発した調味料である。

肉の重さに対し副隊長が加えた
各種分量を記録していく、

その数、高圧蒸気滅菌器した700回、

おなご先生は、作業の前後、
滅菌数値調べている。

回数は倍の1,400……

その姿を目の当たりにし、
弱音を吐くヤツなど一人もいない、

赤井達4人は、副隊長の動画を止め
外気温・湿度に対し火力、焼き時間、

一覧表にコツコツと、
根気強く記録していく……

こんな作業が1か月近く続いた。

「よし!これで最後700!

大丸、白石、仕上げや、
お前らの力を見せるばんや!」

集めたデーターを全微分し
ニューロネットワーク最終段である
係数用のパラメーターにまとめたら、

外気温、湿度データーから自動で、
但馬牛に焼きを入れることができる。

つまり高圧蒸気滅菌し、スキャナーで
面積を測定すれば但馬牛に焼きを
入れる加工までが、

全自動で、できる分けである。

一心不乱で彼たちは、
数値化していく……

大丸は、今までにこんな白石、
見た事がなかった。

「おなご先生、出来ましたわ!」

白石の声が響き渡った。

大丸は、腕時計を一瞥した。
針は、PM9:15を回っていた。

「よっしゃー!休憩や!」

そんな大丸の声をよそにおなご先生は、
休むことなく係数パラメーターを
調理装置に数値を入力している。

「もう少しで終わります!

大丸、白石さん、
気にしないで休んでいて下さい。」

静かな空間にデーターを入力する
キー音だけが響いている。

入力をすべて終えた ゆうこ が
皆のいる現場休憩所に姿を現した。

衝立で仕切られ長テーブルが置かれ
周りをパイプ椅子が囲んでいる。

ボードに貼られた予定表より
7日遅れているが、この作業が山場で、

ここさえクリアーすれば、
勢いよく作業が進むはずだ、

根を詰めた作業に、
みんな疲れてる……

「本当に遅くまでご苦労様、
苦労して収集し、数値化したデーター
全て打ち込みました!」

そうこうしている所へ
野菜部試作調理の仕込みが
一段落した副隊長がやってきた。

「仕込み準備、一段落しました。
後は、具材に味が染み込むまで30分
待てば完成です。

これで、量産数値化作業
全て完了です!」

その言葉を聞き、腕捲くりをした
赤井が声高らかにいった。

「ほんなら30分休憩や!」

試み

輝明がステンレスプレートに但馬牛の
粉切れ肉を高く積み上げ形をととのえ、
二眼のスキャナーに通した。

赤く光ったデジタル表示器には、
測定面積 6,120平方cm
厚さ 17.2mm

と、数値が表示されている。

「自動滅菌開始!」

副隊長の号令のもと、祈りを込め
赤井が緑の起動釦を押した。

薄焼き牛肉、自動調理が始まった。

スキャナーから送られた
データーに基づき、
高圧蒸気滅菌器は自動で、

116℃で1分40秒滅菌した。

すかさず、おなご先生が突き刺し
型温度計で肉の温度を測る。

最上部温度 87.2℃
中心部温度、64.2℃
最下部温度 41.6℃
細菌量 8

声高らかに、おなご先生の声が響く、
計算範囲である!

「焼きに、入ります!」

副隊長の勇ましい声……

高圧蒸気滅菌器から取り出された
プレートはコンベアーに乗り
自動焼き工程に送られる。

みんなが表示されている設定温度を
凝視している。

プログラミングされた焼き設定値は、
178℃ 62秒 だ、

自動グリル装置からは、いい香りが
辺りに充満した。

このいい香りこそが、
メイラード反応である。

自動グリル装置のデジタル表示が、
カウントダウンしていく……

残り10秒を切った所から、
みんなでカウントダウンが始まった。

「10,9,8,7……0」

焼の設定時間、終了と共にコンベアーで
プレートが搬出された。

おなご先生が、
すかさず温度測定をする。

最上部温度 91.2℃
中心部温度、78.2℃
最下部温度 67.6℃

「蓋をし常温、10.2℃になるまで
待てば完成です。」

ゆうこ が再度温度を測る。37分後、
最上部温度が、12℃まで下がった。

細菌量を測る……

自動生菌数測定装置の
コロニーカウント値を見て
いつまでも声を発しない、

「まさか……

あかんかったんと、
ちゃいますよね?」

白石が、恐る恐る声をかけた。
不安から大丸顔がこわばっている。

面を上げた、
おなご先生の頬が震えた。

「細菌量 "0"滅菌完了です!
みんな!よく頑張りました!」

大丸と白石の歓声が
上がったのは同時だった。

ゆうこ を含めハイタッチで
喜びを表している、

全微分の再学習、
AI理論の習得、

700ものデーター解析による
パラメーター作りの苦労が、
実を結んだ瞬間であった。

冷静な表情で副隊長が、なんちゃって
トリュフバターを全体に、もみ込み
まんべんなく混ぜあわせた。

但馬牛の切れ端を口に含み、
目を閉じ味を確かめている、

「どないでっか……?」

大柄な赤井が、
弱弱しい声でたずねた。

その他、全員の目が静まり返り
固唾をのみ副隊長を凝視している、

目を開けた輝明は、
全員を見渡すようにいった。

「良いでしょう!」

「よっしゃ!
ワイら、やっやんやなぁ!」

二十四の瞳、
プロジェクトメンバーから
歓喜の声が上がった。

USA1008フロアーは、
お祭り騒ぎだ、

みんな奇声を上げたり、
両手を突き上げたり
喜びを爆発させている。

誰ともなく手を叩き始め
大拍手になった。

全員の声は、
遠くにいる 徹達に届けとばかり、
丹波工場中に響き渡った。

「最大の山場である
牛肉加工は形になりました。

全ての調理パーツを組合わせ試食品、
USA1008を完成させましょう!」

そういうと輝明は、牛肉加工部、
野菜調理部を混ぜあわせ、
薄焼き玉子を被せた。

トッピングは、
オタフクソースと青海苔である。

12の皿に試食品USA1008が
乗せられ休憩所の
テーブルに並んだ姿は圧巻だ!

「量産化まで道半ばですが、
峠は越えました。皆の努力の結晶
さぁ!試食しましょう!」

副隊長の号令に対し、
白石が真っ先に口に運んだ。

いつもにぎやかな
白石が押し黙っている、

「ワイ生まれてこんな美味い物
食べた事おまへん……」

「大げさやなぁ~
そないなことあるかい!」

と、大丸が口に放り込んだ。

「ほんまや!」

まるで漫才を見ているようである。

赤井が唸った。

「副隊長、参りましたわ。
これ絶対に売れます!」

赤井の一言に
大きくみんな頷いている。

「輝明!これは凄すぎるよ!」

と、ゆうこ

調味料調合担当の日村も大絶賛だ。

「ほんま、おなご先生の言う通りや!

どうしたんや?餅田......」

そんな中、餅田だけは元気がない、

「ワシ、風にあたってきますわ……」

4月4日 上弦 見事なな半月だ、
複雑な思いでベンチに腰かけ
持田は夜空を見上げた。

来週から続々と新調理加工機器が
運び込まれる。

赤井はテーブルの上に、
レイアウト図を広げた。

「石崎、山田、石川、山本、
来週が勝負やで、電源工事は、
関電工さんにお願いしとる。

頭の中に叩き込んでおくんや!」

4月22日までには新規設備を設置し
稼働できる状態にしなければいけない、

大小納入されてくる機械は48台だ、

赤井以下、5名は真新しいフロアーに、
ケガいたポイントに次々と
運び込まれる設備を設置していく、

「石崎!もう少し右や!」

石崎が器用に鉄棒を使いテコの原理で
機械の配置を微調整していく、

「よっしゃ!レベル合わせや!」

山田はスケールを装置と平行に
ピタリと合わせた。

赤井はヘルメットを反対に被り
レベラーをのぞき込んでいる。

「もう5mm上や!」

山本はアンカーボルトを回し
高さ調整する。

「赤井さん これでどうでっしゃろ?」

「よし山本・山田!アンカー固定や!」

こうして全ての機械48台予定通りに
設置が終わり電源が接続された。
電源を投入すれば直ぐに稼働開始する。

赤井たち全ての作業は完了した。

ロスでの東奔西走

藤木は、USA1008の商品化してくれる
工場をロサンゼルス中探し回った。

どこも相手にしてくれなかった。

話を聞いてくれたとしても、
法外な費用を吹っ掛けられた。

米国は世界トップクラスの
裕福な国だが貧富の差が激しく、
5人に1人は、貯金ゼロ、

経済成長が、
続いているにもかかわらず、

人口1%の人が国の富、39%を握り
9%の中間層の人が35%の富を、

90%の人が貧しい暮らしをしていて、
残り26%の富を……

それが米国である。

特にメキシコとの国境が近い、
大都市ロサンゼルスでは、
貧富の格差が大きい、

USA1008の現地対応者に
行き詰っていた藤木の救世主は、
黒人のマテオという男だった。

聡明で心優しいマテオと出会ったのは、
四越のロサンゼルスにある
拠点に3カ月出張したときである。

マテオは藤木の憧れていたUCLA
(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)
の卒業生だった。

UCLAは、過去卒業生から14人の
ノーベル賞受賞者を輩出し、
世界的な名門大学である。

マテオは、ロサンゼルス郊外にある
小さな田舎町、ロサンゼルスから
北に約3時間半、

カリフォルニアのほぼ真ん中、
サンルイスオビスポ郡にある
人口約3万人の小さな、

パソロブレスという町で生まれた。

町の名前は、オークの木の道を
意味するスペイン語に由来し、

実際にオークの木が自生する。
地元の人たちは、
親しみを込めパソと呼ぶ。

父親は幼い頃に亡くなり
女手一つで自分、妹、弟 を
苦労して育ててくれた。

母親には頭が上がらない、

友達の中にも父がいない子もいたが
共通して言えることは、
貧乏だということだった。

例に漏れず、肌の色が黒いと
いうことだけで、白人の子供たちから
差別を受け続けた……

日本では考えられないが米国では、
生まれたらすぐに
髪の毛、肌、瞳の色を確認する。

同じ人間だから、
マテオも暑ければ汗をかく、

学校では、眉を顰(ひそ)められ、

「Isn't black people kind of creepy?
黒人ってなんか気味悪くねぇ?」

洋服にマテオの汗がつくと
「黒い滲みになる!」と拒絶され、
いつもからかわれた。

マテオは勉強することが好きだったし
将来、母を楽にさせてあげることが
目標だった。

周りの奇異の目も、
どうってことなかった。

そんなマテオの堂々とした態度に
クラスの仲間は面白くなかったみたいで
休憩時間は虐められ続けた。

「僕は負けない!」

そう心に決め勉学に励んだ、

退避場所は決まって図書室、
質素なランチを片手に本を読み続けた。

そんな中、マテオを形成した
1冊の本がある。

それは、新渡戸稲造が100年前に
書いた”武士道”だった。

【武士道】

ベトナムで布教活動していた、宣教師が
腹切りや打ち首の野蛮な日本人に対し、

上から目線で、崇高なキリスト教の
教えを広めてやろうと、
日本にやって来る所から話が始まる……

そんな考えを持って日本に来たのだが、
清潔温和で道徳が行き届いてる
日本に驚愕する、

キリスト教の様な高爽な教が無いのに、
何故日本人には、
素晴らしい道徳観念が有るのか?

それは、古くから日本には、
武士道と言う教えが有り、それにより
築き上げられている事実を知る。

「武士道とは何だ!?」

布教師は武士道について
詳しく調べ始める。

そこから、本の話が始まって行く……

マテオは、読んだ感想をレポートに
まとめ、州のコンクールに提出した。

Bushido(武士道)

Regardless of gloss and scent, the full bloomed Yamato Flower would fall in wind of Justice(Jin and Gi=Benevolence and righteousness).

Usually, the flower will flowering from buds and they die.

Cherry blossom are different.

The cherry blossoms bloom for one minute from the buds, then for two minutes ..and when you think that they are in full bloom, they fall without any regret.

This substrate matches the substrate of "Bushido" and has been a flower that Japanese people have loved for a long time.

To summarize the book written by Inazo Nitobe, Bushido is to help Jin, Gi, and the weak.

No matter how high social standing you have,

No matter how precious your honor is,

No matter how rich you are,

No matter how high authority you have,

No matter how high the official position is,

No matter how much you stand at the top of your life,

It is written that he will not hesitate to throw away his own life in order to help Jin, Gi and weak.

Isn’t the fact that you can throw away your own life in a dignified manner is similar to the fact that the cherry blossoms in full bloom falls?

In other words, Bushi is, no matter how much you stands at the top of its life, it is exactly the substrate that Sakura has.

Only cherry blossoms have this substrate in the flowers all around the world.

Therefore, this substrate possessed by cherry blossoms are the most brilliant one possessed by SamurAI.

That is why the cherry blossoms are a symbol of Bushido.

the spirit of Bushido continued to live in the heart of the Japanese people.

A car stopped before the rAIlroad crossing that came down,and was wAIting for the trAIn to pass.

A woman in her 40s was sitting in the driver's seat of the car, and her father was sitting next to her.

At this time, an old man lying down in the rAIlroad crossing.

The trAIn is coming at normal speed.

she sAId “I should help!” and she went out from the car. Her father sAId, “It’s too late!” but she didn’t listen to him and ran to the old man.

She managed to get the old man out of the rAIlroad crossing, but the woman were hit by the trAIn and passed away.

She is a fine SamurAI who didn’t care for her life to help the vulnerable.

What a savage country to cut off your stomach and cut off your neck! It was the Bushido spirit rooted in the Japanese that silenced the missionaries who boarded in to spread Christianity.

満開の、艶と香りを顧みず、
仁義の風に、散る大和花。

普通の花は、蕾から開花していき
花弁は渇れ果てます。

桜は違います。

桜は、蕾から一分咲き、
二分咲きと
咲いていき、

満開になったかと思うと
惜しげもなくパっと散ります。

この基質こそ”武士道”の
基質と
一致するものがあり、

昔から日本人の愛する花と
なっているのです。

新渡戸稲造 が書いた本を
要約すると
武士道とは、

仁、義、弱者を助けるために、

自分がいくら
高い地位を持っていても、

いくら尊い名誉をもっていても、

いくら金持ちになっていても、

いくら高い権威をもっていても、

いくら高い官職についていても、

いくら人生の
頂点に立っていても、

仁、義、弱者を助けるために
躊躇なく自分の命まで、

堂々と捨てて
いくことと書いています。

自分の命まで、
堂々と捨てていく
ことが
できるということは、

満開の桜がパっと、
散っていく事と似ていませんか?

つまり、武士というものは、
いくら人生の頂点に立っていても、仁、義、弱者を助けるために

命まで堂々と捨てていく
ことができる基質は、

まさしく桜が持っている
基質そのものなのです。

花の世界では、桜だけが
この基質をもっています。

だから、桜が持っている
この基質こそ、
侍の持っている
最も精華なものなのです。

だから、桜が武士道の
象徴となっているのです。

日本人の心の底に武士道精神は、
生き続けていました。

ある蹈切、降りてきた
遮断機の前に一台の車が、
電車の通過を待っていました。

運転席には40代の女性、
隣は 彼女の父親……

蹈切の中には、
一人の年寄りが倒れています。

電車は通常のスピードで
やってきています。

「助けなきゃ!」
と言いながら車から飛び降り、

「もう間に合わないよ!」と、
言う父親の声をきかず
年寄りの救助に向かいました。

なんとか年寄りを蹈切から
押し出すことはできたのですが、

女性は電車にはねられ
死亡されました。

弱者を助けるために
自分の命を顧みなかった、

彼女は立派な侍です。

腹切りをしたり、
首を切り落としたり、

なんて野蛮な国なんだ!と

キリスト教を布教されるために
乗り込んできた
宣教師を黙らせたのは、

日本人の中に根付いていた
武士道精神 だったのです。

武士道が持つ、とてつもない
度量の大きさにマテオは詠嘆した。

米国には存在しない文化であった。

彼の心の奥にある「僕は黒人だ!」
という閉塞感を、
武士道精神は完全に打ち砕いた。

新渡戸稲造の書いた”武士道”は、
彼の人生を180°変えたのである。

アメリカン・ドリーム
(American Dream)
アメリカ合衆国における成功の概念、

均等に与えられる機会を活かし、
勤勉と努力によって勝ち取る幸福追求、

日本と違い”出る釘は伸ばす!”
それが米国だ、

首席で卒業したマテオに対し
UCLAは、授業料免除の特待生として
迎い入れてくれた。

Every cloud has a silver lining.
(あらゆる雲は銀の裏地をもっている)
マテオが実感した言葉である。

マテオは、敵国の連合艦隊司令長官
“山本五十六”の座右の銘を胸に、
仕事に向き合った。

やってみせ、言って聞かせて、
させてみせ、
ほめてやらねば、人は動かじ

話し合い、耳を傾け、承認し、
任せてやらねば、人は育たず

やっている、姿を感謝で見守って、
信頼せねば、人は実らず

「男の修行」

苦しいこともあるだろう。
言い度いこともあるだろう。
不満なこともあるだろう。
腹の立つこともあるだろう。
泣き度いこともあるだろう。
これらをじっとこらえてゆくのが、
男の修行である。

山本五十六

Show them, tell them, have them do it, and then prAIse them, otherwise, people will not do anything.

Discuss, listen to, approve, and trust on him. If not, man will not grow.

Follow his attitude with thankfulness and trust on him. If not, man will not bear fruit.

「The man trAIning.」

You may have difficulties.
You may have what you really want to say.
You may have complAInts.
You may get angry.
You may close to tears.
It is the man trAIning that you subdue these your feeling.

Isoroku Yamamoto

UCLAを卒業したマテオは、
ロサンゼルスにある
大手商社に就職した。

そこで3年前、商談で藤木と出会った。

武士道を知ったマテオは日本文化に
興味を持ち日本語を学習し、
すっかり話せるようになっていた。

藤木が卒業したUCLAに憧れていた
こともあり、自分が受けた黒人差別の
事も、包み隠さず話せる間柄となった。

日本人である藤木とは親近感があり、
初対面であったが
個人的なことまで話せた。

すっかり打ち解けた藤木は、
今でも決して忘れられない思い出を
マテオに話した。

藤木は、お婆ちゃん子で、
いつも優しく接してくれた。

小学1年の誕生日、
友達を招待したお誕生日会の事だった。

「とっておきのお祝い、
しないといけないね!」

と、お婆ちゃんは張り切っていた。

藤木はどんなプレゼントなんだろう
と、浮き浮きだった。

〇 □ △ ☆……

色んな形の豆腐が
大きなお皿の上に並んでいた。

同じテーブルには、
ふだん食べなれないご馳走の数々……

お皿の豆腐には、
誰も手をつけなかった。

友達が色々なプレゼントをくれた。

「そうだ!お婆ちゃんのとっておきの、
お祝ってなんだろう?」

お誕生日会を抜け出し縁側にいる、
お婆ちゃんのところへ駆け寄った。

「お婆ちゃん!
とっておきのお祝ってなに?」

お婆ちゃんのプレゼントは、
あの皿に並べられた豆腐だという、

「誕生日会なのに!」

と、腹を立てふくれてしまった。

当時、世間はオイルショックで
藤木の家も例外に漏れず、

子供の自分には、
まったく気づかなかったが
家計は火の車だった。

お婆ちゃんは、ハイカラな物は、
プレゼントしてやれないけど、

かわいい孫に、
精一杯の真心をあげたかった。

それが色んな形をした
豆腐だったのである。

家を飛び出し友人と遊ぶのだが、
心が晴れない……

いつも優しくしてくれるお婆ちゃんに、
ひどい事を言ったと
子供なりに反省をし家へ戻ってみると、

すり鉢で、
まる しかく さんかく ほし の
形をしていた豆腐を、

お婆ちゃんはすり潰していた。

「こんなものじゃ、
喜んでもらえないね……

その姿を見て藤木は、
なぜか涙が止まらなかった。

そんな藤木に、
お婆ちゃんはにこりと笑い、

「今晩は、白和えにするかね?」

と、頭を優しくなでてくれた。

あれから40年以上経つが、
決して藤木の記憶から
消える事はない、

マテオは弟・妹にも
自分のように大学に進み
自由を満喫して欲しかった。

それも含め母を助けるため
給料の半分は、仕送りしていた。

ロサンゼルス中、歩き回り
どこにも相手にされない藤木は、
マテオを頼った。

マテオは、武士道精神を理解し、
山本五十六の座右の銘を基軸に
仕事に励んだ、

五十六の言葉は、
集団生活をする基本である。

米国会社で実践しているのは、
マテオだけであった。

マテオは、マネージャーにまで
出世していた。

藤木は、マテオにUSA1008
米国向け”肉じゃがオムレツ”を
広めたい構想を熱く語った。

日本料理は米国でも大人気だが、
給料の半分以上、仕送りしている
マテオにとって、

田舎で暮らす家族に、
高価な日本料理など食べさせて、
あげる余裕はなかった。

「マテオ、本物の日本料理を
食べて見ないと
僕の話は理解できないよね?」

日本食は人気でロサンゼルスに
たくさんの店があるが、

ほとんどの店は、朝鮮人や中国人が
経営している”なんちゃって、
日本料理”であった。

以前からこれが、日本料理だと
米国人に思われることに
藤木は侵害でならなかった。

「マテオ!本物の日本料理を
ごちそうするよ!

今週末、家族全員、
ロスに呼んで
もらえないだろうか?」

藤木は、行きつけの
"かん八"と言う日本料理店に
家族を招待した。

店はロスでも大人気店であり
開店前から
長蛇の列ができていた。

しばらくすると店が開店し
マテオ家族は
暖簾(のれん)をくぐった。

「いらっしゃいませ!」

店員一同による気持ちの良い
掛け声にマテオの家族は、
少々戸惑っているようである。

米国社会には、根強い黒人差別が
あるのも事実である。

店に入ると、
冷たい視線がマテオ達
家族に向けられた。

「なんだ!黒人の分際で、
こんな二つ星、高級和食店に……」

いくら都会でも、
まだまだ肌の色で差別する
白人はたくさんいる。

この人たちは、同じ空間に
存在している事を
嫌がっているのである。

そのような空気の中、
予約していたマテオたちは、
案内されるのを待っていた。

「こちらへどうぞ!」

周りの空気を吸い込むと味が
するようなどぎつい香水の
匂いを撒き散らし、

並んでいた典型的な
中年白人女性グループより先に
案内されたのは、

予約していたマテオ家族達だった。

「なぜ!黒人が、

私達より先に!!」

中年白人女性グループは、
怒り狂う……

肌の黒い人間は、
全てにおいて後回しと
疑わない人たちである。

怒り狂う中年女性グループは、
店員を呼びつけた。

「Hey, hey! What's this all about?
(ねぇ!ねぇ!ちょっと!
これはどういう事?)」

「少々お待ちくださいませ。
すぐに確認してまいります!」

店員は、丁寧に対応し
奥に戻っていった。

そんな女性達を、
気にも留めない母は、

「こんな所に、
来れるなんて夢みたい!」

と、はしゃぎ、

うつむく妹や弟のテンションを
上げようと必死だった。

妹や弟にとって、
こんな扱いをされるのは
日常茶飯事なのである……

マテオは、差別に負けることなく、
差別されている人を助ける事が
大事なんだと伝えたかったが、

いつかは、
分かってくれると思った。

戻ってきた店員は、
中年白人女性グループと
マテオ達を一緒に案内したが、

中年白人女性達は、
不満一杯だった。

一緒に案内されることが
嫌でしかたないのだろう……

女性グループは店の中央にある
テーブルに案内され、

マテオ家族は、その奥にある
VIP個室に案内された。

部屋に入りビックリした!

全くの別空間だったのである。

一面ガラス張りの向こうには、
自然に溶け込んだ日本庭園があり
大きな池には優雅に泳ぐ錦鯉……

池に注ぎ落ちる水の音、

自然と一体となった
日本庭園は、とにかく落ち着く、

マテオ家族にとって、こんな庭園を
見るのは、初めての経験なのだろう、

呆然と優雅に泳ぐ
錦鯉を眺めていた。

「すいません、今日は、
個室など
予約していないんですけど……」

藤木は、案内してくれた
店員にいった。

しばらくするとドアがノックされ
マスターの斎藤氏が入ってきた。

「藤木さん、
いつもお世話になっています。

この度は不快な思いをさせ、
大変申し訳ございませんでした。

今日は、御友人ご家族と
食事をされると言うことで、
特別な個室を用意させて頂きました。

私どもからのプレゼントです!

又、些少ですが料理の方も
最上級のものを
用意させてもらいました。」

日本語が分かるマテオは、
感無量の表情をしている。

最後にマスターはマテオ達、
家族に向けていった。

「Please have a nice time.
Mateo family!
どうぞ素敵な時間をお過ごしください。
マテオファミリー!」

斎藤は、A5ランクの
丹波牛のすき焼きを用意していた。

初めて見る幅広で薄く切られ、
重箱に詰められ
見事なサシの入った丹波牛である。

又、横の大皿には色とりどりの副菜、
盛りつけも見事しかいいようがない、

マテオ家族は、瞬き一つせず、
見惚れている。

「肉を生卵に、
潜らせ食べるんだよ!」

藤木がすき焼きの食べ方を
説明するのだが、
米国に生卵を食べる文化は無い、

すき焼きを含め和牛を食べた事のない
マテオ家族にとり、
初めての経験なのである。

「ご安心ください。
生で食べても大丈夫な卵ですから、」

着物を着た女中の説明をよそに、
みんな不審のまなざしで
ぎこちなく生卵を溶いている。

好き焼き鍋に牛脂を溶かし、
丹波牛を女中が焼き始めた。

牛脂で焼かれサシの脂がとろける、
食欲をそそる良い香りが部屋中に
いきわたる……

濃厚の味ながら、しつこくのないのが、
すき焼きである。

着物を着た女中が、袖を持ち上げ
"かん八"秘伝の割り下を回しかけた。

牛肉が身悶えるように煮えている。

食べるのは、16歳になる妹のエマ、
そして、12歳の弟、リアムからだ、

適度に煮え上がった田島牛が、
溶き卵の入ったエマとリアムの小皿に
取り分けられた。

「Enjoy your meal.
どうぞ、お召し上がりください。」

割り下が浸しみ込んだ牛肉の匂い。
食べた事のない生卵が、
それに絡んでいる。

「It looks delicious.
おいしそう!」

興味津々でリアムが口に運んだ、

「Wow! 」

その言葉が全てを物語っていた。

「肉を食べるのに歯がいらないなんて、
こんな美味しい食べ物、
私、生まれて初めて食べた!」

妹のエマだった。

「That’s amazing!(すごい!)」

陽気な母が小躍りしている、

一口食べ目を閉じていた
マテオが口を開いた。

「甘辛いソースが絶妙だ、
まるでバターが口の中で
溶けていく感じだ、

これが牛肉とは思えない……」

「みなさん、これは、
和食の一品にしか過ぎません。

これが本物の和食です!

気に入ってもらえて光栄です。」

そんなマテオに
藤木は話を切り出した。

「マテオに相談があるんだ……

“USA肉じゃがオムレツ”開発コード、
USA1008、来年米国で販売しようと
日本で製造準備が進んでいる。

完成品の形で
米国に輸出しようとすると
高額な関税がかかる、

野菜調理部、牛肉加工部、薄焼き玉子部
調味部、各々の輸出を行い、

ロスでそれらを、1パッケージにし
完成させる。こうすることで、
高額関税から逃れられる!

パッケージしてくれるところを
さんざん探したんだけど、
どこにも相手にされず困っているんだ、

USA1008の味付けは、
今日食べたすき焼きと同じ、
調味分類で味は凄く似ている。

Taste of mother’s home cooking!
日本では、”おふくろの味”といって、
一般家庭で食べられている
ポピュラーな日本食なんだ、

是非とも全米に普及させたい!

マテオ、力を貸して
もらえないだろうか?」

マテオは、今食べた
すき焼きの美味しさに感動している。
もちろん家族全員、そうである。

「Of course most welcome!
(もちろん大歓迎だ!)

僕は、日本の武士道精神と
山本五十六を尊敬している。

UCLAでも教わらないことだ、

実は、UCLAで黒人女優の
ガブリエル・ユニオンとは、
同じゼミだった。

それと、超親日家で大先輩映画監督の
ポール・シュレイダーもいる。

アメリカで食品を販売するための
FDA認証から、販売企画まで
是非とも僕にやらせて欲しい!」

マテオと藤木は両手でガッチリと
強い握手を交わした。

マテオ家族は、椅子から立ち上がり
大きな拍手を送った。

「絶対に上手くいく!」

藤木が千人力の
力を得た瞬間だった。

マテオが白羽の矢を立てたのが、
ニコラスが経営する
15人足らずの零細企業だった。

ニコラスは、白人だが高校のとき
黒人のマテオを唯一かばってくれた
親友である。

「箱に詰込むだけだろう?
それで数は、どのくらいだ?」

「月に10,000……
35セント/1パッケージ」

ニコラスは電卓を叩いた。

「1パッケージ1分弱か余裕だな!
よし!このプロジェクトに乗ろう!」

FDAとは、
日本の厚生労働省にあたる。

米国での代理人は、マテオが
引き受けてくれる事になった。

承認で一番困難なのは、
商品ラベルの作成で商品一品ずつ、
明示しなければいけない、

ラベルには、正味内容量表記、
成分リストを英語化する必要がある。

藤木は、すぐさまその事を、
輝明と ゆうこ にメールした。

米国での状況は、すみやかに
徹と名川にも伝えられた。

大丸と白石が成分分析装置を使い
USA1008のあらゆる成分を
一覧表にした。

ラベルにのせるのは、
上位8成分だ、

成分ノミネートと英語化作業は、
ゆうこ が行った。

ここは、管理栄養士の実力を
見せる番である。

日本食は米国でヘルシーという
イメージが強い、

USA1008の栄養学的視点から
見たデーターも併記した。

「おなご先生!
そんな事もできはるんでっか?」

白石が目を丸くした。

そんな所へ品質担当の横永が
血相を変え飛び込んできた。

「おなご先生!
少し塩辛いと思うんやけど、
分析してもらえまへんか?」

早速、ゆうこ は成分分析器にかけた。
塩分濃度が1.98%と表示している……

既定の濃度は、人間がもっとも
美味しいと感じる1%だ!

1%には分けがあり、
人間は、体内と同じ1%の塩分濃度を
「美味い!」と感じる。

輝明の調合も0.8~1.4%の間にある。
明らかに塩分濃度が高い!

「塩分量が倍ですね!」

それを聞いた横永は、
現場に飛んで帰っていった。

「赤井さん!エライことですわ、
やはり塩分濃度が高いです!」

"二十四の瞳プロジェクト"の中で
いちばん若い横永が、
調味料調合担当の餅田に質問した。

「餅田さん、
何ぞご存じありまへんか?」

「知らへんなぁ~」

餅田が靦然たる顔をしていった。

「おまえまさか、なんぞ
やったんとちゃうやろうな?」

赤井は疑いの目を餅田に向けた。

「なんぞって、なんでっか?

かなわんなぁ~何か証拠でもあって
いってはるんでっか?」

みんなが、沈黙し
重苦しい空気が漂っている……

「すいまへん!」

と言う声に全員が振り返った。

「自分が餅田さんにいわれ
調味料を加えました。」

急遽応援で試作製造に加わっていた
入社4年目の伊藤だった。

「伊藤!黙ってろと、
いったやろうが!」

赤井が餅田を、
上から睨めつけてた。

「餅田!!!」

餅田が開き直っていった。

「そうや!ワシが隠し味、
特別に調合してやったわ!」

「アホンダラ!」

次の瞬間、日村のパンチが
餅田の顔面にめり込み、
体ごと背後の安全柵に吹っ飛んだ。

「なんでや?みんな努力しとったん
見てたやろうが!!」

日村は悔し涙で体を震わせ
声を絞り出した。

激しく柵に体を打ち付けられた
餅田は、血の混じった唾を
床に吐出しいった。

「途中から加わった副隊長に
ゆうこ マドンナが、

嬉しそうにしてたんが、
気に食わんかったんや!

ワシこのプロジェクト、
止めますわ!」

次の瞬間、
テーブルを強く叩く音がした。

赤井だった。

「ワシらはなぁ、ただただ米国向け
USA1008の売り込みを成功させたい
一心で努力してきたんや!

路頭に迷っとったワシらに、
手を差し伸べてくれはったんは、
西島さん達とちゃうんか?

せやさかい、
絶対に負けちゃぁいけへん!

会社を立て直すためにもUSA1008、
絶対に成功させんとあかんのや!

そないなことも、
わからへんのか!」

「わからへんなぁ……

元東条フーズと言う汚名が
消える事はあらへんのや!

みんなもそう言っとったやないか!」

餅田は、よろけながら
薄笑いを浮かべた。

「勝手にせぇ!」

赤井は、そう吐き捨て、
石崎にいった。

「試作のやり直しや!」

調理加工担当者たちが
まだ凍り付いている中、

赤井達二人は作業を始めた。

新規まき直し

「どうしたんや?餅田……

ここにおったんか、探したで!」

皆に、たこ焼きの差し入れを
持ってきた名川だった。

餅田は、春風に吹かれながら
木製のベンチに腰掛け、
丹波の山並みを一人眺めていた。

「聞ぃたで、
お前やらかしたそうやな?

二十四の瞳プロジェクトを
止めるって、
言ったそうやないか?

ほら、たこ焼きでも食って
元気ださんかい!」

「しゃあないですよ、
皆を裏切ったわけですから……」

餅田は投げやりにいった。

「しょうもない事で、
依怙地になるな!」

呆れ顔の名川が疑問を口にした。

「やけどほんまは、
こないなことになると思うて
なかったんちゃうか?」

黙ったままの餅田に、
名川が続ける……

「塩分濃度、
2%だったそうやないか?

それと、伊藤にいったそうやないか、
製品としてまずくはない範囲やと。

副隊長の味付け、それほどじゃないって
いってやりたかったんちゃうか?

ところが、
品質担当の横永は大したもんや!

味見して、おかしいと感じ、

成分分析したら2%やった。
ほいでこのざまや!

ちゃうか……?」

「たこ焼き、ごちそうさんでした。
もう、すんだ事ですわ、」

空きトレーをゴミ箱の中に放り込み、
餅田は立ち上がって背筋を伸ばした。

座ったまま、自分を見上げる
名川にいった。

「おおきに、工場長、
こんな自分を心配してくれはって、」

そういい、立ち去ろうとした
餅田が振り返った。

「工場長、ひとつ頼みがあります。
おなご先生、副隊長、みんなに、

申し訳なかったて……

そうワシがいってたと伝えて下さい。」

名川はいった。

「そないなこと、
自分で直接、いうんやな!

餅田、リベンジや、
ここに座れ!」

そういうと、立ち去ろうとしていた
餅田を呼び戻した。

「自分はセンスがある人間や、
せやさかい
プロジェクトメンバーに選んだ。

来週、五百旗頭さん、四越の藤木さんが
USA1008の現地協力してくれる
外人さんを連れてきはる、

餅田は英語が得意やったよな?

イベントを企画し、
案内してもらおうと思う。

どないや?餅田!
引き受けてくれるか?」

餅田は、少しうるんだ目をし、
名川を凝視している。

「工場長……

わしプロジェクトを続けても
エエんですか?」

「エエも、悪いもあるかい!
ガンバらんかい!」

そういうと名川は
餅田の肩を力強く叩いた。

Welcome to Japan

10時間かけマテオは、
関西国際空港に降り立った。

大阪湾内泉州沖5 kmに
造られた人工島は、
”関空島”と称されている。

近代的な街、
それもゴミが落ちていない、
無数の自動販売機には驚いた。

治安の悪いロサンゼルスでは
ありえない事だ、藤木とマテオは
先月ロサンゼルスで分かれたばかりだ、

入国ゲートを通り抜けたマテオに
大きなプラカードが目に飛び込んだ。

Welcome to Japan, Mr.Mateo!
(マテオさん、ようこそ日本へ!)

プラカードを持っていたのは、
藤木と餅田だった。

「Nice to meet you,Mr. Mateo.
My name is Mochida.
始めましてマテオさん、餅田です。

ここから大阪の中心街、難波まで、
南海鉄道の特急ラピートで行きます。」

車内清掃員が二列応対に整列し
列車の到着を待っている。

難波駅と関西空港駅では、
車内清掃が行われている。

到着後から発車までの限られた時間、
行う正確さとスピードが
求められる作業である。

鉄仮面のような面構えで、
丸窓の青い車体が
関西空港駅に滑り込んだ。

6両編成で座席は、
全席指定の252席、

一礼すると彼たちは列車に乗りこみ
手際よく車内清掃をはじめた。

まったく無駄のない動きにマテオは
釘付けとなり様子を見ている……

何と彼たちは10分もしないうちに
全ての清掃作業を完了した。

車両から降り、整列し道具の確認 及び
点呼を行い一礼してホームを去った。

「There was a samurai!
(侍がいた!)」

絶対に米国で目にする事は無い、

我々にとって普通のことであるが
マテオにとっては、
度肝を抜かれる事だった。

乗車案内がされマテオ達は
列車に乗り込んだ。

車内にはゴミ一つ落ちていない、

又、マテオは車内にも自動販売機が
あることに驚いた。

列車は発車し、すぐ人工島と陸地を
つなぐ長い鉄橋を渡った。

座席に座り、
心地よく眠っている人々……

ロサンゼルスでは絶対にありえない、
こんなことをしたら間違いなく財布を
すられてしまう、

難波駅までは約35分、

寸分たがわず
時刻どおり運行されいる。

ドンピシャ!だ、
信じられない事である。

マテオは日本の、治安のよさ、
鉄道の利便性 及び
精確さに関心しきりだ、

この後、マテオを驚愕させる事件が、
難波南海駅で起こることになる。

餅田は、マテオを歓迎するイベントを
考えていた。それには荷物が邪魔だ、

「マテオさん、
ここで大きなボストンバックHOTELまで
配送してもらいましょう!」

荷物をあずけようとして
手持ちのポシェットが無い事に気づく、

「そうだ!
トイレを利用したとき洗面台に
ポシェットを置き忘れた!」

マテオはすごく綺麗で用を足したら
水が自動で流れるわ、手を差し出せば
蛇口から水が出るわ、

ビックリしっぱなしで……

財布とパスポートを入れた
ポシェットを洗面台に置いた事を
すっかり忘れてしまったのである。

一刻を惜しむかのように餅田がいった。

「ワシ探してきますわ!」

細かくトイレの洗面台を見ても
ポシェットらしきものは、
すでに見当たらない、

色々さがした結果、ポシェットは、
駅の落とし物あずかり所にあった。

受け取るには、
本人のサインが必要との事、

餅田は事情を話し、
マテオを落とし物あずかり所まで
連れて行った。

必要書類に記入し無事ポシェットを
受け取ることができたマテオは、

渾身の笑顔を見せ、
しかも完璧な日本語でいった。

「心から日本の武士道精神に
感謝いたします!」

それもそうである、ロサンゼルスなら
100%帰ってくることはない、

「なんや!マテオはん、
日本語しゃべれるんでっか?」

そう言う餅田に対し藤木は、

「彼が理解できる日本語は、
標準語だけですから!」

と、冗談交じりでおどけた。

「それはそうと、

小腹が減りましたなぁ……
この店にしましょう、

“とんかつ なにわ”

難波で有名な店ですわ!
マテオさん、どれにしはります?」

ガラスケースには、本物とそっくりな、
食品サンプル、
マテオが、見とれている。

そんなマテオに藤木がいった。

「マテオ、これらは全て偽物、
ろう(wax)で出来ているんだ、」

「Wax?
Unbelievable!(信じられない!)」

「“とんかつ なにわ”といったら
ロースカツですわ!
それで、どうでっしゃろぅ?」

餅田の一声でメニューが決まった。

「いらっしゃいませ!
何にされますか?」

店員がおしぼりと水を持ってきた。

マテオが運ばれてきた
おしぼりと水を見ている。

小さな声で餅田に質問した。

「これら頼んでいないですよね?」

「あ!これ? サービスですわ!」

これまた、米国の店ではないこと、
ビックリすることばかりだ、

マテオは、トンカツを初めて食べる。
すでに肉はカットされている。
恐る恐る口に運んだ、

カリッとした厚めの衣の表面を噛むと
フワッとした肉の柔らかさと
肉汁とよい香りが口の中に広がった。

「Incredibly tasty!
(信じられないほどおいしい!)」

「そうでっしゃろ、
“とんかつ なにわ”のロースカツ
最高でんねん!」

ロースカツを食べ感激している
マテオに餅田が続けた。

「自分、マテオさんに日本を満喫して
もらおうと考えとりますねん。

会社の近く伊丹に、
HOTELを用意しています。

HOTEL から15分のところに
“天然温泉湯の華廊”があるんやけど、

五百旗頭さん含め、
今回のプロジェクト全メンバー
集合することになっています。

日本は温泉、裸のつきあい、

露天風呂で汗を流し
冷え切ったビールで、
歓迎会どうでっしゃろう!」

「餅田さん!
それ最高ですね!!

米国には大勢で温泉に浸かると
いった文化ありませんから、」

藤木は満面の笑顔だ、

マテオがチップと代金を
払おうとしている。

「マテオはん!日本ではチップなんぞ
いりまへん、それと名川工場長に
たんまり軍資金、もらっとりますから」

あれほどのサービスをしてもらい
チップが必要ない?
マテオには全てが驚く事ばかりだった。

餅田は伝票を持ち支払いをすませた。

「大阪観光といきまっか!」

大阪城までタクシーで18分もあれば着く
餅田はマテオと藤木を案内した。

城の正面、大手門をくぐった、
戦災を免れ現存する門である。

「この柱は、婆娑羅バサラ継ぎという
釘を使わず組み立てられた
木組みによる柱ですわ!

どないな事をして組んどるのか
不明でしてんけど、
X線撮影で判明しました。」

「Kigumi?木組み?」

マテオは何故、釘を使わず接合するのか
疑問に思った、
それには藤木が明解に答えた。

「日本は地震が多発する国で、
釘を使ってガッチリ組んでしまうと
崩壊してしまう、

木組みなら地震の揺れエネルギーを
自分が揺れる事により分散でき
崩壊から免れられるんだ、

柔能く剛を制す!

柔らかくしなやかな者こそが、
かえって剛強な者に勝つことができる。

日本柔道の基本なんだ!」

マテオは黒人が白人に打ち勝つヒントが
木組みにあるように思えた。

正面の石垣に、
とてつもなく大きな石を発見、

城の石として日本一の大きさを誇る
蛸石(たこいし) 高さ5.5メートル、
幅11.7メートル、重さ約108トン

「What a big stone !
(何て大きな石なんだ!)」

「島(淡路島)の巨石を船で
大阪湾まで運び、

ここまで、
もってきたということですわ、」

そう言って餅田は、
二人を天下一の黄金の和船
“大阪城御座船”に案内した。

本物の金箔を屋根のテントに貼り
豪華で大阪城の堀を
20分で一周する船だった。

「本丸東面にある石垣は、
約34メートル
日本有数の高さを誇ってます。

江戸時代の築城名人が作ったもんで、
今でもしっかりと残っとります。

堀の深さやけど、
8メートルもありますわ、」

船が鬼門(北東)の
石垣に寄っていった。

「よう見て下さい!
四方四角い石に囲まれた
丸い石がありまっしゃろう、

鬼門の悪いエネルギーから守る
人面石ですわ!

ここから見る、石垣の上にそびえ建つ
天守閣の眺め最高ですねん。

天守閣は鉄筋コンクリートやけど、
広く市民から寄付を募り、

1931年に竣工し戦前に建てられた
鉄筋最初の建物です。

戦時中、大阪城には陸軍の第4師団が
ありましたんやけど、
奇跡的に空襲から逃れましてん、

わいガキの頃、ここの堀で
ぎょうさん雷魚釣りましたわ!」

もう、時計の針は、
17:00になろうとしている。

「おっと!もうこないな時間や!
急がな、あかんですわ、」

3人が”湯の華廊”の暖簾を
くぐったのは、18:00を回っていた。

マテオにとり他人と裸で風呂に
入る事など考えられない事であり、
覚悟がいった。

「ここは武士道の国、
日本なんだ……」

マテオは覚悟を決めた。
洗い場に入ると餅田がいった。

「マテオさん、長旅御苦労さんです。
背中を流しましょう!」

マテオは意味が分からないようだ、
藤木が要約した。

「Mochida is saying let's wash your back.
餅田は背中を洗おうと
いっているんだよ!」

「汗がつくと服が汚れる!」など、
散々差別を受けてきたマテオにとって、
信じられない言葉だった。

「僕は、黒人だよ!いいの?」

「No problem at all!ですわ!
全く問題ありません!」

餅田と一緒に、
藤木もサムアップした。

「みんな先に源泉かけ流し露天岩風呂、
浸かってるはずですわ、

自分達もいきましょう!」

そう言うと餅田は、
マテオと藤木を案内した。

「餅田!遅いやないか!」

肩まで湯につかり、
頭に手ぬぐいを乗せた赤井だった。

「そうやそうや!
のぼせてしまうわ!」

餅田を殴り飛ばした日村が
上機嫌にいった。

「藤木さん!
ご無沙汰しております!」

副隊長の輝明だった。

「マテオさんでっしゃろ?
早う浸かって、
旅の疲れ癒したって下さい!」

顔の汗を拭きながら白石がいった。

「一緒に入ってもいいんですか?

僕は黒人ですよ……」

マテオは日本に来て、
何回、同じフレーズをいった事か、

「黒人それがどないしたん?
関係おまへん!

ワイらは仲間やで、のぅ餅田!

そう伝えてや……」

これまた、上機嫌の名川だった。

地下1,001メートルより毎分410リットル
湧き出る源泉を掛け流し、温度38度、

温泉成分豊富な
高張性ナトリウム塩化物泉と
炭酸泉の相性は抜群に良く、

身体がポカポカする。

「What an exhilarating feeling!
(何て爽快な気分なんだ!)」

広い夜空の下、ゆったりとした気分で
自然の恵みを味わう快感、

隠し事なしで何でも話せ
打ち解けあえる裸と裸の関係とは、
こういう事なのか!

日本人は自然を崇拝している。
かって黒人僕らもそうだったはずだ、

マテオは黒人差別の事なんか
大自然と比べ、小さなことに過ぎず、
人間の小ささを痛感した。

米国の体だけ洗うシャワーなんて
話にもならない、
これが武士道の国の偉大さなんだ!

日本には驚かされる事ばかりだ、
本来人間は、こうあるべきなんだ。

母、妹、弟 みんなを連れ、
日本旅行するのが
人生最大の目標となった。

「おなご先生も、お待ちや、
これからお食事処で
マテオさんの歓迎会するで、

みんな、冷え切ったビールで乾杯や!」

皆、湯上りの色艶のいい顔している、
名川の音頭でみんな浴衣に着替え
別館のお食事処に向かった。

ゆうこ が先に来てくつろいでいた。

「みんな遅かったじゃない!
一人で露天風呂に入るのもいいけど、
みんなと入りたかったなぁ……」

「それ!ほんまでっか!?」

餅田が即座に反応した。

「冗談に決まっとるがな、
鵜呑みにする奴があるかいな!

そがな事より餅田、
早う乾杯せんかい!」

上機嫌に目を細め名川がいった。

「それでは、マテオさん、
Welcome to Japan,ですわ!

では、USA1008の成功を祈りまして、
乾杯!!」

「クゥ~
風呂上がりのビールは最高やね!」

そう赤井が言い終わった後、
餅田が立ち上がり
思いっきり低く頭を下げた。

「おなご先生、副隊長、みんな、
申し訳ありませんでした!!」

名川がフォローした。

「そがな事、もうええやないか?
のぅ、みんな!」

餅田は少し目を潤ませ
名川のところへやってきた。

「餅田は、
立派なプロジェクトメンバーや!
ええよな?赤井、日村、」

「今日の段取り、
御苦労やったな、餅田!」

日村だった。

「よし!今日はパット盛り上がるで!」

赤井が仕切り直した。

テーブルの上には色とりどりの
料理が並んでいる。

マテオに是非、味わってもらいたいと
名川がうな重を用意していた。

上品な黒塗りの重箱の蓋を開け
マテオがいった。

「これは何ですか?
美味しそうですね!」

顔をほころばせ、藤木がいった。

「This is an eel.
これはウナギです。」

「eel.!!!ウナギ!!!」

マテオが目を丸くし即座に反応する、
それもそうである、

米国では、蛇のように細長く
ヌルヌルした
ウナギなど食べる事はない、

「大丈夫だよ!美味いぞ~」

藤木の言葉に覚悟を決めたマテオが
口に運んだ、
みんながマテオの表情を凝視している。

「Melted in the mouth.
Too delicious!
口の中でとけた、おいしすぎる!」

春過ぎの鰻は、脂が乗って美味である
マテオは完食した。

輝明は、全員が集まる機会に
報告しなくてはいけない
重要な事を心に秘めていた。

腹を決めた輝明が立ち上がった。

「みなさんに
報告したいことがあります!」

副隊長が何を話すんだろうと、
みんなの視線が輝明に集まった。

輝明が広島弁でしゃべり始めた。

「わしは、この11月で35歳になります。
ゆうこ は30歳になります。

ここに来る前、西島 ゆうこ から、
五百旗頭 ゆうこ にしてもらうよう
徹社長に頼みました。」

輝明は、いきなり切り出した。

もしかして、おなご先生との
結婚の申し出を
副隊長が行ったということ?

みんな話の内容を理解できない、
話の主語がないからだ、

そんなみんなに輝明は、
話を続けた、

「徹社長からは、
忠則会長から引き継いだ
西島の名前を閉ざすことはできん!

と、キッパリ断われました。」

輝明は、しばらく沈黙した……

「じゃが、お前が五百旗頭から
西島になり ゆうこ と二人で、
会社を継いでくれるんなら、

こんなに嬉しい事はない
と、言ってもらいました。

ワシは、五百旗頭から西島になろうと
決心しました。」

あまりにも、突然な話に
ゆうこ が狼狽している。

「うち分らん!
ハッキリゆうてもらわんと分らん!」

ゆうこ の目を刺し通すように
見つめながら輝明がいった。

「このプロジェクトも
6月で終わりじゃ!

終わったら、ずっとワシの
そばにおってくれんか?

ハッキリ言う!
ワシの奥さんになって欲しい!」

「……ハイ」

と、小さな声を出したと思ったら
ゆうこ はその場に泣き崩れた……

輝明は、餅田の方にかぶりを向けた。

「餅田さん、ワシはこんなが、
19歳のときからの付き合いです。

もう11年にもなる、二人の事、
認めてもらえんじゃろうか?」

……静かな沈黙が、
しばらく部屋を支配した。

沈黙を破ったのは名川だった。

「餅田!五百旗頭さんが
ここまでいってくれはるんや、
オノレも難波の男気見せんかい!」

餅田は、胸がじーんと熱くなり
思わず涙が出てきそうな
表情をしている。

「そうでんな工場長!
もったいないお言葉ですわ、

ワシ全身全霊で、
応援させてもらいます!」

「餅田!ようゆうた!」

激賛する日村だった。

「こんなめでたいことはない!
USA1008も絶対にうまく行く、

二人の門出と
USA1008の成功を祈って、
乾杯や!」

名川の音頭のもとに
大拍手が巻き起こり、

しばらく鳴りやまなかった。

「乾杯の前に、みんな!
副隊長を胴上げや!」

赤井の音頭で、
輝明の体が宙に舞った。

仕上げ

伊丹から北近畿豊岡自動車道を使い、
国道483号を進んだところに
新工場がある。

餅田がマテオと藤木を案内した。

「ここがUSA1008を
量産する丹波工場です。」

「広いですねぇ……」

工場を一目見た藤木の言葉だった。

「マテオさん、藤木さん、
USA1008生産ラインを案内します。」

大きな高圧タンクが一際目を引く
高圧蒸気滅菌器が並んでいる、
生産ラインがあった。

肉じゃじゃオムレツを生産する
USA1008とN1008ラインだ、

「よし!試作生産や!」

赤井の号令のもとプロジェクトメンバー
調理加工担当6人が、それぞれ、
担当の調理加工ブロックに張り付いた。

赤井がAIスキャナーに
田島牛プレートをセットした。

フル自動で田島牛が高圧蒸気滅菌器され
焼きが入り特製のなんちゃって
トリュフソースと混ぜ合わされ、

牛肉加工部が、レトルトパックされた。

「赤井さん!野菜部も
レトルト加工完了しました!」

ここは、調味のコア作業である
調味は餅田が行った。

野菜調理部、牛肉加工部、薄焼き玉子部
調味部、USA1008 4つの
レトルトブロックが、

マテオと藤木の元へ差し出された。

「これら4つ、米国に送ります。
ロスでこれらを
パッケージングしてもらいたい。」

藤木の話に対し、マテオが答えた。

「Leave it up to me.!
任せてください!」

そう言うと、マテオが手持ちの
バックから持参したデザイン中の
詰めるパッケージを出した。

デザインは上部が黒、
下部が黄色でデザインされ
黒を背景に金色の文字で、

” Omelet with minced meat and potatoes”と商品名が書いてある、

又、箱の中心には丸く
”肉じゃがオムレツ”の写真が
入るようになっている。

「黒人の黒と黄色人種の黄色の
イメージカラーで、気品高く商品名は
金色にデザインして見ました。

みなさん如何ですかね?」

「黄・黒でっか!
タイガースカラーでエエね!」

熱狂的なタイガースファンの石川が
イチオシした。

餅田が文字について提案した。

Niku-jyaga Omelet
(Omelet with Thin-sliced Wagyu Beef and potatoes)

「捕捉を書き、
”肉じゃがオムレツ”と言う言葉を
全面的に出したら、

どうでっしゃろう?」

白い皿の上に乗った、
USA1008の香りを
マテオは確かめている。

「Nice appetizing smell!
(食欲を誘う良い香り!)」

真にそれは、ロスアンゼルスの
"かん八"で食べた、
すき焼きの香りがした。

更に発酵バターの
芳醇な香りもする。

目を合わせた藤木が、
「食べてみて?」というように
大きくうなずいた。

マテオは目を閉じ、
確かめるように
USA1008を口に運んだ、

マテオからは、
なかなかコメントがない……

「How does it taste? Mr. Matteo.
(味はどうでっか?マテオさん)」

不安な目をし、思わず聞いた
餅田にマテオはいった。

「Excellent!(素晴らしい!)
これがレトルトとは思えない、

これに勝るレトルト食品は
米国には、存在しません!」

輝明の本心は、N1008を米国人に
味わってもらいたかった。

これまでの苦労と、作っても
全く売れなかったN1008……

あの頃が、今では懐かしく思える、

輝明は、N1008について
噛みしめながら話しだした。

「広島のお好み焼きをヒントに
開発したのが、
肉じゃがオムレツ、N1008です。

しかし、苦労して開発したN1008は、
全く売れませんでした。

中小企業である西島食品は、
倒産寸前まで追い込まれました。

その我々をクラウドファンディングで
救ってくれたのが米国だったのです。

東日本大震災でも真っ先に
支援を申し入れてくれたのも米国です。

我々は、受けた御恩を、
決して忘れません!」

そういうと輝明は、
マテオに隣で生産している
USA1008を差し出した。

「これが、国内で売っている
”肉じゃがオムレツ” N1008です。

違いは使っている食材が安価で
USA1008の1/3の価格です。

試食して感想を聞かせて下さい。」

同じようにマテオは口に運んだ。

「This is also great!
(これも素晴らしい!)

僕は、こっちの方が好きかもしれない、
これも米国で販売しましょうよ!」

「ほんなら、USA1008と同じように
FDA承認取得せぇへんといけませんね。
白石、成分分析や!」

ノリノリで大丸がいった。

クラウドファンディングの事は藤木も
よく知っているというか、

この事を切っ掛けに西島食品との
付き合いがスタートしたのである。

藤木は一つ提案した。

「販売企画するマテオに頼みがある。
僕の友人が3年間、
ニューヨークに住んでいた。

これら商品を米国で売る為には
大々的なCMが必要だ、

CMのバックミュージックに
ヤツの想いでの日本の曲、
使ってはもらえないだろうか?」

「全然問題ないよ!何と言う曲?」

マテオは快諾してくれた。

「54年前、米国で大ヒットした
“上を向いて歩こう”なんだ、」

54年前、など
マテオは生まれていない、

「“上を向いて歩こう”……?」

藤木は米国で違う名前で
呼ばれていた事を思い出した。

「そうそう”SUKIYAKI”っていう曲だ、」

「”SUKIYAKI”!もちろん分かるさ!
今でも黒人の間では
好まれて歌われているんだ!

I look up when I walk
So the tears won't fall
Remembering those happy spring days
But tonight I'm all alone

上を向いて 歩こう
涙が こぼれないように
思い出す春の日 一人ぽっちの夜

シンプルで僕も大好きな曲だ!
Roger that!(了解!)」

マテオは大きくサムアップした。

早速、ゆうこ 達が作成した
N1008のFDA商品ラベルは
マテオのもとに送られた。

それから4週間後、

西島食品にいる輝明のもとに
マテオからエアー便の小包が届いた。

箱の中には、米国で販売する完成した
N1008、USA1008 のパッケージとともに
便箋がそえられていた。

N1008のパッケージデザインは、
上部が黄、下部が黒でデザインされ
黄色の背景に白で縁取られた赤文字で、

Niku-jyaga Omelet!Japan
(Taste of mother’s home cooking.)

と、書いてあり中央には丸く縁取られた
作りたてで、湯気が立ち上ったN1008の
食欲をそそる写真が埋め込まれていた。

箱の裏側には、作り方の手順と共に、
ゆうこ 達が作成した英文のFDA商品
ラベルが、印刷されていた。

何よりも藤木と輝明を驚かしたのは、
FDA承認番号が入っていた事であった。

通常、早くて2カ月、平均で3か月と
聞いていたからである。

「USA1008、N1008
米国での審査をパスし正式に
販売することになりました!」

さらに、感激させる言葉が
印刷されていた。

To the people of the United States, we will never forget your kindness.
From all of us at Nishijima Foods

米国の皆さん御恩は決して忘れません。
西島食品一同

「よっしゃー!」

輝明を取り囲んでいた香川が叫んだ!
叫んだ香川の頬を涙が伝わっている。

「とうとう、ここまで来ましたか、
苦しかった、長かった、
みんな本当に、ありがとう!」

何か気の利いた事を言おうとしたのに、
胸にこみ上げてきた喜びと興奮で
出てきたのは、感謝の言葉だけだった。

徹の声を切っ掛けに、
購買部長の上田、製造部長の加藤、
総務部長の沖田、経理部長の畑山、

そして、企画部長の森嶋、

誰となく抱き合い、
喜びを表している……

英文 及びマテオからの便箋は
加奈子が訳した。

エピローグ

6月16日

マテオから送られてきた内容報告と
FDA正式承認されたパッケージを携え、

輝明は、二十四の瞳プロジェクト室の
ドアをノックした。

「今日が最後でんな、副隊長!」

出迎えてくれた餅田だった。

「丹波工場、順調に稼働しとります。
すでに5,000セット、
ロスアンゼルスに送りました。」

調理加工担当の、赤井だった。

ゆうこ の出向も、今日までだ、
輝明は早速、
マテオからの伝言を読み上げた。

Dear Mr.Teruaki

みなさんお元気ですか?
僕が日本で体験した事は、
生涯忘れません。
それほど僕は、

日本文化に感動しました。

僕の目標は、母、妹、弟を連れ
日本観光をする事です。

餅田さん、
そのときは宜しくお願いします。

とは言え、なかなか
実現しそうにもありません。

ロスでUSA1008、N1008
実験販売しました。

みなさん驚かないで下さい。

このまえ送ってもらった5,000セット、
なんと2時間で完売してしまいました。

それと、藤木さん、
お友達推薦のSukiyakiソング
大好評です!

You tubeとケーブルテレビで
CM流したのですが、
使ってる曲の問い合わせが多く、

おかげで対応するの毎日、大変です。

パッケージ作業は友人のニコラスに
御願いしているのですが、

この調子では人を増やすか、
機械化しなければ?

と、いっています。

名川工場長、正式に
社長になられるんですよね?

僕から、たっての御願いがあります。

N1008 米国で食材仕入れから
加工まで行い、販売単価、
1/2の物が作れないでしょうか?

と、いうのも買って食べたいけど
購入することができない人が、
米国には、たくさんいるのです。

USA1008もN1008も驚異的な売り上げを
する事は確実だと思います。

そんな中、安価な商品を作っても
利益的につながらないないことは、
理解しています。

社会の底辺で生活している人にも
食べてもらいたいのです……

そのためには、僕もニコラスも全力で
協力する覚悟はできています。

名川社長、考えて頂ければ、
こんなに喜ばしいことはありません。

最後に、おなご先生、副隊長、
ご結婚おめでとうございます!

新婚旅行は、是非、
ロスアンゼルスに来て下さい。

それと、餅田さんも……

ニコラスも僕も、全力で
ロスアンゼルス
案内します。

Best regards

赤井は、震える声を絞り出した。

「おなご先生、副隊長、名川工場長……
ワシらやったんですよね?」

胸がじんとして、
名川は、的確な言葉が見つからない、

「みんな、よぉ頑張った!
ほんまようやってくた!おおきに!

わいは、みんなを誇りに思う。」

横で聞いてる日村は、感動のあまり、
思考回路が停止している。

「ワシらの努力が形になったんや……」

嗚咽にかわり、
最後は言葉にならなかった。

冷静を取り戻した名川がいった。

「餅田!例の物、
おなご先生と副隊長に渡さんかい!」

「明日、6月17日から
TWILIGHT EXPRESS 瑞風が
大阪・下関間を走りますねん!

豪華クルーズトレイン
”TWILIGHT EXPRESS 瑞風”
大阪駅発 下関ゆき山陰経由、

1泊2日、第1期申し込みを
ダメもとでワシ、
抽選応募しまくりました。

最高倍率は、
68倍やったそうです……

神様は、見てはる!

8号車キサイネのロイヤルツイン、
山陰コース下り、当たりましてん!」

【TWILIGHT EXPRESS 瑞風】

JR西日本が6月17日より
運行を開始する豪華寝台列車、

キサイネとは、
キ = 気動車、サ = 動力が付いていない
イ = 1等車、ネ = 寝るの意味で寝台車

つまり、気動車が引っ張る動力源のない1等寝台車と言う意味。

10両編成ながら、定員はわずか30名、客室車6両と、食堂車1両
ラウンジカー1両、

展望スペース付き先頭車2両で、
編成されJR西日本が誇る
走る豪華ホテルとよばれている。

餅田が捕捉した。

「兵庫の香住、山口の萩、
途中下車して、
観光も組まれとるそうです。

それと、各地の豪華料理で
もてなしてくれるみたいですわ、

広島へいぬのに遠回りになりまっけど
下関駅から新下関まで行き、

新幹線に乗ったら1時間……
あっ!と言う間に広島です。

おなご先生、副隊長、

代金のほとんどは、工場長と西島社長が
工面してくれはりましたが、

ワテらプロジェクトメンバーからの
餞別の気持ちも、
キッチリ含まれてとりますんで、」

「おい!餅田!エエところやのに、

がめつい難波の商人みたいなこと
言うな!」

「せやせや!」

日村の突っ込みに、
みんな、そろって笑いながら
突っ込みを入れた。

餅田が切り返した。

「せやな!
そろそろ、お時間がよろしいようで!」

眉を寄せ真剣な面持ちで餅田が続けた。

「今回のプロジェクト
ほんまに御苦労さんでした!」

そう言って餅田の手からモスグリーンに
瑞風ロゴが入りTWILIGHT EXPRESSと
金色の文字で書かれた乗車券が、

二人に手渡された。

名川が捕捉した。

「これは、餅田が根性で引き当てた
我々有志一同からのプレゼントです。」

「ありがとうみなさん!」

特に半年以上、みんなとすごした
ゆうこ には、色んなことが
脳裏を駆け巡った。

胸を突き上げてくる気持ちが、
いっぱいになり涙が溢れてくる、

「辛気臭いですわ!

広島からここまで
3時間もあれば、
これるやないですか、

ねぇ、赤井さん!」

「せや、せや、、」

餅田が、そう話をふると
赤井は、にこやかに答えた。

「もう一つ、
二人に渡すものがありますねん、」

そういうと名川は、厳かに紫の布に
つつまれた目録を二人に渡した。

「これ、徹社長から預かった
二人の合同結婚式の
出席者名簿ですねん!」

「合同結婚式?」

輝明は渡された名簿を開いた、

「えっ!!」

出席者名簿

竈門 悦明・秋葉 加奈子
五百旗頭 輝明・西島 ゆうこ

場所 : 比治山神社
日時 : 大安吉日

【出席者】

近藤 吉行、西島 忠則、西島 徹、
西島 千代子、

村品 孝蔵、伊丹 拓郎、生田 博之、
栗山 浩美、

飯塚 正、高山 真司、藤木、青木……

[西島食品代表]

上田、加藤、沖田、畑山、森嶋、香川

[KTNフーズ]

名川 敏一 以下、

赤井、石崎、山田、石川、山本、
餅田、日村、横長、大丸、白石、

[秋葉家 37名]

合計 66名、

「ゆうこ!竈部長と加奈子さん
結婚するって知っていたのか?」

「もちのロン!聞いていたよ!」

輝明には、初耳だった、
半信半疑で渡された名簿を見ている。

「まぁ、よろしいじゃないですか!
めでたいことですわ!
のぅ!赤井、」

「せやせや!ワテら広島まで
行かせてもらいまっせ!」

「わし、広島に行ったら
絶対、大和ミュージアム
行きますねん!」

ミリタリーオタクの日村だった。

「わし、呉出身ですねん、

駆逐艦雪風の錨も江田島の
旧海軍兵学校に飾られています。

海自カレーもめちゃ美味いねん!
白いロードスターで色々案内します。」

ぎこちない大阪弁で輝明が返した。

6月17日(土)
快晴の大阪駅10番ホーム

「わぁ~凄い人やわ!」

瑞風の雄姿を写真に収めようと
ホームは人人で溢れかえっている、

向かい側の11番ホームも、
写真撮影の人でいっぱいだ、

駅員が注意喚起のアナウンスを行った。

「写真撮影の皆さま、足元、
黄色い点字ブロックの後ろに
お下がりください。

ご理解と、ご協力、
御願い致します!」

ゆっくり流れるように、
瑞風がこちらに向かってくる。

出発式司会進行女性の声が高らかに
ホームに響きわたった、

「TWILIGHT EXPRESS 瑞風が、
入線してまいりました。

みなさん拍手で、お出迎え下さい!」

バックミュージックは、葉加瀬太郎の
“瑞風~MIZUKAZE~”の軽快で爽やかな
曲が流れている。

優雅なバイオリンの流れるような
音色がこれほど合うとは、

瑞風に乗って旅したい気分だ、

デザインコンセプトは、洗練された
上質さと心休まる
懐かしさを感じられる。

“ノスタルジック・モダン”

と、パンフレットには、
書いてあった。

展望デッキと5本のラインからなる
運転室を配置した流線形の先頭車には、
丸目のヘッドライトが輝いている。

車体色は、”瑞風モスグリーン、
各車両には、金色のエンブレムと
ラインが入っている。

瑞風が雄姿を完全に現した!

「初めてお目にかかるけど、
すごいねんな!」

全員が口をそろえた。

各車両の乗降口ドアー前には、
瑞風カラーの
ネッカチーフを首に巻き

黒いブレザーを着用した
クルーたちが上品に
出迎いに立っている。

列車と言っても、旅客機のCAである。

6号食堂車には、タキシードをきた
男性クルー、5号ラウンジカーには、
ホワイトブレザーを着用した女性クルー

4号車には黒い制服を着た
男性の列車長が、
全クルーを統率している。

フォーマルな雰囲気としつつも
心地よい空間で、オープンキッチンから
伝わる車内調理のライブ感とともに、

大きな窓を流れる......

美しい車窓を眺めながら、
食の匠による料理を楽める食堂車、

バーカウンターや立礼の茶の卓、
ブティックスペースを備え木を多用し
落ち着いた空間のラウンジカー、

「中も豪華ですね!!」

大きな窓から覗き込み
関心しきりで、
目を輝かせる藤木だった。

瑞風には、ザ・スイートといって、
贅沢にも一車両、
定員2名の7号車がある。

輝明たちが乗るのは、
その隣、8号車だ、

乗車口左側すぐそば、
瑞風モスグリーンの車両には、

金色の文字で
大きく8と書かれている。

餅田が魅入られるようにいった。

「二人が乗るロイヤルツイーンは、
ここですわ!」

大きな窓からは、
薄い瑞風グリーンのじゅうたんが
敷き詰められ、

ゴージャスなソファーセットが見える。

それも、全てが和を基調に
デザインされている。

どの車両も本当に豪華!
としか言いようがない……

マテオなんかこの瑞風に乗ったら、
あまりの驚きに放心状態に
なるんじゃないかと藤木は思った。

瑞風専用の改札口から一足先に、
車両に乗り込んでいた
輝明も ゆうこ も驚きの連続だった。

「この部屋が自分たちの802号室
ロイアルツイーンだ、
輝明が部屋の引き戸を開けた。

「ひろ~い!ゆうこ この部屋、
土足のままで良いんだよな!?」

フロアーには瑞風のロゴが入った、
薄いダークグリーンのじゅうたんが
敷き詰められている。

白黒のチェック柄のソファーセットに
木を張り巡らせた壁……

「天井が、これまた高い!」

ソファーに腰を下ろした
輝明の第一声だった。

車両アーチ状のクリーム色した天井は、
四方から間接照明を使い、
幻想的に照らされている。

コーナーにはデスクが装備され、

引き出しの中には提供される食事と、
各種のカクテル等、が記載された
サロンニュー表が収められている、

その他にルームメニュー、
各種ワイン、ビール、おつまみ etc……

「輝明、色々あるよ!

もしかしてこれら、
頼んだら持ってきて
くれるのかなぁ?」

メニュー表を閉じた ゆうこ が、
デスク横の引き戸を開けた。

「わぁ~」

洗面台、温水便座トイレ、シャワー室、
台の上にはアメニティーセット、

ゆうこ が、セットの蓋を開けた。
Hermesシャンプーセット etc……

「私、Hermesなんか
使った事ないよ!」

輝明は、実際に眼で見ていることが
まだ信じられない、

「ゆうこ……

俺たちこの列車、本当に、
乗ってもいいんだよな?」

豪華なソファーに腰を下ろし、
大きな窓からホームの人波を
眺めていた ゆうこ がいった。

「あれ!こっちに来るの
赤井さん達だよね?」

身長が190cm近い赤井は目立つ、

輝明と ゆうこ は、
みんなを見つけるや否や、
乗降デッキまで出た。

「みなさ~ん!
本当に夢のようです!!」

「しかし、この列車の豪華さに、
わしらも、
ビックリしっぱなしですわ!」

各車両のクルーが右手を上げ
4号車の列車長に乗客全員が
乗車した合図を送った。

一礼して、各クルーが列車に乗り込む。

乗客が全員乗り込んだことを確認し
発車前に車両のドアーを閉めるようだ、

「みなさん!お世話になりました。
比治山神社で会いましょう!」

輝明と ゆうこ が深く御辞儀するのに
合わせたかのように、静かに、

ドアが閉まった……

「みんな!出発式が行われる
先頭車両まで戻るで!

すいまへん、通したってや!」

そう言いながら、がたいの大きな赤井が
盾となり、
みんなを先頭車両まで先導した。

「ほんまかなわんわ!
ぎょうさんの人やわ!」

石崎が言うように
溢れんばかりの人だ、

なんとか全員、
出発式が終了するまでに間に合った。

「TWILIGHT EXPRESS 瑞風の運行を
記念いたしましてテープカットです。」

女性司会者のもと9名による
テープカットが行われていた。

「あれ!一番右端のもじゃもじゃ頭の人
葉加瀬太郎とちゃいまっか?」

「せやせや!
石崎、そうやわ!」

駅員一同、関係者たちが一列に並び
小旗を手に持ち瑞風が
発車するのを待っている。

再び葉加瀬太郎の
“瑞風~MIZUKAZE~”が
ホームに流れ始めた……

「お待たせいたしました。
発車時刻になりました。

新林駅長、出発の合図、
よろしくおねがいします。」

駅長が右手を大きく上げ、
手のひらを前方に押し出した!

10:18分、瑞風は甲高い汽笛一声を放ち
ホームをゆっくりと滑り出した。

ホームのあちらこちらから、
絶え間なくシャッター音が聞こえる。

「気を付けて、
いってらっしゃいませ!」

出発式に招待された子供たち、
ホームに整列した駅員関係者たちが、
瑞風の小旗を振り見送った。

「あれ、どしたんやろ?

8号車に、副隊長たち
見えまへんなぁ……」

日村がそういったやさき、

最後部の展望車デッキから
二人が大きく手を振るのが見えた。

二人はちぎれんばかりに
大きく手を振っている。

「ほな!お元気で~」

瑞風が視界から消えるまで
みんなも手を振り続けた。

マテオがいった、安価な
肉じゃがオムレツ開発に向け、

作業は、いま始まろうとしていた。

JR西日本 TWILIGHT EXPRESS 瑞風

【最終ストーリー 12】 著: 脇屋 義直


この小説はフィクションです。
実在の人物や団体などとは、
関係ありません。

スポンサーリンク

Copyright© ドングリ爺のblog , 2022 All Rights Reserved Powered by AFFINGER5.